作品タイトル不明
お花見をしよう《3》
「この反逆が、如何な結果を残すのか……覚悟は、出来ているんだな? ちゃんと、わかっていてやっているんだろうな?」
「フン……わかっているからこそ、儂はこうして行動しておる。お主こそ、理解しておるのか? 儂が本気になれば、お主には為す術などない、ということを」
「言うじゃないか、レフィ!! いいだろう、ならば今日こそ決着を付けるとしよう。――コイツで!!」
そう言って俺は、バッと構える。
――バドミントンのラケットを。
対しレフィもまた、握ったバドミントンのラケットを、ビシ、と俺に向ける。
「覚悟せい!! 今日こそお主をギッタギタにしてやる!!」
「そうか、是非とも楽しみにさせてもらおうか!! ――行くぞ、食らえ、殺人ミサイルサーブ!!」
わざわざDPで生み出したコートの片側から、ビュウン、と、魔王の殺人ミサイルサーブをネットの向こう側へと放つ。
恐らく、前世であれば世界一であろう速度の俺のサーブは……しかし、非常に身体能力の高いレフィによって、簡単に打ち返される。
「これで殺人とは、片腹痛いわ!! 行けっ、覇龍衝波!!」
まるで、弾丸染みた速度でシャトルが迫り来るが……まだ、見える範囲内だ。
「なんの、これしき!! 魔王ゴッドブレス!!」
俺は原初魔法の『風』を使用し、シャトルの軌道を変化させながら打ち返す。
「ぬっ、そう来たか!! いいじゃろう、ならばこうじゃ!! 覇龍幻影弾っ!!」
どうにかシャトルにラケットが追い付いた我が宿敵は、思い切り腕を振り抜いて打ち返し――突如、 シャトルが(・・・・・) 十数個に増える(・・・・・・・) 。
「な、何ぃッ!?」
恐らく、レイス娘達の次女ルイの使う、幻影魔法と同じようなものだろう。
そのどれが本物かを見抜くことが出来ず、俺のラケットは空を切り――シャトルが、地面に落ちる。
コートから明後日の方向に。
「…………」
「い、今のは少し力んでしまっただけじゃ! それより、早く次を打って来んか!」
思わず無言で彼女の方を見ると、ちょっと顔を赤くしてそう捲し立てる我が宿敵。
「なんか……おにーさんとレフィがああいう遊びをすると、一気に別物になるね……というかレフィって、結構運動出来るんだね。少し意外かも」
「おねえちゃん、とっても目が良くて、動きが早いから、強いんだよ!」
「レフィおねえちゃン、うんどうつよイ!」
「……ん。強い」
「頭を使う系はご主人の方が強いっすけど、身体を動かす系はレフィ様の方が優勢っすねぇ」
レジャーシートの上でのんびりとしている観戦組が、口々にそんなことを言う。
そう、覇龍としての身体能力を発揮出来る分、スポーツ系に関して言うとレフィはかなり強いのだ。
俺が経験済みで、彼女が初めてやったスポーツとかならば、最初の数戦は俺が勝つが、何度もやっているとだんだん負け始めるくらいである。
だが……それでも、俺が一方的に負けるだけ、ということはない。
イノシシは確かに強いが、しかし突進しか出来ないと知っているならば、やりようはある。
クックック、お前のクセは、俺は知り尽くしているぞ!!
俺は、レフィがコート外に飛ばしたシャトルを拾い、サーブの位置に付く。
我が宿敵はポンコツだが、しかしその圧倒的な身体能力故に、観察眼が凄まじい。
たとえば、俺がチラリと視線をレフィのコートの一か所に向けるとする。
すると、レフィはピクッと反応してそちらに意識を向け――。
「そこだァッ!!」
「ぬっ!?」
レフィの意識が向いた反対側へと向かって殺人サーブを放つと、我が宿敵は反応が遅れ、どうにかこうにかギリギリのところでラケットに触れる。
ヒョロヒョロで返ってきたシャトルは、だが、俺にとって絶好球である。
「くたばれレフィィィッッ!! 魔王ヘルファイアッッ!!」
「ぬわああああ!?」
ズゥンと放った俺のスマッシュは、レフィのコートの一角にギュルルルと突き刺さり、やがて停止する。
「フッ……この程度か、我が宿敵の実力は……期待外れだな」
「ぐ、ぐぬぬ……いいじゃろう!! そこまで言うのならば、儂が新たに会得した最終奥義を見せてやる!!」
と、レフィは突如レジャーシートの方に行くと、置かれていた酒瓶の一本を手に取り、ゴクゴクと飲みながらこちらに戻ってくる。
「――プハッ……クックッ、これでお主はもう、儂を止めることは出来ぬじゃろう……」
「ま、まさか……それは、酔拳バドミントン!?」
「気付いたか。果たして今の儂に、どれだけお主が付いてこれるかの?」
ちゃんと酒瓶を端っこの方に置いてから、ニヤリと笑みを浮かべる我が宿敵。
なお、酔拳とバドミントンにどんな関係性があるのかは謎である。
「恐れ戦くが良い、我が史上最強の強敵よっ!! これでお主を、屠ってやるッ!!」
レフィはポンとシャトルを上に飛ばし、ブゥンと俺の方にまで風圧を感じるような物凄い勢いでラケットを振り――そして、空振る。
「あいたっ」
落ちてきたシャトルが、ポトンとレフィの頭に落下する。
「……お前、普通に酔っただけじゃねえか」
「ち、違う!」
* * *
「フゥ、いい汗掻いたぜ。さて、敗者には酌でもしてもらおうかな?」
「ぐ、ぐぬぬ……仕方があるまい、次こそは勝ってやる」
ニヤニヤしながらレフィの方に杯を出すと、我が宿敵は悔しそうにしながらも大人しくそれに注ぐ。
「うむ、苦しゅうないぞ。ほれ、もっとこちらに来たまえ」
「……フン、仕方がないのう」
そう言いながら、レフィは満更でもない様子で俺に身体をもたれかからせる。
「うわ、おにーさん嬉しそうな顔しちゃって。全く、相変わらずラブラブなんだから」
「フフフ、嫉妬してるのかぁ? 可愛いヤツめ。ほら、ならば君はこっち側に来たまえ」
「! えへへ……じゃあ、遠慮なく!」
ポンポンと、レフィとは反対側の俺の隣を叩くと、ネルは嬉しそうに俺に身体を寄せる。
「む! ご、ご主人、ウチは!」
「お前は、俺の膝上だ」
「膝上! ふふふ……やったぜ」
リューは俺の膝を枕に、ゴロンと転がる。
酒を飲みながら、三人の嫁さんに囲まれる。
彼女らの柔らかい身体の感触と甘い香りに包まれ、とても気分が良い。
なんて素晴らしいんだ……ここは天国か。
ちなみに、現在幼女組は、全員でペット達と触れ合って遊んでいる。
今は、背中に乗って乗馬ごっこをしているようだ。
我がペット達も、大分幼女の相手に慣れたようで、如才なく彼女らの相手をしている。
なので、ここに残っているのは我が嫁さん達とレイラなのだが……そのレイラはというと、現在ニコニコしながらチビチビと酒を飲んでいる。
あの子、結構お酒好きよね。
「レイラも、こっちに来ましょうよ!」
「……うふふ、では、失礼しますねー」
リューの言葉に、ふといたずらっぽい顔を浮かべてレイラは、こちらに近寄り――ポンと俺の背中から腕を回し、抱き着くようにしてもたれかかってくる。
彼女の豊満な胸が俺の背中に押し付けられ、とても気持ちが良い。
「あー! レイラ、それはずるいっすよ!」
「そ、そうじゃぞ、レイラ! ユキ、お主もだらしない顔をするでないわ!」
「れ、レイラのおっぱい、恐るべし……」
即座に声をあげる彼女らに、ニヤリと笑みを浮かべた俺は、片手で後ろのレイラの頭を撫でる。
「悪いな、お前ら。実はレイラとは、お前らの見てないところでラブラブだったんだ」
「あら、魔王様との蜜月が、みんなに知られてしまいましたねー。実は魔王様には、とても良くしていただいていましてー」
「む! ……まあ、別にレイラなら良いか。全く、それならそうと、コソコソしておらんで言わんか、阿呆」
「とうとう、って感じっすねぇ」
「レイラ、可愛いし頼りになるもんねー。まあ、好きになっちゃうのもわかるかな」
「……あの、君達、冗談なので。そう簡単に話を受け入れられると、ちょっと困るのですが」
あっさりと受け入れる三人に苦笑を溢していると、そこでレイラは、何故か少し寂しそうな顔を浮かべる。
「そう、ですね、冗談ですー。あの夜はただの過ち。全てが、仮初めだったのですからー……」
「え、レイラさん?」
「魔王様は、それはもう深く愛してくださりましたがー……もう、忘れてしまいましょう」
「えっ、レイラさん!?」
何で君、そんな昼ドラみたいなこと言ってんの!?
「なっ、ユ、ユキ、男ならばしかと責任を取らんか!! そんな甲斐性無しに育てたつもりはないぞ!!」
いや、育てられたつもりもないですし。
「お、おにーさん! それは、良くないよ! ぼ、僕も一緒に謝ってあげるから……」
いや、一緒に謝ってどうするんですか。
「……ハッ、よくよく考えてみれば、最強メイドのレイラがご主人のお嫁さんにまでなったら、お、同じメイド枠のウチが勝てるところが何一つない!? こ、これは、ウチのアイデンティティの結構な危機なのでは!?」
君はちょっと、落ち着いてください。
「ま、待て、お前ら、冗談だって。別に俺、何にもしてないって」
「えぇ、勿論そうですともー。魔王様とは……何も、なかったのですー」
「レイラさん、あなたはちょっと黙っていてください」
「その言い種は何じゃ、ユキ!! お主はもっと、反省せい!!」
「ご主人、それは良くないっす、それは良くないっすよ!!」
「おにーさん……僕、悲しいよ」
「待て、わかった。悪かった、俺が悪かったから、とりあえず君達、一旦落ち着いて俺の話を聞いてくれないか」
怒ったり悲しんだりの彼女らに対し、しどろもどろになる俺を見てレイラは、楽しそうに小さく「フフ……」と笑っていた。
……君も、やるようになったじゃないか。
あとレイラさん、あなた、絶対酔ってるでしょ。