作品タイトル不明
ゴミはゴミ箱に《3》
作戦は、順調に進んだ。
まあ、魔界王が練った策だ。奴に匹敵するだけの知能を持つ人材が、この国の中枢にいない以上、上手くいかない訳がないのである。
マッチポンプである以上、俺達も十全な準備をしてから、行動に移したしな。
狂言テロにより壊れた元老院の修復は――壊したのは、ほぼ俺だが――最近他種族から『親方』と呼ばれるようになったドワーフ王ドォダが手を貸すことで、迅速に進められていき、わずか三日後には修復が完了した。流石である。
で、何か知らんが、最近活躍しっぱなしのドワーフ達に、エルフ達が対抗心を燃やしているそうで、「我々の出番が少ない! もっと仕事を増やせ!」とよくわからん抗議を行って、魔界王に苦笑させていた。
いや、アンタら魔法技術を用いてあっちこっちで活躍してるだろ。軍の魔法士に指導したり、飛行船の改良に手を貸したり、ドワーフが得意な建築でも、基礎を強くするための魔法陣を建物に組んだり。
確かに、あんまり表舞台には出ないような仕事かもしれないけどさ。
なお、獣人族はその辺りあっけらかんとしていて、「我々に難しいことは出来ん。戦いならば呼べ」と、あまりこっちには参加していない。警備とかくらいだ。らしいっちゃらしいが。
そして、肝心の皇族だが……テロからの避難の名目で、そのまま『隔離』に成功したため、現在は幽閉状態にある。
ここまでが、作戦だったのだ。
三度目のテロにより自ら避難させ、外界から隔離し、表に出さないようにする。
幽閉している場所も、ウチの草原エリアと同じような、ダンジョンの力によって追加された空間にいるので、権限を持つ者にはその一挙手一投足全てが把握可能であり、逃れることは不可能である。
政治的にも、元々ヤツらの権力は皆無だった上に、テロへの対処という名目で、一時的に強権を発動した魔界王が現在国政のほとんどを動かしているため、もはや出来ることは何もない。
改めて思うんだが、アイツやっぱ怖ぇわ。久しぶりに実感した。
思い切りの良さが、「必要ならば、誰が何を言おうがやる」が徹底されていて、もうすごい。うん。
で、アホどもはそのまま、少なくとも五か月は幽閉し続けることになるだろうとのことで、その後幽閉が解除された後は……まあ、『THE・END』だ。
過度の犯罪行為が確認されている、という前提があるからこそだが、その時は、皇族であろうが処罰は免れないだろう。
ただ、そのためにしなければならないのは―― 現体制からの(・・・・・・) 、 移行である(・・・・・) 。
五か月後。
予定より少し巻いて、開催される魔戦祭。
ここで、一つイベントを行う。
そのために必要なのが――。
「ようやく表に出られたか、アンタ」
「ユキ陛下。えぇ、あなた方のおかげですよ。この国に住まう者として、『膿出し』に協力していただいたこと、誠に感謝を」
そう言って頭を下げるのは、アルヴェイロ=ヴェルバーン。
冤罪で捕らえられていた議員である。
魔界王によって保護されていた彼だが、証拠が揃ったことにより――なお、この証拠も半分くらい偽装であるが――、晴れて冤罪と認められたため半幽閉状態が終了し、すでに政界に復帰している。
以前会った時より、そう時間は経っていないのだが、それでも少し痩せたように見える。
保護されていた、と言っても、日陰の暮らしをしばらくしていたことは間違いないからな。気疲れもそれなりにあったのだろう。
ただ、瞳だけは変わらずに強い意志を 湛(たた) えており、疲れが見える様子でもなお、活力を全身から感じさせている。
その身に、確かな覇気があるのだ。
……流石、あの前皇帝が重用していた男だな。
「おう、気にすんな。俺達は俺達がやりたいようにやっただけだからな。そのために、狂言でもテロの三回目を起こしちまった訳だし」
人の被害は例の元老院議長を除いてゼロにしたとはいえ、手段としては、あまり褒められたものではないだろう。
が、必要だったから、俺達はそれを実行した。
ある意味では、あの元老院議長と同じ穴のムジナだと言えるだろう。
……いや、やっぱ一緒にされたくないわ。あの野郎、自分の目的のためなら一般人が何人死んでもどうでもいいって考えてたし。
「致し方ないでしょう。この変革期でなお……いや、変革期であるからこそ、荒療治が必要な部位が存在していた。そういうことです。急激な変化で起こる、国民感情に対する配慮は必要ですが……それはむしろ、我々が行うべきもの、でしょう」
「……そうだな」
よくこの国が見えている。
いや、当たり前か。
本物の能力があり、理性と感情の差を理解出来る政治家なのだから。
そう、この男は、理性と感情の違い、機微をわかっている。
理性の権化たる前皇帝に、長年仕えていたからなのかもしれないが……それは、得難い資質だろう。
俺が、政治云々で偉そうに判断するのは、おこがましいことこの上ない。
やっぱりコイツだ。コイツに決めよう。
――シェンとの約束は、この国を守ること。
そして、ここが俺のダンジョン領域となった以上、俺とこの国との関わりが途切れることは、もはや一生あり得ない。
守りはする。
ここは、もう俺の領土だ。手放しはしない。
そのことは前提として、ただその手段として、『皇帝』という肩書自体は、そこまで必要なものではないのではなかろうか。
形は何でもいい。何なら新しい役職でも作ってもらって、例えば『第0騎士団』みたいなものでも作って、それに俺が永代で就いていればいい。
国を守護する場合のみ、出て来る存在として。
今のこの国だと……俺が皇帝のまま、というのは恐らく弊害の方が大きいだろう。
というか単純に、俺がもう嫌になっているのだが。
無理だわ、俺に皇帝は。柄じゃねぇ。
シェン、悪いんだが、この座は捨てるぞ。
ちゃんとローガルド帝国は守り続けるから、それで勘弁してくれ。
だから――。
「よし、アルヴェイロ。今から言う話をしたくて、俺は今日お前に会いに来た。聞け」
「……ハッ、何でありましょうか」
俺は、言った。
「 第二十三代皇帝(・・・・・・・) として(・・・) 告げる。――アルヴェイロ=ヴェルバーン。お前、次の皇帝になれ」