軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

仕事の時間

ウチの面々が帰った、翌日。

ホテルにエンともう一泊だけした後、俺は魔物駆除のため、軍用の飛行船に乗って飛んでいた。

「……軍用飛行船、かっこいい。エン、客船より、こっちの方が好きかも」

「わかる。カッコいいよなぁ、軍用機って」

早い方が良いだろうと、夜の内に船長が形式を整えてくれていたようで、朝になって朝食を食べた後、寄越してくれた馬車で移動。

そのまま首都近郊の軍基地に入って、飛行船に乗って今に至る。

この仕事の速さ、流石である。出来る男は違うね。

と、俺達が軍用機のカッコよさに見惚れていると、部下を指揮して船を操縦していた船長が、こちらへと声を掛ける。

「敵はこの先だ。すまんが、これ以上近付くと船が捕捉されて攻撃される危険性があるため、案内出来るのはここまでだ」

「オーケー、排除が終わったら、俺達はそのまま帰る。だから、俺達のことは気にしなくていいからな。あぁ、倒した魔物の素材とかは全部好きにしてくれ。俺はいらん。――エン、頼む」

「……ん」

船をご機嫌で眺めていたエンは、コクリと頷いて、大太刀へと戻る。

「……本当は魔物討伐の後、残ってもらって歓待などしたいところだが、恐らくそれをした方が迷惑だろうな。わかった、そのように」

「おう、悪いな。家族も帰ったし、俺達も早い内に帰りてぇ」

そう言って俺は、エンを肩に担ぎ、勝手知ったる飛行船のタラップを開く。

入り込む風。

「……そういや、考えてみると、アンタにこうやって見送られるのは三回目か」

「クク、そうなるな。思えば奇妙な縁だ。――では、またその内に。お嬢さん、そして魔王よ」

「あぁ、また。船長」

『……バイバイ』

敬礼する彼に、俺もまた笑って敬礼を返し、飛行船からポンと飛び降りた。

自由落下の 最中(さなか) 、翼を制御して空を掴み、飛ぶ。

身体が風を切る心地の良い感触。

元々飛ぶのは好きなのだが、三対になってから、さらに楽しくなったように思う。バイクとか車好きな人が、馬力にこだわり始める理由がわかっちゃうね。

そう言えば、まだ見たことはないが、サクヤにも翼があるらしい。

背中に魔力の流れが集中しているポイントがあるため、確実に翼はあるだろうというのがレフィの見立てだ。

ウチの子と飛べるようになるのが楽しみだぜ。

なんて、そんなことを考えている内に、俺は目標を視界に捉える。

「お、アイツか。……聞いてはいたが、随分デカいな」

『……ん。でも、おっきいだけ』

肩に担いでいるエンが、何でもない様子でそう言う。

「はは、そうだな。その通りだ」

そこにいたのは、ビル三階分くらいありそうな、四足歩行の巨大な怪物。

――『ゴリルレーヴェ』。

ライオンベースに、ゴリラの肉体を掛け合わせたかのような弾ける筋肉をした魔物で、立派な鬣と角がある。

翼は無いのだが、どうやらジャンプ力が凄まじいらしく、低空を飛んでいると飛び掛かられることがあるそうで、さらには高空を飛んでいても岩とか投げつけてくるんだとか。

実際、調査のために飛んでいた軍用船の一隻が岩を食らい、中破しながらどうにかこうにか帰ったことがあるらしい。大分気性が荒いようだな。

で、さらに面倒なことに、身体がデカいからか縄張りの範囲も広いようで、付近の山脈だったらどこにでも現れるそうだ。

こうして見ても、人間の軍だったら本気で掛からないとならないくらいの強さがあるのはわかり、確かに排除にはコストが掛かりそうだ。実際放置されている訳だし、それよりは大回りでも迂回した方が良い、っていう判断なのだろう。

ただ――魔境の森では、中堅より少し弱いレベルだ。ウチのペット達一匹よりも弱いな。

そして、どうやら頭も悪いらしい。

「グウゥゥゥゥ……」

俺達を見ても唸って威嚇するだけで、恐れる素振りも見せなければ、警戒する素振りも見せない。

俺達の方が強いということを、見抜けていないのだ。

サイズに差があるから、こんな小さいのが自分よりも強いとは思えないのかもしれない。

「よぉ、ゴリライオン。良いこと教えてやる。自然界を生き抜くために最も重要なのは、知恵だ。お前みたいな、自己主張強いだけのバカは早死にするぞ」

『……賢さは大事。賢ければ、強者とも戦える』

「そうさ。で、お前は弱い上に賢さも無い。だから、こうして目を付けられるんだ」

俺達の言葉はわからずとも、しかし挑発されていることだけは一丁前に理解したのだろう。

「グラアアアアッ!!」

無駄に立派な筋肉を躍動させ、近くにあった木を引っこ抜き、メジャーリーガーもかくやというフォームでこちらに投げつける。

投げ斧のようにグルングルンと回転し、迫るそれをヒョイと潜って回避した後、ギュンと踏み出して距離を詰める。

向こうも投げ付けた後に走ってきていたが、俺からも迫ったことで一気に間合いが狭まり、それでギョッとしたのか、反射的に振り上げられた拳が頭上から降ってくる。

俺は、一歩ステップを入れて横に逸れ、横を過ぎ去る岩石の塊のような拳に向かって、下段の低いところから振り上げたエンで斬り付けた。

お? 意外と硬い。

この感触、肉は斬ったが、骨で止められた感じだな。

ただ、今の攻撃からも感じられたが、どうやらコイツ、戦闘経験が浅いらしい。

「ギャアアァッ!?」

ちょっと斬られただけで情けなく悲鳴をあげ、そして 怒(いか) ったようにブンブンと両腕を振り回し、俺をペシャンコに潰そうと暴れ始めるゴリライオン。

多分、お山の大将だったせいで、今までの戦闘は全て楽勝で相手を下してきたんだろうな。

どいつもこいつも強く、格下でも油断すると負ける可能性のある魔境の森の魔物達とは違い、周囲に競る相手がいないため、こんな風に怪我を負うことが今まで一度も無かったのだろう。

冷静さを欠いた相手など、敵ではない。

見て、避け、そして斬る。

きっと、一撃を食らえば俺でも大ダメージなのだろうが……アレだ。

当たらなければどうということはない、だ。

次々にゴリライオンの肉体に傷が増えていき、血が舞う。

このままでは勝てないとようやく悟ったのか。

俺が胴体を斬り付けた後、怯んだように後退ると、そのまま背中を見せて逃走を開始。

命が掛かっている以上、勝てないとわかったら逃げるのはアリだ。アリだが、逃げるならもっと早くに、自分の余力が残ってる内にそうするべきだったな。

「背中見せたらァ負けだぜッ!!」

俺は翼を羽ばたかせてギュンと加速し、飛び上がる。

そして、空中からゴリライオンの首筋目掛け、急降下。

速度を乗せて振り下ろしたエンの刃は、今度はしっかりと骨を断ち、ズ、と首がずれ。

まず、頭部がゴトンと落下し、刹那遅れて、胴体がズゥン、と地に落ちた。

◇ ◇ ◇

「ただいまー」

「……ただいま」

エンと共に帰宅すると、すぐに家族から「おかえり」と声が返ってくる。

「お疲れじゃ、二人とも。無事に仕事は終わったか?」

「おう、しっかり魔物しばいてきたぜ。――ただいま、リウ、サクヤ」

俺はまずリウの頭をくしくしと撫で、それからサクヤを抱っこする。

「我が息子よ、お前の尻拭いはしてきたぞ。けど、出て来た魔物が弱すぎたな。あのレベルなら……あと三十体くらい倒してようやく借りと釣り合うって感じか。そういう訳だから、サクヤ、大きくなったらお前が借りを返すんだぞ」

「うぅあう?」

「……武器が必要になったら、エンが手伝ってあげる。だからサクヤ、エンを使えるくらいまで筋力付けてね」

「カカカ、それはなかなか大変そうじゃな。姉を満足させられるよう、頑張らんとのう、サクヤ」

「……リウも、と思ったけど、リウは難しいかな」

「リウはどうじゃろうなぁ。まあ、女の子じゃし、リウが武器を持つなら、ネルの方向性が良いかもしれんの」

「……ちょっと残念。じゃあ、ネルと一緒に剣の心得を教えてあげることにする」

「はは、あぁ、それがいいな」

そんなことを話していると、顔を覗かせたリューが俺に言う。

「ご主人、アイテムボックスの洗濯物とか、出してほしいっす! 全部一気に洗濯しちゃうんで」

「そうじゃな、あと小物類も全部出しておけ。一気に片付けてしまおう」

「あ、そうか、俺が大きな荷物は持ったままだったな。オーケー、手分けして片付けようか」

そうして、皆で旅行の片付けを始める。

俺は、何故だか、この片付けが楽しかった。

上手く言えないが……この後片付けの面倒くささを含めて、家族、というものが感じられたから、だろうか。

家族。

いつからか俺は、ダンジョンの皆を表す時に、その言葉が一番しっくり来るようになった。

まさか自分が、こんなにも他者に依存する日が来るとは思わなかった。今の俺は、家族に生かされているし、家族のために生きようと思っている。

それが、唯一不変の思いとして、自分の中心に根付いているのだ。

「……リウ、サクヤ。また一緒に……旅行行こうな」

「ほれ、ユキ。そっちが終わったのならこっちを手伝え。十三人分の荷物じゃ、テキパキやらんと今日中に終わらんぞ」

「へいへい、任せろ」

俺は、洗濯物に手を伸ばした。