軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ダンジョン攻略開始《6》

「うっ……おにーさん、こ、これ、どうする?」

ここに来てあからさまなホラー空間に出たためか、少しビビった様子で俺の服の端をちょびっと掴みながら、そう聞いてくるネル。

俺は、彼女の頭をぐしゃぐしゃと撫でながら、周囲を確認して呟く。

「……ま、わざわざ律儀に罠を解除していく必要もないな」

「ほう? では、どうする? 行きに使ったあの破壊魔法でも使うか?」

興味を引かれたのか、面白げな表情でカロッタがそう言うが、俺は首を横に振る。

「いや、あれは威力が高過ぎて、ここで使ったら多分俺達も余波を食らうだろうから、やめとこう。――けどまあ、俺の手があれだけしかないと思ってるんなら、そいつは大違いだぜ?」

いつもいつも、ただバ火力魔法をぶっ放すだけじゃないというところを、見せてやろう。

ニヤリと笑ってそう言い、再び前を向き直った俺は、魔力を練り上げ始めた。

よし、それじゃあ…… 耕すか(・・・) 。

「――来い」

範囲を指定し、俺の魔力を流し込み――そして、魔法を発動する。

「おわっ!?」

「な、何だ!?」

同時、墓地の地面がゴゴゴ、と揺れを発し始め、背後の聖騎士連中と冒険者連中が驚きの声を漏らす中、少しして現れたのは――人間であれば一口で丸呑みにしてしまいそうな、巨大なサイズの、 土龍(どりゅう) 。

周囲一帯の地面を材料にして生み出したため、身体のあちこちから墓石が飛び出し、一緒にスケルトンも飲み込んでいたのか、哀れに腕だけを振り回して暴れているヤツが数体覗いている。

コイツが生まれる過程で幾度か爆発や何か霧のようなものが噴射されていたが、恐らく仕掛けられていた罠が土龍の内部に取り込まれて、暴発したのだろう。

「食らえ」

その俺の指示に、土龍は一つ咆哮をあげると、まるで重機が如く地面をガジガジと齧りながら、罠を地面ごと丸々飲み込んで俺達の道を作り始める。

バフンボフンと体内から何か罠が起動する音が聞こえて来るが、傍から次々と土を飲み込んで修復していっているため、土龍に対するダメージは皆無である。

――俺の魔法に対する適性は、第一が『水』。そして、第二が『土』だ。

故に、水より一歩劣っていても土の扱いはそれなりに得意であると自負しているし、俺の魔力を以てすれば、この場に存在する土に魔力を流し込むことによって俺の支配下に置き、自由自在に操ることも可能となる。

これで、異世界版ブルドーザーの完成だ。

罠の簡単な解除方法を知っているか?

それは、一度起動しちまうことだ。

「うし、これで道が出来たな。行こうか」

「……おにーさんがいれば、工事とかとっても 捗(はかど) りそうだね」

「お、じゃあ、始めちまおうかな、まお――じゃなくて、仮面工事会社」

「フフ、うん、そうだね、仮面工事会社ね。でもおにーさん、工事会社作っても、家を建てたりとかは出来ないでしょ?」

「じゃあ、仮面地面耕し会社にしよう」

クスっと笑うネルに、肩を竦めて答える。

と、その俺とネルの会話を聞いて、笑い声を溢すカロッタ。

「クックッ、ならば、その折には是非、仕事をお願いしたいものだな」

「え……地面を耕すことしか出来ない会社だけど、いいの?」

「お前の会社に仕事を頼むという名目で、超長期間の仕事を依頼して他で仕事出来ないようにさせ、お前自身を教会で囲ってしまおうと思ってな。なに、安心しろ。飼い殺しなどにはせず、馬車馬のように扱き使ってやるぞ」

「……ネル、お前んところのボスが怖いから、やっぱり会社の設立は諦めるわ」

「あはは……そうした方が良さそうだね」

そうして、俺とネル、カロッタが土龍の作る道を進み始めた後ろで、グリファが聖騎士連中にこそっと耳打ちする。

「……なぁ、あの三人、こんな大規模魔法を前にして、何であんな淡々としてんだ? お宅ら、ちょっとおかしいんじゃないか……?」

「誤解しないでいただきたい。……おかしいのは、あの三人だけです」

「あぁ……まあ、そうだよな……」

そう言ってグリファとその聖騎士は、妙な連帯感を感じさせる表情で互いに頷き合っていた。

聞こえてるからね、君達。

* * *

「えーっと……土龍、もう少しだけ右だ」

イービルアイが送ってくる映像を下に、土龍に指示を出し、どんどんと進ませていく。

周囲が非常に暗いせいで少し時間が掛かってしまったが、次のエリアへと行くための扉はすでに見つけてある。

土龍の地面を耕すスピードがそこまで早くないので、そこに到達するには、あと二時間ぐらいは掛かるかもしれない。

この墓地エリア、かなり広い。ウチのダンジョンの草原エリアより、二倍くらい広いかもしれない。

ただ、それだけ広いおかげで、この土龍も出現させられたからな。

今まで、船の中で場が狭かったからこういうデカいヤツは出せなかったが、広さがあればこっちのものだ。

魔力に関しても、上級マナポーションを飲んで随時回復し続けているので、今のところ問題はない。

「あ、おにーさん、宝箱だよ」

「……やめろ、宝箱は当分近付きたくない」

いたずらっぽくそう言うネルに、嫌ーな顔を浮かべて答える。

多分俺は、今後二度と宝箱を開くことはないのではなかろうか。

「まあ、十中八九罠だろう。放っておくが、いいな?」

部下ではない冒険者連中に一応確認するカロッタに、彼らもまた、異議無しと頷く。

「じゃ、中に罠があるかもしれんから、壊しとくぞ」

無造作に道端に置かれている宝箱を、土龍に食わせて粉々に粉砕してから、再度先を進ませる。

「……それにしても、仮面のあんちゃんがいると、ホントに道中が楽だな」

グリファの言葉に、コクリと頷くレイエスとルローレ。

「あぁ、そのことはリーダー達と別行動してた時、もう身に染みる程理解したぜ」

「そうね……前回の攻略の大変さが嘘のようだもの。ギルドマスターが外に協力依頼を出したのは、英断だったわね」

「……でもまあ、仮にこれで攻略しちまって昇格ってなっても、素直に喜べそうにねーな」

自嘲気味に呟くグリファの言葉に、俺は興味を引かれ問い掛ける。

「へぇ? 昇格?」

「あぁ。今俺達は 魔銀(ミスリル) 級冒険者だが、このダンジョン攻略が完了したら、功績十分と見做されて『アダマンタイト級』に昇格することが出来んだよ。……功績十分って言える程、今回仕事してねーんだけど」

なるほど……このダンジョン攻略が昇格のための試金石になっている訳か。

「そういうことなら、是非とも仕事をしてもらおうかな」

「……師匠がそう言うと、何だか嫌な予感がするな」

「良い勘をしてると言っておくぜ、我が弟子よ」

レイエスの言葉への答えとして、俺は轟滅を構える。

「来るぞ、大型だ。数は一匹、土中を進んでやがる」

「むっ……確かにいるな。構えろ」

カロッタの即座の指示に、聖騎士連中が一糸乱れぬ動きで武器を引き抜き、隊列を組む。

ネルだけが一人隊列から離れているのを見るに、我が嫁さんは遊撃要員なのだろう。

冒険者の三人もすぐに気持ちを切り替えたらしく、流石の練度で陣形を作りながらそれぞれ武器を構え――次の瞬間、ドゴォン、と大きく土が舞い上がる。

「うおおっ!?」

「ッ、階層主か!?」

――土埃の中から姿を現したのは、俺の土龍とどっこいどっこいのサイズをした、身体の至る所が腐り落ちたワームだった。

種族:ギガント・アンデッドワーム

クラス: 蟲腐(こふ) 龍

レベル:87

まず最初に排除すべきものと判断したのか、土龍の真下から正確に飛び出して来たワームだったが、索敵スキルとマップによりその動向を把握していた俺は、その攻撃を土龍に身体を捩らせて回避させる。

「食らいつけッ!」

上手く回避に成功した土龍は、飛び出してしまったがために無防備に身体を晒しているワームの喉元へ、食らいついた。

『ガアアアァァ――ッッ!!』

そのデカい咢で深く牙を突き立て、土中に逃げられないよう全身で巻き付いてガッチリとワームに絡みつく我が土龍。

纏わりつく土龍を突き離そうとワームが暴れるが、力は、俺の土龍の方が強い。

逃げることが叶わず、腐れ虫は土の上をのたうち回る。

「よおおしッ、いいぞッ!! 負けんなッ!! 食い千切れッ!!」

「あ、あんちゃん! そんな、虫同士を戦わせて喜んでるガキみてぇに、無邪気に楽しんでる場合じゃないと思うんだが!!」

「諦めろリーダー、師匠はちょっと、頭のネジが何本かぶっ飛んでるんだ!!」

大迫力のバトルを目の前に、興奮気味に歓声をあげる俺に対し、大怪獣バトルの余波に巻き込まれまいと必死に避ける二人が思わずといった様子でそう叫ぶ。

「安心しろお前ら、俺の土龍は最強だ!! あんな腐った虫野郎に負ける訳がねぇ!!」

「い、いや、最強なのはいいが、もうちょっと大人しくさせらんねーのか!! 余波だけでこっちが死んじまいそうなんだけど!!」

「無理だ!! 頑張って避けろ!!」

「あんちゃーんッッ!?」

テンション上がって高笑いをかます俺とは反対に、悲鳴をあげるグリファだった。