軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

勇者接触

「ヒグッ……ウグッ……」

うわぁ……どうしよう。完全に泣いてやがる。

廊下の隅で膝に顔を埋め、小さく丸まっている勇者。勇ましさの欠片も無い。何だってこんなヤツよこして来たんだ。

……いや、これでも一応、人間の中じゃかなり強い方だったな。まあ、ムダに好戦的なヤツよりは全然マシだからいいんだが。

「……あー、もしもしそこのお嬢さん」

「ヒィっ……」

彼女の近くまで行って声を掛けるも、ビビッてさらに小さくなる勇者。

「おい、大丈夫だって、怖がるな。俺は普通の……ええっと、なんだ、生者?うん、生者だ」

すると、勇者は恐る恐ると顔を上げ、赤くなった目でようやく俺を認識する。

「……お、おにーさんは誰?」

「あー……それはお互いのために、知らない方がいいと思うぞ」

そう言うと怪訝な表情を浮かべる勇者だったが、急に今度はサァ、と顔を青ざめさせて、震える指先で俺の後ろを指さす。

「お、おにーさん……そ、それ……」

「ん?あぁ……」

俺の後ろにはいつの間にか、少女を模した人形が三体、ぷかぷかと宙に浮かんでいた。

「お前ら、ありがとな。もう向こうで遊んで来ていいぞ」

そう言って人形達の頭を軽く撫でてやると、彼女らはきゃっきゃっと嬉しそうな声を上げ、その場を浮遊しながら去って行く。

あの人形は、三人レイス娘にあげたものだ。憑依出来るものがあった方が何かと便利だろうからな。

「そ、その人形達が従ったってことは……お、おにーさん、いや、お前は魔王!?」

そう結論を出すと勇者は、床に尻もち付いたままの状態ですぐに腰の美麗な彫刻が入った剣を構え、 些(いささ) か威厳の足りない表情でこちらを睨み付ける。

どうやらあれ、分析スキルによると聖剣らしい。詳しい能力までは阻害が掛かっていてわからないが、物騒なモン持ってやがんな。

きっと、『魔』特攻とか付いていて、魔王に対して攻撃力倍増とかの効果が付いているのだ。

「あー……まあ、そうなんだが、やめとけやめとけ。ついさっきまでピーピー泣いてたヤツと争う気なんかないって」

「な、泣いてない!!」

「いや、どの口が言うんだ、どの口が」

呆れた口調でそう言うと、むぐぐと唸る勇者。

「な、何でこんなことするんだ!」

「何でって、そりゃお前、武器持った知らないヤツが家に入ってきたら、誰だって追い出そうとするだろ。まさか座り込んで泣き出すとは思ってなかったがな」

そのまま来た道を戻るなら、三人娘には手を出さないように言ってあったから、普通に外に出られるようにはなっていたしな。

「ウッ……い、言われてみれば確かに……あっ、な、泣いてないから!!」

「わかったわかった、もうそれでいいから、とっとと帰ってくれ。こっちはお前のせいで窮屈な思いしてんだ」

洗濯物干しに行けないし。

「だ、ダメだよ!!だってそうしたら、またみんなを襲いに行くんでしょ!?」

……あぁ、もう、面倒くさいヤツだな、コイツ。

「またってのは誰のことだ?俺が街を襲いに行った時に殺した犯罪者達のことか?それとも、俺を殺しに来た軍隊のことか?言っておくけどな、どちらにしても俺から手を出した訳じゃないからな。どちらもお前ら人間から仕掛けて来たことだぞ。武器を向けて来たら、こっちだって武器を構えるだろ」

まあ、森に入って来た軍の方は俺が先制攻撃で潰した訳だが、武器持って敷地に入って来た訳だからな。

正当防衛が成立する。俺がそう決めた。

「えっ、それは……」

そこまで詳しい話は知らなかったらしく、些か驚愕した様子を浮かべる勇者。

まあ、そんなものだろう。

都合の悪いことは、隠す方が国としてはやりやすいもんだ。

「考えが甘いぞ、勇者。本当に誰かを救いたいと思うなら、上に言われてはいそうですかって鵜呑みにするんじゃなく、自分で考えて動くんだな。俺の話も鵜呑みにするんじゃなくて、自分で考えて、な」

と、偉そうに講釈垂れても、俺だったらまず勇者自体絶対にやらないが。

よしんばやるとしても、莫大な金と地位と名誉を要求するぞ、俺は。

俗物で結構。俺は俺の人生のために俺の命を張る。

以前にイルーナを助けに行ったのだって、極論、自分のためだ。

イルーナがいなくなったら嫌だから、助けに行く。彼女が痛い目に遭わされるのが嫌だから、助けに行く。

結局は、そういうことなのだ。

自分のために他人を助けるのであり、他人のために他人を助けるのではない。

他人を救いたいという思いだって、結局は自分の中から生まれる欲求であり、つまりは自分のためなのである。

それを、無償の善意などといって聖者ヅラで手を差し伸べようとするヤツがいるから、非常に気持ち悪いのだ。

堂々と、自分のためであるって明言してりゃカッコいいのによ。

「…………」

「ま、そういう訳だから、俺は別に積極的に人間を殺したいなんてことは思っていない。敵対するなら別だ。積極的に殺しに行く。そこんところお前の上司にでもちゃんと伝えといてくれよ」

そう言って立ち去ろうとした俺を、しかし勇者の疑問の声が引き留めた。

「……じゃあ、何で」

「あん?」

「何で敵対した僕は、殺さないんだ……?」

「そりゃ、お前が女だからだ」

「へっ……?」

予想外の答えが返って来たようで、ポカンと口を開ける勇者。

「お前は女で、それもまだガキだろ?そんなヤツを殺したら寝覚めが悪くなるから、殺さない。それだけだぞ」

「お、女って……と、というか、ガキって言うな!!」

「はいはい、悪うござんした、お嬢様」

そう言って手をヒラヒラと振り、今度こそその場を去ろうとした俺だったが、しかし再び勇者が声を張り上げた。

「あっ、ま、待って!!」

「……今度は何だ」

「…………こ、腰が抜けちゃったので、手を貸してくれると、嬉しいかなぁって……」

「…………」

……それを敵であるはずの俺に言ってくる辺り、この勇者は肝が太いのか、小さいのか、どちらなのだろうか。