軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔界王都にて《2》

そうして、しばらく魔界王の話を聞く。

魔界王の奥さんだが、種族は魔族であるものの、『ワイズデビル』というフィナルとは違う種の女性だそうで、さらに貴族でも何でもない一般人なのだという。

まあ、魔族は身分とかよりも「力!」という種族なので、そう重要視されるものではないのだが、それでも王の伴侶として選ばれるのが庶民というのは、相当珍しいだろう。

元々は城のメイドさんの一人であるそうで、フィナルが魔界の王となった時からの知り合いだったらしく、期間として見ると知り合ってから数十年は経っているのだとか。

長命種って感じの交友期間である。

なかなかハキハキとした女性であるそうで、『王城付きメイド』という恐らくメイドの中でも最高峰の者達の中でも、思わず目に付くくらい所作の一つ一つが綺麗であるらしく、それでフィナルの記憶によく残り、最初に声を掛けたのもそれが理由だったそうだ。

つまりウチで言うと、レイラみたいなタイプってことだな。

さっきは「その気になれば、相手は幾らでもいるよ」なんて冗談言っていたが、実際はコイツ、この人、という相手がいて、結婚に踏み切ったようだ。

で、そういうしっかりした人が相手だから、フィナルもまた色々苦戦しているようで、日々の忙しさから来る不摂生や、自身のことへの頓着しなさに、よく怒られているのだという。

「はは、良いじゃねーか。お前の場合、そうやって怒ってくれる人が身近にいる方が良いんじゃないか?」

俺の知っている王達って、どいつもこいつも基本的に自分のことが後回しで、さらにそれを当然と思って全く気にしていないように見えるからな。

王の責務というものか、そういう意識を全員持っているのだ。

多分、持ってないのは俺くらいだろう。

である以上、自分のことを自分以上に見てくれている人がいるっていうのは、フィナルにとっては良いことなのでは、と思う。

ウチなんかは、人が多い分自然と互いを見ることが出来るので、そういう面は完璧だ。

そういうのは、実はレフィが一番よく気付く。

全く表情に出さないレイラが、少し調子を崩してる時なんか、真っ先にアイツが気付くのだ。

「まあ、そうなのかもねー。今まで自分のことなんて『忙しいし、ま、いいか』で済ませてきたけど、それがあんまり良くないことであることは、知識として理解はしてるしね」

知識として、ということは、未だに「それでもいいか」って思ってるってことだろうな。

悪癖だと理解はしているものの、王である以上それはしょうがないことだと考えているのだろう。

「おう、毎日口うるさく言ってもらえ。そんで、存分に嫁さんに尻に敷かれることだ。それはそれで良いもんだぜ」

「……フィナルおじちゃんも、主みたいになったら、ちょっと面白い」

俺の言葉の後に、ウチでの俺の様子を知っているエンが、少し楽しそうにそう話す。

うむ、俺の情けない姿を散々見ているだろうからな、ウチの子らは。

フィナルが同じようになったら、確かにちょっと、面白い。

そんな俺達の様子に、魔界王は全く、と言いたげな顔をする。

「もー、楽しんでるでしょ、二人とも。……ま、そういう訳で、まだまだ慣れないことばかりさ。相手の子も、これから王妃になるというのに、メイドの仕事を辞めるつもりも一切ないみたいでね」

そりゃすごい。

「こうやって聞く限りだと、なかなかの女傑って感じがするな。一度会ってみたいもんだが……」

「いいよ、良い機会だし、今日顔合わせしておこっか。――おーい、誰か、ウチの呼んできてー」

魔界王が控えていた部下達に声を掛けると、彼らの内一人が部屋を出て行き――それから、すぐだった。

現れたのは、メイド服をしっかりと着込んだ、非常に綺麗な立ち姿の女性。

美少女ではなく美人、というタイプで、額に一本、鬼のような角が生えており、スラリとした感じの見た目をしている。

黒に近い髪色をしており、顔立ちと一本角が相まって、和風美人といった印象を受ける。着物とか似合いそう。

「クア、彼がローガルド帝国皇帝、そして迷宮の主たる魔王の、魔帝ユキ君だ。肩書が多いでしょ。それで隣の子は、彼の娘のザイエンちゃん。種族『魔剣』っていう、非常に珍しい子だ。さ、挨拶して」

すると彼女は――クアと呼ばれたメイドさんは、こちらに向かって美しい一礼をした。

「初めまして、魔帝陛下。そして、ザイエン様。私は、クアラルカでございます。常々、フィナルからお話を聞かせていただいております。ユキ陛下には、私の夫がご迷惑をおかけしているようで、大変恐縮でございます」

「いや、もうホント、どうか今後、フィナルの手綱を握ってやってください」

「お任せください、不肖ながらフィナルの妻の身として、夫を諫めさせていただこうと思います」

「ユキ君、君だけにはその文句を言われたくないねぇ」

意味ありげな笑みを浮かべるフィナルに、俺は肩を竦める。

なお、この間クアラルカさんは真顔である。俺の冗談に、多分本気で答えてるな、これ。

うむ、俺、この人とは仲良くやれそうだ。

嫁軍団を連れて来て紹介したい。

「……綺麗なお嫁さん」

「ありがとうございます、ザイエン様。ザイエン様も、とてもお綺麗でございますよ。お召し物も、とても良い色合いと造りで、品の良さが窺えます」

「……ありがと。エンのことは、エンって呼んで」

「畏まりました、エン様。私のことも、クアとお呼びください」

「……ん、よろしく、クア。でも、様もやめて。口調も、普通でいい」

「では、エンちゃんとお呼びさせていただきたく。口調は習い性故、ご勘弁を」

「……わかった。クアなら、エンの家族とも、仲良くなれそう」

「そうですか? それは嬉しくございますね」

そう言葉を交わすエンとフィナル奥さんの様子を見ながら、フィナルが笑みを浮かべて言う。

「ま、こういう子だよ。かなり変な子でしょ」

「ほう、陛下。本人を前にして、仰りますね。お覚悟ください」

「……何の覚悟?」

「さて、 私(わたくし) の口からは」

「え、そんな口に出せないようなことをする予定なの?」

「……うん、まあ、とりあえず二人で上手くやってるんだなってことは、すげー伝わって来たよ」

何と言うか……全然似ていない二人だが、意外とお似合いなのかもしれない。

◇ ◇ ◇

その後、一通りフィナルの奥さんを交えての雑談となる。

この短時間で、奥さんの人となりは大体把握することが出来たのだが、真面目な顔から放たれる冗談がシュールで面白く、実は結構ユーモアの溢れる人だということがわかった。

ここで肝心なのは、本人は至って普通の顔というか、真面目な様子を崩さないので、冗談を言っているのかそうでないのか、傍から見るとわからないってところだな。

ただ、ところどころで柔らかく笑い、言葉の中にフィナルへの愛が見え隠れし、エンへの態度にも慈しむようなものが見えたので、愛情深いんだろうな、というのも感じられた。

実際ウチの子も、すぐに懐いたしな。

フィナルも、なかなか面白い人を奥さんに選んだものである。

そうして雑談が進んだ途中、リルのことに話が飛び、エンが「……すぐそっちにいるから、リルのモフモフ、触らせてあげたい」と言い、「ほほう、楽しみでございますね」と魔界王の奥さんが答え、二人でこの部屋を去って行った。

大分関係ないことを話しまくったが、良いタイミングだったので、俺は淹れてくれたお茶を飲みながら、魔界王に切り出す。

「そうそう、これは聞かなきゃって思ってたんだが、競技会の件って、今どうなってんだ?」

「話は進んでいるよ。大体の大枠とやるものは決まったかな。実はそろそろ、ユキ君も呼んで一度ローガルド帝国で会議する予定だったんだ。――やる競技は、今回は、二つ」

そうか、結局二つに絞ったか。

「一つは、魔法の美しさ、難しさを問うもの。そしてもう一つは、肉体の強さ、魔法の巧みさ、戦術眼の鋭さ、チームワークの完成度、その全てを問うもの。この二つ目のが、君が色々教えてくれたって競技の、要点を抜き出したものだね。競技名は、まだ仮のものだけど、前者が『マジック・フェスタ』。後者が『バトル・フェスタ』。良い競技名思い付いたら聞くよ」

「へぇ……いいねぇ、聞いてるだけでワクワクしてきた!」

魔法を使用する、この世界発祥のスポーツ。

その始まりから携わり、今後見ていくことが出来るのだ。

前世からスポーツが好きだった身としては――というか、人がやる勝負事が好きだった身としては、嬉しい限りである。

たとえスポーツではなく、ゲームや遊びだったとしても、真剣勝負とはそれだけで面白いのだ。

「ま、難しいのはここからだね。新しく作り出した競技を、如何に浸透させ、民衆に期待を持たせ、それを以て融和を進めていくか。そして、如何に 政治から(・・・・) 切り離していくか(・・・・・・・・) 。今の、世界が持つ『熱』を冷まさないまま、このまま駆け抜けてしまいたいけれど、土台を疎かにすると、すぐに崩れ去る。加減が重要だね」

ちょっとテンションの上がっていた俺だったが、フィナルの真面目な声音に、冷静になる。

「……そうだな。民衆に期待感が残っている間に開催したいが、初めての試みである以上、細部をどれだけ詰めても、足りないだろうからな」

「多分、というか確実に何かしら問題は起こるよ。僕らがその問題に対し、後手にならずに動き続けることが出来るか。――と、そうだ、ドワーフの子達にお願いして、先に競技場を作ろうと思うから、帝都に作っていい?」

「おう、勿論だ。百年経っても使用されるような、立派なの頼むぜ。……あ、色々使用用途持たせておくといいんじゃないか? 複数の競技が出来るようなのと、あと周りにホテルとか店とかもほしいところだ」

競技場を中心にした、前世の複合施設みたいな感じになってくれると、個人的には嬉しい。

ホテルが幾つか連なり、デパート的なものとかもあり、公園とかがあるとテンション爆上がりだ。

……いや、待て、もしかしてこの世界はまだ、『デパート』という形式は、存在してないか?

この機会に、浸透させるか。

つっても、そこまで作り込むと、費用も時間も掛かるだろうし、特に後者は問題なので、今回はスタジアムと、観に来た客が泊まるホテルくらいが限度だろうが……先々までを見て、そういうドデカい計画を立ててほしいものである。

となると……やっぱ立地は、海辺が良いだろうか。

この世界だと、前世と違って流通の問題がある。

飛行船という新たな移動手段を獲得はしたが、海洋を行く船とは、人でも物でも、その輸送能力に大きな差が存在している。

各国を集って行う競技会である、ということを考えると、なるべく海に近い方が都合が良いだろう。

幸い、帝都ガリアは非常に広く、南端は海に面している。

流石、この世界でも有数の大国だけあって、この魔界王都とも、恐らくアーリシア王国王都とも比肩出来るだけの――いや、こうして考えてみると、多分帝都ガリアの方が広いか?

こうなってくると、この世界の誰かに、列車を開発してほしいもんだ。列車。

――多分、前世の歴史で考えると、この世界は近代から近現代に入るようなところだと思われる。

ただ、明らかにこの世界は、歴史の長さに比べて発展の仕方が遅い。

それはやはり、ヒト種を取り巻く環境の過酷さにあるのだろう。

魔物という強い外敵に加え、ヒト種だけでも複数種がいるという、争いの種がそこかしこに転がっているような状況だ。

神『ルィン』の話では、この世界そのものである『ドミヌス』は混沌、つまり多様性を求めた、という話だったが……流石にちょっと、多様過ぎな気がしなくもない。

……ま、それでも、この世界でしか見られない光景がここには広がっており、何となくドミヌスが求めたというものも、わかる気がするんだがな。

この世界は、残酷で、冷酷で、無慈悲で、過酷で――だが、何よりも、素晴らしいのだ。

今回行う競技会を……ドミヌスや、先輩諸神は、気に入ってくれるだろうか。

「……ふむ、いいね。建設計画はドワーフの子達が中心に立ててくれてるんだけど、ユキ君が今考えているもの、聞かせてもらってもいいかい?」

「オーケー、話せることは話そう」

俺達は、協議を進めていく――。