軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

遠征準備《2》

我が家のペット達に一旦街の外で大人しくしているよう言いつけ、それからネルに案内されたのは、休憩所のような場所だった。

そして――そこにいたのは、羊角を生やした、一人の老婆。

「へぇ……面白い。勇者の嬢ちゃんから聞いてはいたが、アンタ、本当に魔王なんだね。そっちの小っちゃな子も、ただの子供じゃなさそうだ。あの子が気に入るのも頷ける」

彼女は、開口一番そんなことを俺達に向かって言った。

まるで細胞の一つ一つまで観察されているかのような視線に、居心地の悪いものを感じながら俺は、挨拶する。

「あー……どうも、魔王ユキだ。この子はエン。レイラのお師匠さんだって聞いたが……」

「……おばあちゃん、こんにちは」

「ん、あぁ、こんにちは。失礼したよ。アタシはエルドガリア、羊角の一族だ。アンタのことは、エミューと隣にいる勇者の嬢ちゃんから聞いた。ウチの弟子が世話になってるようだね」

ポンポンと丁度いい位置にあるエンの頭を撫で、彼女はそう言った。

エミューというのは……魔界で出会ったレイラの妹分だったな。

血は繋がっていないそうだが、レイラとはかなり仲が良かったのを覚えている。

名:エルドガリア

種族:羊角

レベル:69

称号:真理の探究者、幻影の魔女、イリュージョンマスター

分析スキルを見る限り、典型的な魔術師タイプのばーさんのようだ。中々強い。

羊角の一族というのは、学者一門だって話をリューから聞いたことがあるが……なるほど、一族全体でレイラみたいな感じなのか。

ネルによると、彼女もまた魔界王フィナルが呼んだ助っ人の一人らしい。

「いや、世話になってるのはこっちだ。レイラがいないとウチはもう回らないから、いつもすごい助けられてるよ」

「へぇ……? あの子は確かに面倒見が良かったが、一所に留まってるってことは、相当アンタらが気に入ったんだろうね。あの子に限って、探究に対する熱意が消えたということもないだろうし……」

「あぁ。普段はそうでもないんだが、何か好奇心を刺激されることがあると、もう凄いな」

その俺の言葉に、エルドガリアは申し訳なさそうな顔をする。

「あー……悪いね。ウチの一族には大なり小なり好奇心に正直な面があるんだが、レイラは幼い頃からとりわけそれが強かったんだ。里の者も面白がって色んなことを教えていたら、ウチの種族の特性をギュッと詰め込んだ、ちょっと手の付けられない子になっちまったんだよ」

ハァ、とため息を溢すお師匠さんに、俺とネルは顔を見合わせて苦笑を溢した。

「ま、まあ、別に好奇心が強いことは悪いことじゃないし、何も悪いことなんてないさ。な、ネル」

「うん、レイラはとっても頼りになるいい子ですよ、エルドガリアさん」

「そう言ってくれると、あの子の師である身としては嬉しい限りだよ……困った性格でも良い子ではあるから、色々至らない点もあるだろうけれど、妻として愛してやっておくれ」

「あぁ――いや! ちょ、ちょっと待ってくれ、レイラのお師匠さん。俺とレイラは別に、夫婦って訳じゃないぞ」

「……? そうなのかい? 勇者のお嬢ちゃんからの話を聞いて、アタシはてっきり、レイラも複数人いるっていうアンタの妻の一人なのかと思ってたんだがね」

そう言って、怪訝そうな表情を浮かべる羊角のばーさん。

「ネルさん……?」

「いっ、いや、その、レイラもほとんど家族みたいなものでしょ? だから、お師匠さんには『身内みたいなもの』って説明してて……えへへ」

誤魔化すように笑うネル。

くそう、可愛いから何も言えないじゃないか。

……まあ実際、レイラは家族みたいなものだと俺も思っているし、その説明も間違いではないだろうけどさ。

「その……レイラにはウチで住み込みで働いてもらってるが、別に男女の関係って訳じゃないんだ。そりゃあ、仲良くさせてもらってはいるが……」

「あの子は全く……まあいい、わかった。今度一度、アタシらの里に遊びに来な。レイラにも言いたいこともあるし、歓迎するよ」

「あぁ、是非、近い内に行かせてもらうよ」

と、そう話しているところに、一人の兵士がこちらへ駆け寄ってくる。

「ユキ様、エルドガリア様ですね。王の方々がお呼びです」

「む、もうちょっと話していたいところだったけど……仕方がないね。はいはい、今行くよ」

「ネル、エンを見ててくれ。エン、ネルとちょっと待っててな」

「ん、わかった」

「……ネルと待ってる」

そうして彼女らと別れ、レイラのお師匠さんと共に兵士に案内されたのは、一際豪華なテント。

中では、見るからにお偉いさんだとわかる者達が、簡易円卓に座って作戦会議らしき話し合いをしていた。

魔界王フィナル、アーリシア王国王レイド、エルフ女王ナフォラーゼはわかるが、それ以外にも二人程王らしき者達がおり……あれは恐らく、獣人族とドワーフ族だろうか。

今回の同盟軍に、後から参加して来た者達だろう。

見る限り、魔界王が会議の進行を担っているようだ。

ヤツの頭の良さを、皆認めているのだろう。

テントの中に入って来た俺達を見て、魔界王と人間の国王レイドがチラとこちらに視線を送ってくるが、やはり重要な会議中であるためか、声は掛けて来ない。

俺達はテントの端の椅子に座り、会議の傍聴を始めた。

* * *

「――どうやら敵は、帝都ガリアにて罠を張って待ち伏せしているようだ。つまり、短期決戦の構えを見せている。僕は、これに乗りたいと考えている。だからみんなにも、こうして準備して集まってもらった」

「包囲して補給を断てば、何もせずとも勝てるのではないか? それだけの戦力はこちらにあろう?」

そう問い掛ける、エルフ女王ナフォラーゼ。

「それはそうなんだけどね。けど、今も言ったけど、僕は出来れば短期決戦で事を終わらせたいと考えている。何故なら、長期戦は国力をダイレクトに削り合う、不毛な争いだからだ。しかも、宣戦布告をして来たのは向こうである以上、戦争に対するあらゆる準備は終えている状況であると考えられる」

「……つまり、こちらが長期戦の構えを見せても、それに対応するだけの策は整えてあると?」

アーリシア国王レイドの言葉に、魔界王はコクリと頷く。

「そう考えるべきだね。長期戦に真正面から耐えられるだけの物資を揃えたのか、それともこっちを罠に引きずり込むだけの策を用意してあるのか。少なくとも、向こうも大国で力があるから、長期戦になってもそれなりに耐えられるのは間違いない。ならば僕は、多少急くとしてもこの誘いに乗りたい」

「いいんじゃねぇか? 何よりこっちが待つのは、性に合わんしな!」

「性の云々で戦略を決めたくはないが……ま、俺もドワーフ王に賛成だ。獣人族は、戦力として貢献は出来るだろうが、物資の供給に関して最も貧弱なのは否めん。あまり長引くと、我々は脱落してしまう。援助をしてもらうとしても、互いに限度があるだろうしな」

ドワーフ王と獣人族の王が、それぞれ賛成の意を示す。

そして、エルフ女王ナフォラーゼは、魔界王の態度に少し、怪訝なものを感じていたが……特に指摘はせず、進む会議に耳を傾ける。

根拠がある訳ではないものの、それなりに長い付き合いであるため、わかる。

魔界王は何か、口で説明している理由とは 別の理由(・・・・) で、短期決戦を望んでいる。

……もしかすると、何かしら 他の王には(・・・・・) 言えない筋(・・・・・) からの情報でも、魔界王は得ているのかもしれない。

戦略を決めるような重要な会議での情報の隠匿など、普通であれば裏切りを糾弾されても言い逃れ出来ないところだが……しかし、フィナルは腹黒ではあっても、誠実な男だ。

そして、常人の二倍も三倍も頭の回転の速い、賢い男だ。

その情報をフィナルが伝えるべきではないと考えたのならば、そうした方がいいのだろうと、ナフォラーゼは黙っていた。

「勿論、罠に自分達から突っ込んで行って全滅、という結果にする訳にはいかないから、対抗手段は用意してある。――紹介するよ、羊角の一族のエルドガリアさんと、魔王ユキ君だ」

* * *

魔界王が俺達の紹介をすると同時、会議に参加している者達の視線がこちらに集中する。

「羊角の一族のエルドガリアだよ。外じゃあ『幻影の魔女』と呼ばれている」

「幻影の魔女……! それは、凄い助っ人を連れて来たものであるな」

「幻影の魔女……人間の私でも知っている名ですな」

レイラのお師匠さんの自己紹介に、驚いたような声を漏らすエルフ女王とアーリシア国王。

レイラのお師匠さん、有名人なのか。

……まあ、あのレイラの師匠だもんな。

むしろ、名を知られていない方が不自然か。

「みんなも知っているだろうけれど、羊角の一族は物事の分析に関しては一番の種族だ。帝都に着いたら、向こうが何を仕掛けているのか視てもらう。それに、彼女は魔法のエキスパートだから、それ以外の面でも色々頼りになると思うよ」

「羊角の者はわかるが……魔王だと? どういうつもりだ、フィナル」

と、獣人族の王が、品定めをするような視線を俺に向ける。

「どうも、魔王ユキだ。趣味はのんびりすること、特技はものづくりだ。よろしく」

「ユキ殿……貴殿はどこでも変わらぬな」

苦笑を浮かべるアーリシア国王に、俺は肩を竦める。

「彼は韜晦しているが、まず間違いなくこの軍の中で最高戦力だから、みんなユキ君と仲良くしてね」

「ほう……最高戦力か。フィナルがそう言うのであれば、そうなのであろう」

「今、結構大事な戦争中だから、力試しをするのはまた今度にしてね、ヴァルドロイ君」

「……フッ、そうだな。今は戦争中だったか」

呆れた様子の声を漏らす魔界王に、獰猛な笑みを浮かべて言葉を返す獣人族の王。

なるほど、彼は脳筋と。

「フン、それより、信用してもいいのか? 魔王を仲間に引き入れ、背後から襲われた、などという事態になれば、末代までの恥じゃぜ」

「安心することであるの、山の。ヌシが心配せんでも、ユキ殿は非常に頼りになる、信用に足る男じゃ。まあ、肝の小さいヌシに心配するなとは、無理な相談かもしれんがな?」

「ぬっ、ほざけっ、森の!! ドワーフ程勇敢な種族は他に無いわ!!」

エルフ女王の憎まれ口に、ドンと机を殴って立ち上がるドワーフ王。

……なんか、厳格な空気が一気に吹っ飛んだ感じである。

王ってみんなこんな感じなのだろうか。

「……そういやフィナル、対抗手段って言ってたが、俺、何をするのかまだ聞いてないぞ」

「それは、また後で説明するよ。それよりユキ君、ここまでの説明で、何か気付いたこととかあるかい?」

特に深い考えから聞いてきた訳ではないだろうが……突然そう聞いてくる魔界王に、俺は言葉を詰まらせる。

「え、気付いたことっつわれても……敵は帝都に籠ってるんだろ? 俺も、罠を張ってんだろうなってくらいしか――」

――待てよ。

ネルが言っていた。

敵に、魔王がいるかもしれない、と。

敵に魔王がいるかもしれず、そして一見すると不利にしか思えないような、待ち一辺倒の用兵。

となると、考えられる可能性は――。

「――もしかすると、 帝国はダンジョン(・・・・・・・・) なんじゃないか?」

呟いた俺の言葉は、そう大きなものではなかったが……好き勝手に話していた王達が、再度一斉にこちらへ顔を向ける。

「ダンジョン……? ユキ君、詳しく聞いてもいいかな」

「これは、本当なら言いたくねーことだが……一応俺も協力者だから、ある程度は説明しよう。ダンジョンは……あー、生命エネルギーみたいなものを他者から得て、自らの糧にしてるんだ」

DPがダンジョンの生命線である以上、全部を教えることは出来ないので、少々ボカして説明する。

「生命エネルギー?」

誰かの反復に、俺は頷く。

「あぁ。つっても、寿命を奪ったりしている訳じゃないぞ。そうだな……生物が体内から発する余剰分のエネルギーや、生物が死ぬことで発生するエネルギーなんかを吸収し、ダンジョンはそれを変換して魔物を生み出したり罠を生成したりするんだ」

この説明が合っているのかどうかは正直知らないので、デタラメと言われたらその通りなのだが、俺は大体こういう感じで納得している。

これで全てが説明出来る訳ではないだろうが、そう間違ってもいないとは思うのだ。

その生命エネルギー的なものを、わかりやすくDPと表現しているだけで。

「要するに、そこで生物が生き死にすると、相手に力を与えることになるって訳だ。戦場として選んだ場所の全てがダンジョンになっていたら、そこで出た戦死者の数だけ相手はエネルギーを得ることになる」

「なるほど……そう言えば、ローガルド帝国は魔物を使役する術があるようだけど、もしかしてその魔物達も、魔王の配下だったってことかな?」

「可能性はある――いや、高いだろうぜ。ダンジョンの魔物は、基本的に命令には忠実だ。戦力として言うことを聞かせるのは、全く問題ないだろうさ」

幽霊船ダンジョンを支配下に置いた時、俺に対してレイス達が反抗してきたように、ダンジョンの魔物は必ずしも絶対服従ではないようだが、普通にやっている限りじゃ俺の命令は全て聞く。

……そう言えば俺も、ローガルド帝国なる国が、魔物を使っているのは見ているな。

龍の里へ向かう途中で、たまたま遭遇した飛行船を助けた時だ。

あの飛行船は、虫型の魔物に襲われていた。

虫型の魔物は自らの意志が希薄だ。その分融通は利かないだろうが、数を揃えて命令を忠実に守らせるには、最適な魔物だろう。

考えてみれば、あれがダンジョンの魔物であった可能性は高い。

雑魚だったのでロクにステータスも確認しなかったが……ちゃんと見ておくべきだったな。

ダンジョンの魔物であったならば、俺のペット達と同じように『魔王の眷属』と称号に出ていたはずだ。

「話を聞くに、帝国はかなりの範囲をダンジョン化させているんじゃないか? 仮に包囲しようとしても、アンタらが包囲の軍を敷くところまでダンジョン化されてたら、多分人魔連合軍とかってのは一生自給自足出来ると思うぞ。生命エネルギーは、食料にも変換出来る」

ダンジョン領域を避けるために、包囲の範囲を広げたら広げたで、包囲自体の効果が薄くなるだろうしな。

……こう考えると、やはり敵に魔王がいるという予想は、かなり確度が高そうだ。

多分、俺が敵魔王でも、同じような戦略を取るだろう。

結局のところダンジョンは、防衛戦の方が得意だ。自分から攻め込むよりは、攻め込まれる方が圧倒的に対処が容易い。

仮に俺のダンジョンとどこかとが戦争となった場合、俺もどうにかして自陣に引きこもれるような策を取るだろう。

「ふむ……辻褄は合う、か……ユキ君が味方にいてくれて、本当に良かったね。どうかな、みんな。彼の説明を聞く限りだと、やっぱりこのまま帝都まで攻め込んだ方が僕はいいと思うけど」

その魔界王の言葉に、異議を唱える者はいなかった。

「――よし、じゃ、方針は決まったね。みんな、進軍を開始しよう」