軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エルレーン協商連合という国《2》

ユキと一旦別れた後、ホテルを出てエルレーン協商連合の首都――『ルヴァルタ』を歩く、魔王一家の面々。

現在、リウのベビーカーはレイス娘達が人形憑依状態で押しており、サクヤのをシィが押している。

最初はレフィとリューがそれぞれ押していたのだが、彼女らがその役をやりたがったのだ。

ベビーカーという見慣れぬシロモノに加えて、それを押している存在が明らかに人間ではないため、道行く人々がギョッとした顔で彼女らの姿を見るが、慣れているので彼女らの方でそれを気にする者はいない。

「いやー、何だか面白い国だね。僕の国とも、ローガルド帝国とも違って。全体的に技術が進んでる気がする」

「うむ、確かに。凄いの、あの街灯とやら。夜になったらこれが全て点くんじゃな」

レフィが見ているのは、道に等間隔に並んでいる、『魔力灯』と呼ばれる街灯。

全ての道路に設置されている訳ではないようだが、大通りなどのしっかり整備されているところには結構な数が置かれており、今は灯っていないものの夜はかなり明るくなるのだろうことがわかる。

他国では、まだ街灯などというものは実用化されていない。室内灯ならば、ユキの前世並の明るさを放つ魔道具もあり、それを置いているところは意外と多いものの、街灯までを用意する余裕のある国は存在していないのだ。

対してエルレーン協商連合は、これもまた飛行船の研究から派生した技術である。

夜間の飛行船の離着陸を可能とするため、発着場の明かりを保つ研究が行われ、それが街並みに活かされているのである。

だから、実はこの街灯は、まだエルレーン協商連合の者にとっても目新しいものだった。

「私の里でも、学術院ならば明かり関係もしっかりやっていますが、外の道路までをこうして整備はしていないですねー。道も綺麗ですしー」

「レイラお姉ちゃんの里も、夜綺麗だよね! 学校、いっぱい明かりがあって」

「まおーじょーも、よるきれいだよ! みんなぜんぜんつかってないけど!」

「あの城はちと広過ぎるからのう。居間として使っているところと、旅館の方は居心地が良いが」

「……我が家にいると忘れそうになるけど、本来明かりは、希少なもの。だから、羊角の一族の里もこの街もすごい」

「いやホント、エンの言う通りっすよ。ウチの里はこんなの無いっす。明かりはローソクが主流っす。里帰りしたら何だか悲しくなりそうなんで、この明かりの技術も飛行船と一緒に輸出してくれないっすかね……」

遠い目でそう話すリュー。

「……お主、もしかして今回の旅先を選ぶ際、里帰りを嫌がったの、そういう理由か?」

「いや、そりゃ嫌っすよ。ウチ、もう魔王城での生活様式が身に染み付いちゃってるっすから。なるべくド田舎には戻りたくないっす」

「自分の故郷になかなかの言うのう……」

「まずホテルなんてものが存在していないっすからね、ウチの故郷。誰も来ないから。ネルじゃないっすけど、お風呂なんかも無いっす。あそこで暮らしていた時はそれが当たり前だったから何にも気にならなかったっすけど、今はもう……あそこで暮らすのは無理っす」

正直に話すリューに、大人組は苦笑を溢す。

「まあでも、リューの言いたいことはわかるよ。僕も、今はほぼ毎日帰って来られるようになったけど、寮に寝泊まりしていた日々にはもう戻りたくないかな……みんながいないと寂しいし」

「それは儂もじゃな。この中で、我が家に来る前にしていた生活の酷さらんきんぐを競ったら、恐らく儂が一位になるぞ。何が最悪かって、なまじ肉体が強い故、そんな酷い生活を百年続けていても何も問題ないというのが最悪じゃ。じゃから、変えようという気にもならん」

「酷い生活習慣なら、お恥ずかしながら私もですねー。研究のためなら、生活習慣なんて概念を投げ捨てていましたからー……」

「レイラは今でも、一人にしておくとそうなりそうなところあるっすもんね。だからレイラは、一人になっちゃダメっす。これからも、ウチらと一緒にいるんすよ?」

「フフ、リューお母さんに言われてしまっては、もうそうするしかありませんねー」

「リューお姉ちゃん、本当にお母さんになったよねぇ。頼もしいよ」

「たのもしー! ね、サクヤ!」

「……ね、リウ」

「あ、勿論お姉ちゃんも頼もしいよ! 変わらない我が家の柱だからね、お姉ちゃんは」

「あるじとそーへきをなすはしらだね!」

「……壁なのか柱なのかわからないけど、同感」

「カカ、うむ、ありがとうの」

「……な、なんか照れ臭いっすね」

街並みを見て歩きながらも、雑談の止まらない彼女ら。

旅先に出て、観光をしていても、結局彼女らは家族との雑談の方が楽しかったりするのだ。

「そ、それよりほら、みんなちゃんと観光するっすよ! ほら、あそこのお店とか、お土産屋さんみたいっすから、きっと楽しいっす!」

「あはは、リューお母さんが言うならそこ入ろっか。よーし、お土産買うぞー!」

「そうじゃな、そうしよう」

「面白い魔道具が売ってないですかねー」

と、土産物を売っているらしい近くの店へ、皆で向かった時だった。

街並みを興味深そうに観察していたサクヤが、突然明後日の方向に手を伸ばし始める。

「おいよ、おうあぅ」

「ん~? どうしたの、サクヤ?」

サクヤのベビーカーを押していたシィは、一旦立ち止まり、彼の様子を確認する。

「あぁぶぅ……」

「もしかして、こっちにいきたい~?」

何かを求めるように、一方向へ手を伸ばすサクヤ。

シィはそちらも見るも、しかし何もない。

人通りのほとんどない路地裏が広がっているだけである。

不思議に思いながらも、シィはベビーカーを押して軽くそちらの道に入り、辺りを見渡し……だが、やはり何もない。

魔物として生まれているため、人よりも感覚器官の鋭いシィであるが、それでも何も感じ取れないのだ。

「なんにもないよ、サクヤ?」

「あう、うぅう」

「え~? まだみたいの? わかった、でもまって。みんなにちゃんと……あれ?」

後ろを振り返ったシィは、そこでようやく、気付いた。

――皆の姿が、その場から無くなっていることに。