作品タイトル不明
龍の里へ《7》
「本当に魔物どもがいなくなっている……アンタが協力者の魔族だな! 協力、感謝する!!」
レフィとてんとう虫を駆逐して回っていると、飛行船の内部から工具を背負った男達が現れる。
「おう、来たか! 飛行船の周りに 集(たか) っていたヤツは多分全部滅ぼしたんだが、もしかして船の中にも入り込んでんのか!?」
吹き抜ける風に負けじと、俺は声を張り上げる。
粗方片付けたはずなのに、索敵スキルに未だ反応がある。
それも、船の内部の方向から。
「あぁ! そっちは今、仲間が足止めをしている! 向かってくれるか!?」
「オーケー、任せろ!」
レフィは……ダメだな。
色々不器用なコイツを飛行船内部で戦わせた場合、「あっ」とか言って船体に大ダメージを与える未来が見える。
エンも、中で振り回しでもしたら、多分その余波で色々ぶっ壊しちまう気がする。
俺らが墜落のトドメ刺す訳には行かないので、彼女らにはここで待っていてもらうか。
「よし、レフィ、エンを頼む。俺は中を潰してくる。また魔物のおかわりが来るかもしれんから、その警戒をしててくれ」
「む、了解じゃ。――うむ、お主の本体をこうして掴むのは久しぶりじゃが、やはりズシリと来る良い重厚さがあるの、エン」
『……むう。重くない』
「カカ、そうじゃな。すまんすまん」
エンを手渡しでレフィに渡すと、のんびりとしたそんな会話をする二人。
……すまん、エン。俺も本体は重いと思ってた。
そうか、エンはもう体重とか気にするようになったのか。女の子だもんなぁ……。
俺も、言動には気を付けよう。
女の子の機微に悩む魔王。
人生とは不思議なもんだぜ……。
* * *
無数のパイプが走り、バルブやメーターのようなものが並ぶ船内。
人の手で造られたものというのは、世界が変われど大体同じような見た目になるのだろう。
あまり異世界っぽくない、武骨でメカメカしい内装をしている。
半ばそうじゃないかとは思っていたが、この船は軍船なのだろう。
客船用に造られたものならば、もっと見栄えをよくしようとするはずだからな。
「見つけた!」
修理要員に聞いた場所から船内に入り込み、索敵スキルを頼りに進んで行くと、すぐに戦闘中の場所へと辿り着く。
数は……結構入り込んでいる。
全部で十匹くらいか。そんなに広くない通路をぶっ壊しながら無理やり進み、軍人らしいヤツらと戦っている。
軍人どもの方が、大分押され気味だ。
いったい、何をやってこんなことになったのだろうか、コイツら。
魔物の巣を爆撃でもしたのか? それとも、本当に悪い魔法使いにでも遭遇して、何かされたのか。
……ま、その辺りの事情は後で聞くことにしよう。
「三番隊がやられた!!」
「クッ、軽傷者に重傷者を担がせて下がらせろ!! それ以外は何としてもここを死守――」
陣形を組んで戦っているヤツらの横をすり抜け、俺は両拳に装着したナックルダスター――いわゆる メリケンサック(・・・・・・・) で、てんとう虫の頭部を殴り抜く。
砕拳:魔王ユキの作成した、黒のナックルダスター。己が肉体を以て敵を滅ぼし、己が肉体を以て勝利を得る。品質:S-
銘は、『 砕拳(さいけん) 』。
信頼のアダマンタイト製で、小指の方から大型のナイフが伸びているため斬撃も放てるシロモノだ。
ナイフサイズなら、エンも拗ねずにいてくれるので、バッチシである。
まあ、俺はネルなんかと違って器用な真似は出来ないため、拳打に斬撃を合わせた格闘術みたいなことは無理なので、ナイフの方は半分飾りみたいなものである。
じゃあ、何故ナイフ部分をプラスしたのか。
それは、こっちの方がカッコいいからです。
魔術回路としては、以前幽霊船ダンジョンを攻略した時に使った戦棍、轟滅。アレに組み込まれていた『爆裂』がコイツにも組み込まれており、アレと同じく衝撃の瞬間爆発する仕様である。
「ハッハー!! お前の装甲、柔いなァッ!!」
インパクトと同時、爆散。
虫の五体が、周囲一帯へと飛び散る。汚い。
一撃で一匹を無力化した俺は、そのまま技も何もないただ力を込めただけの拳の連打を放ち、次々とてんとう虫どもを粉砕していく。
たかがパンチ、されどパンチ。
魔王の超肉体を以てすれば、この五体の全てが武器と化すのだ。
フハハハ、今の俺は、拳で全てを破壊する拳王だ!!
気分よく敵を粉砕していると、横の船室の一つからてんとう虫が飛び出てくるが、索敵スキルと危機察知スキルがある俺にはそんな攻撃は見え見えだと、ハンマーの要領でナックルダスターのナイフ部分を振り下ろし、ソイツの頭部に突き刺し――あれっ。
……勢いよく振り下ろし過ぎたのか、ナイフ部分が抜けない。
思い切り引っ張ってみたり、左右にガタガタやってみても、全く抜けない。
……ソードブレイカーの役割も出来るよう、ナイフの刃の反対側をギザギザにしたのが失敗だったかもしれない。
「あ、ヤバい。ちょっと待って、タイム」
当然そんな俺の声を聞き入れられるはずもなく、前面に出て来た俺に群がる虫ども。
「うおおお、危ねっ!! ちょっ、このっ、調子に乗んなよ!!」
俺は、刺さってない片腕で襲い来るてんとう虫を迎撃し、というかもう開き直って、てんとう虫が刺さったままのナックルダスターも振り回し、諸共殲滅する。
若干船の内装を壊してしまっているが……なんか壊したらヤバそうなのはちゃんと避けているので、それで勘弁してくれ。
「お、おい、誰だ、あの男? どこの部隊の者だ?」
「い、いえ、多分ウチの者ではないかと……伝声管で、船長から『魔族が協力するから、間違って攻撃しないように』という通知が来ていましたので……」
「は? ま、魔族だと!?」
「え、えぇ。確認しましたが、間違いないと……」
現在俺は、狭い船内だということを考えて翼を消しているので、パッと見では魔族かどうかわからないのだろう。
俺が戦い始めてから、何が何だかわかっていない様子で動きが止まっているが……まあ、こっちを誤射してこないだけ、良しとしよう。
一発だけなら誤射かもしれない。でも許さんからな。
* * *
「よーし、こんなもんか。索敵スキルは……反応無し!」
フゥ、と一つ息を吐き出す。
意外と時間が掛かってしまった。
ほとんど移動時間だな。この船デカいから、隅々まで掃除をするとなると、あっち行ったりこっち行ったりでちょっと掛かってしまったのだ。
「お前……いや、貴殿、どうも我々は助けられたようだ。仲間一同、心から感謝する」
頭を下げる、操舵室からこちらにやって来た船長に、俺は手をヒラヒラさせる。
「気にするな。ウチの子の要請で助けに来ただけだからな」
「ウチの子?」
「こっちの話さ」
この船長以外は、必死に船のダメージコントロールに勤しんでおり、少し前から安定して空を飛んでいる。火災も収まったらしい。
どうやら、墜落の未来は免れたようだ。
「それより、何をやったんだ、アンタら? あんなに魔物に集られてよ」
レフィが近寄れば、勝手に逃げていくんじゃないかと思っていたんだが、あの虫ども、全く気にせずこの船襲っていたからな。
何か、理由があるのだろう。
その質問に、船長は難しそうな顔を浮かべる。
「我々自体はいつもの航路で進んでいただけで、特に何か変わったことをした訳ではない。恐らくは……ウチの国と敵対している国による攻撃だろう」
ほう……魔物を使った攻撃、と。
「そんな、魔物を操ることが出来る国があるのか?」
「あぁ。ここより南方にある覇権国家、『ローガルド帝国』が、よく目標を達成する手段として、このような攻撃をするのだ。証拠は出て来ないし、その方法も判明していないのだがな。何かのスキルか、それとも魔道具か」
……だが、その国の仕業だということがわかっているということは、何かしらの情報は得ているのだろう。
「何かそんな、この船が狙われる理由があったのか? 答えられなさそうだったら答えなくていいが」
「いや、それくらいは大丈夫だ。恐らくだが、この船の情報が得たかったのだろう。この船自体が最新技術の塊で、根幹の動力部に関するものなどはトップシークレットなのだ。魔物によって撃墜し、その残骸を調査すれば、自分達がやったという足も付かず技術も手に入れられる」
なるほど、積み荷に戦略物資があるとかではなく、単純にこの船自体が機密の塊なのか。
こっちの世界、なかなかどの国も大変そうだなぁ……俺が行ったことある国、大体どこも戦争中だし。
前世の近代以前も、こんな感じだったのだろうか。
「貴殿は、どうしてここに?」
「こっちは里帰りの途中だ。んで、途中で燃え盛りながら墜落しようとしているこの船が見えたんでな。見捨てるのも寝覚めが悪いから、出来る限りで手助けしようかと」
エンがいなかったら見捨てていた可能性もあるが。
ヒト種の分類としては魔族になる俺が、見知らぬ人間達に関わってもいいことないし。
「それは……本当に助かった。貴殿がいなかったら、我々は船と共に藻屑になっているところだ。魔族とは我が国も仲が悪いが、貴殿の助力を我らは生涯忘れぬことだろう」
「ハハ、ま、運が良かったな、アンタら。次からは魔物を撃退出来る手段を備えとくともっと安全に飛べると思うぜ」
「うむ、確かにな。軍船として使用することを考えると、自衛手段は必要だな……騎龍兵を随伴させるか、船自体に迎撃用の手段を備えるか……」
顎髭に手をやり、何やら悩みだした船長に、俺は笑って言葉を続ける。
「それじゃあ、俺はここらでお暇させてもらうよ。船の内部、見られて楽しかった」
「もう行くのか? もう少しもてなしをさせてもらいたかったが……」
「気持ちは嬉しいが、俺達も用事の途中なんでな。急いでる訳じゃあないんだが、こんな状況の船でもてなしてもらっても申し訳ないし。一般用の、客船とかが出来た時にでも遊びに来るよ」
「む……わかった、ではこれを。せめてもの礼だ」
船長から渡されたのは、何かの勲章のようなものだった。
銀を中心にかなり美麗な装飾が施されており、それなりに貴重な勲章なのだろうということが窺える造りになっている。
「? これは?」
「紹介状代わりだ。これがあれば、貴殿の身分を証明出来るだろう」
「けどこれ、勲章だろ? いいのか、人に渡しちまって」
「確かに大事なものではあるが、本来ならば貴殿は国を挙げて称えるべき存在だ。むしろ、こっちがこの程度しか出来ず申し訳ないくらいだ」
「あー、国を挙げては勘弁してほしいな……わかった、それならありがたくもらっとく。アンタの国に遊びに行くことがあったら、使わせてもらうよ。そんじゃ、また会うことがあったら会おう」
「あぁ。その時は是非、酒でも奢らせてくれ。改めて、我々を助けてくれて、ありがとう」
俺は勲章をアイテムボックスにしまい、最後に深々と頭を下げる船長を横目に、飛行船内部から外へと飛び出した。
* * *
『……主、お姫様は?』
「残念ながら、お姫様はいなかったな。いたのはガチムチのムサい男達だけだ」
『……そっかぁ、残念。悪い魔法使いは?』
「悪い魔法使いは、いたかもしれん。魔物があの船を襲っていたのは、悪い魔法使いが操っていたからかもって船長が言ってたぞ」
『……むむ。じゃあ、正義の魔王、の娘、エンが悪者はやっつける』
「おう、そうだな。悪者は正義が倒さないとな」
と、レフィが俺に耳打ちする。
「……のう、ユキよ。そろそろ童女達にも、一般的に魔王が悪であるということを教えてやっておいた方が、今後のためになると思うのじゃが……」
「一応、言ってはあるぞ。でも魔王の俺は悪じゃないから、それはおかしいって。そう言ってくれるのは嬉しいんだけどなぁ……」
「……ま、そうじゃな、お主は悪というより小悪党じゃもんな」
「ほう、となるとお前は、小悪党の嫁ということになるが、それでいいのか?」
「おっと、それなら前言撤回じゃ。お主は大悪党じゃの」
「うむ。 我(われ) が世界を滅ぼすべく生まれてきた、大悪党魔王ユキよ!」
「ならば儂は、お主と共に私利私欲を尽くすべくその番となった、世紀の悪女、レフィシオスじゃの。者ども、ひれ伏すが良い」
『……? 二人は、悪じゃない』
何だか不服そうにするエンに、俺とレフィは声をあげて笑った。