軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

――式が終わり、少し休憩した後。

「……まさか、ここまでとは……」

「あらあら、綺麗な場所ねぇ」

『おぉ……』

ウォーウルフの皆が、目の前の光景に感嘆の声を漏らす。

案内したのは、当初の予定通り、俺のダンジョン領域となっているビーチ。

天気が良かったおかげで、白の砂浜がキラキラと陽光を反射し、大海原のどこまでもを見渡すことが出来る。

ちなみに我が幽霊船ダンジョンは、すでに更なる漂流の旅に出したので、ここからは見えない。

また新たな陸地に辿り着いたら、探検しに行くとしよう。

「魔王というものが空間魔法を使えることは知っていたが……ここも、ダンジョン内なのか?」

しばしの間、言葉なく固まっていたリューの親父さんが、そう俺に問い掛ける。

「ダンジョン内と言えばダンジョン内だな。ただ、ここはさっきまでいた草原みたいな、俺が造った領域とは違って現実に存在する場所だ。今通ってもらった扉で、俺が許可した者ならダンジョン領域内を自由に行き来出来るんだ」

「……末恐ろしいな。ということは、ダンジョン領域内はユキ殿の配下――フェンリル様やあの魔物達を即座に展開可能ということか。あの魔物達、我らで戦おうとすれば、どれだけの被害が出ることか……外に侵略でもさせれば、そこらの国など一晩の内に壊滅してもおかしくない」

「ハハ、アイツらはウチのダンジョンの防衛の要だからな。魔境の森は魔物がアホ程強いから、それなりに強さを持っていてくれないとやっていけないんだ」

と、そんな話をしていると、ジトッとした目のリューが口を挟む。

「父さま、今日はそういうの、無しっすよ。それに、ご主人はどこかのこじらせた権力者とは違うんすから。侵略なんてそんな面倒なことより、のんびりゴロゴロするのが好きな人なので、父さまが言うようなことは絶対起きないっす」

おう、よくわかってるじゃないか。

「あ、あぁ、そうだな……すまん」

リューの言葉に、すぐに謝る親父さん。

以前より少し、素直になったんじゃないだろうか、この人。

娘の結婚とあって、やはり彼としても思うところがあるのだろう。

「さ、こっちだ。色々と料理を用意させてもらったんだが、慣れないものや苦手なものとかもあるかもしれないから、そういうのがあったら遠慮なく言ってくれ」

「何から何まで、かたじけない」

「いやいや、こんな遠いところまでわざわざ来てもらったんだ。だったら、こっちがそういうことの準備をするのは当たり前さ。だから、何も気にしないで純粋に楽しんでくれると嬉しい」

せっかく気合を入れて、今日のために準備を重ねたのだ。

だから、魔王流の歓待、心から楽しんでくれ!

* * *

――どうやら私の娘は、人を見る目は持っていたようですね。

ロシエラは、自身の娘が楽しそうに談笑している様子を眺める。

以前里にいた時よりも、少し背が伸び、肌の艶や、耳に尻尾の毛並みがとても良くなっていることがわかる。

一目見ただけで、大事にされていることがよくわかる様子だ。

明るく快活な面も全く変わっておらず、むしろ元気な様子に拍車がかかり、よく気の付く子になっている。

やはり、閉鎖的な面のある里に籠り切りになるよりも、外の環境に触れた方が大きく成長を見込めるということなのだろう。

元々、里を窮屈に思っていることは知っており、いつかはここを出て行くのだろうとは思っていた。

家出をする程、おてんばな面があったことは流石に予想外だったが――ただ、それがあの子の運命だったのだろう。

奴隷商に捕まった後、魔王という規格外の存在に助けられ、彼の治める領域で生活を始めるという、どこかの物語のような出会いの仕方。

加えて、彼の家族にはフェンリルまでいるというのだから、最初に自身の夫が彼の元に向かった際、いったいどれだけ驚いたことか、簡単に想像が付くというものだ。

祖の導きと言われても、何の疑いもなく信じてしまいそうである。

そしてロシエラは、次に娘と共にいる青年――これから義理の息子となる、魔王の方へと視線を向ける。

その人物像はかねてより気になっていたが……やはり娘が恋に落ちるだけあって、とても魔王であるとは思えない穏やかな好青年だ。

武闘派なんてことも聞いていたが、幾度か会話を交わす限りではそのような面は全く見えず、ただ娘のことを本当に心から愛しているのだということだけが、見ているだけでも理解出来る。

恐らく、武闘派と呼ばれるのは闘争中の姿を指してのことなのだろう。

男性が戦いの 最中(さなか) に気性が荒くなるのは、普通のことだ。

ウォーウルフの男達にもそういう面があり、狩りの後などは特に気配が荒くなったりしている。

故に、彼は戦いの場となると非常に荒々しい一面を見せるのだろうが、しかし普段暮らしている時にその様相を見せないのであれば、何も問題は無いだろう。

むしろ、力があり、なおかつ普段が穏やかであるのならば、旦那としてこれ以上ない存在と言えるのではないだろうか。

――あの子は、自らの手で運命を切り開いたのね。

少し、羨ましくもある。

別に今が不満という訳ではないが、長年里から出ず、定めのままに生きて来た自分とは違い、自らの手で道を、行く末を定めたのだ。

このまま彼女が、自由のままに自らの望みの下で生きられることを願うばかりだ。

「――どうじゃ、リューの母御よ。楽しんでおられるか?」

と、一人物思いに耽っていると、こちらに掛けられる声。

顔を向けると、そこには美しい銀髪に非常に整った顔立ちをした、角と尻尾を生やした少女がグラスを片手に立っていた。

この少女は、この若々しい見た目で自身よりも千年以上歳上であるそうだ。

伝説の龍族という話で、その正体を聞いた里の者達は大分慄いた様子を見せていたが……少々失礼な反応なので、後で注意しないとならないだろう。

確かにその小さな身体からは、圧倒的という言葉を何度重ねれば良いのかわからない程の、隔絶された強者の気配を感じる。

だが――いったい、何を恐れる必要があるというのか。

娘が、あれだけ懐いているのだ。

である以上、彼女が怖い方であるはずもないというのに。

「あら、レフィシオスさん。勿論楽しませていただいていますよ。……もしかして、気を遣わせてしまいましたか?」

少し離れて皆の様子を見ていたので、もしかすると退屈していると思わせてしまったのかもしれない。

「いや何、男衆は儂らの旦那が、女衆はネルとレイラが歓待しているでな。ならば儂は、お主の歓待をしようと思っての。……それに、その、幾つか教えを乞いたいこともあってじゃな」

「あら……私にお教え出来ることなら、勿論構いませんが……」

特に物知りという訳ではないので、この少女に対し教えられることがあるとは思えないが……。

そう不思議に思っていると、彼女は何だか恥ずかしげな様子で、ポリポリと頬を掻きながら言葉を続ける。

「うむ、あー……出逢うてからまだ一日程度であるのに、こういうことを聞くのは少々どうなのかと思わなくもないんじゃが……儂は、特殊な出自であるため親がおらん。当然母親というものもわからん。じゃが、今後儂らは、母となるじゃろう。故に、子育ての心得を、聞けるのならば聞いておきたいと思うての」

一瞬目を丸くしてから、その微笑ましい相談に、ロシエラはクスリと笑みを浮かべる。

「わかりました、それくらいなら全然お話ししましょう。と言っても、私は娘を家出させてしまいましたので、ためになるかと言われるとあまり自信がないのですが……」

「何を言う。リューを立派に育て上げたではないか。彼奴は儂にとってこれ以上ない程の友人じゃぞ。今はもう、ただの友人ではなく身内じゃがな」

「……そう言っていただけると、あの子の母親としてはもう、最高に嬉しいですね」

それから二人は、談笑を続ける――。

――ここならば、大丈夫だ。

この場所ならば、そして彼らならば、娘に幸せをもたらしてくれることだろう。

「母さま、レイラの作ったこの料理、どうっすか!」

「えぇ、もう最高ね。これ、どうやって作ってるのかしら……」

「フフ、良ければお教えしますよー。魔王様にお願いすれば、調味料などもいただけるかとー」

「それがいいっすね、お土産に持って帰るといいっす! ――ご主じーん! 母さま達のお土産に、調味料とかあげたいんすけど、用意してもらってもいいっすか?」

「お、勿論いいぜ。じゃあ、帰り際に渡せるよう、用意しとくよ」

彼らがそんな会話を交わす様子を、ロシエラはニコニコと眺めていた。

――リュー、幸せになりなさいね。