軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

翼の性能

俺は、一人、我が魔王城の上階から、草原エリアを見下ろす。

「さて……どうしよう」

ここんところずっと、『魔境の森』を探索する、という目的に沿って行動し続けていたが、あそこの謎の大部分は、今は知ることが出来た。

外の様子も、俺が考えなきゃならないような懸案事項は、特にない。

ローガルド帝国は、まあ余程がない限り俺がいなくても関係ないし、ドワーフの里とか獣人族の里にも行って、王達との交流も深めた。

俺の外敵という外敵は、もう魔物くらいのものだろう。

人間至上主義なんかも、俺が手出ししなきゃいけないものじゃないだろうし、ネルから聞く限り、大分収まってきているそうだからな。

つまり、何が言いたいのかと言うと――暇になった。

レフィに並ぶ強さを得る、という大目標と、我がダンジョンの発展、という大目標は、今後俺が生き続ける限り永遠に続けることだから良いとして、中目標と小目標が無くなってしまったのだ。

つっても、ここまでの日々でも毎日のんびり、好き勝手に生きて来ただけな訳だが……しばらく、何しようかねぇ。

ニートが如くゴロゴロして、ひたすらレフィとか、ウチの嫁さんらと将棋とかしてのんびりしても良いのだが……。

――うーむ、なんか新しい趣味でも探すかな。

俺は長命種だ。

長命種は、やはり『暇』が敵と聞く。

ドワーフの里へ行く途中で出会ったシセリウス婆さんや、精霊王なんかが旅をし続けているのも、暇を潰すため、という目的もあるのだろう。

旅は良いな、うん。

ここんところ出ずっぱりだったから、しばらくダンジョンから出るつもりはないが、またちょっとしたら……そうだな、次は『エルレーン協商連合』に遊びに行くか。

あとは、趣味といったら、芸術、か?

楽器でも手を出して……三日坊主になりそうだな。絵とかもしかり。

ま、まあ、俺には建築があるし、芸術はそれでいいかな!

新たな趣味は、うん、その内考えよう。その内。

百年二百年経ったらわからないが、別に俺、今の日々に全く飽いてないしな!

「……そう言えば、まだ翼の性能限界、試してなかったっけか」

草原エリアの空を見ていて、ふとそう思う。

種族進化により、三対に増えた俺の翼。

出力が大幅に向上したことはわかっているが、それがどこまでのものになったのかは、まだ試してない。

本気で飛んで、どれだけになったかは、まだわからない。

よし、ちょうど暇だし、試してみるか。

俺は近くのベランダに出ると、背中に三対の翼を出現させ、グ、と力を込め――手すりから一気に飛び立った。

一対一対を連動させ、力強く羽ばたくと同時、ビュウ、と風圧が身体を押し付ける。

グン、と加速する。

「ハハッ、いいねッ!!」

速い。

べらぼうに速い。

空(くう) を切り裂き、まるで弾丸にでもなった気分である。

速過ぎて、顔の前に原初魔法で風除けを生成していなければ、目も開けていられないくらいだ。

フハハハ、俺は風になっ――ぶへぇっ。

ガツン、という強い衝撃。

草原エリアの、 限界地点(・・・・) 。

一瞬意識が漂白した俺は、制御を失ってひゅるひゅると落下し……ドスン、と草原に墜落した。

「ぐっ、お、おぉ……い、痛ぇ」

墜落の衝撃で我を取り戻し、痛む顔面を抑えながら、ノロノロと身体を起こす。

痛い。

クソ痛い。

マジで痛い。

折れては、ないようだが……すぐに鼻の両方の穴から、ドロッとした血が垂れ始め、地面にボタボタと落ちていく。

もう、すごい量だ。

近年稀に見る鼻血量である。血のせいで詰まって、鼻で息が出来ない。

「ウゥ、上級ポーション……は、流石に勿体ないか」

アレ、当たり前のように使っているが、外だと秘薬の中の秘薬なのだ。

こんなことで無駄遣いしたとバレたら、後で普通に怒られそうなので、我慢しよう。

しょうがないので、アイテムボックスからポケットティッシュを取り出し、それを丸めて両鼻に入れる。

自分のマヌケな姿に泣きそうである。

「クソッ……こんな狭かったっけか? ここ」

草原エリアは、広さに制限がある。

どこまでも続いているように見えて、一定のところに、今俺がぶつかったような透明な壁が存在するのだ。

だが、初期の状態から随時拡張を行ったため、現在では昔の四倍近い広さになっているのだが……それでもまだ、狭かったようだ。

……いや、多分思っていた以上にスピードが出ていたため、そのように感じてしまったのだろう。

実際、今の本気の加速は、今までになかった速度が出ていたはずだ。

戦闘機ばり、は言い過ぎかもしれないが、民間セスナ機以上の速度は出ていたんじゃないだろうか。

いや、別に俺、飛行機に詳しい訳じゃないので、全然わかんないけども。

少なくとも、こっちの世界で使われ出した、飛行船なんかとは比べものにならないくらいの速さはあったはずだ。

どっちにしろ、翼の性能を試すんだったら、ここじゃなくて、魔境の森に行くんだったか。

「……とりあえず、草原エリアは拡張しよう」

ここから、さらに二倍くらい広くして……そろそろ草原だけじゃなくて、山とか谷とかも追加するか。

もう、草原エリアを、草原だけじゃないエリアにしてやる。

◇ ◇ ◇

そうして、親の仇が如く拡張作業に精を出していると、横から怪訝そうな声を掛けられる。

「――何じゃ、その顔は」

そこにいたのは、レフィ。

どうやら散歩でもしていたらしい。

最近彼女は、毎日一定時間、必ず軽い運動をするようにしているらしい。

妊婦にも軽い運動は必要だ、ということを聞いてから、そうやって散歩をすることに決めたようだ。

多分コイツ今、妊娠前よりも運動してるだろうな。

普通に嬉しくて顔がにやける。

「レフィ。いや、その……飛んでたら墜落しまして」

「はぁ?」

「翼の性能限界調べてたら、草原エリアの限界地点の壁に激突しまして……」

俺の言葉に、彼女は心底呆れたような顔になる。

「……お主が阿呆なのは知っておるが……随分とまあ、間抜けな顔じゃのぉ」

「ぐっ……」

マヌケな相貌になっているのは自分でもわかっているので、何も言えない俺である。

「全く。あとで、シィにでも治してもらうんじゃの」

「お前は治してくれんのか?」

「それじゃとお主が反省せんじゃろう。しばらくその顔でいるんじゃな」

「ぐぬぬ……傷心の旦那の傷口に、塩を塗り込むのはどうかと思うぞ、我が妻よ」

「生憎じゃが、妻として夫の阿呆さに呆れておるところじゃから、今のお主を励ます気はせんな。今の顔を鏡で見てみると良い」

「絶対見ねぇ」

「……ま、儂は散歩に戻るでの。腹立ち紛れに草原えりあを拡張するのも良いが、夕飯までには戻るんじゃぞ」

「笑止! 俺とヤツとの因縁、晴らさでおくべきか! 俺はここに、更なる楽園を築いて、見返してやるんだ!」

「はいはい。遅くなるのならば、それはそれで連絡せぇよ」

レフィは再び散歩に戻り、残された俺は、再び拡張作業に戻るのだった。