軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ネルとの関係

「――ただいま、みんな!」

ばばーん、といった感じで、元気良く扉を開けて帰ってくるのは、仕事終わりのネル。

「おう、お帰りー」

「お帰り、ネル。仕事、お疲れ様じゃのう」

「お帰りっす、コーヒー飲むっすか? すぐ準備出来るっすよ」

「お帰りなさい、ご飯はまだちょっと掛かりますねー」

「ありがと、コーヒーお願い! ――リウ、サクヤ、ただいま!」

「あばぁ!」

「うぅう?」

「うんうん、今日も一日、二人とも元気に過ごしたみたいだね! 良いことだよ!」

二人のいるベビーベッドの前で、ぺけーっ、とか、ぱかーっ、とか、そんな効果音が付きそうな感じで腕組みをし、うんうんと頷いているネル。

結構前から、なんかどんどんアホ可愛い感じになっていっているネルだが、今日も変わらずアホ可愛い。

まあ、しっかり者な面に関して言えば、そちらも昔と変わらないのだが。我が家でレイラの次にテキパキと家事が出来るのは、やはりネルだしな。

母親となった今でも、良くも悪くも……いや、何にも悪くは無いので、良くも自分を貫き通す我が妻である。

それからネルは、ぽーんと彼女用のエリアに荷物を置き、いつもの軽鎧を脱いでラフな格好になると、何だか楽しそうにニコニコしながらこちらにやってくる。

そして、ぐいー、と俺の胴に引っ付いた。

「おにーさん、妻は疲れたから、夫の温もりが欲しいなぁ!」

「はいはい、おーよしよし、アホ可愛い我が妻よ。今日も一日仕事を頑張ってきて偉いな」

撫でてやると、嬉しそうに表情を緩ませ、ぐりぐり頭を擦り付けてくる。

猫みたいなヤツだ。

「ふへへぇ、この瞬間のために仕事を頑張っていると言っても過言ではないね。こうしてみんな、チヤホヤしてくれるし!」

「なかなか動機が不純になったな、勇者様」

「結果として国を守れてればいいんだよ。そもそも、個人戦力に頼ってる国なんて、色々ダメな感じだし」

それをあなたが言っちゃうんですか。

いやまあ、その通りだとは俺も思うんですが。

「だから、僕がパートタイム勇者で許されるようになったことは、一面ではとても良いことだね! 飛行船様様、飛行船万歳。争いが少なくなった世界に乾杯!」

「コーヒーで乾杯するのか」

「カフェインに万歳!」

「カフェインに万歳」

「あはは、今日も絶好調っすねぇ、ネル」

リューが用意してくれたコーヒーカップを礼を言って受け取り、カツンと二人で乾杯する。

――そうしてカフェイン摂取したことで、ちょっとずつ落ち着いてきたらしい我が妻に、俺は最近の話を聞く。

「ネル、仕事の調子はどうだ?」

「暇だねぇ~。僕が出張って対処するような魔物って、そんなに現れないし。というか、対処しなきゃいけないのはもう粗方倒し切ってるから、もう数年は平和なままかもね。何ならアルフィーロの街の周りが一番強いけど、それだったら遠征しないで済む分すぐ終わるから、楽なものだよ」

ネルが現在拠点にしている、魔境の森に最も近い位置にある辺境の街、アルフィーロ。

ということは、街の付近に出て来る魔物は全て魔境の森基準である訳だが、ネルはもうその程度、余裕でぶっ殺せるので敵にならないのだ。

「だから、訓練と、後進の育成がほとんどかな。新人の聖騎士さんの教育とか、軍人さんの教育とか、あと時々冒険者の人達にも訓練を付けるんだけど、大体みんな僕より年上だからちょっと気を遣うんだよねぇ。まあ、もう流石に慣れたけど」

「……あのネルが、教育する側に回ったんだなぁ」

「あはは、僕もそう思うよ。己が人に物を教えられる立場なのか、なんてことも考える時はあるけど、これは義務だからね」

「義務か」

「そう、義務。仕事の一環だから、そういうの関係無くやらなきゃいけないことなんだよね。僕がいつまでもいられる訳じゃないことは、教会側もわかってるからさ。デュランダルも返したくらいだし。今の内に戦力増強をしておきたいんだよ」

こういうところも、昔と変わらず真面目だ。

だから、オンオフの切り替えが上手くなった、ということなのだろう。

その分、オフ時のはっちゃけ具合はすごい訳だが。

――以前は勇者を辞めるだのどうだのという話があったが、パートタイムとなり、それが意外と上手く回っていることで、ネルの勇者は続投することになった。

いや、教会の方は後進の勇者を探しているようだが、ネル自身も己の祖国に貢献したいという思いがあるから、今後も出来る限りで続けることになっている。

特に、ほぼ毎日家に帰って来られるようになっているのがデカい。

一緒に旅行行ったりしているように、ネルが望めば普通に休めるし、それなら別に無理して辞める必要も無いんじゃないかという相談を以前に二人でして、こういう形に落ち着いたのだ。

ネルの望みも果たされるし、俺達も――いや、俺も毎日ネルと会えるから、嬉しいものだ。

無理に我慢とか、してほしくないしな。

「大太刀の練習具合はどうだ?」

「いやぁ、難しいね。問題は一つで、とにかく重量があることがネックかな。振れないことはないんだけど、僕の方が軽いせいで身体が流されちゃう。まあ、おにーさんが造ってくれた練習用の大太刀だとそうなるけど、実際にエンを使ったら、その辺りはあの子が調整してくれるんだけどね」

「言って、俺もその辺りはエン頼りだからなぁ。俺は振って踏ん張ることは出来るが、お前みたいに綺麗に刃を立てたり出来んし」

「そこは練習あるのみだね。でもおにーさんも、エンによって自然な太刀筋を矯正され続けてきた訳だから、大分刃物の扱いは上手くなってると思うよ? エンが怒るからおにーさん他の刀剣類使わないけど、一緒に魔物狩り行った時の様子見る限りだとそう思う」

「そうか?」

「うん、振る姿なんか見てると、エンの補整が入らないような溜めのところとかも、綺麗な姿勢になってるから。……いや、でもおにーさん、エンでの戦闘に最適化しちゃってるから、そういう意味では別の剣使うと上手く扱えないかも。そんな感じする」

「はは、ま、いいわ。俺はエン以外で戦闘するつもり、もう無いしな」

「でも暇潰しに刃のある武器を作って、あの子に怒られるんだよね」

「そりゃお前、クリエイターの想像は止められないのさ」

「あはは、おにーさん昔からものづくり好きだもんねぇ」

「ぶっちゃけ俺、やることないしな。子育てはみんなが張り切ってるし。最近した仕事らしい仕事と言えば、ローガルド帝国のダンジョン領域内で発見した、割と強い魔物をこっそり排除したくらいだ」

「ローガルド帝国は戦争に負けちゃったけど、最強の守護者が出来たんだねぇ……」

ネルはエンが振るえるようになりたいと練習を重ねているが、まだまだ芳しくないようだ。

と言っても、こんな細身の身体をしているネルが、なんか当たり前のように振り回すことが出来ている時点で、相当なのだが。

しっかり筋肉があるのは知っているが、それでも女性の筋肉の付き方の範疇だ。

体重とか、軽いモンだしな。余裕で片手で抱き上げることも出来るし。

「わひゃあっ、な、何? おにーさん。くすぐったいよ」

「あ、悪い。お前のその細身な身体のいったいどこに、そんな力があるのか疑問に思ってな」

思わずさわさわとネルの身体を触りまくっていた俺は、少し顔を赤くするネルの声で、手を離す。

が、これでもセクハラにはならない。

何故なら、我々は夫婦であり、何なら逆のことをよくネルにやられるからだ! フハハ。

ネルは俺の腹筋が好きらしいので、よく触ってくる。レフィの角と尻尾、リューの耳と尻尾、レイラの角は俺のものだが、俺の腹筋はネルのものなのだ。

「……それを言ったら、レフィの方が細身で華奢でしょ」

「いやまあ、それはそうなんだが。あれはもうなんか、そういう別の生き物だろ」

実際別の種族である。

「誰が別の生き物じゃ」

「おっと聞こえてたか」

キッチンの方から顔を出したレフィは、フンと鼻を鳴らしてから、言葉を続ける。

「それよりネル、晩飯もまだじゃし、先に風呂に入って来たらどうじゃ? 汗も流したいじゃろう」

「うん、そうする! ――ね、おにーさん! つ、妻は夫に、背中を流してほしいなぁ、なんて」

もう何度も一緒に風呂に入って、互いの全裸など見ているくせに、少し照れたような表情でそう言ってくるネル。

……ったく、お前は。

はっちゃけまくるようになったくせに、そういうところも昔と一切変わらず、照れ屋で可愛いヤツなのだ。

――ネルの勇者としての重要性は、低くなった。

多分、コイツが本気で辞めようと思えば、引き留められるかもしれないが、否とは言われないだろう。

仮に長い期間休むことになったとしても、勇者を続けてくれるなら全然構わないと、今のアーリシア王国ならば許してくれると思われる。

俺との関係もあるしな。

だから、まあ……そういうことだ。

「あっ……」

「風呂入るんだろ? ほら、行くぞ」

俺はネルの肩を抱き、そして二人で、旅館の方へと向かったのだった。