作品タイトル不明
子
予め色々と学んでくれており、やることの練習などもしてくれていて、多少だが対処が出来るレイラと、そして今後同じ立場になるレフィが冷静でいてくれており、彼女らのおかげでどうにか頭をまともにさせることが出来た俺は、すぐにダンジョンを出て魔界に向かう。
目的は、産婆さんで前からウチを見てくれている、ゼナさんを呼びに行くこと。
彼女は、リューがそろそろ、ということを把握してくれているので、いつでもこっちに来られるように、魔界に設置した扉近くで待機してくれていた。
つまり、フィナルに用意してもらった、魔界の『ローガルド帝国大使館』にだ。
俺は皇帝ではなくなったが、用意してもらった経緯からして、未だに半分以上は俺の敷地となっている。
ちなみにここに務めているローガルド帝国人にも、密偵組織『アーベント』所属の者が二人程いるそうだ。
大使館に密偵で、なんか問題起こったりしないのかと思ったが、どうやらこれは時折訪れる俺に便宜を図るために用意した人材らしく、故に魔界王にも通達してあるらしい。
このために、本来なら魔境の森に出てからでないと魔界王都に行けないよう、扉の繋がる先を限定していたのをやめ、今だけ我が家から直通であそこに行けるようにしてあったので、即座にゼナさんと会うことが出来た俺は、彼女を連れて家に戻る。
また、今日もネルは仕事に出ており、いなかったのだが、どうやら俺がいない間に連絡をしておいてくれたらしく、俺達が戻るのとほぼ同時に、アイツも仕事を切り上げて帰って来ていた。
そうして、ゼナさんとネルは、すぐに出産の手伝いを始めてくれ――俺は、追い出された。
まあ、仕方ない。
こういう時に男の俺がやることなんざないし、一人無様に狼狽えていることしか今のところ出来ていないのだから。
なので、俺は今、旅館の方で少女組と共に待機していた。
「大丈夫、大丈夫だ……ちゃんと産まれる。エリクサーとかもたんまり用意した。ゼナさんは経験豊富……問題ない。そう、問題ない」
そう自分に言い聞かせている俺を見て、左右からポンポンと俺の膝に手を置くのは、イルーナとエン。
「おにいちゃん、落ち着いて。そんなに焦らなくても、大丈夫だよ。リューおねえちゃんは、強いんだから!」
「……それに、子供も主とリューとの子。きっと同じくらい強い」
そして、俺の前に体育座りで座りながら、にへっと笑ってこちらを見上げるシィ。
「あるじ、あるじ、シィたち、おねえちゃんとして、がんばるヨ!」
彼女の言葉の後に、ふよふよと漂っていたレイス娘達が俺の肩や頭に降りて来て、「姉として、しっかり面倒を見なきゃ!」「かっこいいところ見せる!」「一緒に遊べる日が楽しみ」とそれぞれ言葉を溢す。
待つことに対する不安が、彼女らと話していると、紛れていく。
どうしようもなくソワソワしてしまっているのは、もうしょうがないが、多少気持ちが落ち着いてくる。
そうだ。俺が焦ってどうする。落ち着け。
「……そうだな。俺とリューの子だもんな。きっと元気いっぱいだ」
「そうだよ! それはもう元気盛りだくさんで、耳があって、尻尾もあって、あと翼もあるの!」
「翼もあったら、もう何の種族かわからんな」
イルーナの言葉に、笑いながらそう言葉を返す。
俺とリュー……いったい、どっちに似た子になるかね。
イルーナ達と話しながら、ただ、待つ。
彼女らにあまり狼狽えている姿を見せられない、という意識も働き、大人しく座り続ける。
――どれだけ、そうしていたのか。
すでに、数時間は経っている。
途中、自身も妊婦なのだからあまり無茶をすべきではない、と言われたらしく、レフィが一度こちらに休憩しに来たが、軽い食事をした後、「この程度、儂も儂の子も問題ないわ!」と再びリューの出産の手伝いに戻っていった。
止めるか迷ったのだが、本当にまだまだ活力を感じられたので、止めなかった。
本当に……ウチの女性陣は強い。狼狽えることしか出来なかった俺とは大違いだ。
待ち疲れて眠ってしまったイルーナに毛布を掛けてやり、丸まって休眠状態になったシィをクッションに乗せてやった後、精神を落ち着けるため、エンと将棋を打つ。
ただ、いつもよりも酷いボロ負け具合だ。やっぱりどこか、集中出来ていないのだろう。
レイス娘達も、いつもなら暇になると勝手にふよふよ漂っていくのだが、今日ばかりは一緒におり、非常に大人しい。
あと、ペット軍団にも連絡を入れており、現在草原エリアに全員集合している。彼らにとっても、俺達の子が産まれるのは、一大イベントだろうからな。
そして――。
カチャリと、ドアが開けられる。
こちらを手招きするのは、ネル。
彼女に促されるまま、俺は即座に皆の下へと向かい――そこで、元気良く泣いている、布に包まれた小さな赤子。
「女の子です」
汗を手ぬぐいで拭いながら、ゼナさんはそう言った。
俺と、リューとの子。
くしゃくしゃな耳と、小さな尻尾がある。
種族は、見た目からわかるような、『ウォーウルフ』。
はは、リュー似になったか。ただ、髪の色は俺に似た黒だ。
胸が熱くなる。
爆発しそうな感情。
この子の名前は――。
「――リウ。お前は、リウだ」
女の子の場合は、リウ。そう決めていた。
リルと響きが似てしまうから、どうしようかと悩んだのだが……それ以上に相応しいものを思い付かず、あとはリューが「リル様に似るのなら、大歓迎っす!」と反対しなかったため、その名前に決めた。
「リュー」
「はい」
「ありがとう」
「ふふ……はいっす」
疲れを感じさせる顔ながらも、リューは。
母親となった彼女は、慈愛の感じられる表情で、微笑んだ。
俺は彼女を撫で、それから、我が子にそっとだけ、触れる。
温かい、命。
生まれてきてくれてありがとう。
俺達の子になってくれてありがとう。
色々とダメな部分の多い父ちゃんだが……これから、一つずつ成長して、一緒に生きていこうな。
こうして、我が家の住人は、一人増えた。