軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

お花見をしよう《2》

「おー! すごい! 本当に綺麗に咲いてる!」

ちょっと前に帰ってきたネルが、満開に咲いた桜を前に、歓声をあげる。

「ピンクいろ~!」

「……綺麗」

「あれ? ここ、こんなに木、生えてたかな?」

「お、良いところに気付きましたね、イルーナさん。実はここの桜の木、今回の花見に合わせて増やしたんですよ」

旅館の庭の範囲を大幅に拡大し、数本桜を新たに植え、お花見に最適なスポットを作り上げたのだ。

フフフ、魔王はどんなものに対しても本気なのだよ。

花見をやるならば、木を生やすところからやるのが魔王流というものである。

「ほれ、お主ら、準備を手伝えー」

「「「はーい」」」

「……ご飯、楽しみ」

レフィの言葉に、ネル、イルーナ、シィの三人が揃って返事をし、食べるのが大好きなエンがワクワクした様子でそう言う。

「ご主人、シート、そっち側持ってくださいっす!」

「オーケー」

俺はレジャーシートのリューが掴んでいるところとは反対側を掴み――と、それを見てニヤッとしたレイス娘達の長女レイが、念力でリューの方のレジャーシートを、まるで風で靡いたかのように浮かす。

「うひゃあ、飛んでっちゃうっす――って、何でやねーん!」

ビシ、と伸ばした掌を、いたずらを敢行し終えたレイに向けるリュー。

レイと俺は、顔を見合わせた。

「……あの、もう一回、もう一回やり直しを要求するっす。今のは失敗っす」

「えー? あんなこと言ってるけど、どうする、レイ?」

俺の隣でふよふよ漂うレイは、「えー、仕方がないなぁ。もう一回だけだよ?」と言いたげな様子で、再度念力を発動する。

再度、まるで風に揺られるかのように、ふわりと浮くレジャーシート。

「ふっ……待ちな、かわい子ちゃん。そんなに焦って、どこに行くというんだい?」

「面白くないので減点。今日のお前の飯無しな」

「罰が厳しい!?」

そう、彼女らとふざけていると、レフィが俺達に口を開く。

「お主ら、ふざけておらんで早く敷かんか」

「……早く。お腹空いた」

レフィの後に、待ち切れないといった様子で言葉を続けるエン。

「あ、すまんすまん。ほら、リュー、ふざけてないでちゃんと持て」

「ご主人、こういう時ウチのせいにするの、ズルいっすよ。怒られる時は一緒っすからね」

と、その時、最後の仕上げを終えたのか、大きな弁当を持ったレイラが旅館の方から現れる。

「あ、レイラおねえちゃん、お弁当持ってってあげる!」

「あら、ありがとうございますー。揺らしては駄目ですよー?」

「わかってるー!」

レイラから大きな弁当を受け取ったイルーナが、トテトテとこちらまで駆け寄り、俺とリューが敷いたレジャーシートの上に置く。

「よいしょ!」

「シィは、すいとうはこぶ! ヨいしょ!」

イルーナの隣で、大きな水筒を同じように置くシィ。

彼女らは靴を脱いでレジャーシートの上に乗ると、まずイルーナがゴロンと転がり、それを見てニッコニコ顔のシィが真似して転がる。

「みんなー早くおいでー! 来ないとこのまま寝ちゃうんだから!」

「ふほうせんきょダー!」

「むっ、それはいかんな! では俺も、他の者達がすぐにこちらに来るよう、不法占拠してしまおう! フーハハハッ!!」

「「きゃーっ」」

弁当と水筒を蹴らないよう奥に置いてから俺は、彼女らの近くに飛び込むようにして転がった。

「あははっ、じゃあ僕も!」

「それじゃあ、ウチも!」

「ぐおっ、ハハ、お前ら」

笑いながらネルとリューがこちらに飛び込んでくるので、俺は二人を抱き留める。

彼女らの柔らかい身体が感じられて、とても気持ちが良い。

「全く……童女どもはともかく、お主らは」

「レフィ様、尻尾がピクピクしてますよー? 本当は参加したいんですよねー」

「あ、阿呆! そんなことないわ!」

からかうようなレイラの言葉に、ちょっと顔を赤くしながら否定するレフィ。

「……ねぇ、早く、ご飯」

――ちなみにその中でエンだけは、全くブレずにずっと飯の催促をしていた。

ごめんごめん。

* * *

『いただきます』

俺達は手を合わせ、箸を手に取る。

「うーん、いい匂い! すごいね、このビーフシチュー。とっても美味しそう!」

「それ、おにいちゃんとレフィおねえちゃんが、がんばって作ったんだよ! 確か、レフィおねえちゃんしかやっつけられないとっても強い魔物を、レフィおねえちゃんがやっつけてきて、そのお肉の一番おいしい部分をおにいちゃんが解体してゲットして、料理に使ってるんだって!」

「へ、へぇ……そうなんだ。そこまで来るとこのビーフシチュー、王侯貴族でも食べられないような、超高級料理だねぇ……」

微妙に引き攣ったような笑みを浮かべるネルに、リューが口を開く。

「ネル、見てくださいっす! この玉子焼き、ウチが作ったんすよ!」

「へぇ? ……んっ、美味しい! リュー、とても美味しいよ!」

「お、どれどれ……お、本当だ。美味いな」

しっかりと出汁が利いていて、かといって辛すぎることもなく、とても美味い。

「フフフ、そう言ってくれるととっても嬉しいっす! これからどんどん練習して、レイラ並の料理の美味さになるっすから、待っていてほしいっす!」

「あら、では私の知る技術を全て伝授しなければなりませんねー。お料理は魔術と似ていて、理論さえ覚えればすぐですので、リューがその気なら、教えてあげますよー? 二年くらい、本気で理論のお勉強してもらうことになると思いますがー」

「……やっぱり、こういう手の込んだ料理はレイラに任せるっす! ウチは、軽い料理だけ出来るようになるっす! お勉強は、嫌いなんで!」

「おう、随分と意志が折れるのが早い上に、言い切ったの」

彼女らのやり取りに声をあげて笑っていると、そんな中でシィがエンへと問い掛ける。

「エンちゃん、それ、おいしイ?」

「……とても美味しく、素晴らしい。シィも、いっぱい食べるべき」

「わかっタ! うーん、おいしいものいっぱいで、しあわせだネ~」

「幸せ幸せ~! し~あ~わせのうた~!」

「しあわせのうタだ! イルーナがいっぱいしあわせなときニ、うたううただ!」

ちょっと調子の外れたその歌を、エンとシィが同じように歌い、桜の木に登って遊んでいたレイス娘達がクルクルと回る。

最高に可愛い。

「あはは、いい歌だね。それはイルーナちゃんが考えたの?」

「うん! あのね、おにいちゃんが、嬉しかったり楽しかったりする時はちゃんとそうだって言った方が、もっと嬉しかったり楽しかったりな気持ちになれるって言うから、いっぱい言うことにしてるの!」

「それはいいね、僕も良い気分の時はちゃんとそうだって言うことにするよ。今、こうしてみんなとご飯が食べられて、とっても嬉しいかな」

「うむ、俺達も嬉しいぞ、お前とこうしていられて!」

俺は隣のネルをギュッと抱き寄せる。

「あっ……えへへぇ」

「む! ちょっと羨ましいっすけど、ネルは普段いられないから何も言わないでおくっす! 代わりにウチは、レフィ様を抱き締めるっす! うーん、柔らかでいい匂い」

「おっと、ならば儂は、レイラを抱き寄せてやろう。うむ、お主はふわふわで心地良いの」

「うふふ、ありがとうございますー」

「うれしうれし~! う~れ~しいときのうた~!」

「うれしいときのうたダ! つかいまわしで、おなじフレーズだけど、うれしくなっちゃウうただ!」

「あはははっ」

俺達は、心の底から大笑いしながら、あんまり桜を見もせず、花見を続けた――。