作品タイトル不明
空島デート《3》
「うおお……すげぇ」
「これは良い景色じゃのう……」
――空島の中央に聳え立つ、巨大な山の頂。
そこから眼下を見下ろし、二人揃って歓声をあげる。
見渡す限りの、雲海。
そして、その雲海の下にある、大地の全てを埋め尽くさんとばかりに広がる魔境の森の緑。
少し遠くには、レフィが以前寝床にしていた山脈が雲を突き抜けて存在しており、雄大な大自然を一望することが出来る。
その光景を前に、ユキは少しだけ残念そうな声音で口を開いた。
「ここに扉を設置出来れば、皆も連れて来れるんだがなぁ……」
「無理なのか?」
「あぁ、この空島、浮かんでるからさ。俺のダンジョン領域と地続きじゃないと組み込めないし、んで、ダンジョン領域じゃないとワープ出来る扉は設置出来ないんだ」
「それは残念じゃのう。つまりここに来られるのは、お主と儂だけか」
「そういう訳だな。我が家は……あの雲を突き抜けてる山の辺りか」
「うむ、あの山の一個隣の山じゃな。儂の元住処のある」
「お、懐かしい。そうか、あれは以前お前と行ったことのある山か」
――そうして、しばしの間二人で景色を楽しんだ後、ユキは「よし」と言って言葉を続けた。
「それじゃあ、ここらで昼飯にするか。時間もちょうどいいし」
「うむ、確かに少々腹が減ったな。大体この島も見て回ったしの」
「翼があるって便利でいいんだが……なんかこう、登山の風情とかないよな……。景色が良くて、気持ちが良いのは間違いないけど、周囲の様子も大体全部わかっちゃったし」
「下の方は緑があったが、上の方はほぼ岩山じゃったからの」
「ま、それでも楽しかったけどさ。色々見ながら、お前とこうして、二人だけで散歩が出来て」
ニヤリと笑うユキに、レフィは少しだけ頬を赤く染める。
「……フン、昼飯にするんじゃろう。早く準備をせんか」
「はいはい、今しますよ」
そう言って、ユキが平らなところに大きめのレジャーシートを敷くと、二人は靴を脱いでその上に座る。
「うおお、気持ちいい」
と、彼は、唐突にゴロンとその場に寝転がり、目を閉じた。
「一陣の風が吹き、俺の頬を撫でて行く……フッ、我が身がまるで、大空の一部と化したようだ……今の俺は、まさに風そのもの……ウィンドマン……」
「ユキ、全く似合っておらん上に、聞いていて背筋がぞわりとするから、二度とするな」
というかウィンドマンて、と呟くレフィに、ユキは寝転がったままにじり寄る。
「つれないこと言うなよ、嫁さんよぉ~」
「気持ち悪い動きでこっちに来るでないわ!」
「ぶへぇっ」
レフィに蹴り転がされ、そのままゴロゴロとレジャーシートの端まで転がって行くユキ。
「イテテ……ひでぇ嫁さんだぜ。旦那はただ、詩作に 更(ふ) けていただけなのに」
「お主の痛々しい言葉を聞かされるぐらいならば、儂は自身の耳を引き千切った方が余程マシじゃ」
「なに、そいつは重大だ。残念だが、詩作は諦めることにしよう」
レフィの言葉に、ユキは笑いながら立ち上がると、今度こそアイテムボックスからランチボックスを取り出した。
「ほい、箸。あ、フォークの方がいいか?」
「いや、箸でいい。茶を酌んでおくぞ」
「ん、サンキュ。お手拭き、これな」
「わかった」
二人でテキパキと用意し、準備が出来たところで、手を合わせる。
「んじゃ、いただきます」
「いただきます」
ランチボックスのフタを開け――現れる、良い匂いのする色鮮やかな料理の数々。
「「おぉぉ」」
見るからに美味しそうな弁当の中身に、揃って声を漏らす。
そして彼らは、もう待ちきれないとばかりに、すぐに料理を口へ運び始めた。
「おぉ、この玉子焼き、超絶美味いぞ。いくらでも食える」
「うむ、こちらのからあげも最高に美味いな。イルーナが好物と言うだけある」
そう言って、バクバクとからあげを食べていたレフィが、もう一つからあげへと箸を伸ばしたところへ――ガシ、と横から伸びてきたユキの箸が、彼女の箸を防御する。
「何じゃユキ、この箸は。行儀が悪いぞ」
「いやね、レフィさん。私もこういうことはしたくないんですけど…… 些(いささ) か、些かなんですがね。あなた、からあげ君を、食べ過ぎじゃないかと思うんですよ」
「些かなら別に、良いではないか。全く、狭量な男じゃのう」
「そうか、そうですか。お前がそう言うんだったら、言い換えてやろう――食い過ぎだ! 俺まだ、からあげ一個しか食ってねぇってのに、もう無くなりそうじゃねーか!!」
「いやいや、お主の勘違いではないか? 三個くらいは食べたんじゃないかの。うん、そうじゃ、儂もお主が三個食っておったのは見たぞ」
「そんな雑な嘘で誤魔化されると思ったら大間違いだからな!」
そう、ユキがツッコミを入れた拍子に力を込めてしまったのか、バキ、と嫌な音が彼の箸から鳴る。
「――って、あぁ!? おまっ、俺の箸折れちゃったじゃねぇか!?」
「いや、今のはお主の自滅じゃと思うが……仕方がないのぉ、ほれ、あーん」
「えっ、あ、あぁ、サンキュ――って誤魔化されねぇからな!? これからあげじゃなくてポテトじゃねぇか!!」
「チッ……」
あーんされたポテトを律儀に食べてから、声を荒らげるユキ。
「何じゃ、お主、以前にぽてとは好きと言っておったではないか。それを儂が手ずから食べさせてやったというのに、何が不満なんじゃ」
「確かにポテトは好きだがな。それとこれとは話が別だ」
「お主は儂に好物をあーんをされて嬉しい、代わりに儂はからあげを食べられて嬉しい、お互いうぃんうぃんな交換条件じゃろうて」
「そんな交換条件でやるくらいなら、自分で食った方がよっぽどマシだということを、お前はわかっていないようだな」
その二人の言い合いは、ただ昼食を食べるだけなのにもかかわらず、食べ終わる最後まで飽きることなく続いたのだった。
* * *
――後日。
「見ろ、レフィ! あの空島でゲットした飛行石で作った、宙に浮く剣だ! これで、自分の周囲にコイツを何本も浮かせて、ファンネルごっことか、『剣を操りしソードマスター!』ごっことか出来るぞ!」
「……それ、浮くことによる利点は何かあるのか?」
「いや、別にないけど。むしろ飛行石が柔いみたいで、強度が大幅に下がってるから、何かを斬ろうものならすぐぶっ壊れるぞ。多分、台所の包丁の方がよく斬れるな」
「…………」
やっぱり、この男はただのアホだと、レフィは思った。