軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ある日常の一コマ

――ある、夕方前。

「はい、『5飛ばし』! お前スキップな」

「ぬがあ! またか!? お主何枚も5を持っておるのに、儂を飛ばしたくて一枚ずつ出しておるな!?」

「お、よく気付いたな! フッ、これも戦略の内よ」

「戦略も何も、ただ嫌がらせしたいだけじゃろう!?」

「はいはい、そこイチャイチャしない。じゃ、僕は7で『7渡し』ね。はい、リュー、これあげる」

「うっ、いらないカード……じゃあウチは、普通に9っす」

「それなら私は、2を置かせてもらいますねー。ジョーカーは私が持っていますので、一度流させていただいてー……8を二枚で『8切り』、2とジョーカー、最後に6で上がりですー」

「うわ、最初の上がりはレイラか。都落ちしちまった」

「よくやったぞ、レイラ! フッフッフ、これで此奴のしたり顔を歪ませられる上に、儂が最下位に落ちることがなくなったな!」

「レフィ、もうちょっと志高く行こうよ……」

「流石、レイラは強いっすねぇ」

「今回は手札が良かったですからー。――それじゃあ、そろそろ私は夕ご飯の準備をしますねー」

「あれ、もうそんな時間か」

レイラの言葉を聞いて、俺はダンジョンの壁に釣るしてある時計に目をやり……あ、マジだ。

まだ幼女達は外に遊びに行ったっきり帰って来ていないが、確かにそろそろ晩飯を作り始めた方がいい時間帯になっている。

大富豪、皆でやってると超面白いんだが、あっという間に時間が経っちまうからなぁ。

「んじゃ、大富豪はこの辺りにして、我が家の腹ペコ幼女達が帰って来る前に、皆で晩飯作るか」

「あ、いえ、私が準備しますので、まだ遊んでいていただいて大丈夫ですよー?」

「いやいや、そうはいかないさ。お前らー、晩飯作るぞー」

「りょうかーい」

「了解っす!」

「むむ、負けたままは悔しいが、わかった」

そう言って、トランプを片付けてから三人は立ち上がる。

「うふふ、それなら、皆さんお手伝いお願いしますねー」

* * *

「さぁ、やって参りました、ユキ’sキッチンのお時間です! てんてれてれてれてんてんてーん、てんてれてれてれてんてんてーん」

「ネル、此奴がまたおかしなことを始めたぞ」

「そうみたいだね。おにーさん、何してるんだい?」

エプロンを巻き、ポニーテールのレフィが、少し前から髪を伸ばし始め、同じくエプロンを巻いて短めのポニーテールにしているネルに話し掛ける。

元々ボブショートの髪形だったネルなのだが、以前、俺がどちらかと言えばロングの方が好きと言って以来、ああして伸ばしているのだ。愛いヤツだ。

「てんてれてれてれてんてんてーん、てんてれてれてれてんてんてーん――説明しよう! ユキ’sキッチンとは、お手軽! 簡単! 超美味しい!! そんな料理を作って紹介し、皆に食わせる番組である!!」

「あぁ、背景音楽と司会を一人でやってるから、答えるのがちょっと遅れるんだね」

「そのようじゃな」

「あの、君達、冷静に分析するのはやめていただけませんかね」

俺は、ゴホンと一つ咳払いしてから、気を取り直して言葉を続ける。

「さて諸君、まずは私の助手を紹介しよう! ――出でよ、メイド仮面X! メイド仮面Y!」

「じゃじゃーん! メイド仮面X、参上っす!」

「あ、あの、この仮面、大分恥ずかしいんですがー……」

俺の掛け声の後、メイド仮面Xがノリノリの決めポーズと共に、メイド仮面Yが恥ずかしそうに頬へ手を当てながら現れる。

「……台所へ行く前に、突然ユキに連れられていったと思ったら……リューはともかく、レイラよ。嫌ならば嫌とはっきり言っていいんじゃぞ」

「その、押し切られてしまいましてー……」

仮面で表情がわからないが、恐らく困ったように微笑んでいるだろう仮面メイドYを見なかったことにして、俺は言葉を続ける。

「まず一品め! 用意するのは――コイツだ! 豆腐にネギ! メイド仮面Y、君はネギを刻みなさい。メイド仮面X、君は応援してなさい」

「畏まりましたー」

「了解っす! いっぱい応援するっす! ――え、応援?」

そうして、惚れ惚れするような手つきでメイド仮面Yがネギを刻み、「えっ」とこちらを二度見するメイド仮面Xの横で、俺は豆腐を均等に切り分ける。

「そして、切り終わったこの豆腐に、メイド仮面Yが刻んだネギを乗せ――完成! 冷ややっこだ!」

「…………」

「…………」

「おう、君達、もうちょっと何か反応してくれてもいいんだぞ」

何だい、その小学生でも見守るような生暖かい目は。照れるじゃないか。

「いや……随分大仰に始めた割には、冷ややっこか。食材から、そうじゃろうとは思ったが……」

「いいだろ、冷ややっこ。美味いし」

「まあ、確かに美味いが……」

「シンプルだけど、良い食材だよね、お豆腐。……というか、このお豆腐って、おにーさんが使うダンジョンの機能で出してるんだよね?」

「おう、そうだぞ」

「それを考えると、当たり前のように食べてるけど、超高級食材って言っても過言じゃないよね……」

まあ、確かにな。

それを言うと、我が家で食べてるものは、ほとんど高級食材に分類されることになるだろう。

正直、ウチの食材の豊富さは、割とマジで世界一だと思う。

「それじゃあ、ユキ’sキッチンの二品目に――もうなんか、面倒くさくなってきたから、普通にやるか」

「適当な男じゃのう……」

「あ、メイド仮面の出番は終了っすか」

「おう、またその内、出動を頼むぜ。特に、幼女達とごっこ遊びをしている時にな」

「了解っす、正義のメイド仮面Xとして頑張るっすよ!」

「この仮面はもう、外していいんですねー……」

「うむ。ここからはメイド仮面Y――いや、仮面を脱ぎ去り、真の正体を現したレイラ’sキッチンの時間だ! てんてれてれてれてんてんてーん、てんてれてれてれてんてんてーん」

「その気の抜ける音楽は、いったい何なんじゃ」

「何だかすごく耳に残る旋律だね……」

俺もそう思う。

* * *

バタンと、外に繋がる扉が開く。

「ただいまー!」

「ただいマ!」

「……ただいま」

「おかえりー、手ぇ洗ってこいよー」

「しっかり爪の間の泥まで落とすんじゃぞー」

「「はーい」」

「……ん」

と、テーブルに皿を並べ、晩飯の準備を進めていると、洗面所の方からすぐに戻ってくる幼女達。

「うわぁ! 今日は何だか豪勢だね! 何かいいことあった日?」

「いや、そういう訳でもなくてな。今日は皆で料理作ってたんだが、そうしたら思った以上の量になっちまったんだ」

「へぇ、そうなんだ。食べるものいっぱいあって、何だか幸せだね!」

「そうっすよぉ、外じゃあこんないっぱい食べられるのはお祝いの日ぐらいっすから、日々の食べ物を得られる幸運にも、食べ物になってくれた命にも、料理を作ってくれた人にも、感謝しないとダメっすよ!」

「うん! いっぱい感謝する!」

「シィも、いっつもイっぱいありがとうって、おもってるよ!」

「……ん。美味しいものいっぱいで、感謝」

「おう、分量間違えて、味を調えるために量を増やす原因を作ったヤツが何か言ってるぜ」

「そ、それを言うなら、レフィ様だって同じ失敗してたっすから!」

「あっ、こら、リュー、余計なことを言うでない!」

「あはは……ま、まあ、ここには冷蔵庫っていう便利な魔道具があることだし、残っちゃったらタッパーに入れて、それで保存しておけばいいからさ」

「明日の朝ごはんですねー」

そう会話を交わしながら、それぞれ何となくで決めている自身の椅子に座る。

「よし、皆座ったな。それじゃあ――いただきます」

『いただきます』