軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

タワーディフェンスゲームは面白い(確信)

「こっちだ!!こっちが魔力が薄いぞ!!」

どうやら、敵もようやく陣地に蔓延する幻惑魔力に気が付いたようで、恐らく魔術師なのだろう、一際魔力値の高い男が、幻惑魔力の薄い方向へと先導する。

混乱の極致にあった野営地も、その男の指示に従い、幾ばくかの秩序が戻る。

――と、その瞬間。

ヒュッと一瞬だけ聞こえた、何かの音。

魔術師の男が違和感を覚える前に、その後ろに続いていた仲間がそれに気が付く。

「お、お前!そ、それ……」

「へ……?」

震え声の仲間に指差され、何事かと魔術師の男はその指先を辿って視線を下ろしていき――無い。

無かった。

男の視界に映ったのは――いや、 映らなかった(・・・・・・) のは、彼の、腹部。

ちょうど鳩尾から胸元に掛けてぽっかりと大穴が開いて、その中身がごっそり消えていた。

そのことを認識した瞬間、男は痛みを感じる前に、絶命した。

魔術師の男が倒れると同時、その背後に彼の命を奪ったものの正体が、ゆらぁと現れる。

「ツタ……?」

そこにあったのは、樹のツタ。その先端は赤く染まって、魔術師の男の臓物がぶらさがっている。

まるで生き物のようにひゅるひゅると動き、そのままツタは次の獲物を見定め――刹那、思わず呆然と立っていた兵士の頭蓋を貫いた。

ブシュ、と舞う血飛沫。

「――ッ、こ、こっちはダメだ!!化け物がいる!!」

その光景を見て、兵士達は慌てて野営地の方へと踵を返す。

「クソッ!!魔物避けの魔導具は起動していたんじゃないのか!?」

「おい!!そっちの男を正気に戻せ!!」

「どっちに逃げればいいんだよ!!」

光明を見出していた逃げ場所を失い、もはや完全に烏合の衆と化した侵入者達。

ある者は状況を打開しようと周囲の者を集めたり、ある者は仲間を押し退け自身だけ助かろうと一人で逃げ出し、そしてある者は気が狂って意味のない言葉を叫んでいたり、剣を味方に向かって振り回す。

だが――。

「なっ、何だこれ!?沼か!?」

突如出現した底無し沼に足を取られ、ずぶずぶと沈んでいき。

「うひぃっ!?た、助け――」

大きな口のある植物に丸呑みにされ、生きたまま身体を溶かされていき。

「んぎゃああああアアぁあア――!?」

強烈な酸のような毒霧を全身に浴び、全身の肉を爛れさせ。

一人、一人と生者の数を減らしていく。

どこに逃げようとも逃げ場はなく、そこにあるのは――地獄。

「クソッ!!クソクソクソッ!!お前ら俺に近付くなぁ!!」

これを纏めるべき指揮官は、もうとっくに錯乱して取り乱しており、指示を出せる状況ではなくなっていた。

森の奥深くに木霊する、その絶望の慟哭や断末魔の叫びはだんだんと少なくなっていき――。

――やがて、森に静寂が訪れた。

* * *

「うーん……なんか、思っていた以上に上手くいったな」

その光景をモニター越しに見ながら、若干引き攣った笑みを浮かべる俺。

敵が俺の設置した罠の近くにやって来たら起動するだけの、簡単なお仕事です。

まさに気分はタワーディフェンスゲーム。まあ、襲ってるのは俺なんだけど。

自然関係の罠が多かったのは、やはり周囲が森なので、それと気付かせないようにするためだ。

森の中にゲームとかでありそうな感じの、ボウガンとか剣山とかの罠を設置してもバレるだろうしな。そういうのは仕掛けるならば洞窟みたいな場所に仕掛けたい。

まあ、玉座の間手前の洞窟には何か手を加える気はないが。仮に誤作動とかして、イルーナやメイドさん達にケガさせたくないし。

それにしてもこの光景、グロ過ぎである。十八歳未満視聴禁止ってテロップが下に表示されるぐらいグロい。イルーナが寝ててくれて助かったな。絶対見せたくねえわ。

俺、グロ耐性そこまで高くないんだけど。

罠の実用性を確かめるためにやったが……グロいからちょっと、今回使った罠はあんまり使いたくねーな。

「ほう……大したものじゃな。あの数を罠だけで全滅させるか」

と、このグロ光景にも眉根を一切動かさず、感心した様子で呟くレフィ。

やはり、覇龍ともなればこの程度の光景見慣れているのだろうか。メンタル強過ぎだろ。むしろこっちが尊敬するわ。

「まあ、アイツらトップが無能だったみたいだしな……それに、見てたけどあんまり連携なんかも上手くいってなかったし」

こう、全体で一つの軍って感じではなく、小集団の軍がいくつかって感じのヤツらだった。装備も統一されていなかったし、もしかするとそれぞれ別の所属だったのかもしれない。

今回の罠のコンセプトは単純だ。

敵を混乱させ、後は各個撃破。古くから伝わる基本戦術である。

正直、こんな自分でも上手く行くとは思っていなかったのだが、敵が纏まっていなかったおかげで、最初の幻覚による混乱が予想以上に効果を為し、そんな苦労もせずに潰すことが出来た。

恐るべきは、敵の無能さ加減か。

それとも、例の俺が会った男の部隊が離脱したとはいえ、四百近くもの数を罠だけで潰すことの出来るダンジョンの底力か。

……まあ、ダンジョンの力が強いことは俺にとって悪いことではないから良しということにしておこう。

これからも頼りにしてるよ、ダンジョン君よ。

「それにしても、よくこんな謀ったような位置に罠を設置することが出来たの」

「人間が来るなら街の方からだろうしな。だからそっちの方はかなり重点的に設置しといたんだ。アイツらの様子を確認してから追加した罠も多かったけどな」

「確かに道理じゃな……ふむ、なるほどの。儂もそういう戦術で次行くか……。よし、ユキ。約束じゃ。げーむの続きをするぞ」

何が「なるほど」なのかわからないが、そう言っていそいそとゲーム盤の前を陣取るレフィ。

「えっ……おま、今からやるのか?」

「当たり前じゃ。勝負は早くつけておかんとなあなあになってしまう」

「つってもお前、アレだぞ。後数時間もすれば夜が明けちまうぞ」

「最近昼寝し過ぎて、夜があんまり眠くないもんでな」

このぐーたら覇龍め……。

ちなみにこの後、ボードゲームは余裕で俺が勝った。