軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ヴェルモア大森林遺跡《7》

以前と変わらぬ様子の二人は、エルドガリア女史の次に、レイラとエンに挨拶をした後、レイラが抱っこしているサクヤの顔を覗き込む。

「おぉ……! この子がユキ君の子か! いやぁ、可愛いねぇ。男の子? 女の子?」

「男の子だ。名前はサクヤ、レフィとの子だな。サクヤ、父ちゃんの友人のフィナルお兄ちゃんとクアラルカお姉ちゃんだ。あ、フィナルはフィナルおじちゃんでもいいぞ」

「はは、まあうん、おじちゃんでいいよ。正直お兄ちゃんよりはそっちの方がしっくり来るかな」

「私も、クアラルカおばちゃんで構いませんよ、ユキ様。そこはお気になさらず」

「あぁう! うぅ!」

基本的に人が好きなサクヤは、初めて見る二人に対しても全く物怖じせず、「遊んでくれるの?」とでも言いたげに二人に向かって笑いかける。

「はは、人懐っこい子だねぇ! 見てよクア、僕らを見て笑ってくれてるよ」

「えぇ、賢き子です。私はあまり、子供に好かれる方ではないのですが……可愛い子です」

フィナル夫婦は、ウチの子を見てやいのやいのと話す。

冷静沈着なメイド、といった感じのクアラルカ奥さんの頬が緩んでいるのが、何だか微笑ましい。

「それにしても、まさかお前が助っ人で来るとはな。よくまあ、こんな辺境の地くんだりまで来たもんだ」

「いや、アタシは呼んでないけどね。呼んだのはあっちの、学者軍団だ」

エルドガリア女史の指差す先にいるのは、フィナルと同じ船に乗ってやって来た、他の人員である。

「……魔界王?」

怪訝に問い掛けると、ヤツは楽しそうに笑みを浮かべる。

「随分と歴史的な発見だそうじゃないか。ならば王として、それを見ないというのは嘘だ。せっかく魔界にあるのだし、一度確認を――」

「この方は、基本的に仕事以外出来ないお人ですので、それが一段落したところで休息を取らせるべく連れて来ました。このままでは、仕事が終わったらすぐに次の仕事を始めそうでしたので」

「――しようと思って、クア、まだ僕話してる途中だったんだけど」

「えぇ、そうですね」

平然とした様子の妻に対し、魔界王は「参ったな」と言いたげな様子で苦笑する。

「おう、順調に、仲を深めているようで何よりだ」

「いやもう、本当にね。妻とは王の上に君臨しているものだということを日々実感しているよ」

「おっ、よくわかってんな。ようこそ、夫の領域へ。歓迎するぜ」

「フフ、ま、君と同じ領域に立てたのならば良しということにしておこうか」

思わず握手する俺と魔界王。

俺は今、お前とさらなる友情を築けそうだ。

なお、そんな夫達の友情に対し、妻達は生暖かい目でこちらを見るのみである。

「ま、そういう訳で、ぶっちゃけ旅行気分だね。遺跡に興味があるのは本当だし、ユキ君もいるみたいだから、仕事終わりでちょうどいい今、挨拶でもしに行くかと思って来てみたんだ」

「だそうだ、お師匠さん。コイツの相手はテキトーでいいぞ。丁寧に対応するのはクアラルカ女史だけでいい」

「……世界の要とすら言える今の陛下にそんな口を利けるのは、世界広しと言えどきっとアンタくらいだろうさね」

「あはは、まあそれがユキ君だよね。仮に、今更敬われたりなんかしたら、僕は偽物と判断して警備を呼ぶよ」

「おう、そうしな。それが正しい対応だ」

そうして挨拶が一通り済んだところで、俺は問い掛ける。

「それで、お師匠さん。新しく応援を呼んだのはわかるが、どうすんだ?」

「あぁ、説明しよう。魔王、あのゴーレム達と接敵した時の様子、覚えてるかい? アイツら、明らかに同士討ちを避けていたね?」

「ん? あぁ、そうだな。味方ごと攻撃でもすれば、もっと苦戦しただろうなってのは思ってた」

「そうさ、その通り。そして重要なのは、いったいゴーレム達は、 どうやって(・・・・・) 味方を(・・・) 判断(・・) しているのか(・・・・・・) 、という点さね」

「……もしかして、ゴーレムどもにこちらを誤認させて、侵入を誤魔化すつもりなのか?」

「正解。この数日間、アンタが狩ったゴーレムを使ってアタシらがしていたのは、その解析。いやはや、レイラがいてくれて助かったよ。こういうのはあの子が一番優れてるんだ。もう粗方解析は終わったんだが、レイラがいなければさらに倍の時間が掛かってもおかしくないからね」

「フフン、レイラお姉さまは、すごいんです! ……というか、里にいる頃よりも、そういう感覚がさらに鋭敏になってるように思うです」

そう話すのは、一緒にいたエミュー。

「それはアタシも思った。アンタ、前にも増して、随分解析が上手くなってるじゃないか」

「私は、ユキさんのところで色んなものを見せてもらっていますからねー」

「……やっぱり、里だけの環境じゃあ、研究は停滞するのかい。優秀なのは、ある程度外に出した方がいいのかねぇ。今なら飛行船があるし、そう難しくもない。考えるべきか」

「いえ、それもあるとは思いますが、我が家は少々……いえ、大分特殊ですので、参考にならないかとー。ですが、外の環境を学ばせるのは良い案だと思いますー」

「外、ですか。興味はあるですけど、里の環境より良いのか、ちょっと疑問ではあるです」

「ん、問題はそこさね。ウチの里は、環境だけで言えば、ハッキリ言って外より桁外れに良い。だが、得てして重大な発見をした者は、里から出ている場合が多い。今回の遺跡のようにね。勿論、学問にはよるが――」

「どちらにしろ、せっかく飛行船を手に入れているのですー。まずは色々と向かい、研究に適した地を――」

「それは、ちょっと楽しそうです! 一大事業にはなると思うですけど、多分立候補する子は――」

「あー、悪いが三人とも。議論はまたにしてくれ。アンタらがそれをやり出すと、マジで止まらんからさ」

さらなる議論に発展しそうになったところで声を掛けると、彼女らはハッと我に返り、バツが悪そうに各々咳払いしたり、視線を逸らしたり、曖昧に微笑んだりする。

羊角の一族は、こういうところがある。興味の引く話題が出た瞬間、こうやって延々と議論が発生するのだ。

レイラは家ではそんな面を見せないが、こうして里の者といる時に彼女らと同じようになってしまう辺り、血筋を感じるものである。

「とにかく、話はわかった。じゃあ、もしかして今回呼んだのは……鍛冶職人、とかか?」

「そうさ。このゴーレム由来の素材を、アタシらが使えるように加工するための人員だ」

エルドガリア女史が呼んだ集団は、羊角の一族だけではなく、他の魔族やドワーフ、エルフなど、幅広い種族がいた。

彼らもまた技術者らしい顔で、眼前にそびえ立つ遺跡を見て活発に意見を交わしており、元々活気があったこの場所が、さらなる活気で溢れ始めた印象だ。

加工か……つまりは、認識阻害のアイテムなんかを作るつもりなんだな。

「ちょっと前は、こんなことも出来なかったんだけどね。それが、今なら可能だ。アンタらが戦争で獲得し、魔界王陛下がそれを十全に活用した結果だよ」

「はは、まあ国際交流は、僕の仕事の一環ではあるからね。上手くそれを活用してくれているようで何よりだ」

肩を竦める魔界王。

最近は子供達の世話もあって、ダンジョンに引きこもり続けている毎日なので、今の世界情勢がどうなってるのかは知らないのだが……順調に、良い方向に回ってるんだな。

「で、魔王。頼みがあるんだが、もうちょいゴーレムを狩ってきてくれないかい?」

「あー……前に俺が狩った分だけじゃ、調査員全員分の装備が造れないのか」

「そういうことさ。多ければ多い程良いが、出来れば、あと五体。それで何とか目途が立つと思ってる。アンタが対応可能な範囲でいい、頼めないかい」

「オーケー、わかった。んじゃ、今から行ってくるわ」

「あ、ユキ君、僕も付いて行っていいかい」

そう言うのは、魔界王。

「え、まあいいが、かなりの危険地帯だぞ?」

「うん、大丈夫、わかってる。けど、せっかくこんなところまで来たんだしね。クア、君はここの人達と交流を深めててくれるかい」

「畏まりました」

「それじゃあ行こうか、ユキ君」

「へいへい。エン、頼む」

「……ん、わかった」

そうして俺は、大太刀に戻ったエンを担ぎ、魔界王を伴って再び地底世界へと向かった。

なお、ヤツの護衛の人らは泡食ったように慌てていたが、まあ俺は知らん。

文句はアンタらの王に言ってくれたまえ。

◇ ◇ ◇

「へぇ……ここが」

降り立った地底世界を見て、魔界王は楽しそうな声を漏らす。

「すごいね……こんな綺麗なところ、見たのは初めてだ。それに、ものすごい魔力。能力に関しては非力そのものな僕でもわかるよ。ここは、異質な空間だと」

「恐らくは世界の始まりの地だとよ。少なくとも神代の遺跡ではあるらしい。気を付けろよ、油断すると死ぬぞ、マジで」

「シェン君が喜びそうだ。帰ったら彼にもここの話をしてみるとしようか」

ローガルド帝国の元皇帝、シェンドラ=ガンドル=ローガルド改め、シェン。

今は魔界王の下で研究に勤しみ、割と充実した日々を送っていると聞いている。

奇妙な縁だが、バチバチに殺し合いの戦争をしたヤツとも今は友人と言える関係であり、結構気軽に話せる相手だ。

殺し合いから築く関係とは、なかなか面白いものである。

「元気でやってんのか、シェンも?」

「うん、ウチの研究班に混じって、日々好きなことに従事してるよ。いやはや、ちょっと羨ましくなる引退生活だ。僕もそんな日常が送りたいものだね」

「嘘つけ、お前は今が最盛期だろうよ。日々悪巧みしてんだろ?」

「あ、酷いねぇ、僕のことを何だと思ってるんだい、君は」

「腹黒」

「正解!」

正解、じゃねぇんだわ。

「お前は全く……まあ今更か。そういや、今の情勢は、どうなってんだ? 俺、最近は子供の世話で引きこもってるから、全然外のこと知らねぇんだが」

「まー、問題は当然の如く次から次へと出てくるし、利権の衝突、種族問題、過去絡みの問題、もうこれ一生解決しないだろうな、なんてことを思っちゃうものは幾つもあるよ。けど、それでも全然マシだ。いがみ合っても、糾弾し合っても、 殺し合わないなら(・・・・・・・・) 平和そのものさ」

あっけらかんと、そう言い放つ魔界王。

「……殺し合わなければ平和か。多少はマシな未来を……俺達で作れたのかね」

「そうあらんとしているところではあるね。ま、それでも今はもう大分楽にはなってきてる。こうして僕が、ちょっと余裕を見て外に出て来られてるくらいだし」

「そうか……お前らが頑張ってくれてるおかげで、俺は安心して隠居が出来てるよ」

「はは、ま、君には皇帝までやってもらった訳だからね。それが本職の身としちゃあ、君の頑張りを無駄には出来ないさ。――ところでユキ君、話は変わるんだけど」

「おう、何だ」

「僕の見間違えじゃなければ、こっちに向かってやって来る、何か動物のようなゴーレムが見えるんだけど」

「そうだな、俺も見えるな。あれは『エンシェントゴーレム』。通称SFアルマジロ、だ。敵が一線を越えて侵入してきたから、遺跡が反応したんだな。まだ少なめで助かったわ」

どこからがヤツらの警備範囲か、ということは、応援を待つ間のこの数日の調査で、すでに判明している。

やはり、城壁から先。そこに踏み入ると、遺跡が反応する。

空を飛べば、SFプテラが。地上を行けば、SFアルマジロが。

ちなみにあの侍ロボに関しては、あれ以来出て来ていない。やはりヤツは、ワンオフ品の特別なゴーレムだったらしい。

「……そうかい。あれはいったい、どれくらい強いんだい?」

「それはもう超高性能だが、所詮ゴーレムだから動きを見切るのはそう難しくない。フィナルんところの護衛でも捌けるとは思う。が、問題は装甲の硬さだ。エンでようやくってところだから、剣の腕が無いとそもそも何も攻撃が通らん。聞いた限りでは、どうやらミスリルとアダマンタイトの合金らしいな」

「なるほどなるほど。つまり、ほとんど手も足も出ないってことだね。僕、エン君程鋭い剣って、他に見たこと無いし。君が持ってる、戦争で使ってた特殊な形状の槍くらいかな」

『……ん。当然』

フィナルに褒められ、フフンといった感じの感情を漏らすエンである。可愛いヤツめ。

「それじゃあ、仕事だ。お前、そっから前に出て来るなよ。死ぬから」

「うーん、了解。はは、実はここ、死地なんだね」

「今更だな。観光に来たんだろ? せっかくだから、スリルを味わっていけ」

肩を竦めて俺は、SFアルマジロどもの迎撃に向かった。

◇ ◇ ◇

「いやぁ、相変わらず強いねぇ、ユキ君」

フィナルは、少し先で行われている戦闘風景を見ながら、思わずそう笑っていた。

襲い来る、生物的な印象を感じさせるゴーレム達を、次々に斬り捨てていくユキ。

鎧袖一触という風に感じられる戦闘の様子ではあるが、しかしよく見ていると、彼も神経を使って慎重に戦っている様子が窺え、集中しているのが見て取れる。

恐らくは、それだけあのゴーレム達も、しっかりと強いのだ。それこそ、並の戦士どころか、一握りの強者であっても、逃げ帰るしか出来ないような強さが。

彼はウチの護衛ならば捌ける、なんて言っていたが、果たしてそれが本当かどうか。

――フィナルがここへ来たのは、クアラルカが語ったように、ほぼ強制的に休みを取らされたのが理由である。

いわゆる『仕事人間』である彼は、仕事の息抜きに別の仕事をするタイプであり、そしてそれが苦ではなく、故に一国の王として仕事漬けとなっても、彼にとっては望むところなのである。

まあ、それでも疲れというものは溜まっていくのだが、フィナルが限界になる前に、今回のようにクアラルカが強制的に休息を取らせる訳だ。

ただ、フィナルとしても妻とゆっくりしたいという気持ちは確かにあったし、それに新しく見つかった遺跡というものにも興味があった。

エルドガリア女史との縁が出来たことで、羊角の一族との交流は以前よりも増やしており、その関係で彼の下にもこの遺跡に関する報告は入っていて、物資等に関して幾つか援助もしていたのだ。

神代に造られたらしい遺跡ということで、なかなか面白そうだとは思っていて、そのため今は実際旅行気分であり、この光景を見て、現時点で割と満足していた。

特に、ユキのド派手な戦闘を見るのは、普通に面白い。酒でも飲みながら観戦したい気分である。

「……神代の地、世界の始まり。僕は、あまり皆のように過去に興味がある訳じゃないけど……確かにこの光景を見ると、気になっちゃうねぇ。はてさて、ここが本当に 文献の地(・・・・) なのか。全く、ユキ君と付き合ってると次から次へと面白いものが出て来るものだ」