軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

レイラと散歩

――リル以外のペット軍団に、魔物どもを解散させた後。

「クゥ」

先程の演説があんまりお気に召さなかったらしく、「もうちょっとだけ圧力を掛けてほしかったのですが……」と物騒なことを言うリルに、俺はポンポンとモフモフのその身体を撫でながら答える。

「悪い悪い、けど俺、正直に言うけど、お前らの主であってもアイツらの主であるつもりはないからさ」

俺の中には、そこで一つ線引きがある。

守ろうと思えるのは、ペット軍団までなのだ。

リルの耳をワシャワシャと撫でまわし、その眼を見据え、言葉を続ける。

「俺が大切なのは、お前らまでだ。その下は、ぶっちゃけどうにも思えん。どうでもいいとは言わんが、その生死にあんまり興味が持てねぇんだ。だから、さっきも言ったが、お前らが守ってやれ。下の奴らを守るお前らを、俺が守ろう」

「…………」

リルは、しばしの無言の後、それから諦めたように小さくため息を吐き出す。

「グァアクゥ」

「おう、俺はいつでも俺のままだ。お前にゃあ毎回迷惑掛けるが、これからもよろしく頼むぜ。俺がこうして任せられる相手っつーのも、お前ら以外いねぇからさ」

ウチのダンジョンは、最終兵器としてレフィがいる。

ネルも、勇者として頼ることが出来る。

だが、ずっと前から心に決めていることだが、そういう面で俺は彼女らに頼りたくない。

男である以上、その意地は貫き通すつもりだ。

「――と、そうそう、話は変わるんだが、近い内にネルんところの国に行くつもりなんだ。リルも付いて来てくれ。今回は俺を送るだけじゃなくて、その後も一緒に行動してほしい」

了解しましたと、首を縦に振るリル。

王達が他種族同士の交流を増やし始めたことで、もう俺は姿を偽って人間の国に入る必要がなくなった訳だが、その際リルを連れていった方が良いと魔界王に言われたのだ。

理由は、俺が割と人間に近い見た目をしているからだそうだ。

もっとわかりやすく威厳が伝わるよう、 畏怖(・・) されるよう、目印としてリルがいた方がいいらしい。

まあ、人間は特に、魔力回りの感性が鈍いからな。

友好的にやり始めている以上、威圧してはダメだが、しかし舐められてもダメなのだろう。

そうして、リルと軽く日程の打ち合わせをしていると、こちらに近付く一人分の足音が聞こえてくる。

幼女組には、絶対に一人だけで草原エリアの外に出るなと言い付けてあるし、ネルはもう国に戻っているので、レフィかリューだろうと当たりを付けていた俺だったが――。

「――お、レイラか? 珍しいな、お前がこんなとこまで来るなんて」

こちらに向かって来ていたのは、レイラだった。

「はい、そのー……リューが『今日の家事はウチが代わりにやるから、レイラは休むといいっす! おっと、そう言えば今、ご主人が一人で外に出てるようっすねぇ。レイラも外の空気を吸ってきたらどうっすか?』、と」

「あぁ……」

きっと、もうこれ以上なくニヤニヤしながら、そんなことを言ったことだろう。

容易に想像出来る光景である。

「てか、リューの真似上手いな」

「これだけ一緒にいたら、流石に喋り方の特徴も覚えてますからねー」

「声が似てなくとも、抑揚が同じだと声真似が上手く感じるよな」

「フフ、そうですねー。シィちゃんなんかは、抑揚の他に、本人そっくりの声を出すことも可能ですがー」

「いや、ホントに。シィの声真似はビビる」

俺は、笑って言葉を続ける。

「そんじゃ……せっかくだしな。一緒に散歩でもするか。――リル」

「クゥ」

一声掛けると、リルは心得たとばかりにその場に腰を下ろし、俺は彼の背へと飛び乗る。

いつも悪いな、リル。

もう、今後どれだけこちらの世界の技術が進歩しても、俺は一生お前の背中に乗る気がするよ。

「さ、ほれ」

「では、お供させていただきますねー」

ちょっと照れくさそうに微笑む彼女の手を取り、一気にその身体を引き上げ、俺の前に座らせる。

……ウチの嫁さん達はともかく、レイラとこうして密着する機会など滅多にないから、正直ちょっと緊張する。

二人きり、というのがな。

何と言うか、新鮮だ。

と、俺と同じことを思ったのか、レイラはその白く透き通るような肌を赤らめ、口を開く。

「……何だか、気恥ずかしいですねー。ユキさんと私とで二人、というのはほとんどありませんからー」

「そうだな、新鮮な感じだ。……その、これからは、お前ともこういう時間を増やすようにするよ」

「フフ、ありがとうございますー。……えいっ」

「わっ」

レイラは後ろに座る俺へと身体を預けると、俺の両腕を取って自身の腹部へと回させる。

ちょうど、後ろから抱き締めるような恰好だ。

「え、えっと、レイラさん?」

「ん……ユキさんの心臓の音が、一.五倍程になりましたねー。呼吸数も上がっていますよー」

「そ、そりゃそうなるわ。お前程の女にこうされて、心拍が上がらん男はこの世に存在しねぇ」

ウチの嫁さん達を抱き締めたり、幼女達を抱き締めたりする時とはまた違った感覚だ。

レイラはスタイルが非常に良いし、我が家の面々の中でも、アレがアレだし。うん。声には出さねぇ。

「そこまで言っていただけると、女冥利に尽きますねー。これからは、あなたのために、もっと女を磨きますねー?」

こちらを向いて、妖艶に微笑むレイラ。

俺は、思わず息を呑み、何も言えなくなる。

体温。

密着した身体から感じる、彼女の呼吸。

のっしのっしと、魔境の森の中をゆったりと歩くリルに揺られる。

「……それにしても、ユキさん」

「お、おう」

「こうしてくっ付いているの、恥ずかしくて顔から火が出そうですー」

「おう、お前がやったんだけどな」

いつの間にか彼女は、顔を真っ赤にしていた。

……どうやら、彼女は彼女で、頑張っていたらしい。

こういうレイラの姿は、本当に和むわ。

* * *

「んふふー」

「な、何ですかー、リュー?」

ニヤニヤと楽しそうなのを隠そうともせず、間近から顔を覗き込んでくる同僚の少女。

「いやいや、別にー? 何だか、レイラが嬉しそうだなー、と思って」

「……いつもと変わりませんよー」

「そうっすか、そうっすか。とってもいい時間を過ごせたっすか。いやぁ、友人が嬉しそうにしているのを見ると、心が休まるっすねー」

「……うるさいですよ、リュー」

「もー、照れちゃって、可愛いんすからー」

ここぞとばかりにからかってくるリューから、ひたすら顔を背け続けるレイラだった。