軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ハーレムものの主人公は多いが、彼らは絶対肩身が狭い

『な、何なのだ、これは……』

ソレは、目の前に広がるその光景に、慄いた。

『何故、このようなことが……』

呆然と周囲を見渡し、思わずそう呟く。

ソレの視界に映るのは――惨状。

焼け落ちた家に、荒らされた畑。折れて倒れ伏す風車。

瓦礫が至る所に散乱し、元は水路だったらしい道端に引かれた溝をその瓦礫群が埋め、流れを塞き止めている。

そして、この場所がこうなってから少し経っているのか、見える限りの全体を緑が侵食し始めており、荒廃の具合を余計に強く印象付けている。

――そこにあるのは、人の気配が一つも感じられない、 滅んだ村(・・・・) の姿であった。

『……これは、人間の魔力の残滓であるな』

黒ずんで炭化している焼け跡に、軽く手を触れる。

そこから感じ取ることが出来るのは、この惨状を生み出した者―― 者達(・・) の魔力の特徴。

人間、それも、魔力の残滓がそれぞれ微妙に異なっているため、複数人による行為だろう。

戦争……いや、この近辺でそのような戦争があったとは情報を得ていないことから察するに、恐らくは奴隷狩りの類か。

『あの美しい村を、ここまで醜く亡ぼすとは……人間め。度し難い』

沸々と胸中に、この惨状を生み出した者達に対し怒りがこみ上げるが……しかし、ソレは感情を 意識的に(・・・・) 切り離し(・・・・) 、気分を落ち着かせる。

ただ、これだけの惨状であるのにもかかわらず、村の中には一つも骸が転がっていない。

恐らく、死者は生き残りの者達によって、すでに埋葬されているのだろう。

そう、生き残りは、いるのだ。

その事実が、意識を冷静にさせる。

――何より、ソレには報復よりも先に、すべきことがある。

『……吾輩が加護を授けた、幼き者はどこに行った?』

誰に話し掛けるでもなく、ソレが一人でに呟くと同時――突如、ポッと数個の光が、ソレの周囲に出現する。

その光は色とりどりで、まるで光自身が意思を持っているかのように、淡く明滅しながらソレの周囲をくるくると回り始める。

『……幼き者は、人間に連れ去られたか』

ソレは、村の生き残りを探すよりも先に、優先すべき事項を決定する。

『探さねば、なるまい。加護の波長を未だ感じる以上、生きてはいるはずだが……』

そしてソレは、固い決意を胸に、滅んだ村を後にした。

* * *

「それじゃあ、国王。ホントにいいんだな? アンタが許可するなら、イリルをウチで二、三日ぐらい預かるが……」

「うむ、貴殿らが付いているのならば、どこに行こうが安心だろう。それに、あまり過保護にしていると、亡き妻に怒られてしまうのでな」

肩を竦めて、そう言う国王。

「あぁ……そりゃ怖いな」

「だろう?」

クックと、俺と国王は笑い合う。

「良かったね、エンちゃん。イリル様、来れるって」

「……ん。 家(うち) に招待出来て、嬉しい」

ネルの言葉に、コクリと頷くエン。

いつも通り無表情だが、これは内心で結構喜んでいる時の顔だな。

フフ、俺はエンの無表情ソムリエなので、この子が無表情の裏で何を考えているのか、一目見ればわかってしまうのだよ。

「ザイエン君、ウチの娘と仲良くしてくれて、ありがとう」

「……友達だから、当然」

「そうか……王女という立場故、仲の良い友達があまり出来なかったあの子に、君のようないい子が友達になってくれて、親としては嬉しい限りだよ」

微笑ましそうな表情を浮かべ、そう言う国王。

……まあ、イリルのいつもの様子を見る限りだと、元気溌剌の普通の少女にしか見えないが、ガチモンの王女だしな。

友人関係一つ取っても、色々ややこしいのだろう。

と、ちょうど彼女のことを考えていた、その時。

「まおー様、ゆーしゃ様、エンちゃん! お待たせしました!」

俺達のいた応接間に元気良く入って来るのは、王女ちゃんことイリル。

お泊りの準備が出来たらしく、すっごい嬉しそうなニコニコ顔で、肩掛けカバンだけを持って俺達の下までやって来る。

泊まりにしては荷物が少ないが、一番嵩張る着替え類はウチにあるものを貸すことに決まっているので、あの程度に収まっているのだろう。

ちなみに、ネルもまた俺達と一緒に、ダンジョンに戻る。

彼女はこっちの国で勇者を続けることを決めた訳だが、その辺りのことをダンジョンの皆に報告をと、一度一緒に帰ることになったのだ。

「お、来たか、イリル」

「はい、よろしくお願いします!」

「イリル、泊まりに行くのは構わぬが、迷惑を掛けぬようにな。彼らの言うことをよく聞くように」

「はいお父様!」

「うむ、よろしい。――では、ユキ殿。娘を頼む」

「あぁ、責任を持って預からせてもらう」

国王にそう言い、そして俺は、三人の方に顔を向けた。

「さて、それじゃあ諸君。我が家に帰るとしよう。さっき渡したヤツに魔力を流してくれ」

「うん、わかった」

「……ん」

「このネックレスですね!」

各々が返事をしてすぐ、無事ダンジョン帰還装置が発動したようで、光に包まれて彼女らの姿が見えなくなる。

「よし……じゃ、国王。色々世話になったな。また会おう」

「こちらこそ、だ」

軽く手を挙げて別れの挨拶を済ませ、俺もまたダンジョン帰還装置を発動させた。

* * *

「……ぬ? 帰って来たか」

俺達を最初に出迎えたのは、レフィ。

いつもの如くゴロゴロしていたところだったらしく、のそりと起き出して俺達を出迎える。

今は、正午過ぎ程の時間なので、恐らく幼女組は草原エリアへ遊びに、リューとレイラもまた、洗濯物を取り込みにそっちへ行っているのだろう。

と、レフィはまず、ネルとエンの近くに寄り、彼女らの肩をポンポンと叩く。

「おかえり、ネル、エン。目付け役、ご苦労じゃったな。この阿呆が何か、阿呆なことを仕出かしたりはせんかったか?」

「大丈夫だよ、レフィ。そうならないよう、言われた通りちゃんと要所要所で注意したから!」

「……大丈夫」

「いや、あの、君達ね……」

何も言うことが出来ず、ただ苦笑を浮かべていると、次にレフィは俺の方へ顔を向け、ニヤリと笑みを浮かべる。

「おかえり、ユキ」

「……ただいま」

……コイツに「おかえり」と言われて、気持ちが少し安らいでしまったのが、何だか悔しいところだな。

「それで……お主はまた、性懲りもなく……」

呆れたような表情を浮かべて、レフィが見る先にいるのは、イリル。

「この童女は、どこで誑かして来たんじゃ? お主は本当に、目を離すとすーぐこれじゃからの」

「ちょ、ちょっと待て、レフィ。イリルはエンの友達で、仲良くなったから遊びに来ただけだ。お前が考えているだろうことはよく理解出来るが、それは誤解だ」

「フン、どうだかの」

そう俺達が会話を交わしていると、空気を読んでここまで静かにしていたイリルが、レフィに王女らしく綺麗な礼をする。

「私は、イリル=グローリオ=アーリシアと言います! イリルとお呼びください! まおー様のご厚意で、少しだけお泊りさせてもらうことになりました! どうぞ、よろしくお願いします!」

「ほう、礼儀の出来た童女じゃな。儂は、レフィシオスと言う。レフィと呼ぶがいい。そこにいる阿呆の、嫁じゃ」

「お嫁さん、ですか? ですが、まおー様のお嫁さんは、ゆーしゃ様なのでは?」

「あぁ、其奴は好色な男なのでな。嫁は複数人いる訳じゃ。もう一人別におるぞ」

そんな、殊更好色なつもりはなく、俺自身としてはごく普通の一般男子的に女性が好きなだけなのだが……実際嫁さんが三人いてあまり反論出来そうになかったため、黙っておく。

「お嫁さんが複数人です? よかった、なら、約束通り大きくなったら、イリルのこともお嫁さんにしてもらえますね!」

「……ほう。そうか。お主が成長した時、嫁にすると、此奴が?」

「はいです!」

とっても嬉しそうに、イリルは頷いた。

首を曲げ、にこやかな笑顔で俺を見るレフィ。

とても、とてもいい笑顔だ。裏に般若が具現化して見えるぐらいの。

と、レフィが放つ特大圧力に俺が戦々恐々としていると、イリルが周囲をキョロキョロと見回し始める。

「うわぁ……ここが魔王城、ですか? 何だかとっても生活感漂うお部屋ですね!」

ここ、居間だからね。

玉座とか置いてあって、全体的におどろおどろしい装飾だけど、基本的な生活空間の場だからね。

「……外はもっとすごい。案内する」

「是非お願いするです!」

そうして、エンとイリルが部屋を出て行ったのを見計らって、レフィが口を開く。

「――さて、ユキ。詳しく話を聞かせてもらおうかの」

「……だ、だって、小さい子に『お嫁さんにして!』なんて言われて、すげなく断れる訳ないだろ? そ、それに、大丈夫だ。小さい子の「好き」程、後で変わっていくものはないんだからさ」

きっと、イリルが成長して大人になったら、俺のことなんてすっかり忘れているはずさ。そういうもんだ。

慌てて言葉を連ねる俺に、しばしレフィは耳を傾けてから、やがて小さくため息を吐くと、呆れた様子の声を漏らす。

「……お主は、そうして自ら逃げ道を潰していくのじゃろうな。のう、ネル」

「僕も同感かなぁ。おにーさん、ホントに、悪い女の人には気を付けないとダメだよ? 多分、おにーさんが痛手を負う時って、女の人に誑かされた時だと思うんだ」

「へ、へい、気を付けますよ……」

「うむ、そうじゃな。その辺りは、やはり儂らが守ってやらねばなるまい。女が相手になると、此奴は大体いつも甘いからの」

「わかるわかる。おにーさんは男の人相手だと毅然としてるけど、女の人相手はブレブレだもんねぇ。向こうにいた時も、結局ロニアにせがまれて、翼見せてたし」

「そ、それは別に、断る理由もなかったし……」

無口気味の宮廷魔術師ちゃんに、あんなに熱心に頼まれて、断るのも悪い気がしたし……。

「ふむ……これは、後で会議をせねばなるまいな。リューの奴も呼んで『第五回嫁会議』をするとしよう」

「あ、実は、僕も二人に言いたいことがあったんだ。ちょっと今後のことで……」

「わかった、では、今回はお主の話を中心に聞くとするか」

……一つだけ言わせてくれ。

もうすでに、その会議は四回分も開催されているのか……。