軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

龍の里へ《6》

五十メートル程離れたところまで近付いたことで、飛行船の詳しい被害の様子が目に飛び込んでくる。

「うわぁ、すげー 集(たか) られてんなぁ……」

『……虫さんのお祭り』

エンさん、決してそんな、可愛らしいものではないですからね。

最近わかったのだが、エンは結構虫好きらしい。

イルーナやシィ、レイス娘達なんかも、大分虫嫌いになってしまった俺に比べてヤツらに対する忌避感は持っていないようなのだが、エンはむしろ『好き』に分類しているようなのだ。

曰く、ワシャワシャ動く様子が可愛いとか、何とか。

その時は「そ、そうかぁ。エンは虫が好きなのかぁ」と流したのだが……正直全く一ミリも同意出来ねぇぞ、エンさんよ……。

……思考が逸れたな。

とにかく、魔王の超視力で見えた飛行船の現在の状況なのだが、飛行船の双胴の気球、その片方に大穴が空いてしまっていて、現在はもう片方の気球のみでかろうじて飛んでいるような状況だ。

そして、本来なら二つの気球で飛ぶところを片方のみで飛んでいるという歪な飛び方のせいで、飛行姿勢がかなり崩れてしまっており、負荷が掛かって船体が歪んでしまっているのが傍から見ているとよくわかる。

発生している火災は、その辺りが理由か。

んで、それに加えてデカいてんとう虫のような魔物どもに絶賛船体を齧られ中、と。

――要するに、あの飛行船は空中分解一歩手前のギリギリのところで、どうにか墜落を免れている、といった具合なのだ。

魔物どもを排除して、気球の破れた部分をどうにかすれば、もうしばらくは飛べるんじゃないか、とは思うのだが……。

「……よし、レフィ、お前はあのアホ虫どもを追っ払っててくれねぇか。すぐに俺も戻るから」

「わかった。お主は?」

「俺は、ちょっと船長とお話してくる!」

その言葉を最後にレフィと別れた俺は、軽く飛行船の周囲を飛んで操舵室を探し――あった。

多分その辺りだろうとは思っていたが、飛行船の一番前面のガラスで覆われた部分に、計測機器らしいものや伝声管、何に使うのかよくわからん機器などが数多設置された、中央に舵のある大きな船室。

そこにも数匹の魔物が 集(たか) って船室をぶっ壊そうとしており、必死に魔法や剣などで迎撃している船員達の怒号がここまで聞こえてくる。

そんな、修羅場真っ只中の状況で、舵を操りながら周囲に怒鳴り、余裕のない様子で指示を出している男が一人。

あれが、この飛行船の船長だろう。

俺は、群がっていた魔物どもをエンで一刀の下に斬り捨て、一分程で排除し尽くしとりあえずの安全を確保すると、割れた窓の一つから一気に操舵室の内部へと飛び込んだ。

「なっ、ま、魔族!?」

驚いた船員がこちらに向かって剣を振るってくるが、俺はバシッとエンでそれを払い、喧騒に負けないよう声を張り上げる。

「おい、死にたくないなら手を貸してやる! この飛行船、気球の大穴を塞いだらまだ飛ぶか?」

「て、手を貸すだと!? 魔族の言うことなど信じられるかッ!! 何を企んでやがるッ!?」

「押し問答したいなら結構だがな、アンタらにそんな時間はないんじゃねーのか? このまま墜落して全員あの世行きになるか、名も知らない怪しい魔族と協力して生きる道を探るか、二つに一つ、だ」

俺の言葉に、こちらに武器を向けていた船員達が狼狽えた様子を見せて動きを止め、判断を仰ぎたいのか、舵を握っている船長らしい男へと揃って顔を向ける。

船長は、次々と変化していく現状に、流石に頭の処理が追い付かないのか、一瞬呆けた様子で俺のことを見る。

「お、お前はいったい……」

「んなこと今クソ程どうでもいいだろ! さっさと質問に答えろ、この気球、大穴塞いだらまだ飛ぶか!?」

思わず怒鳴ると、そこでようやく、何を優先するべきか頭の整理が付いたらしい。

船長は瞳に意思を灯し、力強く答える。

「……あぁ! 穴さえ無くなれば、内部から風魔法使い達の魔法を使って再度浮上出来る!」

「修理用の道具は?」

「ある、だが魔物に邪魔され、すでに二度程修理に失敗した! あと一回分の修理道具しか残っておらん!」

よし、向こうで修理出来るならしてもらおう。

今の俺は外でもDPカタログ使えるので、最悪ブルーシートか何かを交換して穴を無理やり塞ごうかとも思っていたのだが、魔物排除に専念するだけで良さそうだな。

「わかった、魔物はこっちで何とかする、すぐに修理要員の準備をしとけ!」

「……信じていいんだな!?」

「そうしなかったら、アンタらが死ぬだけだ!」

そう言い残して俺は、再度窓から外へと飛び出した。

先程飛行船全体を見た時は、船体後部の方に多く魔物が群がっていたので、道中の虫どもをぶっ殺しながらそちらに向かって飛んで行き――あれ?

数が激減している。

さっきはもう、風の谷に墜落したトル〇キアの輸送機ばりの 集(たか) られっぷりだったというのに……なんて考えている間にも、目の前でパチュンと数匹の頭部が弾け、眼下の森へと落ちて行った。

今のは、前にも見たことあるレフィの魔法だな。

対象の頭部に魔力で圧力を掛け、潰すとかってヤツだ。

まだ、別れてから五分も経っていないと思うのだが……いや、レフィならば、それだけあれば余裕か。

苦笑を浮かべて俺は、飛行船の少し上で魔力操作に集中しているレフィの近くまで行き、喧騒で掻き消されないよう彼女の耳元に顔を寄せ、口を開く。

「レフィ、戻っ――」

「ひゃあっ!?」

突如、彼女の口から漏れる艶のある声。

「……ひゃあ?」

「み、耳元で急に喋るな! こ、こそばゆいじゃろう!」

ヘンな声を漏らしてしまったのが恥ずかしかったのか、片耳を押さえながら顔を赤くしてそう言うレフィ。

「……お前、耳弱点だったのか」

弱点の多いやっちゃなぁ、コイツは。

俺の知っている限りだと、尻尾に、角に、翼に、耳か。

この中だと、一番弱いのは……うーん、やっぱり翼、だろうか。

うむ、今度比べてみよう。

「い、いや、儂じゃなかろうと、誰かて耳に吐息をかけられたら、こうもなるじゃろう!」

「……ひゃあっ!」

彼女の声真似をして、わざとらしく身体をくねらせる俺。

「ぐ、ば、馬鹿にしおって! お主かて、同じことをされたら絶対同じようになるはずじゃ!」

「ひゃあっ!」

「こ、このっ!! もう許さん!! お主にも存分にこそばゆい思いをさせてやる!!」

「あっ、うひっ、あはは、待て待て、悪かったって! もうしないから!」

流石に怒ったのか、俺の耳元に顔を寄せてフーフーと思い切り息を吹きかけてくるレフィから、俺は笑いながら身を捩らせて逃げ――と、そんなことをやっていた時、エンから伝わってくる、呆れたような念。

『……虫さん、倒さないの?』

彼女の言葉にハッと我に返った俺とレフィは、現在がふざけている場合ではないということを思い出し、二人揃ってコホンと咳払いする。

「よ、よし、レフィ。魔物を排除したら、修理要員がこっち来て修理出来るそうだから、とっととやっちまうぞ。お前はこっちの気球の魔物頼むな。俺、あっちのやるから」

「う、うむ、わかった。任せよ、儂がしかと殲滅してきてやる」

『…………』

無言のエンの追求から逃れるように、俺とレフィは役割分担して再度別れた。