軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話:雨の日

――レフィは、妊娠してからの日課となっている、草原エリアの散歩を今日もまた行っていた。

いつも快晴で、過ごしやすい環境となっている草原エリアだが……ただ今日の天候は、いつもと違っていた。

空は今、雲が全てを覆っている。

そこから、ざあざあと落ちてくる、水の粒。

雨。

差した傘にそれが当たり、弾け、落ちる。

歩く度に、パシャ、パシャ、と足元で跳ねる。

「……カカ。考えてみれば、雨に当たるという経験も、久方ぶりじゃな」

何となく、愉快な気分になりながら、自らの差している傘を見上げる。

龍族は、雨を避ける、などということは基本的にしない。

鬱陶しいからという理由で、雨宿りをすることはあれど、たとえ一日中雨に打たれ続けていたところで身体を冷やすことなどないし、まして体調を崩すなどということもない。

だから、『傘』というのは、龍族には存在しない文化なのだ。

まあ、以前までの自分ならば、だからどうした、と思うだけなのだろうが、何故か今の自分は……この、降りしきる雨ですら、面白い。

風情を感じるのである。

いつもと色の違う草原。

灰色の雲が覆い、雨に濡れる魔王城。

見知った風景の、見知らぬ風景。

「生き方だけで……こうも、見え方も違うんじゃな」

気分の良いまま、レフィは、歩く。

――草原エリアでは、基本的に天候が変わることはない。

ダンジョン内に存在する草木は、全てダンジョンの魔力のみを栄養素としているそうなので、全く雨など降らずとも一切枯れず、青々とした緑を保ち続けることが出来るらしい。

だから、こうして雨が降っている時は、ユキが気分でそういう風に設定した日だけだ。

常に快晴だけではつまらないだろうと、時折天候をわざと崩すのである。

ただ、何やら本人は『四季』というものにこだわりがあるらしく、例えば雪などは、特定の数か月だけでしか降らさない。

気温も微妙に変化させているそうだが、まああまり急激にやると体調を崩しやすくなるので、やはり基本的にはずっと、過ごしやすい快晴の気候なのである。

そういう訳で、今日のような雨の日は月に一度あるくらいなのだが、そうなると喜ぶのが、幼女組――いや、『少女組』である。

何でも遊びに変える才能のある彼女らは、この雨もワクワクする対象であるらしく、空模様を見て「今日は雨ね! よーし、雨の遊びをしなきゃ!」と、かっぱを着て長靴を履き、元気良く外へと出て行った。

つい先程、自身が散歩に出掛ける際にも見かけたのだが、全員で集まって、何やら熱心に地面に溝を掘っていた。

どうやら、そこに水が流れて川のようになるのが面白いらしく、ダムを作ったり、支流を作ったり、こちらに気付かない程熱中して遊んでいた。

成長はしていても、こういう面ではまだまだ子供であるらしく、微笑ましさに笑みが零れてしまったものである。

――風邪を引かないよう、戻ったらすぐ風呂に入るように言っておかないと、じゃの。

そんなことを思いながら、いつものコースを一周して戻ってくると、イルーナ達の遊びが、先程と少し変わっていることに気が付く。

掘った溝の川はそのままに、紙で何か船らしきものを作り、それを水に浮かせたりしているのだ。

「何の遊びじゃ? お主ら」

気になったレフィが彼女らに声を掛けると、気付いたイルーナが、口を開く。

「あっ、お姉ちゃん! これはねぇ、お兄ちゃんが『よし、ペニーワイズごっこだ! 川があるなら紙船を流さなきゃな!』とか言って、作ってくれたの!」

「ぺにー……ふむ、恐らくまた阿呆な思い付きをしたのじゃろうが、なかなか風流な遊びじゃな。して、本人は?」

「うん、レイラお姉ちゃんが来て、『ユキさん、今月はもう、お遊びに使ったDP、結構な量ですよねー?』とかって言われて、何かを断念して帰ったよ」

「いつもの、あたまのあがらない、あるじだったヨ!」

「……ん。情けない顔になる時の主」

エンの言葉の後に、うんうんと頷くレイス娘達。

「カカ、なるほどの。つまり、いつも通りだった訳じゃな。……よーし、では儂も、一隻作ってみようかの! お主ら、紙の折り方を教えてくれるか?」

「任せてー! えっとねぇ、まずは――」

そうしてレフィは、イルーナ達と一緒になって、雨の中で遊び始める。

途中、再びやって来たユキがそこに加わり、どちらがより美しい船かを競ったり、水を掛けて妨害したり、泥を掛けて妨害したり、それは反則だろうと言い合ったり。

存分に雨という天気を楽しんだ後に、少し暗くなってきたところで、風邪を引かないよう全員で旅館の風呂に入り、心身を温め、心地良い疲労を感じながら、レイラの作った最高に美味い料理を食べる。

――いつも通りの、変わらない日常。

胸の奥が、温かくなる感覚を覚えながら、レフィは今日もまた、色に溢れた一日を過ごすのだ。