軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ある英雄の物語

「――ここにいたのか。久しぶりだね、ゴジム君。随分とまあ、ボロボロになっちゃって」

一人、供も付けず帝都の地下研究所へと降り立っていた魔界王は、発見した悪魔族頭領ゴジムの死体の前で、足を止める。

傷のないところがもはや存在しない、そのボロボロの姿。

自らの命を賭し、死力を尽くして戦ったであろうことが一目で理解出来る。

「神聖水の製法、助かったよ。冥王屍龍なんてものがいるのは君も知らなかったようだけど、こんなものを造っていた以上、彼らが何かを企んでいることは気付いていたようだね。……全く、どう捉えればいいのか大分迷ったよ、この手紙」

そう言って魔界王は、懐から取り出した一枚の手紙をヒラヒラさせる。

そこに書かれていたのは、神聖水の製造方法、 今後の大まかな(・・・・・・・) 作戦行動(・・・・) 、そして『後は頼む』という言葉。

この手紙が届いたのは、エルフの里の襲撃より少し前のことだった。

「相変わらず言葉が少ないよ、君は。そういうところ、 僕の近衛隊長(・・・・・・) だった頃(・・・・) と全然変わっていないようだね」

呆れたように一つ苦笑を溢し、彼は独り言を続ける。

「……君が僕の 下(もと) を離れ、『悪魔族』だなんて名乗って旗揚げしたと聞いた時は、流石に狼狽えたよ。君の集落が人間との戦争で焼かれ、それでも彼らとの和解の道を模索する僕を見て、許し難いと思ったのかと。けれど……それは違ったんだね」

思い出すのは、今より十年は前のこと。

部下であったゴジムの故郷が人間に襲われたと報告が入り、焦った表情で出撃を望む彼に許可を出し――そして、帰って来なかった。

敵は撤退した後で、迎撃部隊は一切の戦闘をせず帰還したが、彼は「一人にしてほしい」と焼け落ちた故郷に残ったらしく、そのまま姿を消したのだ。

次に現れたのは、四年前。

その時にはすでに、『悪魔族』などと名乗り、魔界王である自身と敵対する勢力として台頭を始めていた。

一年前に、魔王ユキも出場した闘技大会で再会した頃など、本当に敵になってしまったのだと思っていた。

魔界を脅かす、敵であると。

「君は、わかっていた。今の情勢ならば、一戦も交えることなく平和が訪れることはあり得ないと。多種族に共通した脅威がなければ、今までより深い協力関係になることは不可能だと。だから君は脅威となった。魔界内のはぐれ者を率い、勢力を増し、覇を望んだ皇帝シェンドラと手を組んで世界の敵となった」

いつから協力関係にあるのかはわからないが、アンデッドを使い始めたのは、恐らく皇帝シェンドラの影響だろう。

この不器用な男は、変なところで律儀だったと覚えている。

悪役として振る舞うならば、死霊術を使うのが良いとでも思ったのかもしれない。

ローガルド帝国の人間達とは、どうも相当仲が悪かったようだが、ここに至るまでよく破綻せずにやれたものだ。

お互い、相手を利用し尽くす算段で全く信用し合っていなかったらしいことが、むしろ上手く働いたのだろうか。

「どんどんと存在感を増す君を、僕らは無視出来なくなった。自然と他国との協力を考えるようになり、そしてエルフの里での襲撃。あれは見事だったね。あの一手で僕らの今後の動きは、完全に決定付けられたと言っていい」

多種族間による、深い関係での同盟。

あそこで襲撃がなければ、そこに至るにはもっと時間が掛かっていたことだろう。

「あぁ、冥王屍龍に関しても、君が何かしたんだろう? あの怪物は脅威だったけれど、それでもどういう訳か、完全体として蘇ってはいなかったらしい。わざわざ不完全な弱い状態で蘇らせる必要がない以上、何かしら手違いがあったことは間違いない」

魔王ユキの活躍で討伐には成功したが、共に飛行船に乗っていた羊角の魔族、エルドガリア曰く、あの時点ではまだ完全体ではなく、アンデッドのエネルギーである負の魔力を吸収している段階だったという。

復活の途中で無理やり起こされたように見える、などと言っていた。

どうやら額に刺さっていた大剣が負の魔力を集める役割を担っていたようだが、それも必要としない完全体として蘇っていた場合、どれだけ損害が増していたことだろうか。

「これらは、全て僕の憶測に過ぎない。君の真意は、もう誰にもわからない。だけど――ま、そう遠くもないだろうとは思っているよ。今回の戦争は、君の勝ちだ。あの皇帝も合わせて、僕らは全員君の描いた 画(え) の上で踊っていたのだから。全く……その手腕、生きて僕のところで発揮してもらいたかったよ」

軽い口調ながらも、複雑な感情を感じさせる声音で、そう言葉を溢す。

悲しみを、胸の内に押し殺したような声音で。

「これからゴジム君の名は禁忌となるだろう。大罪人として歴史に刻まれ、人々から忌み嫌われることになる。ただ……君のお墓だけは、亡くなった奥さんの隣に建てることを誓おう」

そして彼は、しばし、口を閉じる。

ただジッと、ゴジムの亡骸を見詰める。

「……そろそろ行くよ。仕事が山積みだからね。罪で言えば、ほぼ把握していながら君の策に黙って乗っかっていた僕も同罪だ。だから、残りの後始末は全て僕がやろう。――君が撒いた種を、無駄にはしない」

本気で世界を変えようとした、愚か者の望みを。

命を賭した、その願いを。

この世界に、刻むのだ。

「さらばだ、 友よ(・・) 。君という偉大な男の名を、僕は一生忘れない」

そう言い残し、魔界王は地下研究所から去って行った。

そのまま、未だ勝利の余韻が残る地上に戻り――すぐ近くに、何か 虫のようなもの(・・・・・・・) を手に止まらせている、魔王ユキの姿を発見する。

収納の魔法を使ったのか、人の耳のような翅を持つその虫を空間の亀裂にしまい込むと、こちらに言葉を掛けてくる。

「用事は、終わったか」

「あぁ、終わったよ。……ユキ君、僕を、殺すかい?」

「……アンタには、俺の支配領域になったローガルド帝国の戦後処理をやってもらわなきゃ困る。上手くやんなら、聞かなかったことにしといてやる」

フィナルはフ、と笑う。

「任せてくれ。やることがいっぱい残っている以上、まだ死ぬ訳にはいかないからね。君に満足してもらえるよう、頑張るよ」

魔王ユキはボリボリと頭を掻き、一つ溜め息を吐き出した。

* * *

――今戦争は、『種族無き同盟軍』の勝利で終わった。

ローガルド帝国の扱い、悪魔族達の扱いなど、細かいことが話し合われるのはこれからだが、少なくとも領土の割譲は確実らしい。

賠償金も結構な額になるらしいが、ただあまり急進的にやって反体制運動を起こされても困るので、その支払いは長く時間を掛けて、もしくはローガルド帝国が有していた技術の供与などで代替されるだろうと魔界王は言っていた。

俺も賠償金の一部が貰えるという話だったが、ダンジョンコアを吸収し俺がこの国の支配者となったことで、収支としては大幅にプラスであるため、これ以上はいらないと断った。

多分、いや確実に一番得したのは俺だろうしな。

皇帝シェンドラが使わなかった分のDP―― 使えなかった(・・・・・・) 分のDPも大量に得られたので、今更金銭とか貰っても、というのが正直な本音である。

今後の国家運営に関しては、種族無き同盟軍に参加した国々が仲良く回していくそうだ。

他種族同士が共存するための、実験都市として利用するとか何とか、という話だ。

数年は混沌とした状況になるだろうが……まあ、上手くやってくれることを願おう。

面倒なことは全部丸投げするつもりだが、何かあったら、多少は俺も手を貸すとしよう。

ここはもう、俺の支配領域なのだから。

……帰って、国一つ貰った、なんて言ったらウチのヤツらはどんな顔をするだろうか。

あぁ、早く、彼女らに会いたいものだ――。

こうして、後に『屍龍大戦』と呼ばれることになるこの戦争は、終結したのだった。