軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

変化

朝。

眠りと覚醒を行き来するような心地良い 微睡(まどろみ) の中、俺の表層に浮かぶ意識がその音を捉える。

「――おにいちゃん、おねえちゃん!朝だよー!起きてー!」

「…………んぁ」

「起きてってばー!」

耳に入って来るのは、天上の調べのような、綺麗で幼い声。

まるで子守唄のように聴き心地の良いその声を耳にしながら俺は、その一言を絞り出すように言う。

「……‥も、もうちょっと」

「ダメだよー!もうレイラおねえちゃんが朝ごはん作ってくれたんだから!」

「わ、わかった、わかったから揺らさないでくれ……」

天上の調べのような声の持ち主――イルーナによって揺り起こされ、俺は意識を覚醒させた。

あぁ、眠い……。

と、上体を起こしたその時、何か暖かい物が俺にピタッとくっ付いていることに気が付く。

「何だ……?」

視線を下ろしてその正体を確認すると――それは、俺の服の端を握り、眠っているレフィだった。

彼女の寝顔はあどけなく、これだけ見ていると歳相応の少女にしか見えない。

そうか、昨日……ムキになったレフィに付き合わされて、結局明け方近くまで勝負してたんだった。

横にゲーム盤置いたままだし、二人してそのまま寝落ちしてしまったんだろう。

「レフィ、朝だぞ」

「…………ん…………」

「ほら、起きろ、飯だってさ」

「…………もうあと、十七年」

いやに具体的な数字だな。

「おねえちゃんも起きてー!ごはんですよー!」

「う……わかった、わかったから揺らすな……」

イルーナに揺すられ、さっきの俺のセリフとほとんど同じことを言うレフィに苦笑を溢し、俺はのそりと立ち上がる。

ヘンなところで寝たせいか、身体が強張ってあちこちが痛い。まったくレフィめ……負けず嫌いなのはわかるが、だったらもうちょっと強くなってくれ。勝負が終わらないだろう。

そんなことを考えながら肩をくるくる回していると、イルーナが不思議そうな顔をして俺を見上げた。

「あれ?何だか……おにいちゃんかっこよくなったね!」

「ん?そうか?ありがとう。イルーナも可愛いよ」

「えへへー、おにいちゃんもありがと!」

そう言葉を交わしながら、イルーナと眠そうに頭をフラフラさせるレフィを伴って、玉座の間の一角、テーブルの置かれた場所へと向かう。

そこに座っているのは、メイド服に身を包んだリュー。

メイドが主人と同じに卓に座るなんて、みたいな押し問答を一通り前にやったのだが、別に彼女らには家事をやってもらいたいだけで、待遇までそんな家政婦染みたものにするつもりはないので、そこには気を遣わないように言いつけてあるのだ。

「おはようっすご主人、レフィ様――ってあれ、なんかご主人、感じ変わったっすね?」

「え?そうか?」

「はいっす。あんまり上手く言葉にはならないんすけど……」

何だろう、そんなに今日の俺は何かが違うのだろうか。

「魔王様、レフィ様おはようございますー……あら?」

キッチンから皿を運んで来たレイラが、そう言ってずいと俺に顔を近付ける。

女性らしい香りがフワリと鼻を掠め、一瞬どきりと心臓が跳ねる。

「お、おい、何だよ?」

レイラはその問いには答えず、俺の全身をくまなく観察してから、やがて何かしらの結論を出したらしく、閉じていた口を開いた。

「魔王様……もしかして、種族進化を為されたのではないですかー?」

「へ?」

何ぞやそれは。

聞いてみると種族進化とはどうやら、生物が一定以上の経験を経て――まあ要するにレベルが上がって、一階層上の存在へと進化することのようだ。ポ〇モン進化と思ってくれればいい。

この種族進化を果たすのは亜人族や魔族、そして魔物だけで、人間にはないそうだ。

ただ、魔物は割とすぐに種族進化したりするそうだが、亜人族や魔族などはこの一定以上という幅が存外に大きいため、種族進化は相当に高レベルにならないと起きないそうだが……。

レイラにそう言われ、自身のステータスを確認してみる。

名:ユキ

種族:魔王

クラス:断罪の魔王

レベル:35

HP:2921/2921

MP:10321/10321

筋力:897

耐久:912

敏捷:804

魔力:1132

器用:1409

幸運:72

スキルポイント:6

固有(ユニーク) スキル:魔力眼、言語翻訳、飛翔

スキル:アイテムボックス、 分析(アナライズ) lvⅧ、体術lvⅣ、原初魔法lvⅣ、隠密lvⅤ、索敵lvⅣ、剣術lvⅠ、武器錬成lvⅢ、魔術付与lvⅡ、罠術lvⅠ

称号:異世界の魔王、覇龍の飼い主、断罪者、人類の敵対者

DP:420131

「ほ、ホントだ。種族が魔王になっとる……」

今まではクラスが魔王だった訳だが、そちらは『断罪の魔王』というなんかちょっとカッコいい感じのに変化しており、そして種族がアークデーモンではなくなり、もはや『魔王』という種族になっている。

な、何でこのタイミングで……。

――いや、このタイミングの理由はわかる。恐らくは昨日の人間達を全滅させたのが契機だ。『人類の敵対者』とかいう称号も増えてるし。

だが、昨日はダンジョンの罠を使用した訳で、俺自身が戦った訳ではない。現にレベルは上がっておらず……いや、レベルは上がっていないが、ステータスはがらりと変化してんな。MPなんて一万の大台に乗ってるし。幸運値は微動だにしていないが。

……もしかして、あれか?やはりその、ダンジョンの罠で殺したことが原因か?

ダンジョンと魔王は一蓮托生の存在だ。お互いがお互いに依存し、片方が滅べばもう片方も滅ぶ。

しかし――それはあくまでマイナスの側面だ。

昨日は、一晩で今までにない程の数を殺している。

人間は弱いので、一人一人であれば大したDPは得られないだろうが、塵も積もれば何とやら。所持DPの値も、あの集団を殺して、その死体も全て吸収してDPに変換したことで、今までの最高値を示している。

つまり、何が言いたいのかというと、昨日四百以上の人間を殺したことで、ダンジョン自体のレベルが上がり、結果的に俺のステータスも大幅に変化したのではないか、ということだ。

昨日だけに限らずとも、ここら近辺の魔物は他と比べては強いらしく、ソイツらから日夜DPを吸収している。加えて覇龍であるレフィからもだ。それらを含め、昨日をきっかけとしてダンジョンのレベルが一つ上がったというのは十分に考えられる。

……後で検証するか。何か新しい機能が増えてるかもな。

「なるほどなるほどー……。魔王はかなり早くに種族進化するのですかー……。とすると、存在としては魔物に近い……?いや、やはり主体が迷宮であり、魔王がそれに従属する存在であると考えれば――」

そうブツブツと呟き、何だか実験動物を見るような眼で見てくるレイラ。何故かわからないが、若干恐怖を感じる。

「あ、あの、レイラさん……眼つきがなんか怖いんすけど……」

「――あっ、これは失礼しましたー。なかなか興味深い現象でしたので、思わず我を忘れてしまいましたー」

きょ、興味深い現象ね、うん。

何と言うか、レイラの知らない一面を新たに見た気がする。

「……そ、それにしても、お前らよく見ただけでわかったな。俺なんか自分のことなのに気付かなかったぞ」

「おにいちゃんのことだからね!見たらすぐわかるよ!」

「獣人は五感が鋭いっすから。そういう差異を見分けるのは得意なんすよ」

彼女らはそう言っているが、近くに置いてある全身鏡をぱっと見た限りだと、俺の外見自体には差異などなかった。こういうのは、自分よりも他人の方が違いに気付きやすいのだろうか?

「まあいいや、とりあえず飯にしよう。レフィも座って……お前、器用な寝方してんな」

レフィは椅子に行儀よく座ったまま、かくんと頭が落ち、その場でこくりこくりと眠っていた。

「おねえちゃん!ごはんだってばー!」

それを見て、イルーナがレフィを揺り起こす。

「うぐ……うぅ……いいではないか、特に用事がある訳でもなかろうに」

「ダメ!そんなぐーたらしてると、牛さんみたくなっちゃうんだからね!」

実年齢では一回りも二回りも違うどころか、遥か年下の幼女に諭されているレフィに笑いを溢す俺。その様子を、リューが苦笑気味に見て、レイラがニコニコしながら見守っている。

――そうして、また一日が始まる。