軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

夜の二人

ふと、夜中に目が覚めた。

「…………」

布団の中で数度瞬きをし、ゆっくりと上体を起こす。

妙に、頭が冴えている。

喉が渇いて夜起きた時などであれば、一杯水を飲んでそのまますぐに眠りに戻れるのだが、今日のこの頭の冴え具合からすると二度寝は無理そうだ。

特に、何かあったという訳でもないのだが……今日は一日ずっと、外に出ずゴロゴロしていたので、長時間の睡眠を欲する程身体が疲れていなかったのかもしれない。

うーん……どうしよう。

皆まだ寝ているし、朝まで待つにしても、まだ夜遅いし……。

――そうだ、たまには、夜の散歩でもしてみるか。

ふとそう思い立った俺は、ウチの住人達を起こさないよう静かに布団から抜け出し、真・玉座の間から出て行った。

* * *

「この城も、随分デカくなったなぁ……」

城の最上階に設置されたベランダから、外を見渡し、そう呟く。

惰性で増築に増築を重ね続けた我が魔王城は、もうなんか、すんごいことになっている。

ほぼ倉庫目的で使われている各人の部屋と、真・玉座の間に繋がる扉がある最上階以外は、俺自身「これ、こんなに入り組ませなくてもよかったか……?」と思ってしまうくらい無駄に複雑な構造をしており、ワープする例の扉を操作出来るウチの住人でなければ、延々と内部を彷徨い続けてもおかしくない。

一応、この城、ダンジョンの最終防衛ラインだからな。

侵入者がネル以来一人もいないので、もうその設定も忘れてしまいそうだが。

敵が来ないのはいいことではあるが、もうちょっとこの城を、本来の運用用途である防衛機構として使ってみたいと思っていたとしても、誰も俺を責められないはずだ。

だってねぇ……随分前から、もうウチの子達の遊び場としてしか機能してないし。

前は敵絶対殺すモードみたいなのを作ろうかと思ってたけど、危ないから罠も一つも設置してないし。

ウチの子達が喜んでくれるんなら、いいんだけどね。うん。うん……。

そう、一人自分を慰めていると、ふと背後からこちらに近付く足音が聞こえてくる。

現れたのは――レフィ。

「レフィ? あれ、どうしたんだ?」

コイツも眠れなくて起きちまったのか?

俺の質問に、彼女はふあ、と一つ欠伸をしながら、答える。

「お主が出て行ったのが見えたのでな。何かあったのかと思うたのじゃが……ただの散歩じゃったか」

あぁ……なるほど。

多分、侵入者でも現れたと思ったのだろう。

「悪い、起こしちまったか。ちょっと目が覚めちゃってさ。二度寝も出来そうになかったから、たまには散歩でもしようかと」

と、レフィは腕を組み、やれやれと言いたげに首を左右に振る。

「全く、普段不摂生な生活をしておるから、そういうことになる。反省するのじゃな」

「お前がそれを言うのか」

「儂は覇龍じゃから別枠じゃ」

あ、そうっすか。

平然とそんなことを宣う我が嫁さんに苦笑を浮かべていると、彼女は俺の隣に並び、手摺にもたれかかって外を眺める。

「それにしてもお主の城、改めて見ると随分な大きさになっておるのー」

「カッコいいだろ?」

当初の予定がアノー〇ロンドだったので、収拾、付かなくなってるだけなんだけどね!

正直やり過ぎたと思っている。反省も後悔も若干している。

「うむ、『ルァン・フィオーネル城』という名に相応しい様相になっておるな」

「え?」

「城の名前じゃ、城の。以前にお主に相談され、儂が名付けたろう」

……そ、そう言えば、そういう名前だったわ、この魔王城。レフィが命名したんだった。

すっかり忘れていた。

「……お主、すっかり忘れておったな?」

「いっ、いや、そんなことはないぞ。愛しい愛しいお前が名付けてくれたそのカッコいい名前、この俺が忘れる訳がないだろう?」

「お主が『愛しい』やら『可愛い』やら『大事な』やらの形容詞を二度続ける時は、大体こちらを欺こうとしておる時じゃ」

完全に把握されている。

「……最近お前ら、やたらと俺の性格を把握していやがるな」

ついこの前の海鮮バーベキューの時も、リューを誤魔化そうとしてすぐ見抜かれちまったし。

リューも、この覇龍様も、以前はあんなにチョロかったのに……。

「フッ、伊達にお主の嫁をしておる訳ではないからの。お主のことに関してわかったことがあれば、『嫁会議』ですぐに共有されるんじゃ」

出た、嫁会議。

行われている間は、真・玉座の間から俺が追い出されるヤツ。

「……ちなみに、一番最近の嫁会議じゃあ、何が話されたのか聞いても?」

「お主の性癖に関してが主な議題じゃの。ユキが太もも好きなのは 皆(みな) の知るところであるが、それ以外にも、よくうなじに視線が吸い込まれることと、時折腰のくびれ辺りを一瞬チラリと見ることが――」

「あの、レフィさん、やっぱり教えてくれなくていいです。聞いた俺が悪かったんで、その辺りで勘弁してください。マジで」

「何じゃ、お主が聞いたんじゃろうに」

思った以上に、というか俺自身気付いていないことまで的確に見抜かれていて、しかもそれが嫁さん達に共有されているとわかったら、誰でもこうなります。

興味本位で聞かなきゃよかったぜ……。

「カカ、そのような顔をするな。お主は喜ぶべきなんじゃぞ? こうして儂らが、旦那をよく知ろうと日々研究しているんじゃからな」

「レフィさん、そりゃ嬉しいですけど、出来れば俺の個人的趣味嗜好は胸に秘めていていただけると、もっと嬉しいかなぁって」

「無理じゃな。儂らはお主のことに関しては、協力し合うと決めておるからの! ……じゃが、まあ、ユキよ。儂の頼みを一つ聞くと言うのであれば、少し考えてやっても良いぞ?」

ニヤリと見慣れた笑みを浮かべるレフィ。

菓子か、と思った俺だったが――彼女の口から出たのは、違う言葉だった。

「この前まで、ネルと二人で海におり、つい最近もリューと森に行っておったじゃろう? ならば次は、儂とでーとしろ」

予想外のことを言われ、俺は一瞬目を丸くしてから、すぐに口元に笑みを浮かべる。

「了解、仰せのままに。――てっきり、菓子って言うかと思ったぜ」

「菓子もいいんじゃが、たまには夫婦っぽくおらんとな。じゃろう?」

そう言って彼女は、勝気な笑みを浮かべ、コツンと俺の肩に頭を預け、こちらを見上げる。

俺は、彼女の腰に片腕を回して抱き寄せ、おどけるように答える。

「あぁ、そうだな。夫婦は夫婦らしくしないとな。何なら、夫婦らしく今度からは、毎日同じ布団で寝てくれてもいいんだぞ? 日ごとに交代制とかにして」

「いや、あの布団では狭いじゃろうが……この前三人で寝た時など、相当窮屈じゃったろうに」

「その窮屈さがいいんだろ」

肩を竦める俺に、レフィはやれやれと言いたげに溜め息を一つ吐く。

それから俺達は、しばし二人だけの空間で、笑い合った。