軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

少し変わった朝

「おはよー! お寝坊さんで仲良しさんなおにいちゃん、おねえちゃん、起きてくださーい!」

「おきてくださーイ!」

「……朝ごはんが待ってる」

耳から飛び込んでくる、幼い元気な声が三つ。

「んっ、んん……わかった、今起きる」

「うっ、うむ……待て、今起きる……」

上に乗りかかってきた重みに、俺は唸りながら身体を起こし――と、すぐに俺は、同じ布団に入り、隣で同じように身体を起こし、目を擦っているレフィの存在に気付く。

「…………」

「…………」

互いに、顔を見合わせる俺達。

俺は頬をポリポリと掻き、レフィは髪の先をいじる。

「もう、探したんだよ、おにいちゃん達。いつものお部屋にお布団敷いてるのに、二人ともいないから――って、どうしたの? 新婚さんごっこ?」

不思議そうな顔で見てくるイルーナに、俺はコホンと一つ咳払いし、立ち上がる。

「わかった、朝ごはんな。今行くが……あー、俺達は先に風呂入ってから行くよ。だから、先食っててくれってみんなに伝えといてくれ」

「わかった、お風呂ね! あ、二度寝しちゃダメだよ!」

「にどね、キもちいいもんね~」

「……二度寝より、お風呂の方が気持ち良いと思う」

「はい! わたし、知ってる! こういうの、諸説あるって言うんだって!」

「しょせつあル!」

「……諸説ある」

そんな感じでワイワイと騒ぎながら、幼女達が旅館から去って行ったタイミングで、俺は隣のレフィへと口を開く。

「……レフィ、風呂行こう。昨日は外の障子戸開けたまま寝たから、部屋に臭いは籠ってないだろうが、多分俺達自身は酷い臭いだと思うぞ」

「う、うむ……確かに今のまま居間へ行ったら、ネルやリューに色々言われそうじゃからの……」

「あぁ。リューとか特に、すげー鼻が良いし、このまま行くと一発でバレると思うぜ。――そうだ、何なら、二人で洗いっこでもするか? 身体の隅々まで洗ってやるぞ?」

「戯け」

ニヤリと笑みを浮かべてそう言うと、ちょっと照れた様子でパシンと俺の肩を叩くレフィ。

そのまま俺達は、二人一緒に、いつもより少し近い距離感で旅館の温泉へと向かって行った。

* * *

「――ご主人から、すごいレフィ様の体臭がするっす」

唐突にそんなことを言うリューに、俺は思わず吹き出しそうになるのを我慢し、口を開く。

「そ、そうか? 別に、いつもと変わらんと思うが?」

「いいや、今日はご主人から一段とレフィ様の臭いがするっす! しかも、レフィ様からもご主人の臭いが! 昨日、ウチらの知らないところで何があったんすか!」

お見通しっすよ! とでも言いたげに、ビシ、と俺達に指を突き付けるリュー。

なっ、何故気付かれた……!?

これを避けるために、レフィとしっかり風呂に入ったというのに……!!

と、リューの言葉を聞いて、こちらに近付いてきたネルが、スンスンと鼻を鳴らす。

「……ホントだ。今日はおにーさんからすごいレフィの体臭がするね。昨日の夜は、二人だけで旅館の方に行っていたみたいだし……気になる」

ッ、よく鼻の利くリューはともかく、ネルまで!?

元々、女という種は鼻が良いとは聞くが……ここまでとは。

恐るべし力を持っているものだ、女性とは。

浮気した世の男性が、簡単にバレてしまうのも無理はないだろう。

――ま、ここにいる女性陣が世界で最強の嫁さん達なので、俺が浮気することはないがな!

ジトーっとした視線を送ってくる二人に、そんなアホなことを考えながら俺は、とりあえず何とか誤魔化すべく口を開く。

「昨日、レフィに添い寝をしてもらったってだけさ。別に怪しむことは何もないよ。――それより、ネル君! そろそろ帰りの準備をしないとヤバい時間帯じゃないのか? お前がまだいてくれるんなら俺達は嬉しい限りだが、今日の夜には王都に着いてないとマズいんじゃなかったか?」

「あっ、そ、そうだった! ま、マズい、早く準備しないと……」

そう言って彼女は、真・玉座の間の一角で、慌てて着替えやら何やらの準備を始める。

「リュー、お前もさっき、レイラに手伝いを頼まれてたろ? そっちはいいのか?」

「む! ……まあ、そうっすね」

怪訝そうに何度も俺達の方をチラチラ見ながらも、リューはレイラのいるキッチンの方へと向かって行った。

そして残るのは、俺とレフィ。

しばしお互い口を閉じたまま、ただその場に佇み――と、ふとレフィが口を開く。

「……そうじゃ、ユキ」

「うん?」

「今までお主の嫁でありながら、こういうことを聞かなかったのは儂が悪いのじゃが……その、男というものは定期的に、せ、性欲を発散させねばならんものではなかったか? もしや、今まで我慢させてしまっておったか……?」

ちょっと恥ずかしそうにしながらも、申し訳なさそうな感じで聞いてくるレフィ。

大分答え辛いその質問に、俺は「あー……」と首の後ろを擦りながら答える。

「……ま、まあ、確かにお前の言う通りではあるんだが……それ以上に俺は、みんなと一緒に毎日を過ごしてて、満たされてたからさ。性欲に関して言うと、二の次三の次になってたから、別に大して辛くも――って、何を言わされてるんだ、俺は……」

そう、真面目に答えてしまってから、何だか非常にマヌケなことを言っている気分になり、苦笑を溢す俺。

「……フフ、そうか。満たされている、か」

小さく笑ってレフィは、俺に身体を寄せる。

俺は、その温もりをさらに感じるために、片腕で彼女の華奢な身体を掻き抱き――と、突如ヒョコっとキッチンから顔を覗かせたリューが、「あー!!」とこちらを指差す。

「やっぱり怪しいっす! 二人、いっつも仲は良いっすけど、今日の仲の良さは絶対おかしいっす! レフィ様、これは後で嫁会議案件っすよ!!」

「……ま、まあ、その内にの。今日はネルが忙しいから、また今度じゃな」

いじらしい様子で、はにかみながらそう言うレフィを見て、リューがネルへと顔を寄せ、わざとらしい態度で耳打ちをする。

「見てくださいっす、ネル。あのレフィ様が、今日は超しおらしいっす! これはやっぱり、何かあったっすよ!」

「うん……これは、しっかりと聞かないといけないね! 確かに明日にはもう仕事があるけれど、それはつまり、僕が夜向こうで寝る時間を減らせば、まだここにいられるということ! レフィ、しっかり聞かせてもらうよ!!」

「うっ……ま、待て、お主ら! ユ、ユキ、お主も見ておらんで、何か言わんか!」

「お元気で」

「お元気で!?」

こういう時、口を出すとロクなことにならないと学んでいる俺は、リューとネルに両腕を掴まれ、ドナドナされるレフィを微笑みと共に見送ったのだった。