作品タイトル不明
サクヤ
サクヤが生まれ、多少落ち着いた後。
リウの時と比べて長い時間が掛かったため、というか半日以上掛かったため、サクヤが産まれたのは夜を過ぎて朝日が昇ったくらいの時間帯だった。
だから、女性陣はかなり疲れており、風呂と飯を済ませたら即座に寝入ってしまっていたので、ようやく皆がまともに動き出したのは、その日の夕方過ぎだった。
その間のリウとサクヤの世話は、ただ旅館で待つだけだった俺がやった。これは、俺の仕事だろうからな。
ダンジョンにいる間は、俺は疲れにくいため、そう眠らなくても済む身体で幸いだった。
この肉体の強靭さに、改めて感謝したいところだ。
イルーナ達も、本当は今日も学校だったのだが、俺達と一緒に待ち続けて疲れただろうし、何よりサクヤと一緒にいたいだろうからと、家の事情という理由で休ませた。
ゼナさんには、今回も泊まってもらい、皆でしっかりとお礼を言って歓待し……そして帰っていった。
彼女には、もう俺は、頭が上がらない。
この世界の俺の知り合いの老人は、皆、なんとカッコいいことか。
過酷な世界で長く生きているからか、信念がしっかりしていて、己の生き様というものが確立されているのだ。
俺も……そんなカッコいいジジィになりたいものだ。
「こうして見ると、リウとサクヤ、やっぱり姉弟って感じがするっすね!」
「こっちの子も、リウと同じく目元はおにーさんによく似てるけど、顔立ちはレフィ似だね! 男の子だけど、綺麗な子になりそう!」
「カカ、『可愛い』などと言っておったら、その内怒ってへそを曲げたりする日が来そうじゃな」
「フフ、簡単に想像出来る未来ですねー。ウチは女所帯ですし、きっと、リウは何も気にしないようなことがあっても、サクヤの方だと恥ずかしがったりするんですよー」
「あはは、ありそう、それ! 嫌そうな顔するんだけど、でも気を遣って嫌とも言えなくて、微妙そうな表情になったりね! で、それを見てリウが『変な弟』って思う訳か」
「あー、何と言うか、もうサクヤの成長の方向性が、今から見えそうっすねぇ」
「サクヤ、イルーナおねえちゃんだよ! イルーナおねえちゃん!」
「シィおねえちゃん!」
「……エンおねえちゃん」
「リウと、仲良くなってほしいものっす」
「そうだね、姉弟で楽しくやってほしいね」
「そこは儂らがしかと見てやらんとな。ユキのように、捻くれんよう二人とも育てねば」
「親として、責任重大ですねー」
女性陣の会話の横で、やはり興奮した様子で、サクヤの頭上をくるくると回るレイス娘達。
うむ、とりあえず我が息子よ。
お前の将来は、女性陣のおもちゃになりそうな予感がするが、是非とも頑張ってくれたまえ。応援しているぞ。
――それにしても。
俺は皆と共に、「だぁ、あぁ」と、不思議そうに手足を動かしているサクヤを見る。
リウの種族は母親の方に寄ったらしく、分析スキルで見ると、『種族:ウォーウルフ』となっていた。
そして、サクヤは――『種族:龍人(??)』。
ただの龍人ではなく、そこに括弧書きが追加されている。で、いつもの如く読めない。
今の俺ですら。
さらに、リウとは違って、称号欄が一つ、すでに埋まっていた。
それは、『??を?す者』。
やはり、俺では読めない何か。最近本当にこれが多いな。
どうやら我が子には、何か秘密があるらしい。
まあ、ウチの子が何者でも関係ないけどな。
それこそ、『龍神』とか『魔神』とかが括弧書きに書かれていたとしても、別に問題ない。
この世界における神とは、『ドミヌス』を除き、ただ大きな力を持っているだけのヒトであるということを、俺は知っているのだから。
と、今回も顔見せのために連れて来たリルが、ウチの子を見ながら、ポツリと鳴いた。
「クゥ」
この子は、大物になりますね、と。
「お? どうしてだ?」
「クゥウ」
リルは、話す。
どうやら、サクヤからは何か、特異な魔力が感じられるらしい。
俺の魔力にも、レフィの魔力にも似ているそうだが、その二つが混ざり合って、何か引き込まれるような、引力のようなものを感じられるのだという。
「ふむ、リルの言いたいものは、儂もわかるかもしれん。確かにこの子の放つ魔力は、少々異質じゃな。近いものは、恐らく―― 精霊王(・・・) 。あの爺じゃの。あくまで、方向性だけじゃが」
へぇ……やっぱり、そういう何かがあるのか、この子には。
精霊王の方向性というのは、つまり――。
「まあ、何者でもいいんじゃないっすか? この家にいて、特異じゃないものなんて、むしろ少ないっすから」
「あはは、確かに。我が家程おかしなものがいっぱいあって、種族もバラバラな家族なんて、世界広しと言えど存在しないだろうしね」
「羊角の一族の出で、色々と学んできた身として断言しますが、まず間違いなくここ以外には、我が家のようなご家庭は存在しませんねー」
「ウチの大黒柱からしてアレじゃからな」
「何かな、レフィ君。言いたいことがあるならば言いたまえ」
「ユキ。お主は変人じゃ」
コイツ……! 率直に言いやがった……!
「レフィ、わかってるんだろうな! お前はもう、妊婦じゃないんだ! つまり俺が、お前に手心を加える必要はなくなったということ! 今までは気遣って、優しく接してやっていたが、今日からは覚悟してもらおう!」
「ほう! 儂に対して抜かしおったな! いいじゃろう、どんな手心を加えておったのか知らぬが、お主こそわかっておるんじゃろうな! サクヤを産んだ今、儂は真なる母親となった! である以上、お主の塵芥が如き手心なぞ、あろうがなかろうが関係ないわ!」
「いいだろう! それならば、父になった者の力と、母になった者の力! いったいどちらが強いのか、今ここで決めようではないか!」
「そうじゃな! 認識の甘い夫には、そろそろ灸を据えねばならんじゃろう! ユキ、覚悟せえよ!」
「二人とも、ヒートアップするのは良いっすけど、あまりうるさくするとリウとサクヤが泣いちゃうんで、やるなら旅館の方でお願いするっす」
「「はい」」
「いやぁ、リューも、随分強くなったねぇ」
「母は強し、ですねー」
のほほんと笑う、ネルとレイラだった。
こうして、我が家にもう一人、住人が増えた。
リウと、サクヤ。そして、セツ。
仲良く、大きく育つんだぞ。