作品タイトル不明
ヴェルモア大森林遺跡《1》
どうにかサクヤの機嫌を取りながら、飛行船に揺られ、数日後。
「おぉ……」
その威容は、空からだとよく見ることが出来た。
――深い大自然を切り分け、でんとそびえ立っている、巨大な遺跡。
形状は、基本的にはピラミッド。
そこに、幾つか箱のような形状の建造物や、何か変な建造物が付随していて、表面の装飾等は風化して一切無くなっているものの、異様な存在感が感じられる。
飛行船が近付くにつれ、その巨大さもよく伝わり……あれだ。東京ドーム。
あれを、二回りくらい巨大にしたサイズ感だな。
窓からの光景に齧り付いている俺達を見て、エルドガリア女史は言った。
「見えたかい? あれが、名前すらわからぬ遺跡――暫定で名付けられた名は、『ヴェルモア大森林遺跡』」
「……なるほど、この大きさで、見つかってるのが数個の空の部屋だけなのか」
エルドガリア女史から聞いた話では、あの遺跡で現在見つかっているものは、何も無い空の部屋が幾つかのみ。
それも、発見した入口から手前にある数個のみで、奥へは全く進めていないらしい。
どう考えても、遺跡のサイズに対して成果が見合っていないのだ。
「あぁ、そうさ。これが墓なのか、城なのか、今のアタシらはそれすらもわかっていないが、このサイズ感で内部の部屋がそれだけってのは、どう考えてもあり得ないだろう? それに、そうして内部に部屋が見つかっている以上、ただの石積みのシンボルとしての建造物ってことも無いだろうしね」
確かにな。
言わば今は、巨大な高層ビルの内、二階部分くらいまでしか見つかっていないような状況なのだろう。
三階以上へと向かう階段が、どこにも見当たらない訳だ。
だがそれも、エルドガリア女史が来る前までは二階への行き方すら見つかっていないようなものだったらしいので、この遺跡の難易度が窺えるというものだ。
なるほど、研究班はきっと、藁にも縋りたい思いなんだろうな。
「どうだ、サクヤ。何か面白いものあるか?」
「あぅよ! うおぉ!」
ご機嫌な様子で窓の外を眺めているサクヤではあるが、今は特に、何か反応を示してはいない。
シィの話では、もっとわかりやすく、全身で反応を示していたというので、今のところサクヤレーダーに引っ掛かったものは無いようだ。
「うーむ、まだ流石に遠いか。我が息子よ、その調子でレーダーを働かせるんだぞ?」
「あう!」
「……その様子を見るとアタシは、本当に大丈夫なのかちょっと心配になるんだが」
エルドガリア女史は、苦笑しながらそう言い、言葉を続ける。
「さ、そろそろ発着場に辿り着く。アンタらも、下船準備をしておいておくれ」
「あぁ、わかった」
それから数分後、飛行船は着陸した。
◇ ◇ ◇
到着して、まず最初に行われたのが、物資の搬入である。
これは、アイテムボックスのある俺も手伝っており、百人が約半年活動出来るであろう食料類や、研究用機材の他に、周辺の陣地化のための建築資材などを研究基地に運び込む。
見るとわかるのだが、かなりしっかり陣地が構築されていて、エルドガリア女史とエミューの説明では、探知用の魔道具や迎撃用の魔道具、魔物を近寄らせないための魔道具などが等間隔で置かれているらしく、他所では見ないような基地が形成されている。
居住地周りには、簡素ながらも効果の高そうなバリケードが置かれており、ちょっとワクワクするような構造だ。
あまりそういうものに詳しい訳ではないものの、こう、どちらかと言うと前世を思わせるような、近代的な感じの研究基地になっているのだ。
羊角の一族が持つ技術力の高さが、この様子だけで伝わってくるな。
そして、実際に近くに降り立つことでわかるのが、ヴェルモア大森林遺跡の巨大さだ。
空から見た時もデカいと思ったが、下から見るとその威容が一層伝わってくる感じで、よくまあこんなサイズの遺跡を作ったものだという感想が思い浮かぶ。
俺が以前、魔境の森で発見した神代の遺跡よりも倍は規模がデカく、何よりあっちはとっくに 死んでいた(・・・・・) 。
超絶ゴーレム兵器こそいたが、形のほとんど全てを失い、ほぼ洞窟のようなものになっていたのはよく覚えている。
だが、この遺跡は、まだ生きているのだろう。
装飾の類はほとんど消し飛んでおり、恐らく像なんかがあったのではないかと思わせる妙な窪みがあったり、折れた柱があったり、もはやただの石と化している建造物もあったりするが、全体の形は損なっていないことから、それがよくわかる。
特に、顕著にそのことを表しているのが――ダンジョンの『マップ』機能。
そこに、 映らない(・・・・) 。
エルレーン協商連合の首都で、俺のマップに映らない区画が存在していたのと、同じように。
これで、ここに何かがあることは確定したな。
非常に気になりはするが、流石にこのまま遺跡に突入というのは不可能なので、搬入を手伝った後に、先程見た居住地へと案内をしてもらう。
全部で五十は超えるであろう数のテントが並んでおり、こうなるともう、規模的には小さな村と言えるだろう。
その内の、大きなテントの一つを丸々貸してくれるようで、中に入ってみると、これがまた面白かった。
「おぉ、なんかすごいな」
「……秘密基地みたいでワクワク」
「わかるぜ、エン。普通に家だな」
簡素ではあっても、家具の類は一通り揃っている。
大きなベッドがあり、水回りも整い、キッチンなんかもあり。
思っていた以上に立派なものである。
「研究において、衣食住をしっかりさせることは大事なことですからー。私達は何よりも知識欲を優先する傾向にありますが、それでもパフォーマンスを整えねば頭脳は働かないものですのでー」
多分以前に、こういうテントを使った経験があるのだろうレイラが、慣れた様子で滞在の準備を始める。
「なるほどなぁ……知識欲のために快適さを求める訳か」
「そういうことですねー」
「……羊角の一族のみんなが、結構ちゃんと家事とか出来る理由が、わかった気がする」
確かに。エミューとかも、その気になれば家事炊事は一人で一通り出来るって話だし。
彼女らは、研究することにかけては、どこまでも本気なのだろう。
だから、研究に専念するため、それ以外の雑事が手際良く終わらせられるようにしておく訳だ。
「よし、サクヤ。冒険はまた明日だな! 今日の俺達の寝床はここだぞ!」
「あぅ、うぅ!」
そうして、まずはしっかりと滞在の準備を行って、見知らぬ場所に興味津々な我が息子に色々と見せたりしている内に、到着一日目は過ぎて行った。