軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

戦争勃発

――その一報は、大陸中に轟いた。

ローガルド帝国、そして魔族の中で『悪魔族』と呼ばれる者達が手を組み、自らを『人魔連合軍』と名乗り、アーリシア王国及び魔界王フィナルが治める魔界へ宣戦布告。

これを受け、アーリシア王国王レイドと魔界王フィナルは、エルフの女王ナフォラーゼが率いるエルフ達を味方に引き入れ、『種族無き同盟軍』結成を宣言。

人魔連合軍に断固として抗戦することを表明し、連合軍の危険性を説いて同盟軍に味方をすることを種族問わず要請する。

周辺に存在するヒト種の国家や、国家未満の共同体を形成している種族は、種族間での争いではなく他種族が両陣営に入り混じっていることに、初めは戸惑い、だがその争いの規模から対岸の火事ではいられぬことを理解し、間接的、あるいは直接的にそれぞれの陣営に協力を開始。

――大陸を巻き込み、力を持つ大国同士による戦争が始まった。

* * *

「ふむ……やはり、直接脅威に晒されていた国は、こちらに付いたか」

無事に、とは言えないかもしれないが、当初の目的であった魔族とエルフとの同盟に関してはつつがなく結成を完了し、帰って来たアーリシア王国の執務室にて、国王レイドはその情報に目を通していた。

『人魔連合軍』と名乗り始めた、ローガルド帝国及び悪魔族の者達との本格的な戦線はまだ抱えていないものの、明確に戦争状態となったために、以前から侵略の脅威に晒されていた国々から手を組みたいという旨の親書が届いている。

ただ、それと同時に、幾つかの仮想敵国との小競り合いが発生している。

いや、嫌がらせ自体は内乱騒ぎが起こった頃からあったことだが、最近になってさらにそれが増えているのだ。

「……面倒な」

厄介なのは、その仮想敵国が表面的には敵対の意志を示していないということだ。

終始嫌がらせをするだけに留まっており、表向きはどちらの陣営の味方もしないで「人命が失われることに憂慮する」などと白々しい声明を出すだけに留まっており、そうである以上完全な敵国と見なす訳にも行かず、ほぼ放置しているというのが現状である。

連合軍との戦が待っている以上、余計な戦線を抱える訳にはいかない。

こちらが戦っている最中に、どこかの段階で連合軍と共謀し、宣戦布告され側面を攻撃して来られても困るため、いつかは敵対する未来が待っているだろうが……準備がまだ不完全である今は、そうするべきではないだろう。

その適切なタイミングは、切れ者である魔界王フィナルに適宜相談するつもりだ。

国内では、人間と以前から関わりを持っているエルフはまだしも、完全な敵対関係にあった魔族と手を組むことに反対する意見もあったが、全て 捻じ伏せた(・・・・・) 。

あまり出したい布告ではなかったが、戦時体制への移行も滞りなく完了し、教会の協力もあって民の不安も抑えられている。

魔王ユキの協力により解決した、内乱騒ぎと勇者騒動を経て、風通しが良くなったことによる恩恵だ。

一つ懸念があるとすれば、それに比例して教会の力が増大していることだが、教会内でどんどんと力を付けている、ファルディエーヌ聖騎士団の団長カロッタ=デマイヤーが全面的にこちらに協力してくれているので、彼女が実権を握っている内は問題ないだろう。

戦力の目途は立った。

連携もスムーズに行っている。

「これならば、戦端が開かれても有利な条件に持って行けそうだが……やはり、解せんな」

戦争とは、外交だ。

相手に何かしら飲ませたい要求が存在し、対話ではそれが達成できないため、力を行使する訳だ。

つまり、こうして戦争を吹っ掛けてきた以上、相手には達成したい目標が存在するはずだが……その理由が、はっきりしない。

どこかで聞いたことがあるような、まるで中身のない宣戦布告は受けたが、それで何をこちらに要求したいのかがわからないのだ。

領土を増やしたい、という単純な野心であれば話は簡単だが、そもそもローガルド帝国とは国境が隣接していない。

あの国と正面切って対峙出来るのが、近隣ではこのアーリシア王国のみであるのも確かな事実だが――と言っても、間に四つか五つは別の国を挟んでいるのだが――、伸びた兵站線は、脆弱過ぎる程に脆弱だ。

間を飛ばしてこちらに宣戦布告をするのは、順番が違うだろう。

突如悪魔族達と協力を始めたことからしても、何を考えているのかわからない不気味さがある。

――どうであれ、今考えても詮無きことか。

フゥ、と息を吐き出し、没入していた思考を頭の片隅に追いやる。

味方と協力して情報収集は続けるとしても、今は答えの出ないことに思考を巡らすより、目の前の膨大な書類を片付けることの方が先決だ。

少しでも、味方の被害を減らすために。

一刻も早くこの戦争を終わらし、種族同士の垣根をなくした、平和を作るために。

「……そういう意味では、今回の戦争は有益かもしれんがな」

今回の戦争は、歴史上類を見ない規模で他種族と手を組むことになる。

肩を並べ共に命を賭けることで『戦友』という仲間意識が生まれ、国が政策を推し進めるよりも、もっと効果的に種族間の交流を深めることが出来るだろう。

そんなことを考えたところで、一人彼は、自虐的な笑みを浮かべた。

* * *

エルフの里での仕事を終え、ダンジョンへと帰還した俺は、再び遠出するための準備を整えていた。

こんな戦争を長引かせるつもりは魔界王にもないようで、短期決戦で全てを終わらせるつもりらしいので、ネルからの連絡が来次第すぐに動けるようにしておくつもりだ。

俺も、次はペットどもを全員連れて行くつもりなので、相手がウチのペット連中程の魔物を従えているならばわからないが、戦いがそう長引くことはないだろうと思っている。

それで悪魔族どもの首領であるあのクソ赤毛を殺せたのならば、ローガルド帝国とかって国との戦争は、ネルが関わって来ない限り勝手にやっててくれたらいい――なんて風に、言えたらいいんだがな。

そう割り切って、知らんぷりを決め込むには、俺もこの世界に関わりが増え過ぎた。

ウチの者達が最優先であることに変わりはないが、死なせたら寝覚めが悪いと思う相手が、今の俺には結構な数いる。

それに――。

「……ま、俺は、俺がやりたいようにやるだけだ」

死なせたくないのならば、死なせなければいい。

ウチの面々に危険が及ばない限りで、協力すればいいだろう。

敵は、潰す。

それだけだ。

と、そうして準備を進めていると、ふとレフィが声を掛けてくる。

「……のう、ユキ」

「ん?」

「儂は、お主を愛しておる」

「……な、何だよ、急に」

突然そんなことを言われ、微妙に狼狽えながら問い掛けるも、レフィは真面目な表情を崩さず言葉を続ける。

「ネルが関わる以上、此度のヒト種どもの戦争が、儂らも無関係ではおれんことはようわかっておる。じゃが――お主が儂らのために、と思って行動してくれているように、儂らもお主のためになることをしたいと、常々思っておるんじゃ」

「…………」

黙って、彼女の言葉に耳を傾ける。

「前にも言うたじゃろう? お主と、そしてここの者達のためならば、儂はこの世界を滅ぼしてもいい。どこぞのくだらん国など、お主が望むのならば、儂が灰に変えてやる。儂の力くらい、お主のためならば幾らでも振るってやる。じゃから、わざわざお主が危険に身をおかんでも良いんじゃぞ?」

その物騒な、だが思いやりの溢れた言葉に、俺は苦笑を浮かべて答える。

「確かに、お前に手伝ってもらったらこんな戦争、一瞬で終わるだろうけどさ。けど、それでも俺は、お前にはここで待っててほしいんだ。どうしようもなくなったらお前に頼るかもしれないが、俺だけでどうにか出来る間は、俺だけでやりたいんだ。――俺も、お前のことを愛してるからさ」

「……ずるい言い方をするの」

「そりゃあ、お互い様だ」

笑って、肩を竦める俺。

「そうだな……お前には、俺の考えてることを話しておこう。俺はな、レフィ。ネルのことだけじゃなくて、 イルーナ達のこと(・・・・・・・・) も考えて、魔界王達に協力しようと思ったんだ」

「……? イルーナ達を?」

不思議そうな顔をするレフィ。

「シィやレイス娘達はダンジョンの魔物だし、エンなんて本体は無機物だから、今後どう成長するのか正直わからないが……ただ、イルーナに関して言えば、普通のヒト種の子供である以上、いつかはここを出て色々と学ばなくちゃいけない。色々と、学ばせに行かせなくちゃいけない」

「……まあ、そうじゃの。生物は、経験せねば成長は出来ん。童女どものことを考えたら、そうすべきじゃろうな」

レフィの言う通り、生物は経験しなければ成長は出来ず、そしてダンジョンにいるだけで学べることなど、そう多くはない。

当然、彼女がここを出たとしても、その身を確実に守れるように手は尽くすだろうが、一生ダンジョンの中だけで過ごさせる、なんて訳にはいかないのだ。

「それでな。魔界王達は種族間の対立を終わらせ、誰が何の種族か、なんて誰も気にしなくなるくらい交流を深めようとしているらしい。それが実現すれば、今よりも世界は大きく広がるだろうし、ちょっとは安全になるはずだ。そしたら、イルーナ達が外に出るってなった時も、多少は安心して送り出せるだろう?」

子供を守る。

子供の未来を守る。

昔は、そんなのは嘘だと思っていた。

自分がガキの頃は、「子供達の明るい未来のために」なんてことを言う大人には胡散臭さを感じていたし、「いや、何様だよ」と反感を覚えたりもしていた。

自分達は自分達の力だけで生きている。

上から目線で気持ち悪いことを言ってんじゃねーぞ、と。

だが……こうして時が経ち、今度は自分自身が保護者みたいな立場になった今だからこそ、言えることがある。

俺達は(・・・) 守られていた(・・・・・・) 。

大人達が陰で支払っていた多大な労力に支えられ、日々の全てを助けられ、大人となったのだ。

俺は幼女達――特に、ただのヒト種であるイルーナの未来を守らなければならない。

そして、そのための力を俺は有している。

武力だけではなく、 縁(・) という力も。

前世のただの人間だった頃の俺ならばともかく、今の俺であれば、その力を使って世の変革くらいは出来るだろう。

そんな傲慢な考えが可能なだけの力を、今の俺は持っているはずだ。

……まあ、要するに何が言いたいのかと言うと、今回魔界王達に協力するのは、ネルのことだけでなく、将来的にイルーナ達のためにもなるんじゃないかと思った訳だ。

あの腹黒な優男ならばきっと、上手くやるだろうしな。

「つまり、先行投資の一環だな。この戦争で魔界王達に勝ってもらうのは、俺にも大きなメリットがあると思ったんだ。……今の内に外の環境を良くしておけば、その、将来子供が生まれた時も、その子のためになるだろうしさ」

微妙に気恥ずかしい思いでそう言うと、レフィもまた不意打ちだったのか、かぁっと顔を赤くする。

「……そ、そうか。……いつも行き当たりばったりなお主の割には、意外と深く考えておるではないか」

「バカ言え、俺はいっつも深謀遠慮を巡らしてるっての」

お互い気恥ずかしさを紛らわせるために、わざと軽口を叩き合う。

「ええっと……それで、今回はペットどもを全員連れてくつもりだから、こっちの守りはお前に頼みたい。色々言いはしたが、最優先がみんなの安全なのは変わらないからさ」

「うむ、それは任せよ。何が来ても灰にしてやる。――ま、お主の考えはわかった。ただ、忘れるな、ユキ。儂らは、お主のためならば、何でもしよう。お主のためならば、全力を尽くそう。これは、儂だけではない皆の総意じゃ」

「……あぁ。ありがとう」

その言葉だけで、俺は、何でも出来るよ。