軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

忠誠心《1》

――牢での面会の後。

フィナルの手続きによってアルヴェイロを一時牢から出した俺達は、そのまま外へと連れ出した。

向かった先は、 魔界(・・) 。

魔界王都への扉も設置が完了している今では、ローガルド帝国から魔界、という行き来すらいつでも可能なのだ。

つっても、こっそり、だがな。

罪の確定していない者を、いや罪が確定していても、勝手に他国に移送するなど、確か前世でも大問題だったはずだ。

これ以上ない主権の侵害だと思われるので、魔界王の部下が総出で小細工をし、一日のみ自由に動ける時間の確保が出来ている。

なので、公的にはアルヴェイロはこの国にやって来ていないし、実際俺達以外の者は、牢にアルヴェイロが捕らえられたままだと思っていることだろう。

面会などがあっても、魔界王の権限で全てシャットアウト状態だ。

その当人は大分訝しんでいたが、特に抵抗することはなく、大人しく俺達に連れられるまま、付いて来た。

何にも説明していないのだが、扉を潜った後、「もしや、ここは……」、「あの扉……」などと小さく呟いていたので、恐らくここが魔界だということには気付いていると思われる。

そして、そこまでしてここへ連れて来た理由は、一つ。

「ま、まさか……そんなことが……!」

色々と事情を知っているであろう者―― 前皇帝(・・・) に、会ってもらうためである。

「久しいな、アルヴェイロ。息災なようで何よりだ」

「シェンドラ陛下……ッ!!」

前皇帝の姿を見て、愕然とした表情を浮かべた後、アルヴェイロはぶわりと瞳に涙を見せる。

「ウッ、くっ……ウゥ、生きて、おいでで……!!」

ダムが決壊したかのように、後から後から涙が溢れ出し、嗚咽を溢すアルヴェイロ。

その男泣きを、止めることなく、温かな眼差しで見守る前皇帝。

そこには、俺達にはわからない絆が、確かに感じられた。

数分後、十分に泣いたことでようやく気持ちが落ち着いたのか、「フー……」と一つ深呼吸した後、アルヴェイロは目を赤く腫らしながら口を開く。

「我々には、ただ処刑したとだけ伝えられ、ご遺体を一目見ることも出来ませなんだが……このような理由が……」

「いや、処刑はされたのだ。『シェンドラ』はすでに死んだ。ここにいるのは、ただの『シェン』。戦争責任のある前皇帝が生きているとあらば、私は今度こそ首を括らねばならんことになる。それに……貴様が相手だから言うが、私はもう二度と国など率いたくはない。悪いが、黙っていてくれるか」

「……ハッ! 畏まりました。陛下がご存命であること、しかとこの胸にのみ、留めておきます。しかし、本当に……よく、生きておいでで……」

「フッ、利害の一致があっただけだ。だが、それこそが信を置ける重要なもの。種が違えど、そこに利と理があるならば、契約は結べるのだ」

「となると、今の陛下の……いえ、シェン様のご職業は、もしや研究者、でありますか?」

「そうだ。朝から晩まで、好きなことを研究し、文献を探り、知識を探求する。皇帝であった時分には考えられなかった、日々の過ごし方だ。楽しいものよ。残していった貴様らには……すまないとは、思っているのだがな」

「いえ、シェン様の今までの苦労を思えば、その程度。文句を言う輩がおりますれば、その者こそ処断すべきでありましょう」

本当に満足しているような顔でそう話す前皇帝に、アルヴェイロもまた、再び泣き出してしまいそうな程に、嬉しそうな穏やかな笑みを浮かべる。

……多分、皇帝時代の苦労を、両者ともよく理解しているのだろう。

どうやら、相当に仲が良かったらしい。

と、そこで、シェンは声音を少し真面目なものに変える。

「で……わざわざ、こんなところまで連れて来られたのだ。どうやら貴様の方は、ちと面倒に巻き込まれたらしいな」

「申し訳ありませぬ、陛下に託された国、十全に治めることが出来ず……」

「新たな試みを行っているのだ、問題の一つや二つ、出て来るのは当たり前だ。その限りにおいて、貴様らは良くやっているだろう。……一番面倒な時期に、国を任せてしまったのだ。だから、私も、協力出来ることがあるならば、協力しよう」

「……ですが」

アルヴェイロがチラリと気にするのは、傍らに控えている俺と魔界王。

「この者らは、信じて良いぞ。奴らの第一は自分達と、そして自分達の国であるが、だからと言って他所の国を食い物にしようとする程、目先の欲で動くような阿呆ではない。無論、甘えを見せればその限りではないだろうがな」

「……その、どこまでも合理的な思考。シェン様は、変わりませんね」

「変わらんさ。貴様は時折、世人は合理的というだけで全てを納得することは出来ないのだと、私に忠告していたがな。研究者には柔軟さも必要とは言え、理に沿った思考が出来ぬ私は、もはや私ではない。それは『シェンドラ』が『シェン』になろうが、変わらん」

その物言いに、アルヴェイロは諦めたような苦笑を一つ溢すと、頷いた。

「……畏まりました。シェン様がそう仰られるのならば。――魔帝陛下、魔界王様。今までのご無礼、平にご容赦を。私がお話し出来ることは、全てお伝え致しましょう」

「助かるよ。多分、君も何か、事情があるんだろう?」

「えぇ。そうですね……ではまず、私が第三倉庫、資材保管庫へ足を運んだ理由から、お話ししましょう。――私が、あなた方へ お話し出来ぬお方(・・・・・・・・) に、お呼び頂いたからです」

その、謎かけのような言葉で、魔界王の方はピンと来たらしい。

「そうか、となると、今ローガルド帝国で暗躍してるのは……」

「うむ、この者が『言えぬ』と言うならば、その相手は一つだ」

シェンは、言った。

「――皇族よ」