作品タイトル不明
忠誠心《2》
……なる、ほど。
お話し出来ぬお方、か。
この男の忠誠心が高いのであろうことは、ここまでの様子でよく理解出来た。
相手が皇族となれば……たとえ自分の立場をどれだけ悪くしたとしても、話せない、という訳か。
「ただ、魔界王。皇族が暗躍している、というのは恐らく違う。関与はしているだろうが、計画を立てた者は他にいると思われる。あの者らには、そういうことをするだけの能力がない。 私が(・・) そのようにした(・・・・・・・) 、という面もあるが」
「へぇ? どういうことだい?」
「恥ずかしながら私の身内どもは、長い年月で権力に溺れ、完全な愚物に成り下がっておってな。このままこの者らをのさばらせていたら国が崩壊すると思って、権限を丸々没収し、半分程を粛清したのだ」
「しゅ、粛清」
なかなか物騒である。
「何を驚いている? 私でなくとも、そうだな……そこの魔界王ならば、必要とあらばやるだろう」
「そうだねぇ。妻とかが相手なら話は変わってくるけど、本当に邪魔になっちゃった子なら、身内でも……ま、 切る(・・) かな」
あっけらかんとした様子でそう放つ、シェンと魔界王。
……まあ、王達にそういう気質があるのは、俺も知っている。
大多数を救い、導くのが王の役目。
だがそれはそれとして、時には少数を切り捨てなければならない。
少数が窮地に陥ろうが、死のうが、必要ならば、見捨てる。
そういう『決断』の出来る者が、上に立つ者の器には、必要になってくるのだろう。
一から十の全てを拾うために行動はしなければならないが、実際にそうするのは不可能だからだ。
「だから、今の皇族に軍を動かす力もなければ、司法を動かす力もない。計画を立て、実行に移す能力もない。『神輿』にはなれても、それ以上は無理だな。私の影響力が少なくなってきたところで、何かしようとするだけの半端な頭はあったようだが」
酷い言い種である。
が、恐らくこの男がそう言うのならば、そういう輩だったのだろう、コイツの身内は。
そういや、確かに今までローガルド帝国で、皇族なんて一度も話に上って来なかったが、それはシェンによって粛清された後だったからなのか。
「……ってこたぁ、そこのアルヴェイロを今回の件に巻き込んだのは、アンタの元派閥の力を削ぐため、か?」
「恐らくその面もあるだろう。私はすでに死した身だが、私の派閥だった者が全員死んだ訳ではない。である以上、その影響力は必ず残る。そして、この者は我が派閥の柱と言うべきだった男。そんな男が国家を揺るがすテロを画策し、実行したとあれば、『残党』と言うべき我が派閥の壊滅は、免れん」
褒めるような言葉だが、その当人であるアルヴェイロの方は、苦い顔だ。
自分のせいで、そうなりかけている、という自責の念があるのだろう。
「ふむ……なるほど、大体見えてきたかな。アルヴェイロ君は恐らく、ただ、呼び出されただけだったんだね。で、その相手は皇族。何を言われたのかは……」
「……申し訳ありませぬ。私ではお話し出来ぬ方々の、内部に関する話故、言えませぬ。しかし私は、自らにテロ容疑が掛かっていると聞かされた時、それが思いもよらなかったと、明言致しましょう」
ということは、その時話したのはテロとは関係ないものだったってことか。
が、状況から見て、相手は初めからアルヴェイロを嵌めるつもりで呼び出したことになる。
「この男は、この通りだ。意志と能力はあるが、頭が固いのが一つ難点でな。昔から全く変わらんから、この男の口を割ることは諦めよ。――が、私は別だ。恐らく、という相手は頭に幾つか浮かんでいる故、伝えよう。その手足の方にも、心当たりがある」
「助かるよ。悪いね、国を離れたのに、巻き込んじゃって」
「いや、今回のこれの半分くらいは、私への復讐のような気もしているからな。元皇帝として責任があると言われれば、正直否めん。あの愚物どもならば、そういうことを考えかねんのだ」
そこで、俺も口を挟む。
「アンタの言う通りの人間どもだったのなら、ムカつくヤツが死んだら『よっしゃあ、ざまあみろ』で終わらず、『ざまあみろ、せっかくだから嫌がらせしてやるか』くらいは考えるんだろうな。頭を押さえつけていたものが無くなった訳だし」
「フッ、まさにそんな感じだろう。仕返しならば私本人にすれば良いものを、あの戦争が終わるまでついぞ手出しをして来ず、で、私がいなくなったらこれだからな。恨まれることをやった自覚はある故、存分に相手してやったものを」
「いや、俺だってお前みたいなのを相手にするのは嫌だけどな。なぁ、魔界王」
「はは、あぁ、そうだね。シェン君の相手をするのは、あの戦争の一回こっきりでもう十分かな。賭け事とか一緒にやったら、瞬く間に破産させられそうだし」
「何だ、不甲斐ない。今持っている財布を空にするくらいで許してやるというのに」
「それは許されてねーんだわ」
そんなやり取りを交わす俺達に、何だか嬉しそうな表情を浮かべるアルヴェイロ。
「そうか……シェン様にも、心を許せる、共に並び立つことの出来るご友人が、出来たのですね」
「……貴様、その物言いだと、私がとんでもなく寂しい奴のように聞こえるだろう。やめろ」
「フフ、えぇ、失礼致しました。ただ、やはり、嬉しいものです。私どもでは、シェン様の部下になることは出来ても、決して対等な立場となることは出来ませんでしたから。国を挙げて戦った同士という、何とも奇妙な縁ではありますが……」
「フン……ま、今の私は、それこそ『余生』という言葉が相応しい人生を送っているからな。気楽にやっていることは、否とは言わんよ」
「堅物であられました陛下が、その点ではお変わりになられた、ということですね」
「皇帝という立場では、ロクに冗談も言えんからな。本来の私は冗談好きだったのだ」
「それはそれは、ご冗談を」
俺達は、そのやり取りにしばし声をあげて笑った後、魔界王が少し声音を変え、真面目な様子で言葉を続ける。
「よし、解決への糸口は見えたかな。皇族が関わっているのは厄介だけど、ならばそちらに触れず、手足を切り落とすとしようか。シェン君の情報通りなら、それが一番かな」
「あぁ、私でもそうするだろう。手足を飛ばし、何も身動きが出来なくさせ、後程面倒な神輿を処理すると良い。具体的には、競技会が終わった後に処理、だな」
「怖い二人だ。お前らが揃って悪巧みしたら世界の掌握も簡単そうだな」
「掌握したところで、維持出来ねば意味がない。国一つだけで、手に余るというのに」
「全くだよ。魔界で手一杯のところに、ローガルド帝国のことまで考えなきゃいけなくなったから、今の僕は仕事が盛りだくさんだ」
「出来ないって言わない辺りが、お前ららしいよ。……と、そうだ、皇族対策っつーので、一つ思い付いたものがある。前から考えてたことなんだが……後で相談させてくれ」
「? ん、わかった」