軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

神槍

『もう行くのか。外の者は変わらずせっかちなことだ』

『もう三年くらいはゆっくりすれば良いのにのう』

長命種らしい感覚で物を言う龍族達に、俺は苦笑を浮かべながら言葉を返す。

「気持ちは嬉しいが、ヒト種はそんなに気が長くないんだ。ま、皆長命種なんだ、またその内、機会があったらこっちに遊びに来るよ」

俺の言葉に、コクリと頷くのは、ローダナス。

『うむ、また来るが良い。ここの里の長は、今はお前さんなのでな。儂らはいつでもお前さん達を歓迎しよう』

「そうじゃな、お主ら年寄が全員くたばった頃にでも、もう一度来るとしよう」

『フフフ、あぁ、それで構わぬ。龍王と共に覇龍であるお前さんが来るなら、その時の龍族達も喜ぶであろう』

レフィの悪態にも、余裕の表情で言葉を返すローダナス。

精霊王の時もそうだったが……この世界だと、レフィを子供扱い出来るヤツが結構いるんだよな。

久しぶりに感じるが、相変わらず凄い世界だ……。

「それじゃあ、俺達は行くよ。世話になった」

「次来る時までに、お主らはもっと外に目を向けることじゃな」

「……ばいばい」

『うむ、待っておるぞ』

そして俺達は、龍族達に見送られながら、龍の里を後にした。

* * *

「あれだな、結局龍族達にとって龍王ってのは、ヒト種の『王』とは大分意味合いが違って、『支配者』というより『象徴』みたいなもんなんだな」

「ふむ、儂はあまりヒト種の社会には詳しくないが、確かに龍王というものは、龍族の支配者、とはちと違うものじゃの」

いなくてはならない存在だが、龍王のみが全てを決定する訳ではない、象徴のような地位。

種の上に立つ王という存在ではあっても、俺が会ったことのある人間の国の王や魔界の王のような、権力者ではないということだ。

いや……俺みたいなのが龍王になっても、龍族達が特に反発せず言葉を聞いてくれたことから察するに、この地位に一定の力があり、龍族達にとって 頂(いただ) くべき存在であることには間違いないのだろうが、それが全てではないということだ。

あの里に行ってよく感じたことだが、龍族の社会は、何十万年という長命種にとっても長い長い時間を掛けて種が続いてきたため、ヒト種の社会よりも群を抜いて 成熟(・・) しているのだろう。

成熟した社会は、日々に余裕が生まれるため、命を賭した闘争が減る。

闘争が減れば、自然と温和な者が多くなる。

温和な者が多くなれば、その社会は競争が少なくなり、穏当なものになる。

その在り方は、確かに少し退屈なものだろうし、レフィが龍の里を『停滞した場所』と呼び、龍族の若い衆が多く離れてしまったのもわかる話だが……もしかすると龍族の社会は、この世界で最も発達していると言えるのではないだろうか。

「それでも、お前は『龍王になれ』って言われて、嫌がって暴れたんだろ?」

「当たり前じゃ。何が悲しくてそんなものにならねばならん。立場には少なからず責任が生じる。それを、全くその気もないのに背負わせられるのは我慢ならん」

それもそうか。

俺は流されるままに龍王となってしまった訳だが、そうじゃなかったら確かにやりたいとは思わないだろう。

「それにの。お主はそれなりに仲良うやっておったが、儂は今でもあの場所が嫌いだし、龍王だからというて、お主に自分達の尻拭いをさせようとする魂胆も気に入らん」

「あー……まあ、言いたいことはわかるが、彼らも色々考えてそうしたんだろ。別に、自分達が面倒だからって俺にあんな話をした訳じゃないだろうさ」

先々代龍王が殺されたとて、大して動かなかった古龍の年寄達だが、それは自分達が対処に動くと、それだけで世が荒れると理解していたからだろう。

多分、若い衆の中でも気性の荒いのが仮に暴れていた場合と、古龍連中がそれを連れ戻しに行った際に起きるイザコザの被害の程度差を考え、後者の方が龍の里でも外界でも色々とヒドいことになると考えたのではないだろうか。

自分達は手加減出来ないとも、龍族の戦闘で文明が簡単に滅びるとも言っていたしな。

それに……もしかすると、社会経験でも積ませたいのかもしれない。若い衆に。

他種族にとっては迷惑千万な話ではあるが、閉鎖的な里の中で一生を過ごすよりは、外に出た方が色々と成長するだろうことは間違いのない話だ。

だが、完全に放置する訳にもいかないので、俺にも協力をお願いした、といった感じじゃないだろうか。

と、そんな感じの話をすると、レフィは少し不満そうな顔で俺を見る。

「何じゃ、嫌に彼奴らの肩を持つではないか。そんなにあの場所が気に入ったのならば、龍族の里の子になってしまえばよいではないか!」

『……だめ』

「いや、お前はわがままな子供を持ったどこかのお母さんか。エンも、俺はどこの子にもならないから大丈夫だぞ」

俺は苦笑を溢し、心配そうな念を送ってきたエンの柄をポンポンと撫でる。

「……フン、まあ良いわ。それで、あの槍の効果を確認するつもりなんじゃろう? 見ていてやるから、早く済ませて帰るぞ」

「了解、そうしよう」

――現在はまだ、ダンジョンには帰っておらず、龍の里付近の秘境である。

ローダナスに渡された槍、『神槍』。

どんな力を持っているのかわからず、ちょっと恐ろしいので、向こうに戻る前にその辺りを確認しておきたかったのだ。

今はレフィもいるし、仮にヤバい事態になってもどうにかしてくれることだろう。

アイテムボックスから神槍を取り出すと、俺が反対の手に握っていたエンが擬人化し、むむむ、と唸る。

「……む。確かに強そう。主の武器に相応しいか、エンが見定める」

「あぁ、頼むぜ。多分こういうのは、レフィとエンの方がよくわかるだろうしな」

まずは……普通に突きでもしてみるか。

エンの本体をレフィに渡した俺は、とりあえず普通に神槍を構え、突きを放ち――。

「フッ!」

「…………」

「…………」

――が、何も起きない。

「……何も起きないな」

「ふむ、特に魔力などに変化は感じなかったの。空突きじゃ駄目なのではないか?」

「的がいるってことか? よし、それなら……」

次に俺は、近くに生えていた木に向かって突きを繰り出し――普通に、槍の切っ先が木に刺さる。

「……何も起きないな」

「……何も起きんの」

しかも、俺が槍なんか扱ったことがないからか、ちょっとしか突き刺さらなかった。

これなら、普通のナイフとかの方が攻撃力が高そうだ。

この槍からは、確かに龍族やレフィが放つような圧力を感じるので、何にもないということはないと思うのだが……。

そう、レフィと共に首を捻っていると、エンがポツリと呟く。

「……主、魔力を流す」

「魔力? これにってことか?」

「……ん。魔力を流すと、能力を発揮する。多分」

コクリと頷くエン。

なるほど、魔道具みたいなものなのか。

言われた通り、俺は神槍に魔力を流し込み始め――変化は、すぐに訪れた。

「おわぁっ!?」

俺の魔力を濁流のような勢いで吸い上げ、見ている目の前でグングンと長く太くなる槍。

俺の全魔力の半分を吸い上げたところで変化は終わったが……なんか、外見がすんごい変わっていた。

ただ武骨なだけだった骨製の槍だったのに、魔力で出来ているのか房などの美麗な飾りが生まれ、元の大きさより二回りも三回りも大きくなった刃部分などは、何やら真空刃みたいなものを薄く纏っている。

槍というより、薙刀のようなフォルムだ。

恐らくこっちが、この槍の真の姿なのだろう。

「な、なぁレフィ、大丈夫か、これ? もうなんか、握っているだけで大分恐怖を感じるんだが……」

魔力を流し込んだことで、この槍が放ち始めた莫大な圧力に、握っているだけで冷や汗がダラダラ流れ始める。

「……とりあえず、何があってもお主のことは守ってやるから、一度振るってみるがよい」

「あ、あぁ」

俺は、大分ビビりながら姿が一変した槍を構え、先程と同じように突きを放ち――瞬間、 消滅した(・・・・) 。

貫通したとか、破壊したとかではない。

その言葉通り、消滅である。

まるで、最初から何も存在していなかったかのように、神槍で突きを放った先の木が大きく刃の形に抉り取られている。

確認してみると……消滅が及んだのは、十五メートル程先までか。

「……俺、軽く突き出しただけなんだけど」

今の感じだと、多分、思い切り突けばもっと先まで消滅の範囲が伸びるんじゃないだろうか。

この槍で薙ぎ払いとかやったら、辺り一帯が簡単に消し飛ぶ気がする。

「……恐ろしいのう。恐らく、その槍ならば儂の鱗も簡単に貫通すると思うぞ」

「レフィの鱗もか……」

つまり、この槍を防げるものはこの世に存在しないということではないだろうか。

それに……多分だがこの槍、まだ何か能力があると思われる。

エンのように、意思がある訳ではないだろう。

だが、握ったこの槍からは、無機質で、おぞましく、飲み込まれてしまいそうな『何か』が俺に伝わってきている。

その『何か』が何なのかは、全くわからないが……。

「……むぅ。エンより強い」

ちょっと悔しそうなエンに、しかしレフィはいつもより険しい表情で彼女を窘める。

「エンよ。これは目指してはいかん。こんなものは、断じて強さなどではない。ユキ、お主もこの槍はあまり使うでないぞ」

「あぁ……同感だ。お前がいない、俺の命もヤバい、って時以外は、アイテムボックスから出さんようにするよ」

この槍が、ヤバいくらい強いことは間違いないだろう。

だが、この槍を振るった時、ふと俺の脳裏に浮かんだのは『深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いているのだ』という前世の有名な一節だった。

コイツは、安易に振るうべき武器ではないのだ。

「うむ、そうするのがよい。……全く、ローダナスめ。とんでもないもんを渡してきよって」

「これを自在に振るえたら、そりゃあ龍族なんかとも対等に戦えるかもしれんが……恐ろし過ぎるわ」

コイツの以前の所持者である最古の人間の王は、多分自在にコイツを振るえたからこそ偉業を為せたのだろうが、俺には無理そうだ。

というか、そもそもこれを使わなきゃいけない程切羽詰まってもいないしな。

俺にはエンがいる。

それ以外の武器は、全ておまけでいい。

まだその性能の全てを確認した訳ではないが、とにかくコイツがヤバいということを理解したので、すぐにもう一度アイテムボックスを開き、その中にしまう。

「フゥ……やっぱり先に確認しといてよかった。何も知らず使ってたら、大事故もあり得たぞ……」

「お主が射程を理解せずに薙ぎ払いなぞをして、ペット達が真っ二つになる未来は十分にあり得たの」

「本当にな。――よし、それじゃあ確認も終わったことだし、家に帰るか。なんかドッと疲れちまったから、帰ってゆっくり風呂に入りたいところだ」

「……ん。滝温泉、とても気持ち良い」

「あれは良いものじゃのう。確か、ネルのおかげで得られたんじゃったか」

「そうそう。あれだけゆったりと入れるサイズの湯舟があると、毎日風呂入るのが楽しいよな」

「……お風呂は、素晴らしい。イルーナ達と入ると、とても楽しい。あ、主とお姉ちゃんの身体、帰ったら洗ってあげる」

「カカ、そうか、楽しみじゃのう。ならばお主の身体は儂らが洗ってやろう」

そう会話を交わしながら俺達は、ダンジョン帰還装置を起動した――。