作品タイトル不明
海賊退治
迫り来る船団。
ヤツらが海賊であるというのは確定のようだ。
途中までは自分達が何かを誤認させるためか、旗は出していなかったのだが、今はこちらを威圧する目的だろう、髑髏の海賊旗を高らかに掲げている。
風に乗って聞こえて来る、向こうの船の無頼漢どもがあげる野太い雄叫び。
彼我の距離が近くなるにつれ、こちらの船の水夫達の緊張が高まっていく。
――ビビらせる、か。
海の底に鎮めてやるだけなら簡単だが、そうじゃなくあの船団を丸ごと拿捕するとなると、ちょっと考える必要がある。
一隻ぐらい藻屑にしちゃっても、なんて風にも思うが…… 勿体ないしな(・・・・・・) 。
「カロッタ、一応聞いておくが、欲しいのは人か? 船か?」
「船だ。敵の船長と、三分の一程残してくれれば……まあ、後は好きにしてくれていいぞ」
サラリと吐かれる酷薄な言葉に、苦笑を溢す。
つっても、俺も聖人君子じゃないので、手心を加えるつもりなんて毛頭ない。
こちらを襲ってくるのであれば、死んでもらいましょう。
「よし、んじゃ……哀れな海賊どもには、魚のエサになってもらうとしよう」
そうして、俺が発動したのは、いつもの水龍。
海水を大量に吸って形成されたため、胴の太さはこの船のマストより一回り太く、それが俺達の船の周りに八匹。
海上に鎌首をもたげ、海賊どもの方を睨め付けている。
もうバカの一つ覚えのようにこの水龍ばっか使っているが、この魔法ホントに使い勝手が良いのだ。
慣れているから魔法を発動するまでの時間がほぼノータイムだし、サイズは俺の意思一つで自由自在だし、十分過ぎる殺傷能力を有しているし、水辺にくれば少ない魔力で強力なヤツを作れるし。
我ながら、非常に効率の良い魔法を作ったものだと自負している。何よりカッコいいからな。
「な、何だぁ!?」
「ばっ、バケモンだ!!」
俺の魔法だということをわかっていない水夫達からあがる、驚愕と恐怖の声。
「カ、カロッタ殿、これは!?」
「案ずるな。これが仮面の魔法だ」
「こ、この龍達が……凄まじい……」
ツー、と冷や汗を流しながら、船長は俺の水龍どもに視線を釘付けにする。
「気に入ってくれたようで何よりだ! んじゃ、もっと気に入ってもらえるよう、コイツらの活躍を見てもらうとしよう!」
俺が指示を出すと同時、一斉に動き出した水龍どもは見る見る内に海賊船団へと迫っていき、一分も経たずにヤツらの下へ到達する。
突如現れた水龍の群れに、揃ってアホ面を浮かべて固まっている、海賊ども。
「食い殺せ!!」
そして――我が水龍は、ヤツらに襲い掛かり始めた。
一隻に、二匹ずつ。
まずは、甲板。
咢をガバッと開き、まるで踊り食いでも楽しんでいるかのように海賊どもを豪快に食らい、その体内に取り込んでいく。
いつもと同じく、コイツらにも研磨剤代わりの砂をしっかり混ぜ込んであるため、食われた海賊どもは高速水流の中で細切れになり、一瞬で絶命する。
「うおおおぉぁあっ!?」
「な、何なんだコイツは!?」
「撃て、撃てぇぇ!!」
襲いに掛かった自分達が逆に襲われている、ということを遅まきながらに理解した海賊どもは、そこでようやく迎撃に動き出し、大砲の弾を俺の水龍に向かって撃ちまくったり斧や剣で攻撃を仕掛けたりしているが、無駄無駄。
放たれた砲弾は何事もなく水の身体を貫通して明後日の方向に飛んでいき、逆に大砲ごと砲兵どもを食らって殺す。
斧や剣で攻撃しているヤツなど、論外である。何の障害にもならず、そのまま俺の水龍に食われている。
ソイツは全身が水で出来てるんだ、物理攻撃なんざ意味ないぞ。
「――って、おぉ、海賊にも魔術師がいるのか」
海賊どももまた、物理攻撃が意味をなさないことを理解したらしい。
水には水をと船の周囲に数人掛かりで水壁を生成し、火球を放って蒸発させようとしたり、突風を生み出し船を動かして逃げようと頑張ってくれちゃってるが、それもまた全て無駄である。
込められた魔力量のみならず、魔法としての完成度が圧倒的に俺の水龍の方が上であるため、普通に火球を回避し、というか当たっても全く意に介さず、水壁を簡単に突破して、逃げる船を逃さんと食らい付き続ける。
そうして甲板で一匹が『食事』をしている間、同じ船を襲うもう一匹が攻撃するのは、船の内部。
そのまま突っ込ませて船を壊す訳にはいかないので、船の内部を襲う方の水龍は頭を 何本にも(・・・・) 枝分かれさせ(・・・・・・) 、さながら八岐大蛇のような形状に変化させる。
側面に空いている大砲用の穴に突っ込める頭部のサイズになった我が水龍達は、船の内部へと侵入し、甲板に繰り広げられている地獄に負けず劣らず、蹂躙を開始している。
こうして大分派手に殺しまわってはいるが、一応カロッタの言いつけを守るために、海賊どもを殺し過ぎないように注意はしている。
彼女が「三分の一残せ」と言ったのは、別に情けを掛けているとかそういったことは一切なく、ただ単純に殺し過ぎてしまうと船を動かす人員が払底してしまう可能性があるからだろう。
こういう時代の帆船って、確かそこそこ人数がいないとロクに動かすことも出来ないはずだ。パイレーツ・オブ・カ〇ビアンで見た。
それと……一つ、 気になる点(・・・・・) があるからな。
我らがボスが「船長は残せ」とも言ったのも、恐らく俺と同じことを思って情報を欲したが故のことだろう。
「そんで、その船長は……あれか?」
阿鼻叫喚の海賊船団の中、一隻の船の上で周囲のヤツらに怒鳴り散らしながら指示を出している、ナリの良い男が一人。
よし、とりあえずヤツは、生け捕りにしよう。
そう判断を下した俺は、船を襲いまくっていた水龍の一匹に指示を出し、その船長らしき男に食い付かせる。
「ぬおおおおおッッ!?」
「頭ァッ!?」
「ッ!! 船長が食われたぞォ!!」
お、アタリだったか。
ヤツに関しては、殺さないよう水龍の内部の高速水流を解いてただの水の牢とし、そのまま海上を走らせてこちらまで連れて来る。
途中、どうにか逃げようともがいていたが、水中であるためロクに身動きを取ることが出来ず、口からペッと吐き出され俺達の船の甲板の上に無様に転げ落ちる。
「――カハッ、ハァ……テメェらッ、全員ぶっ殺してやグッ――」
腰から剣を引き抜こうとした船長の背中を踏みつけ、動けないようにしながら俺は、カロッタに声を掛けた。
「カロッタ、コイツが船長だ」
「でかした! ――縛れ!」
「「ハッ!!」」
完全武装で待機していた聖騎士達が、抵抗しようとする船長を手慣れた手つきで縛り上げ、猿ぐつわを噛ませる。
甲板の床に転がされ、ウーウーと唸る海賊船長。
これで、勢い余って殺す心配がなくなったな。
「さて、これでヤツらのボスは捕らえた訳だが、どうする? まだ減らすか?」
「いや、そろそろ十分だろう。これで彼我の実力差――というかお前の実力を、嫌という程理解しただろうからな。一度、あの龍達に距離を取らせてくれるか」
「了解」
女騎士の言葉に従い、俺は未だ襲撃を続けている残りの水龍達に攻撃をやめさせ、一定距離を離したところで船団を囲うようにして待機させる。
まだ抵抗するようならな、もう一度襲わせちゃうぞ、というポーズである。
そうして、俺が水龍を離したことで、あからさまにホッとしたような空気になった海賊どもは、お互いの船同士で何かしらのやり取りをし――。
――程なくして、海賊旗を下ろし、代わりに白旗を掲げた。
* * *
それから、聖騎士達とこちらの水夫達により、海賊船団を完全に無力化したのは二十分後のことだった。
一通り船の状態を確認したところ、どの船も俺の水龍のせいで甲板の手摺や大砲、階段や船の備品などが結構壊れてしまっていたが……竜骨とかマストとかの船の重要部位は全部無事だったので、それで勘弁してもらいたい。
「では、海賊。色々と聞かせてもらいたいことがある。大人しく答えるならば、命は保障してやろう。あぁ、おかしなことは考えない方がいい、お前達が死のうが、死ななかろうが、我々にとっては至極どうでもいいことだ」
「……チッ、クソったれが……部下の命も保障するんだろうな」
俺の方を憎々しげに睨め付けながら、そう言う海賊船長。
何かアホをやれば、俺が何の躊躇いもなく殺すということを理解しているのだろう。
実際、コイツらを襲わせた水龍の魔法はまだ解除せず、この船の周囲で警戒を続けているからな。
相当なバカじゃなければ、もう抵抗しようなどとは思わないだろう。
単純に数だけ見ても、俺が殺しまくったため海賊どもの残党と俺達の人員の数はすでに逆転しているし。
「ほう、意外と部下思いなのだな。いいだろう、奴隷落ちは間違いないが、理不尽に殺しはしないことは神の名において誓うとしよう」
「……何が聞きたい」
「幾つかある。まず、 随分と(・・・) 我々を襲う(・・・・・) タイミングが(・・・・・・) 良かったな(・・・・・) 。誰に依頼された?」
カロッタは、そう、核心の部分から質問を始めた。