軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

シィの冒険《3》

「……何だ、これ?」

空を飛び、シィを探し始めた俺だったが……そこで、何かおかしなものが『マップ』に映る。

映らない(・・・・) 。

まるで、そこだけ別区域になっているかのように、『マップ』が空白のまま埋まらない箇所があるのだ。

目視すれば大丈夫なはずなのだが……こんな経験は初めてだ。

空白地帯は、先程までいた場所のすぐ近く。

味方を示すシィとサクヤの青点も見当たらないので、となると二人は、恐らくあの区域の中にいるのだと思われる。

「……ダンジョンでもあるのか、あそこ?」

あそこが、空間的に別の領域になっているのは間違いないだろう。

目視しても埋まらないということは、つまり一見何の変哲もないように見えて、あの空間だけ別次元に存在しているということになる。

レフィは何も言っていなかった。ならばあの異常空間は、アイツでも気付けなかった訳だ。

となると、船長らこの国の人間達も、気付いていないのだろう。マップ上は空白地帯だが、あそこ普通に建物が軒を連ねているからな。

……いや、まあレフィも大分、旅行でテンション上がってる様子だったし、普通に見落としてた可能性もぶっちゃけあるのだが。

それに、初めて来た場所だし、何かおかしなものを感じても「そういう場所なのか」と思ってしまう可能性はあるだろう。

「……何はともあれ、入ってみるしかないな」

遠くまで見渡せるよう高空を飛んでいた俺は、低くまで降りて行って『マップ』の映らない区域に入り込み……おん?

何か異質な魔力を感じたと思ったら、次の瞬間には何も無くなっていた。

いや……実際ここには何も無いのだろう。

――これは、 入り損ねたか(・・・・・・) 。

感覚でわかる。ここは、違う。

ここは、ただの首都の一角だ。その証拠に、『マップ』の空白地帯が 埋まっている(・・・・・・) 。

そして、もう一度高空へ飛ぶと案の定元に戻り、再びそこだけ何も映らなくなった。

「正規の手順じゃないと、侵入出来ないって感じか? ……空間魔法かね」

俺が使う『アイテムボックス』や、ダンジョン内のそれぞれの地点を繋ぐ『扉』。

空間魔法というのは、位相を誤魔化す魔法だ。

ここにあって、ここにはない。

向こうにあって、ここにもある。

魔法によって、空間の座標を繋げ、あるいは連続性を断つのだ。

恐らくシィとサクヤは、この空間の『裏』に入り込んでいる。だが、俺は入り損ねた。さっき俺が入ったのは、『表』だ。

……すぐに見つけられると思ったが、これは、意外と難しいかもしれない。

とにかく、俺一人じゃ無理だ。レフィと……あとレイラにも来てもらった方がいいだろう。

「……それにしても、何で首都のど真ん中に、こんなものがあんだ?」

◇ ◇ ◇

「――それでね、おねえちゃんプンプンしちゃって! あるじは、すぐににげたけど、つかまってしばかれてた! でもでも、とってもなかがいいんだよ! おこってるようにみえるんだけど、それがふたりのコミュニケーションなの!」

『クカカ、ナルホド。愉快ナ夫婦ダナ。サゾ、毎日賑ヤカダロウ』

カタカタと顎を揺らし、笑う骸骨。

基本的に物怖じせず、誰とでもすぐに仲良くなる才能があるシィは、おどろおどろしい見た目の相手でも何にも気にせず楽しく会話が出来るし、獣の骸骨はそもそも他者と会話を交わすのが久しぶりだ。

だから、自分以外に誰かがいて、言葉を交わすことが予想以上に心地良く、しかも小さく可愛いシィが、一生懸命に話してくれるのを聞くのは楽しい。

故に、彼女らの何でもない雑談は、非常に弾んでいた。

「まあね! リウとサクヤがうまれてからは、もっとにぎやかだけど! あ、リウっていうのは、シィのいもうとで、サクヤのおねえちゃんだよ! リウは、サクヤとちがってふつーのおんなのこだから、シィがまもってあげるの! サクヤもまもってあげるけどね!」

『ソウカ……良キ家族ガイルノダナ、サクヤヨ』

「あうぅ、あばう」

眼球などないが、しかし骨の眼窩から送られる視線を受け、サクヤは機嫌良さそうに何事かを喋る。

「あっ、サクヤ、ムクロのおじちゃんすきになったみたいだね! このこはねぇ、ヒトのかんさつがしゅみなの! ムクロのおじちゃん、みててたのしかったみたい!」

『クカカ、コノ骨ノ老イボレヲ気ニ入ルカ。俺ニ向カッテソウ言ッタノハ、我ガ主以来ダ』

「ムクロのおじちゃんも、あるじがいたの?」

『アァ。元々野生デ生キテイタガ、アル時、我ガ主ト戦ッテ、負ケタノダ。殺サレルト思ッタガ、代ワリニ我ガ主ハ、俺ニ言ッタ。我ト共ニ生キヨ、ト』

「へぇ……! なんだか、カッコよさそうなヒトだね!」

『ウム。洒落テイテ、愛ニ溢レ、最高ノ主ダッタ。今デモ、簡単ニ思イ出スコトが出来ル』

楽しそうに彼は語り、それから、声音を少し真面目なものに変えて呟く。

『……コレハ、オ導キ、ナノダロウナ』

「おみちびき?」

獣の骸骨は、二人に向けていた視線を庭園へと向ける。

『シィヨ。貴様ニハ、ココガ何ニ見エル?』

「きれーな、おにわ!」

『クク、ソウカ。ダガ、前ハモット綺麗ダッタノダ』

「そうなの?」

『アァ。俺ハ、コノ場所ノ番犬デナ。主ノ命ニヨリ、コノ場所ヲ守リ続ケテ来タ。ダガ……見ヨ、ヒビ割レタ石畳ヲ。苔ガ生エ、細部ガ欠ケ始メタ彫刻ヲ。草木モ、少シズツ枯レ始メテイル。……俺ガ万全ナラバ、コウハナランノダ』

確かに、庭園には整備の足りていない箇所があった。

一見しただけでは、それは目に入らない。静謐のある、美しい庭園だと誰もが言うだろう。

しかし、一つ一つを細部まで見て行けば、深い年月がそこに刻まれているのがわかるのだ。

風化し、朽ちている部分が、確かにあるのだ。

『肉ガ全テ削ゲ落チ、骨ダケノ肉体ト成リ果テテ尚、ココヲ守ロウト思ッテイタ。在リシ日ノ面影ハ、モハヤココニシカ残ッテオラズ、過去ニ取リ残サレタ身ト成リ果テテ尚、執着シ続ケタ』

獣の骸骨は、遠くを見やる。

その視線の先は、いったいどれだけ離れ、遥か彼方にあるのか。

「……ムクロのおじちゃんは、ここがすきなんだね?」

『ソウダ。何ヨリモ……コノ身ヨリモナ』

声音に滲み出る感情。

それは、およそ生物とは言えない身と成り果てても、しがみ付き続ける己の浅ましさに対する自虐か。

自らと共に朽ちていく、庭園に対する哀愁か。

『ダガ、ソレモ――モウ、終ワリニスベキナノダロウ』

そう言って獣の骸骨は、座っていた状態から腰を上げる。

『セッカクダ。タダ眺メテイルダケデハ、面白クナカロウ。付イテ来イ、コノ庭ヲ案内シテヤル』

「! うん、おねがい!」

「あぅ、ばあう」

シィはサクヤのベビーカーを押し、獣の骸骨に付いて庭園内を歩き出した。