作品タイトル不明
仕込み《2》
アーリシア王国国王、レイド=グローリオ=アーリシア。
公務としてローガルド帝国を訪れ、ユキから現在考えている悪巧みを聞いた彼は、協力することにその場で頷いていた。
ユキに色々と恩があるから、という理由もあるが、もっと単純に、それがアーリシア王国にも益をもたらすだろうと考えたからである。
ローガルド帝国は、今なお大国だ。
今ではアーリシア王国の方が明確に力が上だが、それでも人間国家の中では、未だトップ3に入るであろう力を持った強国であることは、変わりないのである。
経済力も、軍事力も、だ。
前皇帝の時代、戦争が起こるまでの彼の国は、大国ながら強かに計算高く立ち回り、力のみならず策略によっても大国たる武威を周辺各国に見せていた。
アーリシア王国にとっても、その影響力の大きさは『仮想敵国』として見なければならない程のものであり……つまり、 人間種の力(・・・・・) を強めていたのだ(・・・・・・・・) 。
ローガルド帝国は、確かにその一国だけで、人間という種を高みに押し上げていた。
だから、『パワーバランス』という点で考えると……アーリシア王国にとって仮想敵国であった帝国が、このまま沈んでしまうのは、正直困るのである。
今、世界の勢力図は変わった。
先の世を考え、アーリシア王国も大いに『屍龍大戦』に協力したが、あの戦いによって人間が優位に立っていた時代は終わり、人間以外の種が台頭を始めている。
そのこと自体は、レイドは悪くないと考えている。今までは、少々人間が突出し過ぎた。
それは、人間にとっても、他の種にとっても、争いの元である。
しかし今のまま行くと、今度は逆に、人間の立場が押される可能性が出て来るのだ。
今後数年は、特に変わりなくやっていけるだろうが、これが十年先、二十年先となってくると、情勢もわからなくなってくる。
現在ヒト社会において最も力を持っている『魔帝ユキ』が人間ではない以上、彼自身が何もせずとも、一歩も二歩も人間種が力で劣ってしまっているというのは、紛れもない事実なのだから。
重要なのは、バランスだ。
ガッチリと絡み合って崩れない『相互利益』と、簡単に手出しすべきではないという『軍事力』のバランスが均衡を保っていなければ、あっという間に戦乱は訪れるだろう。
博愛や慈愛の心などといった、それ自体は大事なものであっても、国家を運営する上では クソ程も(・・・・) 役に立たない(・・・・・・) ものではなく、もっとわかりやすい目に見えた利益と、わかりやすい位置に見える拳が、互いに必要なのである。
人の好いあの王達とて、王なのだ。
まず第一に考えるべきは自国の利益であり、今は協力した方が自分達にとって得になると考えているからこそ、協力し合えているのである。
ただ、その辺りの感覚は、やはり魔界王フィナルが非常に優れており、『互いににこやかでいられる距離』というものをよく理解し、動いているように見える。
あの男の手腕によって、今世界の枠組みは組み上がっており、それを次世代にも残せるように、今の内に皆が頭を捻らせている訳だ。
魔界王はまさに、現在の世界の『盟主』であると言えるだろう。
だから、ユキと魔界王が考えているという悪巧みは、今後を考えると自国の役に立つだろうとレイドは考えた。
ローガルド帝国の『癌』を取り除き、国を安定させることは、ひいては人間という種の役に立つだろうと、そう思ったのだ。
そのため彼は今、ローガルド帝国の帝都に存在する大きな宮殿へと足を運び、その住人達と面会を行っていた。
「いやはや、レイド殿はおかしなことを気にされますなぁ。我々のような尊き血筋がいるからこそ、国民が国民として生きることを許されるのです」
「……なるほど、そういう考えもあるのかもしれませぬな」
部屋にいるのは、前皇帝シェンドラの親戚筋に当たる――皇族の一家。
その誰も彼もが、今、自身の目の前にいる男と同じ表情を浮かべている。
「ですが、その彼ら一人一人によって、国は成り立っているのでしょう。であれば、そのことに多少なりとも愛着を持っても良いのではありませんか?」
「えぇ、まあ……確かに。 道具(・・) として役目を果たしている間は、よくやっていると誉めても良いかもしれませんな」
他国の、会ったばかりの王族に対して放たれる言葉にしては、随分と遠慮がない。
故にそれが、彼らにとって何ら気にする必要のない、ごく当たり前の考え方であるということが、短いやり取りからよく感じられた。
――なるほど。
レイドもまた、一国の王として、国を長年差配し続けた人間である。
である以上、様々な者を見て来ているし、少ない言葉だけで相手の人となりというものも、大体は把握することが出来る。
いや……今のやり取りを行えば、自身でなくとも同じ結論に至るだろうか。
――控えめに言って、クズだな。
この者達は、『自国を守る』という考えを持っていない。
この者達は、国民を塵芥と同じものだと思っている。
この者達が重要なものは、自分達だけだ。
なるほど、今まで国の表舞台に出て来られないよう、押し込まれていただけはある。
王族や皇族には、時々出るのだ、『暗愚』と言うべき者達が。
全てを手に入れ、何をしても許される権力があるせいで、道理を 弁(わきま) えぬままに大人へと至ってしまうのだ。
――話には聞いていたが、前皇帝がこの者らの権力を剥奪して、ほぼ幽閉状態にする訳だ。
レイドは一瞬、吐き気を催すような顔を浮かべそうになったが、王として学んだ社交技術によって、表情筋だけは動かさず、にこやかに保ち続ける。
……まあ、もう、この者達が表舞台に立つことはないのだ。
自由に動けるのは、今一時だけ。
然るべき処置が、これから為される。
ゴミはゴミ箱に(・・・・・・・) 。