作品タイトル不明
リューの親族達《2》
――二日後。
リルを前に恐縮した様子で固まるといういつものやり取りを終えた後、魔境の森からリューの親族達を連れて草原エリアの城近くへと出る。
「母さま!」
「あら、リュー。久しぶりね」
わざわざ外で待っていたらしいリューがこちらに駆け寄り、そのままの勢いで彼女の母親に抱き着く。
幼女達が俺に抱き着いて来る時と同じような表情で、母親と顔を見合わせている。
うむ、あれだ。
リューの親父さんが初めて来た時とは大分違う反応だな。
彼もまたそう思ったのか、俺の隣で苦笑を浮かべている。
きっと、父親というものの宿命なのだろう。
ロシエラさんは、微笑みを浮かべながら自身の娘を上から下までまじまじと視線を巡らす。
「あらあら、随分毛並みも良くなって、お肌も艶々で、綺麗になったわねぇ。その様子だと、とても良い生活を送らせてもらっているようね?」
「えへへ、はいっす! ご主人と、そしてここのみんなのおかげで、毎日とっても楽しく過ごせてるっす! 母さまにも、みんなのことを紹介したいっす!」
「フフ、そうね、是非ご挨拶したいわ」
「ウチ、まだまだ勉強中っすけど、家事もお料理もちょっと出来るようになって来たんすよ! レイラって言って、教えるのが上手な子がいるんす!」
色々と話したくて仕方がない様子のリューだったが、俺は笑ってポンポンと彼女の肩を叩く。
「リュー、落ち着け。たくさん話したいことがあるのはわかるが、それは少し後だ。長距離移動して疲れているだろうし、まずは旅館の方に案内しないと」
そもそも、まだ玄関口だしな。
「あっ、そ、それもそうっすね! ――父さまも、一族のみんなもよく来てくれたっす! 旅館まで案内するんで、付いて来てほしいっす!」
そうして彼女を先頭にして、全員が移動を開始する。
「フフ、とっても元気そうじゃない、リュー。あなたは考え過ぎなんですよ。あの子があれだけ元気にやれているのならば、それで正解なんです」
「……そうだな」
小さく息を吐き出し、そう答える親父さん。
「お相手が魔王と聞いて、どんな方かとも思いましたが、穏やかな方のようですし」
「穏やか……穏やかか?」
親父さんがこちらを見てくるので、俺は爽やかな笑みを一つ。
「どうも、穏やかです」
「……どう見ても穏やかではないだろう。戦争での話も聞いたが、バリバリの武闘派だぞ」
……武闘派なんて初めて言われたな。
確かに、敵は基本的に殺す主義なので、武闘派と言われればそうなのかもしれない。
「ご主人は家にいる時はかなりのんびりしてるっすよ! 基本的に、家事をするか、物を作るか、幼女達と遊ぶか、って感じっすね」
「あら、家庭的なのね。ウォーウルフの男達は、全然家事なんてやらないのに」
ロシエラさんの言葉に、ウォーウルフの男性諸君がサッと顔を反らし、逆に女性陣が生暖かい目を男性陣へと向ける。
ちなみに、今回ギロル氏族は、全員で二十名程だ。
以前に来た時にも見た面々も幾人かおり、その彼らともすでに挨拶は交わしている。
俺は一つ苦笑を溢し、言葉を続ける。
「ま、まあ、そちらさんはどうも狩猟民族みたいだし、ある程度は仕方ないものかと」
男が家事をするというのは、基本的に現代の価値観だ。
余裕のないこういう世界において、男は命を賭けて食料を確保し、女性は家のことをやるみたいな分業になってもおかしくないのだろう。
戦争のある世界だと、戦える男の価値が自然と上昇するみたいな本を、昔に読んだことがある。
俺のフォローに、リューの親父さんは「そ、そうだ」とコクリと頷く。
「男は狩りをせねばならんからな。それ以外の時間は身体を鍛える必要がある故、仕方ないのだ」
「狩りはご主人もしてるっすけどね。けど、ほぼ毎日家事もしてるっすよ」
「…………」
「あ、あの、リューさん、そういうことは今は言わないでおいていただけると……」
何だか、俺の方が居たたまれない感じになってしまうので……そ、それに、俺は魔王の力があるから、半ばズルみたいなものなので……。
と、この話を続けると色々とダメージを受けると悟ったのか、リューの親父さんはゴホンと一つ咳払いし、誤魔化すように言葉を続ける。
「そ、それより、先の話に関してだが、そう言えば以前来た時にも子供達がいたな。あの子らは、どういう経緯でここに? 実の子という訳ではないのだろう?」
「あぁ、一人は森で拾った子で、四人がリルとかと同じダンジョンの魔物で、一人は剣だ。前は確かに、あの子らの紹介も出来なかったから、後で紹介するよ」
「色んな子がいるのね。会うのが楽しみだわ」
「……ロシエラ、お前はもう少し、ツッコむということを覚えた方がいい」
「? どうしてかしら?」
「いや、どうしてって、お前……」
彼女の言葉に、何とも言えない表情を浮かべる親父さん。
「……リュー、お前の母さん、大物だな」
「あはは、よく言われるっす」
* * *
「来たか。待っておったぞ」
いつもの旅館に到着すると、準備して待ってくれていたらしいレフィが俺達を出迎える。
「……お前、何でメイド服着てんだ?」
レフィは何故か、メイド服を着ていた。
俺が家を出る時は、いつものワンピースだったと思うのだが……いや、すげー似合ってはいるんだけども。
「うむ、今回の主役はリューなのでな。其奴を立てるために儂らは手伝いに専念しようと思っての。ネルもめいど服を着ておるぞ」
「え、えへへ……僕も着てみちゃった」
ちょっと恥ずかしそうにしながら、ひょこっとネルが顔を覗かせる。可愛い。
「母さま、紹介するっす! こっちの銀髪の子がご主人のお嫁さんの一人で、レフィシオス。それで、こっちの人間の子がもう一人のお嫁さんで、ネル。どっちも大事な家族っす!」
「うむ、レフィシオスじゃ。リューの母御であるな。話は聞いておる、はるばるよう来てくれた」
「ネルです。リューとは、仲良くさせてもらってます」
「レフィシオスさんとネルさんですね。私はロシエラ=ギロルです。リューがいつもお世話になっています」
そうして彼女らがきゃっきゃと楽しそうに世間話を始めた横で、俺はリューの親父さんと今後の予定を話し合う。
「リューに聞いて必要なものと場は揃えたから、こっちの準備は整ってる。今日はこのままここで泊まってもらって、明日の午前中に、えっと、『血の契り』だったか? をする予定にしようと思ってるんだが、どうだ?」
「うむ、その予定で行こう。娘から聞いているのなら、流れは知っているかもしれんが、明日は合流する前に身を清めてくれ。清めると言っても、普通に湯を浴びて身体を洗うだけで構わん。そちらの方々も参加する場合は同じように頼む」
「了解、そうさせとくよ。あぁ、あとこっちに以前使ってもらった浴場とは別に、新しく滝温泉――じゃなくて、広い大浴場を造ったから、今日の風呂と明日身を清める時はそこを使ってくれていいからな。後で儀式場を見てもらうついでに案内するよ」
「む、それはありがたいが、良いのか?」
「大丈夫だ、もう一つ別で風呂があるから、俺達はそっちを使うよ」
明日の予定は、こうだ。
朝起きたら、飯を食べた後に皆で順番に真・玉座の間にある方の風呂に入り、草原エリアに用意した式場でギロル氏族達と合流。
結婚の儀式自体は午前中だけで済むそうなので、それが終わったら昼食は軽めに済まし、着替え等を行ってそれぞれで少し休憩した後、早めの夕食として、皆で立食パーティ的なものをするつもりだ。
実は、以前に海水浴場として皆で遊んだ浜辺を整えてあり、料理の下準備も全て終えてあるので、いつでもバーベキューがやれる状態になっている。
今日のために、レフィ協力の下で魔境の森の最高級の素材を用意し、最高級の腕前を持つレイラに調理してもらい、準備は万端である。
ぶっちゃけ、幼女達はそっちの料理の方が楽しみだったりするようだが、それはそれで良いだろう。
幸せな場で幸せな気持ちを味わってくれれば、それで構わないのだ。
大人はそのまま、酒を飲みながらの歓談タイムとなり、一日が終了することだろう。
割とすでに緊張していたりするが……結構、楽しみになって来た。
ようやくこれで、リューが正式な俺の嫁さんとなってくれるのだ。
楽しみでない訳がない。
――さあ、明日は一日忙しいぞ!