軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

「――それにしても、ヒト種の社会が多様なのは知ってるけど、最近は忙しない感じがするねぇ。こんな風に、他種族が同じ船に乗っているところからして、何かあったのかい?」

俺が船長とのやり取りを終え、お茶会を楽しんでいる嫁さんらの方へと向かうと、そう問い掛けてくるシセリウス女史。

「実は、少し前にヒト種の間で大きな戦争があったんだ」

「へぇ? 戦争が。……そう言えば、つい最近大陸の南方で大きな魔力のぶつかりがあったね。あれかい」

……ローガルド帝国は、大陸南方に位置している。

やっぱり、この龍ら程力があると、離れていてもそういうのを感じるのか。

「多分、それだ。本当に大きな戦争だったから、ヒト種の種族関係が大きく変化して、以前より交流が増えてるんだ」

「ふぅん……もしや、それでアンタ、『陛下』なんて呼ばれているのかい?」

「ん、あぁ。そうだ。成り行きでローガルド帝国ってところの皇帝になったんだ」

「どんな成り行きなんだって話ですよね」

「ウチらも、初めて聞いた時にビックリしたっすよ」

笑って、そう言葉を挟む嫁さん二人。

「なるほどねぇ。魔王でありながら龍王になり、さらにはヒト種の皇帝にまでなったと。アンタは相当、数奇な運命を歩んでいるようだね」

我ながらそう思うよ。

生まれは異世界だし。

「それで……ちょっと前の話の続きをしたいんだが、いいか?」

「ん、アンタが聞きたいのは、神々に関する話だったね。――と言っても、アタシが知っていることは大体もう話したよ。世界には、『神』という生物が生きていた。そしてその『神代』の遺産は、この世界には幾つも残っている」

「神代……」

神代。

神の生きた時代。

……そう言えば、いつかレフィが言っていたな。

魔境の森は、神が没した地である、と。

その神とは恐らく、そう呼ばれるまでに長く生き、力を持った生物だろう、と。

魔境の森も、何か関係があるのだろうか。

「アンタが、それらを知るために山の民の里へ向かうというのは、正解さ。あそこには、恐らく神代に作られたであろう遺跡が残っている。その眼で確かめ、山の民から色々と話を聞いてみるといい」

山の民とは、ドワーフの別の呼び名だ。

そうか。

今回の旅行は、ピッタリ俺の目的に沿ってくれているのか。

「あとは……そうだ、これも見せておこうか」

と、そう言って彼女は、片手をスッと振ってそこに空間に裂け目を生み出し、中へと腕を突っ込む。

あれは、俺のアイテムボックスと同等のものだな。

少しの間ゴソゴソと漁る素振りを見せた後、彼女が取り出したのは――。

「ッ、そ、それは……」

分析スキルが、彼女が持っている物の正体を俺に伝えてくる。

いや……分析スキルなど使用せずとも、一目見れば、それが何か俺にはわかるのだ。

彼女が手にしているのは、 骨のような質感の(・・・・・・・・) 、 武骨な杖(・・・・) 。

見覚えのある意匠に、この、恐ろしい威圧感。

俺は、よく知っている。

そして、シセリウス女史は言った。

「これは――『神杖』だ」

神杖:???

品質:???

神杖、か。

……この様子だと、神剣とか、神斧とか、もっとあるかもしれないな。

「一つ隣の大陸で、アタシが見つけたものなんだけど……その顔、見覚えがある感じだね?」

「……あぁ」

一つ頷き、俺もまたアイテムボックスを開き、中から例の神槍を取り出す。

「! それは……」

「こっちは、神槍だ。龍の里で、最も老いた龍のローダナスにもらったんだ」

「なるほど……ローダナスの爺様め、こんなものを隠し持ってたのかい」

……話からして、シセリウス女史は龍の里の出だと思われるが、この反応からするとコイツのことは知らなかったのだろうか?

「うわ、何それ。おにーさん、そんな武器も持ってたの?」

「何だか、恐ろしい武器っすねぇ……」

「おう、相当ヤベー武器だから、アイテムボックスからは滅多に出さないようにしてるんだ。――これのことは、知らなかったのか?」

俺の言葉に、シセリウス女史は頭の痛いような表情で答える。

「……アタシが神杖を手に入れたのは、ほんの数十年前のことでね。里で見せたことはないし、里にその槍があることを知らなければ、それに関する話もしないさ。それに……その槍は恐らく、龍王となったアンタが、何らかの口伝によって貰ったものだろう?」

「あぁ、何十代か前の人間の龍王が残してくれたものだって聞いた」

「だったら、アタシには何があっても教えてくれなかっただろうさ。あの爺様、結構頑固だからね。……そうかい、里にも一つあったのかい。杖を発掘した時は、かなり喜んだんだけどねぇ」

ハァ、と大きなため息を吐き、微妙にやるせない顔をしている彼女に、俺は苦笑を溢す。

「まあ、お互いここで出会えて良かったんじゃないか?」

「……ん、本当にそうだよ。うん、今日、良き知識に出会えたことを、喜ぶとしよう。龍王、それを見せてもらってもいいかい?」

シセリウス女史に神槍を渡すと、彼女は丁寧に、隅々までを確認していく。

「……同じ意匠、間違いない、神杖と同一の作り手だね。こちらも骨製のようだけど、ただ秘める魔力の質に多少の差異がある。素材となったものが違うのかい? そして、全体に仕掛けられた魔術回路の精度。到底只人がやっていい領域じゃあないねぇ……」

槍の解析に没頭している彼女の瞳が、だんだんと輝いていく。

笑みが大きくなっていき、やがてその口元には、満面の笑みが浮かんでいた。

「楽しいねぇ、これだから世界は最高なんだ。何ともまあ、心躍ることか。ありがとう、龍王。良いものを見せてもらったよ」

「何か、わかったことはあったか?」

返してもらった槍をアイテムボックスに突っ込み、そう問い掛けると、彼女は爛々と輝く瞳で答える。

「杖はともかく、槍とは完全に戦いの道具。 敵(・) が、いたということ。これだけの品を、ただ観賞用に作った訳でもないだろうしね。―― 何かがあったんだ(・・・・・・・・) 。遥かなる過去に、このような武器を作らなければならなかった、何かが」

「…………」

「それが何かは、わからない。アタシも色々と見てきたし、調べてきたが、それらしい記述を見たことはない。けど……今のアタシならば、前よりも多くの情報が得られるはず。ここから調査のやり直しだね。いやぁ、俄然楽しくなってきたよ!」

そう言って彼女は、立ち上がる。

「? どうした?」

「結構長くいちゃったから、アタシはここらでお暇させていただくよ。あんまり長居すると、アンタ達はともかく、他の子達がちょっと可哀そうだ。何より、今のアタシには、じっとしていられない大きな理由が出来ちまったからね!」

「……残念。もっと、お話ししたかった」

「フフ、ごめんね、ザイエン嬢ちゃん。ただ、これで完全にお別れって訳じゃないんだ。アンタらの住む魔境の森にも興味が湧いたから、その内遊びに行かせてもらうよ」

「その時は、今度は僕達の方が美味しいお茶をご馳走しますね!」

「いっぱい歓待するっすよ!」

「ありがとう、ネル嬢ちゃん、リューイン嬢ちゃん」

ウチの嫁さんらが言葉を交わした後、俺も声を掛ける。

「そうか……好奇心が疼いたのなら、仕方がないな。色々教えてくれて、助かった」

「アタシの方こそ、感謝するばかりだよ、龍王。何かわかることがあったら、アンタにも必ず教えよう。レフィシオスの嬢ちゃんにもよろしく言っておいておくれ。――じゃあね、アンタ達。楽しい時間を、ありがとう」

その言葉を最後に、彼女はこの場を後にし、近くで待機していた船員に聞いて外部へのハッチがある場所へと向かい――やがて、飛行船の外に巨大な龍が出現し、それがゆっくりと離れて行ったのだった。

* * *

シセリウス女史が去ってから、すでに数日が経過した。

あの出会いは、本当に有意義なものだったな。

あれだけで、この旅行は正解だったと言えるだろう。

最初こそ色々トラブルが重なったものの、その後は何も問題なく、優雅な空の旅である。

――若干一名、壊れ始めたことを除けば、だが。

「ふろ~ふろ~おふろ~! ふろ~ふろ~ふろーしょとく~! あぁ恋しいおふろ~」

「ご主人、マズいっす。お風呂への恋しさが爆発して、ネルの知能指数が大幅に退化し始めたっす!」

「……ん、仕方がない。お風呂は定期的に摂取しないといけないもの。シィならもう、へなへなになっちゃってる」

……以前の飛行船での旅路より日数が掛かっているのだが、そのせいでネルの風呂我慢ゲージが振り切れてしまったようだ。

「お、おう、落ち着け、ネル。今から向かうドワーフの里は火山地帯にあって、つまり土地柄で温泉が湧いてるらしいんだ。だから、着いたら速攻で入りに行こう。な?」

この飛行船に乗っていた、少し仲良くなった商人ドワーフに聞いた話だ。

里は火山の麓に存在しており、故に天然の湯がそこかしこで湧いているため、それを観光財源にしているのだとか。

俺の言葉に、椅子に座りながら、変な恰好で壁にもたれかかっていたネルが、ガバリと立ち上がる。

「ホント!? うおー、温泉だー! リュー、エンちゃん、お風呂だよお風呂! 我々の主食であり、日常に欠かせない癒し! そう、お風呂とは精神安定剤なのだ!」

「ネル、ウチもお風呂は大好きっすけど、残念ながらそれを食料としているのはネルとシィちゃんだけっす。いや、シィちゃんも別に食べてる訳じゃないと思うので、厳密にはネルだけっす」

「細かいことはいいの! 僕達はみんな、お風呂に生かされ、お風呂に守られているんだよ。そう、みんなでお風呂を崇めよう……」

風呂に守られるとは。

「……お前、そんなんなのに国ではよく我慢出来るな。向こうの家には、特に風呂が備わってる訳じゃないんだろ?」

ネルが、アーリシア王国で過ごす部屋には、風呂は付いていないと聞いている。

というか、そもそもこの世界、風呂自体高級品なのだ。

毎日入るなんて贅沢が出来るのは、それこそウチとか、火山地帯とか、特殊な環境の家に限るのである。

「あぁ、えっとね、前は我慢してたけど……ダンジョンの我が家で、お風呂がある生活が染み付いた今はもう全然我慢できないから、実はわがままを言って寮にお風呂作ってもらったんだ。珍しく言ったわがままだったから、結構すんなり要望が通ってね。えへへ」

コ、コイツ、相当な風呂好きなのは知ってたが、まさかそこまでの風呂過激派だったとは……。

ま、まあ、ネルも『勇者』という要人であることは間違いないし、そんな要望が通るくらいには偉いのかもしれないが……なんかちょっと、教会の面々に申し訳ない気分である。

その時のネルはきっと、ガチの目をしていたことだろう。

決して「否」とは言えないような雰囲気で。

「……あれっすねぇ。ネルもやっぱり、ウチの人っすねぇ」

「……ん、同意。家でよく見る目をしてる」

「言われてるぞ、ネル」

「ふははは、何とでも言うがいいさ! 僕こそがお風呂魔王! 全てはただ、お風呂のために!」

――そうして、風呂過激派を三人で宥めていた数時間後。

飛行船は、ドワーフの里へと到着した。