作品タイトル不明
精霊王とシセリウス《1》
「くぅ、くぅ!」
「よーしよし、ほら!」
リルが連れて来たセツと、ボールで遊ぶ。
短い手足をいっぱいに動かし、元気いっぱいにボールを追いかけ、咥えると俺のところまで戻ってくる。
ブンブンと振られている尻尾が可愛い。
「くぅ!」
「わかったわかった、もう一回な」
「くぅ~……くぅ!」
俺が投げたボールに、再び一目散に駆けていく。
と、セツと遊んでいると、リルが若干申し訳のなさそうな感じで鳴く。
「クゥ」
「はは、元気で何よりじゃねぇか。この子は、将来おてんばになりそうだな。娘に振り回されまくるお前の姿が今から目に浮かぶようだぜ」
「……クゥ」
自分でもそのように思ってしまったのか、何とも言えない表情で苦笑を溢すリルである。
セツなのだが、リルの子供であるものの、ダンジョンの魔物ではないようだ。称号欄で確認した。
しかし、どうやら完全にダンジョン関連の能力を継がなかった訳でもないらしく、というのも、俺はこの子の意思を鳴き声にされずとも、朧げながら理解することが出来るのだ。
恐らく、まだ知性の発達が十分ではないため、大分漠然とした意識のものだが、『楽しい』とか『もっと遊びたい』とか『眠い』とか、そういう感情を感じ取ることが出来るのである。
それで、しっかり俺にも懐いてくれていることがわかるので、嬉しいものだ。
まあ、とは言っても、ダンジョンとは関係のないリル奥さんとも、会話が出来てるからな。
フェンリルの知能がヒトと変わらないくらい高いという面もあって、意思疎通が出来ているのだろう。
それにしても、流石にイヌ科は成長が早いもんだ。
まだ生後一月も経っていないはずだが、これだけしっかりと意思を示せるとなると、リル達もやりやすいだろう。
俺達の方のことも、家族というか、同じ群れの一部として認識してくれているようだしな。リウとサクヤのことも、仲間と見なしてくれているようで、居間にいる時は二人と一緒にいることが多かったりする。
リウ達の方も、セツが来るとそちらを見て、泣いていてもすぐ泣き止んだりするので、結構ありがたい。
「お前んところは奥さんがしっかりしてるから、お前と合わせて子育てにはいい塩梅になりそうだな」
「……クゥ?」
「そりゃお前……俺もお前と同じよ。ウチのヤツらの方が俺よりしっかりしてるから、どれだけ俺がちゃらんぽらんにやってても問題ないのさ」
「ク、クゥ」
「はは、そん時は怒られるかな」
「くぅ?」
「おう、セツ、大人には色々あるのさ」
こちらを見上げてくる彼女の頭を撫で――その時だった。
隠されもしていない、特大の気配。
同時、ダンジョンマップが、勝手に開く。
敵、と一瞬身構えかけた俺と、そしてリルだったが……しかし俺は、この気配に覚えがあった。
「クゥ!?」
「いや、待て、これ……」
即座に意識が戦闘へと切り替わった様子のリルだったが、俺はそれを止め、マップで詳細を確認し――。
「――やっぱり。 精霊王(・・・) と、 シセリウス婆さん(・・・・・・・・) だ」
◇ ◇ ◇
「――この爺様とは、少し前にたまたま会ってね。気配を感じたものだから、挨拶しにいったら、レフィシオスの嬢ちゃんが妊娠してるって言うじゃないか。これは是非とも顔を見に行かなければと思って、一緒に来たのさ」
『突然すまぬな。出産が間近であろうから、一度こちらに来ようと思っておったのだ』
ローガルド帝国から、ドワーフの里へと行く道中で出会った老龍シセリウスと、いつも通りふよふよとローブ姿で浮いている精霊王。
どうやら二人は、知り合いであったらしい。
なるほど、そういう経緯で一緒だったのか。
そう言えば、この婆さんと会ったのは、ローガルド帝国の付近だった。
で、精霊王もちょっと前にローガルド帝国にいたし、遠くの気配をも感じ取れるこの人らなら、そういうこともあるのかもしれない。
「あぁ、わざわざありがとう。ちょっと前に、生まれたよ。あ、シセリウス婆さんはリルは初めてだよな。俺のペットで、相棒で、ダンジョンの魔物だ。で、リルの奥さんと二人の娘」
リル一家が、それぞれ挨拶をする。
せっかくだからと、リル奥さんも先程リルに連れて来てもらったのだ。
「クゥ」
「クゥウ」
「はい、こんにちは。アタシはシセリウスさ。へぇ……フェンリルの一家か。珍しいねぇ」
龍形態ではなく、すでに擬人化しているシセリウス婆さんが、物珍し気な様子で三匹を眺める。
「……くぅ?」
二人の力の強さを感じ取ったからか、ちょっと怯えた様子でリルの足の間に隠れながら、「おともだち?」と言いたげに鳴くセツ。
『クク、うむ、我らは貴公の家族の友人だ。故に、貴公も、我らの友人となってくれぬか?』
「……くぅ!」
「あはは、可愛い子だねぇ。それなら、この婆ちゃんとも仲良くしてくれるかい?」
「くぅ!」
「そうかい、ありがとうねぇ」
よしよし、とシセリウス婆さんが撫でると、セツはリルの下から出て来て、尻尾をフリフリとさせる。
流石、手馴れてる感じだ。
初めて会った時、エンなんかもすぐに懐いてたし、子供の心を掴むのが上手いんだな。
――そうして俺は、二人とリル一家を伴い、家へと帰る。
「ただいま、お客さんだぞ」
そう言うと、まずこちらに反応したのは、レフィ。
「ふむ、気配から、そうじゃろうとは思っておったが……珍しい組み合わせじゃのう。爺はともかく、シセリウスは久しぶりじゃな」
「あぁ、久しぶりだよ、レフィシオス嬢ちゃん。……フフ、うん、もう嬢ちゃんなんて言ったら失礼だね。いい顔になったもんだ」
「ま、儂ももう、母親じゃからな。いつまでも我がままではおれんよ」
「いや、十分わがまま――何でもないです」
スッと拳を握ったレフィを見て、俺は口を噤む。
「危ないの、最後まで言っておったら、妻の鉄拳制裁が飛ぶところじゃった」
「シセリウス婆さん、コイツはまだこんな感じだ」
「あはは、本当に仲が良さそうで何よりだ」
『ふむ、幼き者達がおらぬようだな?』
「あぁ、あの子らは学校だ。もうしばらくしたら帰ってくるから、そうしたら挨拶させるよ」
その後、リューとレイラ、ネルと、それぞれが挨拶を交わし――リウとサクヤを、二人に見せる。