作品タイトル不明
観光の終わり
夜。
「ふー、流石にクタクタだよぉ。足が疲れた!」
「……ん。でも、楽しかった。みんなで色んなところに行くの、最高」
「そーだねぇ! たのしかった!」
観光は、終わり。
博物館を中心に回った後、昨日とはまた別の通りで土産物を見たり買い物を行い、大規模な公園を散歩したりと、首都を十分に堪能したところで夕方になったため、ユキ達一行はレストランに入った。
二階建てで、夜景がよく見えるテラス席に座り、魔力灯に照らされた人工的な光の美を楽しみながら夕食を食べ、そして食べ終わった後も、席を立たずゆっくりとする。
帰るだけなら一瞬で帰れるので、今は夜景を見ながら、皆で旅の余韻に浸っているところだった。
――シィは、街を見る。
街を包む光。
空は暗いのに、街並みは明るいままで、煌びやかな光景が広がっている。
この世界においてそれは、他では一切見ることの出来ない、先進的な美である。
だが……シィは思うのだ。
あの庭園の方が、綺麗だったと。
幻想的で、何もかもが心地良くて。
骸骨の彼が笑っていて。
「…………」
シィは、彼ともっと話をしたかった。
もっと話を聞きたかった。
何より、自分の家族を紹介したかった。
彼のことを考えると、どうしても悲しくなってしまう。
せっかくの旅行だ、皆を心配させたくなかったため、なるべく考えないようにしていたが……ふとした拍子に思い出してしまい、やっぱり泣きたくなってしまう。
――ここには、また、来よう。
必ず。
自分がもっと大きくなって、一人で色んなところに行っても大丈夫になったら、供えるためのお花を買ってここに戻ってくるのだ。
その時は、大きくなったサクヤも連れて来よう。
それで、ここで自分達が誰と出会い、誰とどんな話をしたのか。それを、教えてあげるのだ。
その時、彼のことをサクヤが覚えていたら、嬉しい。
「ね、あるじ。サクヤ、だっこしていい?」
「ん、あぁ、大丈夫だ」
そう言って、ユキはベビーカーのサクヤを抱き上げ、シィに渡す。
シィは両手で大事に彼を受け取ると、外の景色がよく見えるテラスの手すりの近くに立つ。
「サクヤ、またいっしょに、このまちに来ようね」
「うぶぅ、あう……」
サクヤは、シィの顔を見て、それから夜の街へと視線を送る。
サクヤが何を考えているのかはわからない。
ただ、きっと……この子も彼のことを考えているはずだ。
この子が、ムクロのおじちゃんに懐いていたことは、間違いのない事実なのだから。
色んな感情が浮かび上がり、言葉が出て来なくなるシィを見て、ユキは優しく笑い、その頭を撫でる。
シィは、また泣きそうなくらい悲しくなったが……もう、泣かなかった。
◇ ◇ ◇
観光が終わった後。
ウチの面々は、満足した様子で帰っていき――だが、俺は帰らなかった。
エンにも残ってもらい、ただ流石に疲れていたようなので、今はアイテムボックスの中で眠っている。
「船長、ありがとう。おかげで良い旅行になった。すごい楽しかったぜ」
「この国の者として、その言葉は何よりも嬉しいものだ。まあ、私はただ案内しただけで、偉そうなことは言えんのだがな」
昨日今日と泊まっていたホテルのロビーで、船長と言葉を交わす。
時間も遅いからか、他のお客さんの姿はほとんどない。スタッフが待機しているくらいだ。
「いやいや、色々手配してくれたおかげでスムーズに回れたし、何より紹介してくれたところが全部面白かったからな。ウチの面々の護衛をしてくれていた、アンタの部下達にも感謝してると伝えといてくれ。――時に船長、何か困りごとはないか?」
「ふむ? 困りごと、とは?」
「飛行船の魔物対策とか、航路拡張したいが、魔物が邪魔になってるところとか。色々便宜図ってくれたし、邪魔なのがいるなら狩ってやるぞ」
俺の言葉に、彼は少し考えるような素振りを見せる。
「……正直、確かにそういう魔物はいる。最短で航路を引きたいところに居座った魔物のせいで、わざわざ迂回せねばならなくなっているところがな」
そう言うも、船長は被りを振った。
「だが、その討伐を頼むのはやめておきたい。魔王の力があれば排除は容易いのだろうが、それは大きな借りだ。私は貴殿を友人だと思っている。だからこそ、そういう借りは作りたくない。多少便宜を図った程度で返せるものではないぞ」
……俺と同じこと考えてやがるな。
神剣のことを知らない以上は、俺がここで魔物狩りを手伝ったりしたら、向こうからすれば逆に大きな借りになるのだろう。
どうやって説得したものか……こうなったら、少しだけ話すか?
「……船長。アンタは今、軍人であるのと同時に、『特別外務公務員』ってのになってるんだよな?」
「ん、うむ、そうだな。仕事は魔王ユキ一家の接待役だが、これで給料をもらうのは申し訳なってくる思いだな。遊びに来た友人に便宜を図るくらい、当たり前のことだしな」
いやホントアンタ、しっかりした大人だな。高潔な軍人って感じだ。
「ってことは、ある程度は俺に便宜を図るのが仕事だし、国に仇為さない限り、多少は俺の秘密を守ってくれるってことでいいんだな?」
「……そうだな。ただ、何だか話を聞きたくなくなってきたぞ」
「察しがよろしいことで。――ちょっと辛いぞ」
俺は、近くに船長以外いないことを確認してから、アイテムボックスを開き、神剣を取り出す。
瞬間、溢れ出す莫大な圧力。
それを受け、身体を硬直させる船長。
「――ッ!」
鍛えてはいても、ただの人間である船長の近くにこれ以上神剣があると昏倒させてしまう可能性が高いため、彼が神剣を確認したのを見て取った後、すぐにアイテムボックスに戻す。
「い、今のは……」
「そう言えば船長、シィが迷子になった時の礼がまだだったな。迷惑掛けたし、その礼ってことで、その航路に居座るヤツを俺が排除しよう」
俺の言葉で、ある程度事情を察したのだろう。
若干頬を引き攣らせながら、数度口をパクパクさせ、彼はようやく言葉を絞り出す。
「……なる、ほどな。腕の良いはずの部下達が、間抜けに見失ったのは、理由があったのか……」
「俺はこの国の歴史に興味を持った、とだけ言っておく。今ので俺の要件が大体わかったと思うが……」
「いい、何も言うな。私は何も見ていないし、何も知らない。あの可愛らしいスライムの子はただ迷子になっただけ。……それは恐らく、この国にない方がいい。災いの種だ」
賢明な判断だ。助かる。
「わかった。つまりは……借りではなく、貸しの清算なのか。それで魔物討伐と。……うむ、そういう事情ならばお願いしよう」
「誰かに何か聞かれたら、アンタが個人的に俺に貸しを作ってたってことにしといてくれ。悪いな、面倒掛けて。魔物討伐程度で借りの全てを返せるとは思ってない。だから……この国は俺に対して貸しを作った。どでかい貸しだ。その分俺はこの国を気に掛ける。ずっとな」
「……フッ、ユキ殿には悪いが、我々は意図せず幸運を掴んだようだ。訳のわからん災いの種が手元に残るより、目に見える友との繋がりの方がよほど助けになるだろう」
「今後も、アンタが合間に入ってくれると助かる。ウチの息子がデカくなったら、俺の持ってる借りは息子に清算させる予定でな」
「長い付き合いになりそうだ。ま、細かい事情は抜きにしても、また奥方らを連れて遊びに来い。我々はいつでも貴殿ら一家を歓迎しよう」
是非ともそうさせてもらうよ。
ウチの家族も気に入っていたし、何より……シィにとって、この国はとても大事な場所になったみたいだからな。