軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ドワーフの里へ《3》

俺が逃げる素振りを見せたらすぐに察知して逃げられるよう、ネルとリューに船尾の展望デッキにいるよう言った後、俺はまず護衛の兵士達の下へと向かった。

「? 陛下、どうされましたか?」

「外に龍族を発見した。どうやらこの船に向かっているらしい。操舵室に向かうから、一人付いて来てくれ」

護衛の兵士達にそう告げると、一瞬俺の言葉が理解出来なかったのか固まり、その後例の女性魔族兵士が、いち早く硬直から復帰する。

「りゅ、龍族ですか!?」

「悪いが問答している暇はねぇ。俺一人よりもアンタらの誰かがいる方が話がしやすいだろうから、付いて来てくれ」

俺の言葉に、彼らは即座に目の色を変え、一瞬でピシリとした空気へと変貌する。

……ん、やっぱり精鋭なんだな。

そうして俺に付いて来たのは、やはりその女性魔族兵士。

名前は、エランナと言ったか。

どうも、彼女が護衛達の代表であるようだ。

その頃には、船の乗組員達もまた異変に気付いたようで、非常に慌てた様子で動き回っているのが窺え、他の客達もまた何事だといった感じの怪訝そうな表情を浮かべているのがわかる。

早いところどうにかしないと、パニックでも起こりそうだな。

「――船長!」

関係者以外立ち入り禁止だと止めてくる船員を押し退け、勝手に操舵室に入り声を張り上げる。

すると、怒鳴るように指示を出していたこの船の船長は一瞬驚いたような顔をした後、面倒そうなのが来たと言いたげな表情を浮かべる。

まあ、彼からすれば、今の事態に俺が現れるのは、クソ面倒なのは間違いないだろうな。

出発前、一度挨拶をされているため、顔はお互い知っているのだ。

「……陛下、申し訳ありません、現在非常事態であります。御用ならば後程伺いますので――」

彼の言葉を途中でぶった切り、俺はすぐに本題に入る。

「あの龍には、何の用か俺が話してくる。だから、この船はこのまま進んでてくれ」

「……は? こ、このまま?」

「あぁ。元の航路通りに飛んでくれ」

船長は、わかりやすく渋面を浮かべる。

「し、しかし、それでは逃げることが……」

「龍族に捕捉された以上、今更逃げても無駄だ。だったら、なるべく刺激するような動きは見せないでくれ。龍族は大体が大らかだし、現時点で何もない以上は多分敵対とかされないと思うが……俺達が何人いようが関係なくぶっ殺せるのは、間違いないんだからな」

龍族は野生生物などではなく、理知的で懐が深い種だ。

が、全員が全員そういう訳ではない。

あの龍のことを一切知らない以上、警戒しないというのはアホの所業だ。

俺は一方的にそう言うと、「何を」と制止してくる船員達を無視し、数度使ったことのある飛行船のハッチを勝手に開ける。

風が入り込み、轟音が唸る中、最後にもう一度彼らに念を押す。

「いいか、頼むから余計なことをするなよ! 俺以外の翼持ちの魔族も、外に出て来るな! 頼むぜ」

「……もし、敵対されてしまった場合は!?」

「その時は――諦めろ」

そして俺は、背中に二対の翼を出現させ、飛行船から飛び立った。

* * *

あの龍は、やはりこちらを目指しているようだ。

飛行船から出て来た俺のことも、とっくに気付いていることだろう。

あの龍の縄張りにでも這入り込んでしまった――いや、この辺りに龍族の縄張りがあるのならば、流石に事前調査でわかるか。

そもそも、ここらへんはヒト種の国が多くある。

龍族の縄張りがあるようなところにヒトは街を作らないし、龍族も近付かない。

ヒトが街を形成するのは、魔素の薄い場所に限るからだ。

となると、恐らくあの龍はどこか他所からやって来たのだろうが……いったいどういう目的でこっちに向かって来ているのだろうか。

……もしや、流れで龍王にもなっている、俺に用があったり、とかか?

「……実際に聞くしかないか。エン、もしもの時は、頼むぞ」

『……ん。任せて。エンは、いつでも、主のための剣』

気負いはなく、ただそれが自らの役割であり、生き方だと、静かな熱意で伝えてくるエン。

この子がいてくれるだけで、俺はどれだけの勇気を貰えていることだろうか。

そして俺達は、そのまま空を飛んでいき――やがて会話が出来るくらいの距離まで近付く。

『魔族……いや、近いけど、もっと違う何かだね。それに、この覚えのある気配。アンタ、何者だい?』

その龍は、近付く俺を見て、どことなく不思議そうな様子で問い掛けてくる。

声の感じからして、恐らく婆さん龍だろう。

声音に、敵意は欠片も無い。

ズシンと来るような威圧感こそあるが、魔力の高まりも一切感じられない。

良かった、大丈夫だろうとは思っていたが……一安心だな。

俺は内心で安堵しながら、彼女の問いに答える。

「俺は魔王ユキだ。色々あって、龍王になってる。どうぞよろしく」

そう名乗ると、彼女は俺の上から下までをまじまじと見詰める。

『ふむ? ふむふむ……ほぉ、なるほどねぇ、アンタが噂の、新龍王かい。レフィシオスのやんちゃ娘を娶ったっていう、恐れ知らずの魔王。ちょっと前、一度里に帰った時に話は聞いたよ』

里、というのは、『龍の里』のことだろう。

この婆さん龍も、あそこの出身なのか。

彼女の言い草からすると、以前俺達が訪ねた時は、留守にしてたんだろうな。

……あと、レフィに対し『やんちゃ娘』なんて言える者を見る度に、この世界のスケールのデカさをひしひしと感じるものである。

「レフィのことを知ってるのか?」

『フフ、何を言ってるんだい。あの子を知らない龍族なんて、世界広しと言えどどこにもいないだろうさ。――アタシは、シセリウス。よろしく、新龍王ユキ』

名:シセリウス

種族:古代龍

Lv:7??

強いな。

今の俺では全てを見ることが出来る訳ではないが、紛うことなき、世界最強の種族のステータスをしているのがわかる。

俺が以前に殺したアホの黒龍や、つい最近の、冥王屍龍の 残骸(・・) などとは違う、本物の龍だ。

とりあえず、まだ鞘からは抜いていないものの、武器を出しっ放しでは失礼に当たると思ったので、俺はエンをアイテムボックスにしまおうとし――というところで、婆さん龍が興味深そうな声を漏らす。

『お? その武器、思念があるね。珍しい、インテリジェンス・ウェポンかい』

「ん、あぁ、その通りだ。俺の愛武器の、罪焔だ。――エン」

『……おばあちゃん、こんにちは』

俺の様子から、もう警戒する必要はないと彼女も理解したのだろう。

いつものような、のんびりとした口調で挨拶するエン。

『はい、こんにちは、お嬢ちゃん。……お嬢ちゃん、で、いいんだよね?』

『……ん、勿論』

『はは、ごめんよ。一応確認しただけだから、気を悪くしないでおくれ。……うーむ、これだけしっかりとした意識のある剣か。本当に珍しい。アタシの長い生の中でも、見るのは初めてだね』

好奇心に輝く彼女の瞳を見て、俺の脳裏に、レイラやレイラの師匠、エルドガリア女史の姿が思い浮かぶ。

「……もしかして、学者なのか?」

『ん? あぁ、言葉として表すのならば、それに当たるのかもね。ま、暇潰しさ。アタシらは命が長いが、世界に散らばる不可思議は、アタシの一生を掛けても解き明かすことなんて出来やしない。なら、無意味に日々を過ごすよりも、それらを知るために生きる方が余程楽しいというものだろう? 里のボンクラジジイどもは籠り切りだったりするが、暇じゃないのかねぇ?』

……何と言うか、豪傑、って感じの婆さんだな。

多分だが、彼女もまた、龍族の中では有名な龍なのだろう。

いや、もしかすると、ヒト種の歴史にも、レフィと同じようにその名が出ているかもしれない。

『それで……教えてほしいんだが、アンタらの乗っているあの飛行物体。あれはいったい何なんだい? 最近空を飛んでいるようだが、全く見たことのない形だ。どういう魔法を使っているのか、もうサッパリさね。恐らくだが、人間が開発したものだろう?』

なるほど、それでこっちに近付いて来たのか。

好奇心が、抑えられなくなってしまった訳だ。

全く歳を感じさせない、その若々しい様子に俺は一つ苦笑を溢す。

「俺も詳しい仕組みとか、使っている魔法とかは知らないんだが……あの膨らんでるところあるだろ? あそこに空気より軽い気体が入っていて――」

* * *

――その頃、操舵室では。

「せ、船長、どうされますか?」

狼狽えた様子の船員の言葉に、船長は奥底に懊悩を感じさせる非常に険しい表情で、卓上のレーダーを確認する。

このレーダーは、エルレーン協商連合が他種族へと飛行船を売る際、交換条件として得た新魔法技術だ。

一定以上の魔力を有する、警戒すべき強さを持つ生物を判別可能なもので、試験運用している最中の品だが……そこには今、二つの光点が映っていた。

片方は、生物としては破格の魔力量をしていることがわかる、船から離れていく光点。

そしてもう片方は、この船に近付く、レーダーの故障ではないかと疑ってしまいそうになる程の、もはや観測不能な魔力量をしている光点。

ヒト種の範疇から外れているヒト種と、生物の範疇を超えた生物。

次元が違う。

「……魔族の兵士殿。私は件の戦争には参加しておらん。エルレーン協商連合から来た、ただのしがない飛行船乗りだ。彼が、新皇帝が英雄だとは聞いているが……それを信じてよいのか?」

龍族。

何者も抗えない、世界最強の生物。

彼らは、基本的には世俗に興味を持たないものの、仮に敵対しようものなら全てを灰に変えることが可能であり、彼らによって滅ぼされたヒト種の国は、歴史を紐解けばすぐに見つけることが出来る。

このレーダーの表示を見るだけでも……そのことは、理解したくない程に無理やり理解させられるのだ。

船長の言葉に、ユキと共に操舵室を訪れた女性魔族兵士、エランナはやはり険しい表情をしていたが、しかし彼とは違い、その表情に微かな希望を見せていた。

「ローガルド帝国に出現したアンデッドドラゴンが討伐出来たのは、まず彼のおかげです。彼がいなければ我々は全滅し、戦争に負けていた可能性すらあります。アンデッドドラゴンよりも、成体の龍の方が強いことは間違いないでしょうが……仮にヒト種で龍族に抗える者がいるとすれば、彼だけでしょう」

「…………」

それに、とエランナは言葉を続ける。

「陛下も仰っていましたが、もう、この距離では、逃げても無駄でしょう」

「……もはや、他に選択肢は無し、か。――お前達、彼の言った通り、通常運行で進むぞ。だが、本当に、何が起こるかわからない。ひと時も気を抜くな。常に神経を張り詰めろ。異変があれば、何でもいいから即座に知らせるんだ」

「乗客の方には……どう、説明されますか?」

「……強い魔物が出たとは、伝えよう。だが、龍族とは言うな。船内でパニックなど起これば、陛下に迷惑だろう」

針で刺せば破裂してしまいそうな、張り詰めた緊張の只中に置かれた彼らは、出現した龍と新皇帝が、現在和やかに談笑しているということを知らない――。