作品タイトル不明
悪意の片鱗
「――で、何だったんだろうな、コイツらは」
討伐が完了し、怪我人の救護等が一通り終わった後。
即座に駆けつけて来た兵士達や、野次馬で俄かに騒がしくなったスタジアムの中で、俺とドワーフ王は、二匹の死骸の前に立っていた。
「……順当に考えりゃあ、空間魔法を使って魔物を転移させた、つーことじゃろうぜ。が、疑問が幾つか残る。まず、このデカさの魔物を空間魔法で運ぶ、となると、相当な魔力と相当な準備が必要になる。お前さんみてぇな、馬鹿みてぇな規格外じゃねぇ以上、長ぇ準備が必要になるはずだ」
いや、否定はしないけどさ。
「で、だ。このスタジアムに現れた以上は、コイツらを呼び出す仕掛けはここにあったと見るべきだが……テロを警戒して、昼夜問わず、警備は敷かれていた」
「……そこは、抜かりなかったっつーことか?」
「おうよ。あの魔界の王が目を光らせてんだ、それを出し抜くのは簡単じゃあねぇぜ。加えて、俺達ぁずっとここで作業していた。怪しい魔法陣だか何だかがありゃあ、仮にウチの奴らがどうしようもねぇボンクラ揃いだったとしても、誰かが必ず気付くじゃろう」
人目は、十分にあった。
にもかかわらず、転移魔法は発動し、魔物どもは現れた。
本当に、突如として。
「となると、ウチの連中の誰かが手引きしたってぇ疑われちまいそうだが……最初に雇う際にしっかり身元調査はしたし、こうして共に働いていて断言出来るが、ここには気の良い馬鹿どもしかいねぇ。である以上、俺としちゃあウチの奴らがやったんじゃあねぇと信じてほしいんだが……」
「そうだな……まあそもそも、コイツらが出現したその時は俺ら、全員で飯食ってたしな。そうなるとむしろ、警備の方が怪しいって話になっちまうが……この辺りは俺達が考えても仕方が無さそうだ。ただ、俺としては時限式の何かが発動したんじゃないかって思ってる」
「時限式の?」
「あぁ。条件が揃ったら発動するのか、予め決められた時に発動するのかはわからんが、マップの……さっき魔王としての力で確認した限りじゃあ、魔物どもがスタジアムに出現した瞬間に、その近くには他の生物反応が一切なかったんだ。少し離れて警備員がいたくらいでな。けど、そんなあからさまに怪しい状況で、事を起こしたりもしないと思うんだ」
「……そうじゃな。目的によるだろうが、自分らしかいねぇって時に、犯行起こすような奴ぁ、そうそういねぇか」
目的。
そう、今回のこれには、何か目的があったはずだが……いったい何だったのか。
ただわかりやすく、誰かに要求を呑ませるためとか、自分らの存在を主張するためとか、そういうのが目的であるのならば、何かしら事前に声明があるのではなかろうか。
この後、犯行声明でも出すつもりなのか?
考える俺の横で、ドワーフ王は立派な顎髭を擦りながら、会話を再開する。
「もう一つ気になるところがある。――単純な、魔物の強さ、だ。コイツらぁ強かったぜ。少なくともお前さんがいなかったら、何十、もしくは何百、討伐までに死人が出たろうよ。そんなのを、しかも二匹。いったいどうやって用意したんだか」
確かにそれも疑問だ。
魔物を見つけ、そして捕らえておくなんて、魔王の力でもなければ――待て。
その魔王の力を、 欠片でも(・・・・) 持っているヤツが、いるとしたら?
先程は戦闘中で、レベルと能力値、スキルまでしか見ていなかったため、俺は死体に再度分析スキルを発動する。
「……思った通りだな」
称号欄の、ある称号。
そこにあるのは、『 魔王の眷属(・・・・・) 』。
その意味するところは、コイツらが、リル達と同じくダンジョンの魔物であるということだ。
……なるほど、コイツらの出自自体は、これで判明したな。
「……主。見て」
その時、ちょんちょんと俺の服の裾をエンに引っ張られる。
「? 何だ?」
小さな手でエンが指差す方向へと、視線を送る。
瓦礫に紛れていたが、エンのおかげで 異物(・・) はすぐに見つけられ――そこにあったのは、短剣。
だが、当然ただの短剣ではなく、表面に何か、複雑な紋様が描かれている。
転移の短剣:込めた魔力量により、対象を任意の地点に任意のタイミングで転移させる。
品質:A+
……なるほどな。
多分、国宝級と言って良いであろう能力の短剣だが、ここローガルド帝国ならば、存在していてもおかしくはない。
何故ならば、ここがダンジョンであるからだ。
DPカタログならば、DPさえあれば、ほぼ何でも用意することが可能だ。
恐らく、ダンジョンを操作する、簡易権限を持たされたヤツがいる。
魔物もこの短剣も、それで用意して――いや、待て。違うな。
確か、DPカタログを操るような権限は、代々の皇帝以外は持たないという話だ。ウチみたいに、家族に簡易権限を持たせる、みたいなことも一切してこなかったらしい。
となると、用意したのは歴代皇帝の誰かだが、それが他所に流れたか?
このサイズの短剣だったら、資材の中にでもしれっと隠しておいて、犯人が近くにおらずとも事を起こすことが可能だろう。
いや、実際この短剣も、資材の山に埋もれ、その一つに突き刺さっていた。絶妙に人の目が行かない位置だ。
この様子だと、搬入の時点で紛れ込ませてあった可能性もある。
魔物の方は……わからないが、まあダンジョン関連の能力で用意されたことだけは、間違いないだろう。
ローガルド帝国を受け継いだ際、実は俺の配下の魔物というのは増えており、それは前皇帝、または歴代皇帝がDPで出した魔物達で、それがダンジョンを譲り受けたと同時に俺のものとなった訳だ。
だが、俺はもう今以上にペットを増やすつもりはないし、幽霊船ダンジョンのアンデッドと違ってこの国のは普通に意思のある生物だったので、魔物を操る『魔物番』と呼ばれるこの国の部隊に全てを任せて関与していない。
戦争でも戦っていた部隊で、だが魔界王の策によって上手く動けなかった彼らだが、完全に魔物を支配下に置く手段を確立したとして、周辺各国ではかなり脅威に見られていたようだ。
その実態は、魔王の眷属だった訳だがな。
もしかすると、そこのが今回、悪用されたのかもしれない。魔王の眷属であったとしても、意思ある場合は、俺に不服従を示すことがあるからな。
ったく、この二匹も、俺を見て相当怯えていたようだったし、即座に平伏していたのならば殺しまではしなかったものを。
「よく見つけられたな、エン」
「……ん。変な魔力があったから」
ポンポンと撫でてやると、ちょっと嬉しそうにそう答えるエン。可愛い。
そうして彼女の頭を撫でながら、俺は思考を続ける。
――ここまでの情報を纏めよう。
まず今回の事態は、ダンジョンのアイテムなり何なりによって、引き起こされたものである。
DPの操作権限は歴代皇帝以外持たされていないという話であるため、以前にどこかで皇帝が用意したものが、今回使用されたと考えられる。
例の大戦用に用意して、結局使わなかったのか。
それとも、全く別の理由で存在していたものか。
そこに関しては犯人に事情を聴かなければハッキリしないだろうが、一つ言える確かなことは――この競技会をよく思っていない、『敵』がどこかに存在しているということだ。
そしてそれは、恐らくこの国の人間である可能性が高いだろう。
断言は出来ないが、DPに関連したアイテムの入手、その利用なんて、この国の一定以上の権力を持った者でないと、難しいはずだ。
一般市民は、ここがダンジョンである、ということすら知らないのだから。
敵、と言うと思い付くのは人間至上主義者だが……何だか、今回に関して言うと、違うような気もしている。
根拠があってのことではないのだが、何だかやり口が、今までとは違うような気がするのだ。
何が目的だったのかは現状不明だが、しかし今回のこれは、今までよりもっと計算高く、何か意図があってのことのように思う。
人間至上主義者は、俺がアーリシア王国にて出会った者達は、非常に計算高く、先々までを考えていた。
恐らくだが、少し前の状況のような、他種族に対する人間の悪感情が高まり、それが広がっていくところまでを目的に、行動していたのだろう。
そして、物の見事にそういうような状況に陥った訳だ。
王達が協力して対処したことで、特に人間であるアーリシア国王が全面的に協力したことで、どうにか今の下火の状況にまで持って行くことが出来たが、そうでなければもっと火が広がっていた可能性は高いだろう。
だが……それ以降のヤツらに関して言うと、もっと短絡的な理由で動いていた。
ただ、他種族が気に入らないから。
ただ、他種族がウザいから。
ただ、他種族に自分らの仕事を奪われたから。
当人としてはきっとのっぴきならないことなのだろうが、そういう不満のはけ口として選ばれたのが、人間至上主義という考え方だったように思う。
短絡的な思考から生まれる行動は、やはり短絡的だ。
何故なら、そういうヤツらは、不満を解消出来ればそれで良いのだから。
一つ疑問があるとすれば……何故今のタイミングで事を起こしたのか、という点だろう。
ここで暴れさせた以上、少なからず競技会を邪魔する意図は持っていたはずだが、完全にぶっ潰してやるつもりだったのならば、競技会の本番が最も効果的だったはずだ。
そこで今の魔物達を呼び出せば、もっと混乱が起き、酷い被害が出ていたのは間違いない。
にもかかわらず、何故こんな中途半端な時期に行動を起こした?
今回の事件のせいで、今後警備はさらに厳しくなるだろうし、競技会の準備は一層気合を入れて進められていくだろう。
この行動に、どれだけの意味があった?
まさか討伐までされるとは思わず、もっと競技場に被害が出ると思っていた?
ただ、どのような場合でも、 前(さき) に考えたように、テロを起こすならばもっと効果的な場面が他にあったように――いや。
仮に各国が集い、数多の観客を動員した状態で今回のような事件が起きていた場合、ローガルド帝国の立場は、もうにっちもさっちも行かなくなるくらい、低下していたことだろう。
この世界は、前世程甘くない。
自分の種族のためにもならないただの敵ならば、ただ潰されるのだ。
この国はもう俺のものなので、そこまではさせないつもりだが、敵は多分、そのようには考えないだろう。
他種族で、しかも魔王だ。そういう時に、真っ先に食い物にする側だと見られていてもおかしくはない。
競技会の邪魔はしたいが、そこまで事態が悪化することは避けたかった?
となると、今回のは、予想通りにこの国のヤツが起こしたのか?
「…………」
俺は、マップを見る。
マップは、非常に便利なシロモノだ。
魔王の力で最も素晴らしいのは、やはりDPによって何でも出来る点だろうが、次に来るのがこれだろう。
敵が今、どこで何をしているかを随時確認することが可能で、その脅威度を詳細に見ることが出来るのだから。
だが……今回に関して言えば、役に立たないとは言わないまでも、効果的に働くことはない。
何故ならば、俺の家族でもなければ、基本的に他者は全て『侵入者』だからだ。
侵入者で、そして敵。
故に特定の敵を探すことは、出来ない。
求め過ぎだと言われれば、その通りなんだがな。
「……ったく。一筋縄じゃあ、いかねーか」
どこにでも、いつでも、敵というのは出て来る訳か。
ウザったいことこの上ないが……負けねぇぞ。
どんな思惑があろうが、全て跳ね返して、競技会を成功させてやる。