軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エルレーン協商連合へ《2》

乗船後、三十分程度で準備が整ったらしく、飛行船が動き出す。

俺達が案内されたのは、ありがたいことに今回もVIP御用達ルームだったのだが、前回よりも何だか居住性が良くなっており、非常に快適だ。

飛行船内だと思えない程静かで、振動も感じないのだ。窓の外の景色が変わっていくのを見なければ、ホテルの一室だと言われても信じられるだろう。

まあ、飛行船関係、マジで笑いが止まらないくらい儲かってるだろうしな。こういうところに金を掛けることも出来るのだろう。

バンバン製造されているにもかかわらず、全然需要に供給が追い付いてないって話だし。

「リュー、具合は?」

「大丈夫っす! というか、今回は大丈夫な気がするっす。いやすごいっすね、この部屋。飛んでるって気がしないっすよ」

「本当にの。いやはや、ヒトの技術とは大したものじゃ。これらが進んでいくと、やがては我が家にあるような、ユキの前世の道具へと繋がっていくのじゃな」

「そうだな。つっても、一面だと多分もう越してるぞ。少なくともここまで飛んでる感じを消せるのは、前世じゃあまだ無い技術だ。――どうだ、リウ、サクヤ。空を飛ぶのは……って、サクヤはまた寝ちゃったか」

「あはは、うん、つい今しがたまで起きてたけど、おにーさん達の会話を聞いてる内に寝ちゃったよ。リウの方は、飛行船が気に入ったみたいだね」

「リウ、見入るのは良いっすけど、女の子なんすから、口は閉じなきゃダメっすよ」

「うふふ、本当に可愛いですねー」

ベビーカーに乗ったまま、食い入るようにして窓から外の様子を眺めているリウ。

耳をピコピコ動かし、小さな尻尾を振り、ぽーっと口を開けて見入っており、リューが苦笑しながら顎を押して開いたままの口を閉じさせている。可愛い。

で、弟のサクヤは……うん、やっぱ今日はお眠な日のようだ。

乗船する時に一回起きて、部屋に来てからも俺達の会話を何となく聞いているような様子を見せていたのだが、いつの間にか眠ってしまったらしい。

「昨日儂らが準備しておる様子を見て、何かするのだろうと察しておったらしく、何だか興奮した様子じゃったからのぉ。そのせいで、今電池切れなのじゃろう」

「あー、わかる! そういうとき、あるよねぇ。シィも、ピクニックのまえとか、ワクワクしてねむれなくなっちゃう!」

「……ん。前日ワクワクは止められない」

「……それでもちょっと休んだら元気になるシィとエンが、わたしは羨ましいよ。レイとルイとローとか、そもそも寝ないし」

「あー、イルーナ、わかるっすよ、その気持ち。大人組でも、ご主人とレフィが、もー全然寝てなくても元気なままっすから。羨ましいといつも思うっす」

「自分は違うみたいに言ってますけど、リューも大概朝が早い方ですからねー? ネルも、意外と夜遅くまで作業していても、翌朝ケロッとしていますしー……」

「いや、僕は別に、眠気に強い訳じゃないからね? 軍人だから我慢してるだけで、眠いものは眠いから」

「俺はダンジョンを離れれば普通に睡眠時間長くなるぞ。だから、本当の意味でそういうのに強いのはレフィとリューだけだな」

「リューお姉ちゃんも、そっち側だったか……」

「仲間じゃな、リュー」

「え、えぇ? そうなるっすか……?」

納得いかない様子のリューに、俺達は笑った。

◇ ◇ ◇

快適な空の旅。

前回は数日も飛行船内部にいたが、今回は数時間だけなので、基本的には室内で大人しくしていた。

外の景色をリウとサクヤに見せるため、解放されているガラス張りの後部甲板に一回だけ二人を抱っこして行ったのだが、リウが怖がって泣いてしまったので、しょうがないと笑って一緒に部屋に戻った。

サクヤは泣かなかったが、景色よりも周囲の他のお客さん方の方に興味を引かれたようで、すごい見てた。家族じゃない人がいっぱいいるのが、何だか物珍しくて楽しかったらしい。

乗船場にはもっと人がいたが、その時は寝てたしな。

サクヤはアレだな、趣味が人間観察なところがあるな。おもちゃとかよりも人の営みに興味を引かれているような印象がある。おもちゃも大好きだが。

昼過ぎに乗ってからすでに数時間経っているため、外の景色は現在闇一色。

前世だったら、眼下にきっと街灯などの光が見えるのだろうが、この世界だと完全に真っ暗だ。

その分、星明りが非常に綺麗に見えるので、この暗さも悪くない。

本当に、満天の星空がいつも広がっているのだ。この光景の素晴らしさは、前世のある俺が一番感じられることだろう。

ただ、そんな外の光景にも、変化が訪れる。

ポツポツと地上に、明かりが見え始めたのだ。

それはだんだんと増えて行き、流石に前世程とは言わないが、それでもかなり明るく、星空に負けじと夜の闇を照らしている。

恐らくは、エルレーン協商連合の首都から漏れる明かりだろう。

へぇ……すごい。飛行船を開発したことからもわかっていたが、恐らくあの国は、こういう技術が他国と比べて発展してるんだろうな。

「うわぁ! みんな見て、綺麗だよ」

「お~……!」

「……良い夜景」

先程までおしゃべりに興じていたが、外の景色が変わり始めたことに気付き、再び窓に張り付く少女組。

その上で、レイス娘達もまた、ふよふよと漂いながら同じように外の光景に釘付けになっている。

少しして、飛行船は高度を下げ始めたようで、眼下の光が近くなっていく。

やがて発着場に降り立ったらしく、地面に着地する軽い振動の後、乗組員による下船の案内が始まったため、俺達はそれに従って飛行船を降り――見覚えのある人物が、そんな俺達に向かって手を振っていた。

「おーい、ユキ殿!」

「! 船長!」

声を掛けてきたのは、軍服に身を包んだ男性。

ゲナウス=ローレイン大佐。

龍の里へと向かう際、てんとう虫みたいな魔物に飛行船ごと襲われていたところを助けて以来、何かと縁のあるエルレーン協商連合の軍人である。

以前、羊角の一族の里へ旅行へ行く際、彼が船長を務める船に乗せてもらい、そのためウチの家族とも面識があるので、エルレーン協商連合側で気を遣って彼を案内役として寄越してくれたようだ。

「わざわざ出迎えに来てくれたのか」

「フッ、貴殿らが来るとあれば、私が案内せぬ訳には行くまいよ。奥様方、お嬢さん方も、お久しぶりでございます」

彼の一礼を受け、ウチの面々もまた、それぞれ挨拶を返す。

少女組は、元気に。大人組は、大人らしく。

「相変わらず賑やかで良いな、ユキ殿の家族は。それで、貴殿の奥方が妊娠したという話は私のところまで伝わって来ていたのだが……この子らか」

「あぁ、こっちの耳をピコピコさせてるのが、姉のリウ。こっちの興味深そうにアンタを見てるのが、弟のサクヤだ。二人とも、このおじさんは父ちゃんの知り合いのゲナウスって船長さんだぞー」

「ははは、ゲナウスおじさんだ。よろしくな、君達。……うむ、凄まじく可愛いな!」

「だろ?」

やっぱアンタ、見る目あるぜ。

まるで親戚のおっちゃんのような様子で、ウチの子らにいないいないばあとかをやっていた船長は、ウチの面々に生暖かい目で見られてハッと我に返ったらしく、オホンと一つ咳払いして取り繕う。

「このまま色々と雑談を交わしたいところではあるが、今日はもう遅いし、長旅で疲れているだろう。まずはホテルに案内しよう」

「ありがとう、頼むよ」

そのまま俺達は、彼の案内に従い、エルレーン協商連合への入国を果たしたのだった。