軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ネル達の現状《2》

魔界王曰く、『トートゥンド・ルーイン』の成長の仕方は、異常らしい。

とんでもない大食らいであり、際限なく負の魔力を溜め込み続けることが可能で、加速度的に成長していく。

その所有者には必ず戦乱をもたらし、自らの成長の糧として血と狂気に溺れさせ、殺戮を続けさせるのだという。

まるで、寄生虫が宿主を操るかのように。

また、食らった相手の強さによってステータスの伸びが変化し、最終的には、災厄級の名を冠する程の力へと至るそうだ。

「当然、その使用者に代償はある。狂気に飲まれた様子はなかったから、剣に心を奪われている訳ではないんだろう。強靭な精神力だけど……それでも、恐らく彼の命は、残り十年もないだろうね」

「……自らの命を削りながらなお、目的を達成するために動く、か。厄介ですな」

「そうだね。古来より死を覚悟した兵士は、狂気的なまでに精強だ」

ポツリと呟くアーリシア国王レイドに、魔界王はコクリと頷く。

「……とすると、今回の襲撃の目的は、余の血肉を得ることか」

「あわよくば僕らの殺害も目論んでただろうけど、その可能性は高いね。ナフォラーゼちゃんの力は、歴代エルフ王の中でも飛び抜けて高いと聞いてるから、武器の力を伸ばす糧とするならば、良い素材だろう」

「フン……舐めた真似をしてくれたものであるの。余を素材扱いか。そうやって頭が身体を張って動いている内に、他の部下どもが――アレを用意して、余らをここに足止めする、と」

彼らが視線を送る先に見えるのは――エルフの里の外でグルグルと飛び回っている、一目見ただけで生きてはいないことが窺える龍族の成体。

肉は削げ落ち、ほぼ骨のみの風貌だが、窪んだ眼窩の奥でギョロギョロと動く眼球が獲物を探し続けており、非常に不気味だ。

現在は里に張った、森に同化し里全体の姿を隠す『擬装結界』があるため見つからずにいるが、この結界内から一歩でも外に出ると、即座にあの怪物が急降下を開始し、暴れ始めることが確認出来ている。

その時の調査で、ギリギリで結界内部に退避することで怪我人は出なかったものの、余波で森の一角が消し飛んだ。

アレを討伐するとなると、どれだけの戦力が必要になるかわからないだろう。

「こう言っては悪いが……ほんに、その援軍は期待出来るのかの?」

「期待はしていいよ、多分君と同じくらい、もしくは君より強い可能性もある。龍族を一人で倒してるようだからね」

「ふむ……龍族を単体で、となると確かに余では無理であるな」

「どちらかと言うと、問題は彼らが到着するまでの間だ。今回は悪魔族の子達、何重にも策を練ってきているようだからね。僕らがここで足止めされる時間が長くなれば長くなるだけ、こちらが不利になっていくし、更なる策を打っている可能性もある。ユキ君が到着するまでに、僕らもやれるだけのことはやろう」

* * *

『……ネル、大丈夫かな』

刀状態に戻ったエンから流れ込んでくる心配そうな念話に、俺は安心させるため笑って答える。

「大丈夫さ。アイツ、最近どんどん 強(したた) かというか、精神的な面でも肉体的な面でも強くなっていってるからな。ちょっとやそっとのことじゃあ全く問題ないだろうさ」

「そうじゃのう……彼奴は、嫁の三人の中じゃと、この男の影響を最も受けておるからな。図太いこの男の」

「何を言う。俺程繊細でピュアな心の持ち主も、昨今じゃいないって近所で有名なのに」

「お主が繊細ならば、この世に図太い者は誰一人としておらんくなるし、そもそもどこの近所じゃ、どこの。儂らに近所は存在せんぞ」

そうね。

強いて言うならば、魔境の森に住む龍族達ね。

一つ山脈挟んで向こう側だけど。

『……わかった。ネルを信じる』

「あぁ、我が家の頼れる勇者を信じよう。――と、エン、寝ててもいいぞ。向こうに着くまでまだ時間が掛かるし、遊んでたところにそのまま連れて来ちゃっただろ? 疲れてるんじゃないか?」

いつもの如く、エンにも付いて来てもらっているが、すでに陽は落ち月が出ている。

今までは夜にしっかりと休んでから翌日に家を出るようにしていたが、今日は緊急事態ということでそのまま出て来ているので、寝ていないのだ。

いつもなら、就寝準備をしている頃だろう。

ネルはエルフの里に着くまで二日か三日かかると言っていたが、俺達は一睡もせず一日で辿り着くつもりだ。

二日三日くらいならば、寝なくても大丈夫な体力が俺とレフィにはあるが、それをエンにまで求めるのは酷だろう。

『……大丈夫。一大事だから』

「そうか……ありがとうな。けど、無理はしないでいいからな」

「そうじゃぞ、まだ勝負時でもない。気合を入れるのはもう少し後で良いぞ」

『……ん、わかった』

ポンポンと彼女の柄頭を撫でると、嬉しそうな感情が返ってくる。可愛い。

「リル、お前の方も頼むぜ」

「グルゥ」

下で俺達と並走しているリルが、「お任せを」と言いたげな様子で一つコクリと頷く。

レフィがいる以上、何も問題は無いと思うが……念のためというか、俺を含めた手駒を増やす目的で今回はコイツも連れて来ている。

どうも詳細を聞く限り、悪魔族が暗躍しているようだし、何があっても対応出来るようにという判断だ。

その分ダンジョンの方の守りが大分薄くなってしまっているので、魔境の森中に張った無数の罠を全てアクティベートし、我が家に繋がる洞窟も外に設置してある扉も封鎖し、何か異変があればすぐにこっちに連絡するようにとレイラとリューに厳命してある。

残りの我がペット達も、外ではなく草原エリアにとどまってもらうことにした。

居残りの大人組にダンジョンの一部権限も渡してあるので、あそこを回していくことに関しては大丈夫だろう。

「それにしても、アンデッドドラゴンか……レフィ、さっきの様子だと、何か心当たりでもあるのか?」

そう問い掛けると、彼女は険しい表情で答える。

「……ユキ。龍族は、お主も知っておる通りそう簡単には死なぬ。元々種族としての数も多くないこともあり、二百年に一体死ぬかどうかじゃろう。お主が黒龍の阿呆を殺したような例外は除いての」

「つまり……アンデッドの素体となる死体自体が滅多にないってことか?」

「うむ。寿命でくたばるような龍は、それぞれが長く住んだ土地か、誰も知らぬ荘厳な地で、人知れず天へと昇ることが多い。加えて、龍族は魔素と親和性が高いため、骨もすぐに大地へと還る。故に、龍族の肉体がアンデッドになることは滅多にないが……今は少し、話が別じゃ」

「……なるほど。龍の里を出たっていう、 若い龍達(・・・・) がアンデッドになったんじゃないかって思ってるんだな」

龍の里へ行った時、古龍のじーさんが黒龍の他にも若い龍が何匹か里を出たと言っていた。

もしかすると、アンデッドドラゴンの素体となった龍は、その者達かもしれない、と。

「可能性は高いじゃろう。そうでなくとも、静かに生きて死んだ同胞の墓を荒らした訳じゃ。儂は、龍族という種が嫌いであるが、だからといってそのような舐めた真似をされれば……腹も立つ」

珍しく憤った様子を見せてから、レフィは一つため息を吐き出す。

「と言うても……阿呆の小僧どもが、ヒトの世界で好き勝手暴れ、討伐された 骸(むくろ) が使われているというのも重々考えられるがの。彼奴らはあの黒龍に感化されておった訳じゃからな」

……確かに、そういう可能性もありえそうだな。

「……まあ、どうであるにしろ、死体になってまで兵器として使用されるってのはちと不憫だし、俺もお前も死霊術が嫌いな身だ。さっさと土に還してやるのがいいさ」

「……そうじゃな。迷惑を掛けておる同族を、さっさと眠らせてやろう」