軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

模擬戦

――アーリシア王国、王都アルシル。

とある教会に隣接された訓練場にて、訓練とは思えない程の激しい剣戟の音が鳴り響いていた。

木剣を振っている一人は、女聖騎士団長カロッタ=デマイヤー。

そして対するは、人間の勇者ネル。

二人とも戦闘に魔法を多用する、いわゆる『魔法剣士』と呼ばれるタイプであるため、あまり綺麗ではないが色とりどりの光が訓練場を暴れ回り、爆音が鳴り響き、地面が割れ、穴ぼこだらけとなる。

いつもならばここまでしないのだが……今日は、久しぶりの手合わせであるため、二人とも出来る限りの本気で模擬戦を行っていた。

カロッタ=デマイヤーは、政治的手腕、部隊指揮能力もさることながら、元々は本人の腕っ節の強さで名を馳せ、若くして聖騎士団長にまで登り詰めた傑物である。

観察し、動きを読み、パズルのように理詰めで相手を嵌め、倒す。

彼女と戦った相手は、まるで自らの思考が全て読み取られているかのような錯覚に陥り、動きに精彩さがなくなり、負けるのだ。

他種族に対し、身体能力の劣る人間の間では、頭脳を以て戦う戦闘方法を会得していることが多く、それを極限まで突き詰めたのがカロッタの剣術である。

もっと言うならば、その剣は『剣聖』と謳われた、先代の勇者レミーロが磨き上げ、人間の間で継承されてきたものだ。

カロッタもまた彼から教えを受け、それを自らのものにし、自身が使いやすいようにと改良、昇華したのである。

そういう剣術に加え、カロッタ自身がネルの訓練を付けていただけあって、クセから何まで知っており、今も彼女を翻弄することが出来ていたが――それだけでは詰め切れないだけの 能力差(・・・) が、今の二人には存在していた。

仕掛けたトラップを踏ませても、起動して効果が表れる前に跳んで逃げられる。

わざとこちらが誘い出した一撃を、危険と判断したのか途中で無理やり止め、別の一撃に切り替えられれる。

入る、と思った攻撃が、もはや理解不能な動きで回避される。

あれだけ素直で読み易かった動きに、二つも三つも未知の動きが入り、魔法が挟まり、逆に翻弄されているのである。

特に厄介なのが、やはりネルの攻撃だ。

軽く放ったように見えるネルの剣だが、空を切り裂く音からその重さが見て取れるのだ。

恐らく、ジャブのように見える一撃ですらも、それをまともに受けようものならば即座に体勢を崩され、その瞬間にこの模擬戦は負けで終わるだろう。

だから、全て受け流し、回避するしかないのだが、それは言葉で言う程、簡単なものではない。

――全く、とんでもない成長速度だ。これが、勇者に選ばれる者のポテンシャル、ということか。

技量という点に限って言えばカロッタの方が上であり、そのため未だ勝負に決着は付いていないが……このままでは負けると判断した彼女は、勝負に動く。

ただ、ネルもまた、カロッタと、先代勇者から剣の指導を受けた身である。

相手を観察する、という目は、彼女もまた持っているのだ。

なお、それが磨かれたのは、日常の中で、である。

幼女達は意外と平気で危ないことをするし、彼女の旦那は意外ではなく平気で危ないことをするし、同じ妻仲間には、最近は本当に頼もしくなったものの、それでも時折ポンをするのが二人いる。

そのため、自然と周りを見ることがネルはもう習慣になっており、それが今の場面でも生きていた。

――来るかな。

極度に集中した加速された世界の中で、相手の気配が変化し、勝負を決めに動いたのを感じ取ったネルは、カロッタが一歩を踏み込んで来たのと同時に、力を抜いたスピード特化の一撃を放つ。

出鼻を挫かれたカロッタは、今まで「ネルの攻撃を受けてはならない」という意識を持ち続けていたせいで、速さだけのその一撃も避けてしまい――だが、それは悪手である。

突如、ネルが攻撃途中の木剣から手を離し、すっぽ抜けて飛んでいきそうなそれを反対の手で掴み直したかと思うと、そのままグルンと回転。

避けたカロッタへと、遠心力の乗った追撃を放つ。

あまりに予想外の動きに、今度こそ避けることが出来ず、カロッタはどうにか木剣を挟み込むことで防御には成功したものの、警戒し続けた一撃を正面から受けてしまう。

勝負は、そこで付いた。

カロッタが構えた木剣は、刀身の中程でバキリと圧し折られ、ズン、と腕を伝わる衝撃が身体を硬直させ、あまりの重さに片膝を地面に付けさせられる。

その硬直の隙を逃さず、ネルは三撃目を放ち――それを、カロッタの首筋で止めた。

「僕の勝ちですね、カロッタさん!」

ニコッと笑い、ネルは木剣を引くと、手を伸ばす。

カロッタはその手を取り、悔しさと、そして同時に清々しさを感じさせる笑みで立ち上がる。

「フー……本気の模擬戦で負けてしまったな。流石だ。もう私では、お前には勝てんか」

「いえ、今のもギリギリでしたから! やっぱり、カロッタさんはすごいです。もう翻弄されまくりで、次はどう動いてくるのか、どうすべきなのかって考え続けてたせいで、頭の回路が切れちゃいそうでしたよ」

「フフ、いや、それでもお前はよく見えていたよ。多少私の方が手数が多かったとしても、お前はそれをしっかりと見て、対処出来ていた。身体能力では逆立ちしても敵わなくなった以上、お前とやるならば小手先の技に頼らねばならんが……それももう、見極められ始めているな。本当に、強くなった、ネル」

「えへへ……ありがとうございます。カロッタさんにそうやって褒めてもらえるのが、一番嬉しいです!」

可愛らしく照れた様子を見せるネルに、カロッタはフッと笑う。

ネルは、この一年で凄まじい成長をした。

それは、まず間違いなく、あの魔王と出会い、様々なことを経験し続けてきたから、なのだろう。

元々高いポテンシャルのある彼女に、その全てが糧となり、今に至っているのだ。

きっとネルは、歴代勇者の中でも最強になるのではないだろうか。

カロッタはその未来を想像して笑みを浮かべると、口を開く。

「ネル、今日は一日暇なのか?」

「はい、ここのところは、王都にいる時は待機ばかりなんですけどね。こちらのことを考えてだと思うので、ありがたいことではあるんですが」

「よし、ならば久しぶりに、二人で出掛けでもするか。お前の最近の話が聞きたい」

「やった、是非行きましょう、是非!」

そうして、二人が模擬戦を切り上げたタイミングで、声を掛けられる。

「――それ、余も混ぜてもらえると、嬉しいのう」

ネルとカロッタは、声の方を向き――。

「! ナフォラーゼ様!」

「女王陛下」

そこにいたのは、エルフの女王ナフォラーゼ=ファライエだった。