作品タイトル不明
ヒト種の祭り《1》
ネルから連絡をもらった俺は、翌日、早い内から家を出る。
あの国の一番近いところの扉へ潜った後は、いつものように連れて来たリルに乗り、人目の付かない道を通って王都までひた走る。
ちなみに、別に戦いに行く訳でもないのでエンは置いて行こうと思ったのだが、彼女に「……以前、それで主が誘拐されたの、忘れてないから」とジト目で言われ、「そうじゃな、その阿呆は色々巻き込まれがちじゃ。エン、守ってやるんじゃぞ」とレフィにも言われ、実際否定出来ない事実だったので、連れて来ている。
あと、レイラとリューが「ユキさん、数日分のお食事、用意した方が良いですよねー? もしもの時のための保存食も……」「ご主人、大事なものは、ちゃんとアイテムボックスに入れたっすね? 一応、確認してほしいっす!」などと言って、世話を焼きまくり。
そしてイルーナとシィも「おにいちゃん、大丈夫だよね? ちゃんと帰って来てね?」「あるじは、つよいけど、ゆだんはメッ、だよ!」と言われている。
実はちょっと前から、俺が外に出る度にそういう傾向が見られていたのだが、最近ウチの連中が俺に対して過保護になっている気がする。
……まあ、俺自身今までいろいろ心配を掛け続けてきた自覚はあるので、何にも言えないんだがな。
こうやって王都に行くのも、もう慣れたもので、二時間くらい走り続けていると、王都の外壁が遠くに見え始める。
ここからは人目に付かずに、というのは不可能なので、人間達を怯えさせないようリルをゆっくり進ませていき、周囲の視線を一心に浴びながら外壁の巨大門へと辿り着く。
すると、いい加減ここの兵士達も俺のことを知っているのか、特に誰何されることもなく、多少緊張を見せながらもすぐに王都内へと通され、「勇者様より、言付かっております。魔帝陛下が到着次第、すぐにこちらへ向かうので、待っていてほしいと」と言われたので、小さくさせたリルと共に近くの建物の応接間っぽい部屋で少し待つ。
ただ、それは本当に少しで、どうやら元々こっちには向かっていた最中だったらしく、十分もせずにネルがやって来る。
「おにーさん、お待たせ! ごめん、ちょっと待たせちゃったね」
「いや、いいよ。多分忙しいんだろ、今」
彼女と共に建物を出て、再び大きくさせたリルに二人で乗る。
前に俺、後ろにネルだ。
「うん、エルフの皆様がいらしてて、その対応に僕も出ててね。いやぁ、あの人達、すごい僕を敬ってくれるから、ちょっと困っちゃうよ」
「はは、そういやお前、前の戦争の時に散々エルフ達を助けたんだったな。流石勇者様だ」
「そうだよ、魔王に篭絡されちゃった、勇者様だー! どうだ、怖いか―?」
笑い、後ろから俺に抱き着いてくるネル。
ふわりと漂う彼女の香りと、柔らかな体の感触が心地良い。
「おぉ、怖い怖い。愛想尽かされて敵に回られないように、もっといっぱい篭絡しないとな!」
「フフ、言ったね? 楽しみにしてるから」
そんなじゃれ合いを続けながら、王都の中を進む。
◇ ◇ ◇
王都アルシルの中央、王城へと辿り着いた俺達は、すぐに中へと通され、ネルの案内で会議室っぽい部屋へと連れて行かれる。
そこにいたのは壁際に控える兵士達と、テーブルを挟んで向かい合っている男女。
アーリシア王国の国王レイド=グローリオ=アーリシアと、エルフの女王ナフォラーゼ=ファライエである。
「! 魔王、久しぶりであるな」
「君か。よく来てくれた」
俺もまた、二人に一通り挨拶を返し、一緒にここまで来たネルも合わせて、少しの間近況に関する雑談をする。
各々のことや、国のことや、情勢の話。
まあ、ここまでが挨拶のようなものだろう。
「それで、何か話があるんだろ?」
「うむ、少々相談ごとがあっての。今、世界は拡張の時にある。人間が開発した飛行船があり、世界の隔たりが弱まり、ヒト種の間で交流が増えている。すると、次に必要になるのは娯楽じゃ」
「あぁ、パンとサーカスか」
あれは、元は批判的な意味合いで使われた言葉っぽいが、実際必要なものではあるだろう。
日々を楽しく生きていくには、無くてはならないものだと思う。
「ほぉ、面白い言いようであるな。そうじゃの、飯に関しては、飛行船による輸送で改善が見込まれるため、となると考えねばならんのは娯楽。そこで、全てのヒト種合同で、一つ祭りを行おうと思うての」
「へぇ……! いいね、そりゃあ、ワクワクするな」
他種族合同での祭りか。
異文化と交流するための良い機会だし、メッチャ楽しそうだ。
「ただ、その計画を練る段になって、フィナルから少々話があっての。『先々を見るなら、その祭りに、もう一つ要素を加えたいね』、と」
「要素?」
ナフォラーゼはコクリと頷き、言った。
「必要となるのは―― 代理戦争(・・・・) じゃ」
「……なるほど」
その一言で、王達が何を考えているのかを、理解する。
「闘争本能は……やっぱり、魔族が残っちまうか」
「うむ。ついこの前に大規模戦争が起こり、そして勝利した。それ故、ローガルド帝国以外、今はどの種族も満足しておるが……時が経てば、それも変わる。特に魔族などは、『力が全て』の価値観が根強いからの。フィナルも色々考えておるようじゃが、その解決には、少なくとも百年は先を見ねばならぬだろうな」
生物の気性など、そう簡単に変わりはしない。
この世界では、前世に比べて自然環境が厳しく、それ故にどの種族も『闘争』から逃れることは出来ず、ヒト種の本能に強く組み込まれている。
魔族なんかはその毛色が色濃く出ている訳だが、ただ前世を知っている身としては、他の種も結構そういう面が少なからずあるのは間違いないと思う。
今はまだ、戦争に勝った、という熱が残っているが、いつかはそれも冷める。
それで祭りで、代理戦争か。なるほどな。
「つまり、 競技会(・・・) 的なものが必要なんだな?」
「流石、察しが良いな。闘技大会でも良いのじゃが……もう少し、戦闘とは違った形でのものにしたくての。しかし、他種族合同で行う競技となると、身体能力の差からどうしても有利不利がある。それをどうしたものかと話し合っておったところじゃ」
エルフ女王の次に国王レイドが口を開く。
「ナフォラーゼ殿の言う通りだ。戦闘でもそうだが、走る、跳ぶ、などといった身体能力を競う競技会では、人間やエルフの勝ち目が薄い。もう少し、戦術に幅が出るような競技ならば良いのだが……とりあえず、魔法の能力を競う競技はやろうと考えている。それならば、エルフが突出しているものの、まだどの種族でも土俵に立てるのでな」
「どうであるか、魔王。何か、良き案があったりせぬか?」
二人の言葉に、俺は少し考える。
代理戦争の性質を持つ、競技会。
そう言われて思い付くのは、やはりスポーツ。そして、オリンピックだ。
それに相当するものを作ろうと、王達は考えているのだ。
ただ、こちらの世界では、わかりやすい球技のようなスポーツはそこまで存在しておらず、単純な身体能力を競うような、徒競走とか重量上げとか、陸上競技的なものが多いようなのだ。以前にレイラに聞いたことがある。
単純に、殴り合うような競技はどの種族も盛んらしいんだがな。
それはそれで面白いのだが、そういう身体能力がモロに出るようなものでは、国王の言った通り人間とかが勝つのが難しくなってしまうだろう。
言ってしまえば、俺とレフィでやるスポーツみたいなもんだ。
俺でもアイツに勝てる時はあるが、そういうのはゲーム性や戦術を、俺の方がよく理解しているものに限る。
……そうだな、身体能力に差があっても、戦術理解度の差によって勝てる競技、か。
この場合は、個人で戦うようなものよりも、集団でやるものの方が適してるだろうな。
まず頭に浮かぶのは、サッカー、野球、バスケだが……んー。
多分、ルールが浸透していけば、こちらの世界でも有名になるだろうし、盛り上がるだろうが、やはり浸透させるのに時間が掛かるだろう。
栄えある第一回をここで、というのも良いが……うん、とりあえず、競技の概念自体は、この機会に教えてみようか。
で、こちらの世界の魔法とかが合わさって、魔改造されてくれたら嬉しいな。
ゆくゆくはプロスポーツが種族ごとに出来てくれれば、万々歳だ。暇人だし、毎試合観に行っちゃうぜ。
ただ、多少なりともやったことがあればわかるだろうが、ボールを蹴る、ボールを投げる、なんてそんな一つの動作を取っても難しく、そして俺はスポーツ観戦が好きなだけのド素人なので、どれだけ教えられるかもわからない。
見ていて面白い試合にするには、ある程度フォーメーションとかが浸透している方が良いだろうが、俺はそこまで知らないためこっちの世界のヤツらに編み出してもらうしかないのだ。
……この場合、ラグビーとかアメフトとかの方が適しているか?
ラグビーやアメフトも、勿論素人がやるには、複雑な面があるスポーツだろう。というか、スポーツってそういうもんだ。
だが、手で持って運び、走り、そして何より陣形組んで肉体でぶつかり合うというのは、こちらの世界のヤツらに一から覚えさせるには、とっつきやすいんじゃないだろうか。
多分その競技会に出るのは兵士とか、血の気の多い戦闘を生業とするヤツらだから、そういうの好きそうだし。
他の競技と違い、思いっきり肉体の接触があるから、迫力あるしな。
まあ、過分に俺の趣味なんだが!
プロレスとか格闘技とかもそうだが、大の男が本気でぶつかり合うものは、マジでドチャクソに迫力があるのだ。
……あぁ、でも、スクラムとか組んだり、ライン同士のぶつかり合いとかした時に、人間に勝ち目がないか。
人間は、何でも出来る。
器用であり、そこそこ魔力があり、何よりも知恵がある。
特に真価を発揮するのは集団戦であり、それに関しては他種族も一目置いている程強い。
弱い人間が今まで生き残り続け、ヒト種の一角として存在感を示し続けることが出来るのも、知恵を絞って、能力の差を陣形などの戦い方の差で補ってきたからだ。
が、とりわけ『力』という点に関しては、弱い。貧弱だ。
エルフも同様だ。
エルフは、魔法がべらぼうに優れており、むしろその一点の尖った力で他種族と張り合えているが、肉体強度という点で言うと人間より貧弱である。
ラグビーやるエルフとか、絵面がなかなかシュールで見てみたい気がするけども。
……こうやって考えると、魔族ってやっぱり強いんだな。
ドワーフや獣人族は、力は飛び抜けて強いものの、魔法能力はイマイチだ。
そのせいで、と言えるのかはわからないが、勢力的に言うと少し劣ってしまっている印象を受ける。
それら四種族に比べて魔族は、大分混沌としてるので一概には言えないものの、基本的に力も強ければ魔法能力も優れている。
ドワーフや獣人族と力で張り合うことも出来るし、エルフのように魔法を自在に操ることも出来る。
少数部族が多く、そのせいであんまり纏まりがないという弱点があるからこそ、あと脳筋という弱点があるからこそ、今までの戦争でも一人勝ちすることはなかったが……仮にフィナルみたいな知恵の回る王が、本気で世界征服に動こうものなら、簡単にとは言わずともいつかは他のヒト種は征服されていたことだろう。
まあ、先々まで考えれば、それは悪手だとアイツが判断しているからこそ、あの腹黒は融和派なのだろうが。
これらの種族の特色を考えると、もう階級分けならぬ、種族分けでもした方が良いような気がするのだが、それじゃ意味ないしな。
代理戦争、という目的に添うのならば、やっぱり種族ごとで競技を行わせた方が良いだろうし……あ、けど、F1とか競輪みたいな、何か他のものを噛まして行う競技なら、身体能力の差なんて関係なくなるか。
魔法がある世界だし、個人的には『ポ〇ドレース』的なものが見たいな。
現実的に考えるとしたら、馬……それじゃ競馬だが、競技会としては見ていて楽しいかもしれない。
他には、魔物レースとか?
……いいな、楽しそうだ。足の速い魔物で、レベル帯を合わせて競わせたら、白熱しそうだ。
エキシビジョンマッチで、そういうの関係なく競わせても面白いだろう。ウチのリルとか参加させたいね。
いや、いや、待て、落ち着け。思考が逸れ過ぎだ。
ただの娯楽として考えるなら、それもありだが、というか普通に提案したいが、今求められているのは、ヒト種同士で行う競技だ。
……なかなか、難しいな。
「……色々考えはあるが、とりあえず俺が知っている限りの競技を、二人に話そう。それで考えてみてくれ」
そう言って俺は、アイテムボックスからホワイトボードを取り出す。
「それは?」
「これは、色々書いたり消したりが出来る、黒板……えーっと、まあ説明用の道具だ。こういうのは視覚的にわかるようにしないと、説明が難しいからな」
「……なかなか便利そうであるが、いつもそのようなものを持ち歩いておるのか?」
「え? おう。便利だし」
魔王の秘密道具の一つ、ホワイトボード!
フッ、魔王は、誰かに物事を説明をする時も、全力なのさ……。
ちなみにこの時、ネルが生暖かい目で「おにーさん、とりあえず何でもかんでもアイテムボックスに突っ込むクセ、治ってないねぇ」と呟いていたことを、俺は知らない。