軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

仁義なき夫婦の戦い

俺は、言った。

ふざけんなお前、それは俺のドーナツだ、と。

妻レフィは、言った。

お主いつもそんな甘いもの食わんじゃろうが、と。

俺は言った。

今日は俺、ドーナツ食いたい気分だったんだ、楽しみにしてたのに! と。

妻レフィは言った。

ならば名前でも書いておくんじゃの、と。

幾ら我が妻と言えど、こんな横暴を許しておく訳にはいかず。

悪は正義によって裁かれねばならず、正義とは力によって実現されるのだ。

――戦争の勃発である。

「全く、お前はいっつもそうだ! 確認もせず、自分の思い込みで勝手にやりやがる!」

「お主にだけは勝手だとか言われとう無いし、そもそもユキ、いつも甘いもんそんな食わぬくせに、急に気分じゃからなどと言われても、わかる訳ないじゃろう!」

「一個だけドーナツ置かれてたら、普通に考えて誰かが食べようとしてるもんだってわかるだろ! それにお前、俺の妻だろ!? だったらそれくらい察せよ!」

「妻はえすぱーではないんじゃぞ!? どれだけ相手に高望みしておるんじゃ!」

「最近は結構お前、俺の考え読んでくれてただろうが! ほら、俺が今何考えているのか当ててみろ!」

「……リウがよだれ垂らしてしまっておるから、拭いてやらんと、というところか?」

「……正解だ」

「…………」

「…………」

微妙な無言。

「……オホン、いや、それとこれとは話が別だ! 全く俺のドーナツ食いやがって! こうなってはお前には、決闘を申し込む! 俺が勝ったら、お前には『ごめんなさい』と謝ってもらおう!」

「お、おぉ! いいじゃろう、ならば儂が勝った暁には、お主には『無茶を言ってごめんなさい』と土下座してもらおう!」

「いいだろう! では、今回は公平を期すために――これで勝負しようではないか!」

ババーン、と俺が取り出したのは、 銃(・) 。

と言っても、完全におもちゃで、形こそスナイパーライフルみたいなカッコいい感じだが、プラスチック製で子供が喜びそうな色合いをしている。

弾はスポンジ、発射機構はバネ。だが試し撃ちをしてみた時は結構ちゃんと飛んで、思わず「おぉ……」と思ったものである。

スコープまで付いていて、割と本格的だしな。

なお、この世界に存在しないプラスチック製なので、実はDPカタログでおもちゃとは思えないくらいに高いことは内緒だ。

ま、まあ、これのためにわざわざ魔物狩りもやって、自前でDPは揃えたので、許してもらうとしよう。

「それはー……あー、それは何じゃ?」

「説明しよう! これは、リウとサクヤのおもちゃに良いかと思って出してみた、おもちゃ銃だ! 引き金を引くと弾が飛ぶ!」

「……結構凝った形状をしておるが、高いのではないか?」

「うん」

「うん、ではないわ、うん、では! ……まあよい、で、どう遊ぶんじゃ」

「ルールは簡単、寝そべってこれを構え、撃つ! そして、より多く的を倒した方の勝ちだ!」

「ほう? 的とは?」

「基本的には、ぬいぐるみとかだな。こんな感じで置いて、より多くの的を撃って倒した方の勝ちだ。掠っただけとかじゃダメだ。しっかり倒さんとポイントにならん」

的は、リウ達用のぬいぐるみや本、撃っても壊れないだろう小物類。

言わば、縁日の射的みたいなもんだな。

「おぉ……正直、ちと楽しそうじゃの」

「だろ? ポイント配分はどうする? こっから奥のを倒せたら三ポイントとか、そんな感じにするか?」

「ふむ、では……手前は全て一ポイント、テーブル辺りから奥の、床にあるのは二ポイント、テーブルの上にあるのは三ポイントでどうじゃ?」

「それでいこう。じゃ、お前もいい感じで的を散らばせていけ」

「うむ、任せよ」

そうして俺達は、二人で的になりそうなものを部屋から持ってきて、あちこちに置いて行く。

我が家の出入り口の扉がある辺りから、奥の玉座の方に向かって的を置いていく感じにし、数分して準備を終える。

「よし、こんなもんか」

「うむ、では、今回は儂からやらせてもらおうかの!」

「いいだろう、行きたまえレフィ二等兵。このレバーを引くことで弾が装填され、この引き金を引くことで撃つことが出来るぞ。一発交代な」

「わかった。これを覗いて……こんな感じか?」

「そうそう、大体そんな感じ」

床に寝そべったレフィは、それっぽくライフルを構える。

「……見えた! ここじゃ!」

そして彼女は引き金を引き、パシュンッ、とスポンジ弾が飛んでいき――命中。

が、狙ったぬいぐるみは、掠っただけで、倒れなかった。

弾の威力は十分だったが、当たった位置が良くなかったようで、ぐるんと回るだけに終わる。

「んなっ、あ、当たったのに!」

「ハッハー、バカめ! それだから貴様は二等兵なのだ! まだまだ訓練が足りんようだな!」

「ぐ、ぐぬぬ……まあ良いわ、今ので大体わかった! 次は必ず得点ゲットじゃ!」

「悠長なことだ、ここで俺、ユキ二等兵は一気にお前を突き放す! 追い付けると思わんことだ!」

「あ、お主も二等兵なんじゃな」

「いやまあ、階級は一番下から始めるもんだし」

交代し、俺は寝そべってライフルを構える。

狙うは三ポイント。レフィが外した今、俺がここで高得点を取れば、大きな差が付く……!

「俺はシモ・ヘイヘ……雪に紛れ、敵が気が付かぬ内に命を刈り取る白き死神……その 眼(まなこ) が捉えた得物は、絶対に逃がさない……」

「ここ、雪ないが」

「うるさいレフィ二等兵。――捉えた! ここだ!」

俺は、引き金を引き――普通に外した。

レフィと違って、掠りもしなかった。

「……チクショウ、この銃、 銃身(バレル) が曲がってやがる……!」

「己の腕の無さを道具のせいにするのは良くないのぉ! どけ、ユキ二等兵。儂が射撃の手本というものを見せてやる!」

再び交代。

レフィは寝そべり、スコープを覗き込む。

狙いは奥の三ポイントに変えたようで、というかどう見てもさっき俺が狙ってたのと同じヤツだ。

ふっ、バカめ……アレに当てて俺にドヤ顔をかましたいのだろうが、あの的は俺でも外したのだ。

貴様程度が当てられるとは思えん「おっ、倒れたぞ!」何!?

「よし、儂の方が一足早く昇進じゃな! 今からレフィ一等兵と呼ぶように!」

「バカな、三ポイント取られた、だと……!?」

見ると、しっかり的を射抜き、吹っ飛ばしていた。

「言葉遣いがなっとらんな、ユキ二等兵! 軍隊とは上意下達の世界、階級が上の者にはしかと敬意を払うことじゃ!」

「二等兵も一等兵も大して変わらんだろうが! ぐ、ぐぬぬ……いいだろうレフィ一等兵、まぐれ当たりを今の内に喜んでいることだ! 俺はお前とは違う、狙うは上級将校! 先に元帥へと至るのはこの俺だ!」

「そういうことは、一発でも的に弾を掠らせてから言うんじゃな!」

外野がうるさいが、落ち着け、凪の心を忘れるな。

レフィが三ポイント取った以上、俺もまた三ポイントを取らなければ、勝負は辛くなる一方だ。

だが俺は戦士、そう、スパルタン。いやスパルタンはダメだ。凪の心と全然正反対の戦士だ。

俺は……そう、ゴ〇ゴ13。強靭な肉体に、鋼の精神を持つ暗殺者。

この程度の目標、恐るるに足らず。

「見えた! 今!」

俺は、引き金を引き――命中。

が、倒れなかった。

先程のレフィと同じように、掠っただけに終わる。

「んなっ……何だと!?」

「カカカ! やはりお主は、二等兵であるようじゃな! まっこと、じゅーの扱いが下手じゃのぉ!」

「こ、こんなはずでは……な、何故だ!?」

「どけ、夫二等兵よ。将校に昇進するのは、妻の方が早いようじゃ」

レフィはニヤニヤ笑いながら、呆然とする俺からライフルを奪い取り、次を狙い始める。

マズい、マズい。

このままでは、俺の負けに終わる。それは、認められん。

こうなったらもう、奥の手を使うしか無い、か……!

「そこで見ておれ、射撃とは何たるかを、儂がお主に教えてやる!」

レフィは構え、引き金を――というところで、俺はその耳に息を吹きかけた。

「ふぅー」

「うにゃあっ!?」

瞬間、バシュンと明後日の方向に飛んでいくスポンジ弾。

「おっとどうした、レフィ一等兵。明後日の方向に弾が飛んで行ったが、もっとしっかり狙った方がいいんじゃないか?」

「お、お、お主、妨害有りとは聞いておらんぞ!?」

「何を言うレフィ! 俺達の戦いは仁義無き戦い、妨害? ハッ、それはあって然るべきものだろうによ!」

「……そうじゃったな、お主はそういう男じゃった! いいじゃろう、お主がそういう手で来るのならば、儂もそのように対応するだけじゃ! 覚悟せい、ユキ!」

「フッ、バカめ、レフィ! 俺は凪の心を持つ男だぜ? お前程度の揺さぶりで精神を乱されるとは思わんことだ!」

「まあお主、儂が何もせんでも、今のところぜろぽいんとじゃものな」

「うるさい」

オホンと一つ咳払いし、それから俺は、ライフルをまた構える。

きっと、レフィもまた妨害してくるだろう。

だが問題ない、俺には鋼の精神がある。何が来ても穏やかなまま、対処出来るはずだ。

ちなみに、俺達は最初は普通にやるのだが、途中で負け始めた方がこうやっていつも妨害を始めるので、大体ルール無用の戦いになっていくのだ。

俺からやり始める時もあれば、レフィからやり始める時もあるので、被害者ヅラしているレフィだが実際お互い様である。

俺は、凪の心で精神を落ち着かせ、狙い――ツー、と足の裏を撫でられた。

「うひっ!?」

くすぐったさに身体を捩らせ、そのせいで弾は狙いとは全然違う場所へと飛んでいく。

「おっと、また外したのか、ユキ。やはりお主の腕は、儂と比べれば随分とお粗末なものであるようじゃ!」

「……はーっ! こんなのハンデだから! 全然問題ねぇわ! お前、弱過ぎるから、これくらい差があってちょうどいいくらいだろ!」

「おぉおぉ、吠えよる吠えよる! まだ一ぽいんとも取れておらん男が、何か言っておるのぉ! 負け犬の遠吠えとは、こういう時に使う言葉なんじゃろうの!」

「哀れなヤツだなレフィ! 今の内に、そうやって悲しき幻想を抱いているといいさ!」

――まあ、そこからヒートアップするのはいつものことで。

互いに互いの妨害をやりまくり、全然ポイントは取れないのに、互いの苛立ちポイントだけはどんどん増していき。

聞くに堪えない言い争いをするのが常である。

「ったくお前は! 性根の悪さが溢れ出てやがるぜ! 見ろ、このサクヤの顔を! お前は自分に対して何も思わないのか!? 息子が悲しんでるぞ!」

「ぬぐっ……!?」

サクヤを抱えて前に出すと、動揺したような様子を見せるレフィ。

なお、サクヤは遊んでくれてると思ってるのか、きゃっきゃと喜んでいる。

「……ならばお主は、このリウの顔を見よ! そんな小狡いことばかりしおって、父として恥ずかしくないのか!? 娘も呆れておるぞ!」

「うぐっ……!?」

レフィが抱っこするリウの、無邪気な顔を見て、胸に衝撃が走る俺。

俺達の低レベルな争いなど露知らず、楽しそうに笑っている娘の笑顔が、今は直視出来ない。

「……心が痛いから、二人を持ち出すのはやめるか」

「……そうじゃな。そうしよう」

俺達はリウとサクヤを元の位置に戻した後、気を取り直すようにオホンと咳払いし、再びぎゃあぎゃあと言い争いを始め。

その内、リューがやって来て「二人とも、いつまでも散らかしたままにしないでほしいっす。喧嘩するなら、片付けしてから仲良く喧嘩してくださいっす」とちょっと怒られ、二人で手分けして片付けを行ったのだった。

結局勝敗は、うやむやになってよくわからなくなった。