軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

命は循環す

そこには、他に、誰もいなかった。

シンとした、静かで、ひっそりとしていて、物も少ないその場所。

時が止まってしまったかと思わんばかりの、静寂。

そんな場所で、一人玉座に座っていた『彼』は、老い、しわの増えた自身の手を見る。

すでに死んでしまった友人達に合わせ、肉体をヒト型にして過ごすことの多かった彼であるが、その疑似的な肉体もここまで老いてしまっていた。

もはや、満足に動かすことも、叶わない。

あちこち痛み、動くのも億劫で、体内に存在する膨大な魔力の流れも淀んでしまっている。

一つの魔法を発動するのにも時間が掛かるような、全盛期と比べたら劣りに劣ってしまった肉体である。

さらには、有り余る魔力量に肉体が耐えられなくなっており、何かを発動しようとすると、痛みが走るようになってしまった。

それが理由で、もう本来の肉体に戻るのも億劫になってしまい、ここ百数十年はずっとこのままである。

死が目前の、壊れかけの肉体。

だが――それでも彼は。

愉快げに、心から笑っていた。

「ク、ク……」

自分は老いた。

ここまで、 老いることが出来た(・・・・・・・・・) 。

これは、勲章だ。

誰も届かぬ、ここまでの長い生を送ることが出来たのだから。

原始たる世界が、どんどんと発展していき、ここまでになるのを見届けることが出来たのだから。

そしてこの世界は、『ドミヌス』は、ここからさらに時間を掛けて発展していき、広がり続けるのだろう。

死の間際となって、友人の言葉を思い出す。

命ある者は、命ある限り生き抜かなければならないと、口癖のように言っていたその言葉。

「ルィンよ……俺は、生き抜いたぞ」

彼は、笑って玉座を立ち上がり、思い通りに動かない身体を引きずって、歩く。

広く長い廊下をゆっくりと進み、やがて彼の目に飛び込むのは、どこまでも続く青空に、暖かな陽の光。

過ぎ去る緩やかな風が頬を撫で、眼前に広がる草原の草々を揺らす。

いつ見ても、心が熱くなる風景。

命に満ちた、世界。

死は、命ある者ならば、平等に訪れる。

その後に何があるのかなどは、神と呼ばれた身を以てしても見通すことは出来ず、何もわからない。

だが、何を怖がる必要がある?

自らが築き上げた『生』は、この世界に刻まれ、循環し、そして繋がっていく。

死とは終わりではなく、更なる生へと繋がっていくのだ。

「――良き生だった!」

彼は、大口を開けて、笑い――。

◇ ◇ ◇

草原エリアにて。

「おにいちゃん、気持ち良いね~」

「そうだな~」

「あるじ、みてみて、おはなのわっか~」

「おっ、やるな。上手いもんだ」

「あ、それねぇ、リューおねえちゃんが教えてくれたんだよ! リューおねえちゃん、こういうの上手いの!」

「……ん。リュー、色々知ってる」

「へぇ! そうなのか」

「カカ、普段からはあまり想像が付かぬな。故郷で教わったんじゃろうか」

草原にレジャーシートだけを敷き、その上に寝転がっている俺達の周りで、元気いっぱいに遊ぶ、幼女組。

ピクニック、という程明確なつもりで出て来た訳ではないが、何となく、今日はみんなで草原に行くかという話になり、やって来ていた。

ネルとリューとレイラは、弁当を作って後から来る予定だ。

最初はそっちを手伝うつもりだったのだが、珍しくリューがやる気で、「今日はウチがやるっす! あ、でも……い、一応、レイラとネルが見ててくれると安心出来るっす!」ということで、三人に任せて先に外へ出ていた。

――と、俺の隣のレフィが、さぁ、と吹く風に髪をなびかせながら、目を細める。

「やはり、この草原は心地良いの……お主も良いものを作ったもんじゃ」

「おう、次案として、魔王城に相応しいような、もっとおどろおどろしい感じにしようかって考えもあったんだけどな。やめといて良かったわ」

ちなみに、この草原の草や、中庭の花壇の花、ダンジョンに生えている木々だが、これらは一切水をやらなくても枯れず、青々としているものの、かと言って造花という訳でもない。

どうやら、これらもやはりダンジョンの魔力を栄養にして存在しているらしく、故にヒトが世話せずとも、ダンジョンが存在し続ける限りは同じように存在し続けるようだ。

ありがたい限りである。

まあそれでも、気分を変えるために、時折ここに雨を降らしたりはするんだがな。

えー、我が家の天気予報は、百パーセントの確率で当たります。

魔王は、天気予報士としても一流なのだ。ダンジョン限定だが。

「お主の阿呆の部分――もとい、趣味的な部分ではなく、実用的な部分の思考が出てくれて助かったの」

「わかってないな、レフィ。発明、創作というのは、ロマンのその先にこそ存在しているのさ」

「はいはい」

テキトーな返事だけをし、レジャーシートの上に寝転がる俺の腹を枕に、同じように寝転がるレフィ。

幼女達の楽しそうな笑い声。

しばし、その穏やかな時間を味わった後、ふと思う。

「……何か、不思議な気分だな」

「ふむ? 何がじゃ?」

「いや……この世界は、こうやって回り続けて、今になってるんだろうなって思ってさ」

そう言うと、俺の腹の上でゴロンと身体を動かし、こちらの顔を覗き込んでくる。

「神々の話か?」

「……お前は本当に俺のことをわかってるな」

「カカ、儂はお主の妻じゃからの。それなりにはわかるわ」

「――おーい、みんな、お弁当出来たっすよー!」

「リュー印の、美味しいお弁当だよー」

「出来立てホヤホヤですよー」

「あ! おねえちゃん達!」

やって来る、三人。

「リューおねえちゃん、おべんとー、どーお?」

「……どーお?」

「フッフッ、ウチは進化したんすよ、シィ、エン! ポンコツ妻リューから、デキる妻リューに!」

「実際、今回は普通に美味しく出来たと思いますよー。もう、私達が見ていなくとも平気だろうってくらいには、リューの手際も良くなっていますからー」

「ねー。僕も負けられないわ」

「えへへ、二人がそう言ってくれると、とっても嬉しいっす!」

「む、ならば儂も、負けんようにせねばな。――と、ネル、仕事は明日からじゃったか?」

「うん、今日の夜にはこっちを出るよ。ちょっと長くこっちいちゃったから、次帰るのは少し遅くなるかも」

「じゃあ今日の晩御飯は、ちょっと豪勢にしないとだな」

「「やったぁ!」」

「……やったぁ」

風。

周囲の木々、そして花々が、まるで笑うように、揺れる。