軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話:新米夫婦

俺は、何とはなしに、居間ならぬ真・玉座の間にて、玉座に座っていた。

「…………」

手すりに肘を掛け、頬杖を突き、足を組んで、ただボーっとする。

相変わらずこの椅子は、心地が良い。

座り心地自体は大して、という感じではあるのだが、とにかく座っていると、気分が良くなってくるのだ。

目に入ったら、何もなくともとりあえず座ってしまうくらい、この玉座は気に入っている。

腕を組んだり、足を組んだり、胡坐を掻いたりすると、何となく収まりが良いような気がするように、この玉座に座っている時も、そんな一体感が感じられるのだ。

というか、実際俺の魂と呼ぶべき『情報』に、ダンジョンが身体から何までを肉付けし、この世に生み出した訳だしな。

言わば俺は、ダンジョンの子供――いや、 分け身(・・・) って言った方が近いか?

まあとにかく、色々繋がりのある存在な訳なので、ダンジョンの中心点とも呼ぶべきこの玉座と、親和性が高くて当然と言っちゃ、当然だろう。

前(さき) の例えならば、俺の腕や足と同一であるのが、この玉座なのだ。

――考えてみれば、この玉座というものも、なかなか謎である。

つい最近発見した、魔境の森の西エリアにあったダンジョン跡――始祖龍がいたと思われるダンジョン跡にも玉座はあったし、幽霊船ダンジョンにも玉座は置かれていた。

実は、ローガルド帝国にも玉座がある。勿論、謁見の間の方にある豪奢な玉座ではなく、ダンジョンに関連した方の玉座である。

西エリア探索を終えた後、ローガルド帝国へ行った際少し気になったので探してみたのだが、前皇帝シェンドラならぬ、シェンの元自室から繋がる隣室。

どうやら書庫として使われていたらしいその部屋に、ポツンと置かれていたのだ。

恐らくあの部屋が、ウチのダンジョンにおける玉座の間に当たり、ローガルド帝国はあそこから全てが始まったのだろう。

あんまり、玉座の間っぽくはなかったけどな。

ウチと比べて広さもなかったし、拡張なんかも初期から一切していないのだろう。

必要がなかったのか、出来なかったのか。

前から思っていたが……ローガルド帝国のダンジョンは、残っていたダンジョン関連の記録を読む限り、ウチと比べて制約が多いように思う。

代々ダンジョンを継承していくにつれ、使える機能が減っていった、という事情があるのも知っているが、それでも元々の機能からして、なんか出来ることが少なかったようなのだ。

まずウチみたいに、DPさえあれば、大体何でもDPカタログとかから出せる訳じゃないらしい。

前世由来のものを除くとしても、生み出すことが可能な魔物も少なく、強さの上限も低く、生み出せる施設などもウチと比べると少ない。

俺が魔王になった今は、それらもウチのダンジョン基準に上書きされたようなので、関係ないんだがな。

ただ……これに対して思ったのは、多分ウチの方が特殊なんじゃないか、ということだ。

恐らくこの差は、ダンジョンが初期から有していた力の差、なのではないかと思う。

昔はローガルド帝国も自然が広がっていたって話だが、その頃に魔境の森程の魔素の濃さがあった、とは流石に思えないしな。

幽霊船ダンジョンの、以前までの様子なんかもわかれば良かったのだが、流石にあっちには記録とか一切存在していないので、何とも言えない。

大分思考が逸れたが、とにかくダンジョンのある場所には、必ずダンジョンコアと玉座の間、そして玉座が置かれているのだ。

いや、そもそも、何でダンジョンコアと玉座の間がセットなんだろうな。

ダンジョンっていうのは、突き詰めると『世界の種子』であるって話だが、つまり世界の支配者――王だから、玉座の間なのか?

何か、それなりに重要な意味が――と思ったが、あの愉快な神様達のことだ。

もしかすると、「そっちの方がかっこいいから」とか、「玉座が良さげに見えるから」とか、そういう理由から用意することにしたのかもしれない。

ダンジョンを生み出しているのは、この世界そのものたる『ドミヌス』だろうが、なんかそういう感じの助言でも、神々がしたのではなかろうか。

案外、それで当たりのような気もするから、面白いものである。

と、何となく一人、愉快な気分になっていると、キッチンの方からひょこっと顔を覗かせたレイラが、お盆を持ってこちらにやって来る。

「ユキさん、おやつ出来ましたよー」

「お! あんがと」

今日のは、パンケーキか。

玉座の横に設置してある、小さめのテーブルの上にレイラがお盆を持ってきてくれたので、俺は食べやすく一口サイズになっているパンケーキにフォークを刺し、一口。

うむ、美味い。

次に一度フォークを置くと、同じくお盆に乗っていた、レイラが淹れてくれたお茶を飲む。

うむ、こちらも美味い。

ぶっちゃけ俺、別に甘いもの好きって訳でもないので、どちらかと言うとおやつよりもお茶が美味い方が嬉しかったりする。

大人になってからよく思うのだが、お茶って美味いよな。お茶。紅茶とかに限らず、緑茶とかも。

というか、レイラが淹れてくれるお茶が、マジで美味いわ。

何となく気分が良くなっている時に、美少女が用意してくれたお菓子とお茶を飲み食いし、ゆっくり過ごす。

全く、最高に贅沢な時間だぜ。

「フゥ、最高に美味いな、レイラ。相変わらずお前の料理の腕は素晴らしい」

「フフ、ありがとうございますー。ぼーっとしていらしたようですが、何か考えことですかー?」

「ん、ちょっとな。ま、とりとめもないことさ」

そう答えてから、ふと俺は思い付き、ニヤリと笑みを浮かべる。

「んー、今良い気分だが、ただちょっと物足りないなー。具体的には、膝上が物足りないなー。悪の権化たる魔王としては、美女の身体を抱き締めて、暖を取りたいところだ」

「あら、ではレフィ辺りを呼んできましょうかー?」

「いやいや、今日は違う人選が良いなー。具体的には、綺麗な白い髪をしていて、美しい角が生えていて、すらっと背の高い超絶美女で暖を取りたいなー。おっと、俺の目の前に、条件に適した者がいるようだ」

するとレイラは、照れたように頬を赤くしながら、全く、と言いたげな様子で口を開く。

「……さて、条件に適しているかはわかりかねますが、旦那様のご要望ならば、仕方ありませんねー。では、失礼して」

上品に腰を下ろし、俺の膝上に乗るレイラ。

彼女の胴に、後ろから手を回して緩く抱き締めると、レイラはその俺の手に、自身の両手を重ねる。

「うむ……素晴らしい。美少女の温もりと、香りと、柔らかい身体の感触を十全に感じられて。天国かここは」

超絶美女を侍らす魔王。悪の魔王っぽくて素晴らしい。

フハハハ、我こそが、悪逆非道を為し、世に混乱を齎し、欲望の限りを尽くす魔王ユキである!

「もう、発言が少し、セクハラっぽいですよー?」

「レイラが妻になった以上、遠慮する必要はないからな! 勿論、密着するのが嫌なら嫌って言ってくれていいんだぜ?」

「……わかっていてそう仰るユキさんは嫌いですー」

頬を赤くさせながら、わかりやすく唇を尖らせてみせるレイラ。

我が家で最も大人っぽいレイラがするそういう動作が、もうとんでもなく可愛いですね。

俺は、もう彼女がとんでもなく愛おしくなってしまい、ギュっと抱き締める。

レイラは一瞬慣れていないような、迷ったような素振りを見せてから、遠慮がちにこちらへ身体を預け、後ろ向きながら首を俺の肩に乗せてくる。

「……こんなところ、他の子達に見られてしまったら、もう恥ずかしくて顔から火が出てしまいますねー」

俺の耳元で、囁くように話す。

彼女の声のあまりの心地良さに、思わずゾクッと来るものを感じ、密着しているせいでそのことに気付かれてしまったらしい。

どことなく楽しそうな笑みを浮かべ、レイラは、言葉を続ける。

「せっかくですから、このまま、旦那様への親愛の情を示させていただきましょうかー」

「ほ、ほう。良き心掛けだ。悪の魔王が侍らす美女ならば、そういうことをしなくてはな!」

「フフ、えぇ。人が良く、面倒見が良く、複数いる妻の全員をしっかりと愛し、子供に優しい悪の魔王たる旦那様に相応しい悪女として、精一杯頑張りますねー」

そう言ってレイラは、俺に顔を寄せ。

俺の顎へ手を触れるのと同時に、軽く啄むように俺の頬へとキスをし、そして、まるで慈しむかのようにゆっくりと、熱心に、念入りに、舌を這わせる。

ピチャ、ピチャ、という粘り気のある、唾液の官能的な音。

甘く、熱い吐息。

顎に触れているのと反対の彼女の手は、俺の手と繋がれ、キュッと指を絡ませられる。

「あら、ユキさん。悪の魔王である割には、心臓が早鐘を打っていらっしゃいますねー?」

「……いっ、いや、悪の魔王でも、これで平常心を保つのは無理だろ」

「そうですかー? では、より悪の魔王らしくなるために、訓練しないといけませんねー?」

「……お、お手柔らかにお願いします」

レイラは、妖艶で美しい笑みを浮かべ――。

ちなみに、この時のやり取りの全てをレフィにこっそり見られており、後程ニヤニヤしながら「いやぁ、仲が良いようで何よりじゃ」と言われ、ボン、と顔を真っ赤にしたレイラが、マジ最強に可愛かったです。