軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ヴェルモア大森林遺跡《2》

翌日。

朝の用意を一通り済ませた後、エルドガリア女史とエミューと合流した俺達は、さっそく遺跡へと向かった。

やはりまず行ったのは、現在発見されているという数個の空部屋。

恐らく建物の正面だと思われる位置にそれはあり、中に入った俺達だったが……。

「正面まんまにこれがあるってことは、ここが出入り口なんだろうが……確かに先が無いな」

「そうなんだよ。何かあって然るべきなのに、何もない。今のところ、そういうものばかりなんだ、この遺跡は」

空部屋は、行き止まりだった。

いや、横に数個、部屋は繋がっているものの、そこから先にはどこにも行けないようになっている。

置かれている明かりや、何かを計測するための機材等が置かれている以外には、何の面白みもない四角形のただの部屋である。

確かにこれは、どう見ても怪しいな。

メインエントランスがあるのに、そこからどこにも進めないかのような、そういう不自然さだ。

「ここ以外にも何か見つかってるものがあるのか?」

「あぁ、側面にね。だが、そっちもここと同じように、先が無い。空の部屋があるだけだ」

俺達は、中を見て回る。

像とかそういうものは、何も無いことはわかっているものの、一つ一つの部屋を見て回り――。

「あうよ! あう!」

その時、レイラが抱っこしていたサクヤが、突然声をあげる。

恐らく、サクヤレーダーだ。

マジで反応したな。

「これがサクヤレーダーか……どうだ、レイラ」

「……この壁、でしょうかー? 一見するとただの壁ですが、確かに魔法的に……何か、仕掛けが施されていますねー」

「……本当かい? 設置した機材に反応は無いんだが……」

「お師匠様、レイラお姉さまの意見ですよ? だったら、機材よりそっちの方が正しいに決まってるです!」

「……そうだね、確かにその通りだ。よし、そこを重点的に確認していこうか」

そうして彼女らは、置かれていた機材をフル活用して解析を行い――すると、何かピピピ、という音が鳴る。

それは、彼女らが求めていた変化そのものであったらしく、共にいた調査班の、他の羊角の一族の彼女らが「おぉ……」という声を漏らす。

「この反応は……ん、あまりにも微か過ぎて見逃してたけど、確かにここに、魔力の揺らぎがある。何という隔絶された隠蔽技術……」

「フフ、わかりましたか、お師匠様ー? サクヤの能力がー」

「あぁ、お手柄だよ、サクヤ。なるほど、これは本当に……すごい能力だ。やっぱアンタ、大きくなったらウチの里に来な。あたしが直接色々教えてやるよ」

ポンポンとエルドガリア女史がサクヤの頭を撫でると、我が息子は嬉しそうにきゃっきゃと喜び、彼女の腕を掴む。

「……それにしても、アンタの息子、一々可愛いねぇ」

「師匠、サクヤ君が可愛いのはとってもよくわかるですけど、それより先に解析を!」

「おっと、そうだね。よし、悪いがアンタ達、しばらく待っていてくれるかい。アタシらはこれから解析に入る。多分また呼ぶとは思うから、それまでゆっくり周りを見ていておくれ」

「わかった、それじゃあ……レイラ、サクヤの面倒を頼んでいいか? 俺、一回飛んで周りの地形とかを確認しておきたい」

「わかりました、それでは一度、別れましょうかー。サクヤ、お母さんと一緒にいましょうねー」

◇ ◇ ◇

レイラとサクヤと一旦別れた後、俺はエンを担いで空を飛ぶ。

飛行船に乗っていた際、窓から外を確認してはいたものの、見える範囲は限られていたからな。

この辺りは、エルドガリア女史から聞いた限りでは魔境の森に近しい生態の秘境であるようで、生息している魔物がかなり強いらしい。

実際こうして飛んでみても、感じられる魔物の気配のデカさがよく伝わってくる。

人類が生息するには厳しい土地のはずだが、しかしそんな場所に、こんな遺跡がある。

いや、それは逆で、恐らく 遺跡が(・・・) ここにあるから(・・・・・・・) 、ここに秘境の地が生まれたのだと思われる。

「ここも、神の誰かが没した地なのか……どう思う、エン?」

『……可能性はある。何だかここは、魔境の森に近い感じ。空気が、よく似てる』

「お、やっぱりお前もそう思うか。リルなんかを連れて来ても、同じことを言っただろうな」

『……ん。まあでも、この森だったら、リルは生態系の頂点に立てそう』

「確かに。アイツも大概化け物染みた性能になってきてるしな。ここの魔物も、一番強い奴で西エリア浅層くらいな感じだし、結構あっさり支配下に置けそうだ」

いやはや、こうして外に出る度に、魔境の森の規格外さが伝わってくる感じだ。

あそこは、世界最強の種族たる龍族の、その始祖たる龍が死んだ地であるため、やはり別格に空間の魔素が濃いのだろう。

「と――お、いたいた」

俺は、空から一直線にその場所へと降りていく。

向かった先にいたのは――全身を、幾本もの刃物で覆ったかのような。

ヤマアラシなんて目じゃない程の、具現化された殺意の鱗を身に纏っている、一匹の魔物。

四足歩行。

魔境の森サイズの巨体で、基本的な形状はワイバーン。多分、空も飛べるのだろう。

周囲の環境も、コイツにやられたのか斬撃痕みたいなものがいっぱいあり、斬り倒された木々やすっぱりやられている大地の様子が目に付く。

気性はかなり荒そうだ。

種族:ソードワイバーン

レベル:115

「研究基地から感じてた強い気配の持ち主は、お前だな」

『ヴォロロロロ……』

「おう、尖りたいお年頃ってか。けど、アレだぜ。あんまり尖り過ぎても、黒歴史になるだけだぜ? 聞いてるぞ、お前、時折研究基地を襲おうとしてんだろ。魔道具で撃退されてるそうだがな」

こちらに向かって警戒するように鳴き、それと連動して肉体の鱗代わりの刃が震え、金属同士がぶつかり合うかのような硬質な音が鳴り響く。

うわっ、その音やめろ。殺すぞ。

『……主、すごい。よく気付けたね』

「ま、俺も肉体がバカみたいに強くなって、感覚が鋭くなったからな。――悪いがお前、住処が研究基地と近過ぎる。死んでくれ」

『……ん。この距離は、ちょっと近い』

『ヴォラララッ!!』

そんな俺達の言葉を聞いてか聞かずか、刃ワイバーンは攻撃を開始。

スペツナズナイフが如く、その肉体の刃が一斉にこちらに向かって放たれる。

俺は、原初魔法で水壁を生成して防御すると、その間にこちらからも突撃。

翼を躍動させ、ギュンと弾丸のような速度で飛び出し――斬る。

ん、受けられたな。

頭部を斬り飛ばすつもりで放った斬撃だったのだが、しかし その頭部にある刃群にエンの刃が滑ってしまい、刃鱗を数本斬り飛ばすだけの結果に終わる。

刃鱗は景気良く弾として飛ばしてやがったし、多分ダメージは皆無だろう。

すると刃ワイバーンは、懐に入り込んだ俺達を吹き飛ばさんと羽ばたいて飛び上がるが――逃がさん!

「俺も飛ぶのは得意なんだわッ、飛行勝負するかッ!?」

『ヴォロロッ!?』

俺は、奴の足をガシッと掴むと、思い切り羽ばたいてその場に滞空。

刃ワイバーンの翼と、俺の三対の翼の力が拮抗し、奴は空に飛び上がれない。

いや……俺の翼の力の方が、若干勝っている。

「オラァッ!!」

そのまま、グイ、と引っ張って、背負い投げが如く地面に叩き付けた。

ドゴォ、という軽い地響き。

うむ、俺ももう、こんなレフィみたいな真似が出来るようになったのか。結構嬉しい。

「部位破壊は狩りの基本ッ!! オラッ、レアドロしろッ!!」

俺は、ひっくり返った奴の、刃鱗の薄い尻尾の裏側部分に向かってエンを振り降ろす。

ダン、と切断され、吹き飛ぶ尻尾。

耳を劈く悲鳴。

血飛沫が舞い、刃ワイバーンがメチャクチャに暴れ出す。

『ヴォロロゴォァッ!?』

「危ねッ!?」

肉体の刃鱗が、散弾銃が如く周囲一帯に飛び散り、木々を砕き、岩を砕く。

ぶっちゃけちょっとビビったし、幾つか身体を掠めていったが、予備動作の時点で空に逃げていたので、直撃は避けることに成功する。

……この強さと厄介さ、多分コイツが、この辺りの主なんだろうな。

だがまあ、リル達がおらずとも、俺とエンだけで何とかなるレベルだ。これで取り逃がしでもしてしまったら、エンに鈍ったと言われてしまうだろう。

「うしッ、気張ってやってこうかッ!!」

――その後、しばらく戦闘は続き。

やはりネックなのはその肉体で、肉体に沿って形成されている刃鱗のせいでエンの刃が滑ってしまうのだが……ウチの子とコイツとじゃあ、斬れ味が全然違う。

エンに比べれば、コイツの刃など鈍らも同然だ。時間が経てば経つ程、その差は歴然となる。

すでに刃ワイバーンの身体は、ボロボロ。

刃鱗のほとんどを弾として撃ち尽くし、さらにエンが斬り落としまくったことで、残る脅威はもう、ヤツがメインウェポンとして振るっている、両腕の翼と一体化した巨大な刃のみ。

「認めてやるッ!! お前は確かに強かったぜッ!!」

振り下ろされる翼刃を避け、その懐へと入り込む。

刃鱗の薄い、喉元。

低く倒した体勢から、俺は一気にエンを振り上げ――斬った。

エンの刃は、防がれず。

一刀両断されたその首が、ぐるんぐるんと回転し、地に転がる。

刹那遅れ、ドゥ、と傷口から血が溢れ、その巨体は崩れ落ちたのだった。

「フー、うし、終わり! いや、意外と強かったな、コイツ。思ったより時間掛かっちまった」

『……ん。攻撃も防御も、良いものがあった。凶暴だけど、知能も高め。刃の肉体って、結構強い』

「単純に言っても、鉄並の硬度があるってことだしな。まあ、鉄程度じゃあエンの刃は防げない訳だが!」

なお、これが龍族になってくると、アダマンタイト並だとか、オリハルコン並だとかの鱗になってくる模様である。

ワイバーンと龍族には、種族的にそれだけの差が存在しているのだ。

「よし、この調子で周辺の魔物、どんどん狩っていこうか。エン、次も頼むぞ」

『……ん、任せて』

俺はエンを肩に担ぎ、再び空に飛び上がった。