軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

勇者の従者、正義の魔王降臨《2》

「……仮面」

苦々しそうな声で呟くのは――アルゴス=ラドリオ。

その呟きを聞いたらしい別の貴族達から、いくつか驚きの声が漏れる。

「あれが、勇者の従者」

「救国の英雄か……」

「思っていた以上に若いな」

周囲から集まる一切合切の視線を無視し、自然と道を開ける貴族達の間を通って会場の中を進んで行く。

ちなみに、現在俺は仮面を装着していないので、顔バレしまくりだ。

これで、ネルに対する注目もある程度分散するだろう。

そのまま国王とネルのいるところまで向かった俺は、担いでいた指揮官らしい恰好の男をドサリと下ろすと、その場に片膝を突いた。

「仮面、その者は?」

「ハッ、この者は、愚かにも城内で騒ぎを起こそうとし、陛下の身に危険をもたらそうとしていた者達の、指揮官だった男です」

畏まった口調で国王にそう言うと、彼は何とも言えない表情で、小さく溢す。

「……貴殿からの敬語は慣れんな」

「おにーさん、多分これ半分くらいふざけているので、陛下も全く気にしないでいいと思います」

ネルの言葉に一瞬だけ苦笑を浮かべた国王は、しかしすぐに威厳のある表情に切り替え、鷹揚なしぐさで頷く。

「そうか。騒ぎの鎮圧、ご苦労であった。して、指揮官をわざわざここまで連れて来た理由は?」

「この者、どうも仲間がいる様子。そのマヌケを炙り出すため、少しばかりお時間をいただきたく」

「ふむ……よかろう。騒ぎを鎮めた功労者として、貴殿の言葉を聞くとしよう」

「ハハァ、ありがたきお言葉」

俺はノリノリの演技で国王に頭を下げると、すっくと立ち上がり、後ろを振り返った。

「さて……お初にお目にかかる、アルゴス殿。私は勇者の従者、ユ――じゃなくて、ワイと言う」

にこやかに、そして馴れ馴れしく話し掛けて来る俺にクソ貴族、もといアルゴス=ラドリオはピクリと眉を動かし、だが内心を押し隠した様子で俺と同じようににこりと笑みを浮かべ、口を開いた。

「救国の英雄殿に名を覚えていただけているとは光栄ですね。それで、私に何か用ですか?」

「この男が持っている剣の刻印。これは、貴方のところの家紋ですね?」

俺の傍らに倒れ伏す男の腰の剣を鞘ごと取り外し、剣の柄に刻まれた紋章が目の前のクソ貴族と周囲の貴族達によく見えるようにと、高く掲げる。

「……えぇ、その通りです」

クソ貴族が俺の言葉を認めたことに、がやがやと喧噪が起こる。

だがクソ貴族は、周囲の喧噪を気にした様子もなく、ただ冷ややかな目で俺のことを見る。

「確かにその者は、私の部下です。しかし、どういうつもりですか? 私は部下に、王城周辺の警備を言いつけていただけなのですが」

取り繕うのはもうやめたのか、侮蔑の表情を浮かべるクソ貴族に、しかし俺はあくまでにこやかに言葉を続ける。

「王城の警備を? 王城の警備には、近衛兵達が勤めていること、貴殿は知らずにいたと?」

「いえ、勿論知っていますよ。ですが、実は私の方で少し情報を得ていまして。もしかすると、今回の襲撃があるかもしれないと、個人的に警戒しておいた訳です」

「ほう、つまり、予め襲撃を知っておきながら、他には黙っていたと?」

「そんなことはありませんよ? 警戒するように、とは軍部の方に情報をお流しさせていただきましたので。先に言っておきますと、私が私兵を連れて王都に入った、ということも、しっかりと公式の記録に残っているはずです。そこに違法性はありませんよ」

ふむ……こんな自信満々に言うということは、本当に記録があるんだろうな。

国王の方を見ると、小さく首を横に振って「知らない」という意思表示をしたのを見るに、恐らくは向こうのヤツらの息が掛かった者が、何かしらの工作を行ったのだろう。

「しかし、全く……。言うに事欠いて、私の部下を賊の指揮官だと言って連れて来るとは。何か勘違いなされているようですが、事と次第によっては、英雄殿と言えど名誉棄損として訴えさせていただきますので、ご覚悟いただきたいものですね」

いけしゃあしゃあとそんなことを言いやがるクソ貴族野郎に対し、俺は。

「――おかしなことを言うなぁ、お前」

ニタァ、と笑みを浮かべ、異議あり! といった勢いでズビシと指を突き付けた。

「うわ、おにーさん、すっごい邪悪な顔したよ、今」

うるさいです、ネルさん。

「言うに事欠いて、と言いたいのはこっちだなァ、オイ。アンタの部下だというヤツら、賊が襲撃を始めた最中も、その後ろで吞気に突っ立ってたぞ? まるで助けに入るタイミングをわざと計っているみたいによ。多分、どのタイミングで動いたら最適なのか、考えてたんだろうな」

「ほう、証拠は? まさかそんな不確かな貴方の言葉だけで私を断罪しようなど――」

「そのことに関する証拠はないが、けど今回の襲撃がアンタのところで組まれたものである、っつー証拠はあるぞ」

俺の言葉に、クソ貴族の顔がピシリと固まる。

フフフ、誰かしらの証言だけならば、イチャモン付けてのらりくらりと回避するつもりだったのだろうが……甘いわ、バカめ。

俺は、アイテムボックスを開くと、中から一つの水晶を取り出す。

「これはな、『写し身の水晶』っていう魔道具だ。起動すると一定範囲の魔力を記録し、その記録を後で表示することが出来る」

一言で言うと―― カメラ(・・・) 。

使用方法は、使用者が魔力を流し込むことで起動。

写真を表示するには、撮った後にもう一度魔力を流し込むことで、ホログラムのように空中に表示することが出来る。

ただ、欠点もいくつかあり、魔力を媒介に撮るものであるため、現代カメラと違い白黒な上に、かなり画質が粗い。

しかも、一枚撮ったらそれっきりの使い捨て。写真自体は何回でも見ることが出来るが、使い勝手は悪いと言えるだろう。

これは、我が家の住人達の写真を撮ろうと思ってDPカタログで交換したものなのだが、出来上がる写真があまりに粗かったため、結局使わずに死蔵していたものだ。

まさか、役に立つ時が来るとは思っていなかったが……うむ、この功労で、お前も魔王の秘密道具の一つに加えてやろう。

ちなみに、その気になれば現代カメラもDPカタログでゲット出来るのだが、将棋とかトランプとかこの世界でもその気になれば作れるものならまだしも、そういう一定の文明水準がないと作れないものは掛かるDPがマジで頭おかしいので、持っていない。

今の俺には、無駄遣い出来るだけのDPがないしな。

「試しに、一枚撮ってみようか。はい、チーズ」

「えっ、ちょ、ちょっと!?」

「……ぶい」

「チーズって、食べ物のチーズのことですか?」

そう、この世界のヤツらは誰もわからないだろう掛け声を言って水晶を起動すると、俺の魔力を幾ばくか吸い上げ、数瞬後動作を停止。

動作の停止を確認した俺は、再び魔力を水晶に流し込み、ブオンと写真を空中に出現させる。

映っているのは、唐突に水晶を向けられて焦るネルと、俺が何をしているのかわかったのか無表情でピースをするエンに、不思議そうに首を傾げる王女ちゃん。

「この通り、この場を絵のようにして記録する訳だ。――よし、この写真は家宝の一つにしよう」

「……おにーさん」

「ユ……ワイ殿は相変わらずだな」

呆れたような表情を浮かべるネルと苦笑を浮かべる国王を見なかったことにして、もう一つアイテムボックスから別の写し身の水晶を取り出した俺は、同じように魔力を流し込み、写真を出現させる。

「んで、本題はこっち。こっちは、すでに写真を撮った後のものだ」

その写真に写っているのは、路地裏らしい場所で、周囲を憚るように何事かを話し合っている様子の、二人の男。

「この右側にいる男、コイツは襲撃者達の頭らしい男だ。すでに捕らえて地下牢に入れられているそうだから、本当かどうか気になるなら、後で確認でも何でもするんだな」

そっちは、女騎士団長のカロッタに任せてあるので、きっと色々裏付けも取ってくれていることだろう。

ちなみに、ウソ発見器の魔道具もあるそうなので、俺達がクソ貴族をハメるために仕立て上げた偽の犯人であると、偽装を疑われることもない。

その魔道具をここまで持って来れれば話は早かったんだが、どうも大掛かりな魔道具で設置された場所から移動出来ないみたいだからな。仕方ない。

「そして、その隣に映っている男。どうやら、襲撃者の頭と何か密談をしているようだが……おかしいなぁ、 アンタの部下の(・・・・・・・) 顔にそっくりだ(・・・・・・・) 。――おや、どうした、アルゴス=ラドリオ? 顔が引き攣ってんぞ?」

丁寧な言葉遣いを捨て去り、ニタニタ笑いながら煽る俺。

この写真の意味するところを理解したらしいクソ貴族は、顔を引き攣らせ、冷や汗を流しながらも、何とか言葉を絞り出す。

「……し、知りませんね。仮に、その写し身の水晶なるものが本物だとしても、部下が勝手にやったことで私が命じたことではありませんし、何よりその魔道具は貴方が用意したものだ。何かしらの工作がされている可能性もある」

お、部下を切り捨てに走ったか。

やっぱりクソ野郎だな。

「ほう、そうか。それなら結構。――ところで、もう一つ見て、いや聞いてほしいものがあるんだが」

次に俺は、国王に予め用意しておいてほしいと頼んでおいた、ネルとのダンス練習の時にも使っていた蓄音機の魔道具を、会場の隅から近くまで持って来る。

その蓄音機にセットするためのディスクをアイテムボックスから取り出すと、再び周囲に見えるように掲げ、口を開く。

「ここに、一枚のディスクがある。これは、とても面白いディスクでな。あるマヌケな男達が、傍で聞いている者がいるのにも全く気付かず、会話している様子を録音したものだ。そのマヌケなザマを、是非ともここにいる皆さんにも聞いてほしい」

「ッ、やっ、やめっ――」

何が録音されているのか察したのだろう、慌ててディスクに手を伸ばして来るクソ貴族の腕を取り、力尽くで無理やり地面に引き倒し、俺はその背中にドカッと腰を下ろす。

「ぐフっ――」

「せっかちなヤツだ、そこで大人しく聞いていろ」

そして俺は、ディスクを蓄音機の魔道具にセットし、録音を再生した。